近年、製造業の現場で注目を集めているのが、AIによる「予知保全」と「外観検査」です。どちらも普段とは異なるものを発見する業務ですが、AIの高度な学習機能がどういった形で役立てられているのでしょうか。本記事では、AIの導入と予知保全・外観検査について解説します。
予知保全・外観検査とは
「予知保全」とは継続的な監視により、機械や設備などの劣化状態や故障を把握・予見し、最適な状態で管理していくことです。機械や設備に変化がないかを常に監視して、実際に故障の兆候が出てきたら、故障の前段階で機械を保全・管理します。
予知保全と予防保全の違い
予知保全と似ているものに「予防保全」がありますが、こちらは機械や設備を監視する必要がありません。予防保全では、メーカー予測やこれまでの実績をもとにして、定期的または計画的に部品交換などを行います。
一方、予知保全では、メーカーの使用期限や交換目安時期だけではなく、実際の消耗度合いや不具合の状態を確認して、部品交換などのタイミングを決定します。交換目安時期より早く不具合が出ていた場合も、故障前に気づいて部品交換ができるほか、使用限度を超えてなお状態のよい部品を捨てずに済むなどのメリットがあります。
反面、故障時期の近い状態を見極めるには経験や技術を要し、また適切なデータ計測・分析も求められるため、属人化しやすいという課題も抱えています。
外観検査とは
「外観検査」とは製品の質を維持するために、製品の外観を確認する検査のことです。外観検査により製品の汚れ・傷・異物・変形などをチェックし、不良品か否かを判定します。外観検査は作業者の目視で行われているケースが多く、検査担当者の経験により精度が異なる場合もあります。検査スキルの継承が難しいなか熟練者を確保する必要もあり、育成に人件費がかかる点が今後の課題とされています。
AI導入によって生産性を高める時代に
予知保全・外観検査は、これまで人間の手によって行われていました。現場の技術者や作業員が、自身の経験に基づき部品の劣化状態をチェックし、交換時期を決める方法が主流とされていたのです。ところが、現在では熟練の技術者の不足などを理由に、技術者ではなくAIを活用する方法に注目が集まっています。
AIを活用する目的には、歩留まり改善・リードタイム短縮・稼働率改善・品質改善・人材配置・ノウハウのデジタル化・メンテナンスの効率化などがあります。AIを使用すると、機械学習の「ディープラーニング」により、故障や不具合を的確に発見できます。
ディープラーニングで学習用データを取り込むことで、不具合につながる動作などを見つけ、部品・製品の内部に問題が起きていないかを予測します。必要なデータを正しく取り入れ検査に活用すれば、検査対象を正しくチェックできます。
学習データは、更新すると時代の変化や異なる検査方法など、さまざまなものへの対応が可能です。技術革新により、幅広い分野でAI導入のニーズが広がっており、今後の活躍が期待されています。
予知保全や外観検査にAIを導入するメリット
予知保全や外観検査を行うには、蓄積されたデータを分析し予測する能力が必要です。これまで専門の技術者に頼りきりだった検査も、AIを用いれば、蓄積したデータを活かした正しい分析が可能となります。ここでは、AIを導入するメリットについて解説します。
事前に大きな損害を回避可能
予知保全や外観検査にAIを取り入れた場合、検査対象の不具合や、機械・設備自体の劣化状態などの確認を自動化できます。機械や設備にデータ集積用のセンサーを取り付け、そこから常時得られるデータをAIが解析し、不具合や故障の予兆を発見します。
もし、故障につながる不具合の発見が遅れた場合、故障した機械を修繕するには部品交換よりも多大な費用がかかるでしょう。AIにより機械の状況を正確に把握できれば、人件費を削減しつつ、部品交換時期を見極める精度が上がります。結果、メンテナンスコストや設備投資費用の削減、故障の事前回避などに役立ちます。
また、部品に何ら問題がない状態でも、突然設備トラブルが生じるケースもあります。設備を停止して一から原因を探し始める場合は、長時間のダウンタイムが必要です。AIが常にセンサーで異常を感知していれば、ダウンタイムや計画外停止が削減され、それらに伴う損害を抑えられるでしょう。
高い生産性の継続的維持が可能
AIを保全に取り入れた場合、センサーで機械・設備などを常時監視できます。AI管理により設備の故障を回避できるため、故障時の長い修理時間が不要となり、生産性の維持が可能となります。また、定期保全などで使える部品を交換する無駄もなくせるため、運用コストの軽減にもつながります。
それまで経験ある技術者が行ってきた予知保全などの作業ですが、AIによる自動化が進むと、センサーでデータを取り込めるため、従来の検査プロセスの簡略化が可能です。検査内容においても、日々のデータを蓄積しているので軽微な変化を取りこぼすことなく、技術者並みの高い判断ができると期待されています。
人件費削減や人材不足の問題も解決
従来の予知保全や外観検査は、熟練の技術者により行われてきましたが、現在では検査作業ができる人材が減少傾向にあります。AIを活用すると、専門の技術者と遜色ないレベルの検査を幅広い場面で行えるため、熟練技術者の人材不足解決につながります。人材育成のためにかかっていた人件費も、手作業の検査をAIに切り替えることで大きく削減できるでしょう。
さらにAIなら、手作業で生じやすい誤検知のリスクが減るうえ、誤検知を防止するための工数も削減できます。これにより全体的なコスト削減が見込めるほか、点検に人員を割かれずに済むため、業務効率の向上にもつながります。
AI導入によるデメリットも
このようにメリットの多いAI導入ですが、いくつかデメリットもあります。メリット・デメリットの両方をよく理解したうえで、導入を検討しましょう。
高品質な学習用データ計測が求められる
予知保全システムを構築する場合、システムに送る高品質なデータを計測する必要があります。最初に機械や設備にセンサーを取り付けて、機械の状態を把握するためのデータ計測を行います。その後、事前に入手したデータは学習データとしてAIに取り込み、検査ごとにさらにデータを蓄積していきます。
予知保全では、システムの規模によりレベルが区別されます。「部品レベル」「マシンレベル」「プロセスラインレベル」「工場レベル」などが主な対象レベルで、レベルごとに分析が必要なデータの種類も違うため、注意が必要です。
システムのレベルが大きいほど全体的なデータが重要で、小さいほど機械の音や動きといった精密なデータが重要になります。計測するデータのレベルが目的に合っていないと、学習データとして予知保全や外観検査に役立てるのは難しいでしょう。保全対象や目的を明確化して、重要なレベルのデータを集めることが大切です。
膨大なデータ量が発生する
予知保全や外観検査において、AIはセンサーから自動取得した学習データを集め、ディープラーニングにより分析・判断を行う力を身につけます。
予知保全では主に、機械や設備に取り付けたセンサーから「時系列データ」を取り込んで扱います。温度センサーや振動センサーなど、各センサーの変化から異常なデータを発見するものゆえ、規則性を認め、通常時と異常時を比較できるだけのデータが必要です。
また、外観検査では物体を画像で認識するため、予知保全よりも大量のデータを必要とします。画像データはピクセル単位で分割し、色情報はRGB値に変換する必要があるなど、システム処理を行う時点でデータ量が膨大になりかねません。
これらの膨大なデータを処理するには、ソフトウェア・ハードウェアともに相応の性能が求められるため、導入や精度改善にかかるコストも懸念されます。
まとめ
予知保全や外観検査は、これまで熟練の技術者しか行えなかった検査業務です。AIは技術者の経験・知識をデータ化し学習できるため、軽微な違いから不具合を発見できるとされています。技術者不足の時代に確実な保全を行うためには、AIの活用が欠かせません。