DX実現に向けて、経済産業省はDXレポートという文書をまとめています。これまでに3つのレポートが提示されており、特に各企業のDX取り組み状況と実施すべきアクションなどをまとめた『DXレポート2』は、企業変革(内部構造改革)の参考になります。そこで本記事では、『DXレポート2』の内容を簡潔にご紹介します。
経済産業省が公表する『DXレポート』とは?
DXレポートは、「デジタルトランスフォーメーションに向けた研究会」で議論された内容をもとに、2018年9月、経済産業省より発行されました。現在(2022年6月時点)公開されているレポートは、以下の3本です。
<DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~>
2018年9月に発行された初版。DXを実現するうえで課題となる国内企業の現状や、その対応策がまとめられています。
<DXレポート2(中間取りまとめ)>
2020年12月に発行された第2版。前回から新たに発見された課題や、その対応策がまとめられています。
<DXレポート2.1(DXレポート2追補版)>
2021年8月に発行された、DXレポート2の追補版。前レポートで言及されなかった、「デジタル社会とデジタル産業の目指すべき姿」が記載されています。
本記事では、『DXレポート2』の内容を中心に、各レポートのポイントをわかりやすく解説します。
DXレポートで提起された課題
『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』では、国内のDX実現に向けた課題として、「レガシーシステム」が大きく取り上げられています。レガシーシステムとは、過去の技術や仕組みで構築され、複雑化・ブラックボックス化したITシステムのことです。
『DXレポート』によると、およそ8割の国内企業がレガシーシステムを抱えているそうです。レガシーシステムを抱えることにより、以下のような問題が生じます。
<レガシーシステムによる問題点>
- データを活用しきれず、DXを実現できない
- システムの維持管理費の高額化
- システムトラブルやデータ滅失などのリスク
このような現状でありながら、2025年にはさらなるIT人材不足の拡大、2027年には国内で広く使われている基幹業務システムのサポートが終了するとあって、システム刷新が急務です。
なおレポート内では、レガシーシステムを刷新できなければ、2025年以降、最大12兆円/年の経済損失が発生すると指摘されています。これを「2025年の崖」といい、これを乗り越えなければデジタル競争の敗者になるばかりか、最悪の場合、事業継続が困難になるのです。
DXレポート2(2020年版)の概要を4ポイントで解説
2020年12月、経済産業省は新しく『DXレポート2』を発行しました。その背景には、以下のような理由があります。
- 『DXレポート(初版)』の発行から2年が経過したが、ほとんどの国内企業におけるDXへの取り組みが不十分だったこと
- 「DX=既存システムの刷新」という誤った認識が広まったこと
- 感染症拡大による環境の変化に対応できた企業とできなかった企業との格差が拡大したこと
このように、前回のレポートを受けて、新たに発見された課題の確認と対応策をまとめたものが『DXレポート2』です。以下では、『DXレポート2』のポイントを4つに絞ってご紹介します。
1.コロナ禍で明らかになったDXの本質
「DX推進指標」の分析レポートによると、国内企業の約95%が、DXへの取り組みが不十分だと判明しました。この結果から、前回の『DXレポート』の警告を受けてなお、ほとんどの企業が危機意識を抱いていないことが明らかになりました。一方で、DX先行企業はすでにデータ活用の段階にあり、DX推進状況は企業によって一様でありません。
加えて、コロナ禍による外部環境の変化を受けて、企業文化の変革が行えた企業とそうでない企業の差がますます拡大しました。これにより、DXの本質は「変化に迅速に適応し続けること」「ITシステムのみならず企業文化(固定観念)を変革すること」にあるとわかりました。
2.企業の目指すべき方向性
『DXレポート2』によると、「変化に迅速に適応し続けること、その中ではITシステムのみならず企業文化(固定観念)を変革すること」というDXの本質そのものを体現することが、企業の目指すべき方向性だといいます。逆に、コロナ禍を経てもビジネスモデルを変革できない企業は、デジタル競争についていけなくなるおそれが示唆されています。
また、ユーザー企業にシステムやサービスを提供する側である、ベンダー企業についても目指すべき方向性が提示されました。ポイントは「ユーザー企業と共創的な関係を構築すること」「価値創造型のビジネスを行うこと」です。これらの方向性を見据えて、レガシー企業から脱却するための道筋が、以降で示されています。
3.DXの加速に向けた企業のアクション
『DXレポート2』では、DX推進に向けて企業が実際に取るべきアクションが具体的に提示されました。「超短期的対応」「短期的対応」「中長期的対応」と、重要度(緊急度)に応じて3つに分類されています。それぞれ詳しく確認しましょう。
DXに取り組むにあたり、企業が直ちに実施すべき超短期的対応は以下の5つです。これらはコロナ禍で事業継続に成功した例をもとにしているので、企業文化を変革していくうえでのファーストステップといえます。
<DXのファーストステップ>
- DXレポートやDX推進指標を参照し、DXへの理解を深める
- テレワークやオンライン会議など、業務環境をオンライン化する
- 書類の電子化をはじめとした業務プロセスをデジタル化する
- 従業員の安全、および健康管理をデジタル化する
- チャットボットの活用など、顧客接点をデジタル化する
DXを本格的に進めるため、企業が速やかに実施すべき短期的対応は以下の5つです。体制の整備や戦略の策定など、経営の深い部分まで踏み込んだ内容となっています。
<本格的なDXの実践>
- 関係者間でDXへの共通理解を形成する
- DXをリードする経営層の役割・権限を明確化する
- テレワークを実現するインフラを整備する
- デジタルを前提とした業務プロセスを再設計する
- DX推進指標を活用して、DXの推進状況を把握する
環境の変化に素早く対応し、変革し続ける「デジタル企業」へと成長するために、企業が実施すべき中長期的対応は以下の5つです。これらを実現することで、産業変革のさらなる加速につながります。
<デジタル企業への変革プロセス>
- IT投資を効率化・抑制するため、業界内の他社と共通プラットフォームを形成する
- アジャイルな開発体制を社内に構築する
- ユーザー企業の変化を受けて、ベンダー企業も変革する
- ユーザー企業とベンダー企業が「共創・共育」するパートナーへと関係を深める
- ジョブ型人事制度の拡大など、DX人材の確保に努める
これらアクションの完遂が「目指すべきデジタル社会の姿」であり、社会課題の解決や新たな価値・体験提供を実現します。さらにはグローバルで活躍する競争力や、世界の持続的発展への貢献にもつながるそうです。
4.政府の政策の方向性
最後にご紹介するのが、「政府の政策の方向性」です。経済産業省は一企業にDX推進を丸投げするのでなく、DX実現に向けた取り組みを継続的に実施しています。
たとえば、関係者間でDXに関して共通認識をもつための、対話の要点をまとめたポイント集の策定です。「DXの目的がわからない」「DXの進め方がわからない」などの悩みを抱えているのであれば、解決の糸口となることでしょう。下記URLからPDF形式でダウンロード可能です。
『デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会 中間とりまとめ』経済産業省
また、デジタル産業や企業の変革事例を整理・抽象化した「DX成功パターン」も策定するようです。これにより、DX実現に向けた具体的なアクションを検討する際の手がかりを得られるでしょう。なお、自社の現状や課題に対する認識を共有し、アクションにつなげるための指標としては、下記の『DX推進指標』も有効です。
『デジタル経営改革のための評価指標(「DX推進指標」)を取りまとめました』経済産業省
DXレポート2.1(2021年最新版)の追補内容を解説
『DXレポート2.1』は、『DXレポート2』の追補版として2021年8月に発表されたレポートです。『DXレポート2』でも取り上げられた「デジタル産業」について、新しい産業の内容、また企業があるべき姿を深掘りできていなかったことから、その部分に関する補足という形で内容がまとめられています。ほかにも、ユーザー企業とベンダー企業のジレンマや、企業変革を加速させる政策の方向性についても触れられていますが、特に押さえるべきなのはデジタル社会・デジタル産業・デジタル企業に関する内容です。
「デジタル社会」とは、下記3点を達成する社会のことを指します。
- 社会的な課題への解決策や新しい価値・体験の提供がスピーディーに行われる
- グローバルで活躍し、持続的発展に寄与する企業が誕生する
- 企業の資本や所在地を問わず価値創出が行える
この社会を実現するには、下記のような「デジタル産業」が必要です。
- 社会的な課題への解決策や新しい価値・体験を提供する
- データを活用し、課題の発見・価値提供を行う
- インターネットを使用し、世界規模のサービスを提供する
- 提供サービスを環境変化に伴いアップデートする
- DXを活用し、新しいビジネスモデルを確立する
このデジタル産業を構成するのが「デジタル企業」です。デジタル企業は、これまでの企業間におけるピラミッド構造とは異なり、大企業やベンチャー企業などの垣根を越えてつながり合うべきだとされています。
まとめ
経済産業省は、DXをより効率的に進めるために、DXレポートを提示しています。特に『DXレポート2』は、2018年に発表した『DXレポート』を経て明らかになった、DXの課題と対策をまとめたものです。これから本格的にDXに取り組もうと考えているなら、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。