海外進出をしている小売業は多数あります。海外で成功している小売業はどのような企業があるのでしょうか。日本企業の海外進出例や成功例とともに、日本と海外の小売業の違いや海外進出時の注意点などについて触れていきます。
日系小売業界の海外進出例
コストコやイケアなど、海外から日本に進出し成功を収めている企業も多数ありますが、海外に進出し、大きな利益を得ている日本企業も多数存在します。 今回は海外へ進出している日系企業の中でも特に小売業について見ていきましょう。海外で成功している日本の小売業にはどのような企業があるのか、またそれらの企業の特徴はどのようなものでしょうか。世界の小売業ランキング
まず、世界の小売企業のランキングにおいては、日本はどの程度の位置にいるでしょうか。実は売上高の上位10位までに日本の企業はランクインされておらず、1位から10位までにはアメリカやドイツ、イギリスの企業が占めています。 2019年に発表された最新のランキングによると、売上高1位から3位はアメリカのスーパーマーケットチェーンでした。1位はアメリカのウォルマートで、2位以下に大きな差をつけています。
ウォルマートと言えば日本では西友を傘下に抱えており、世界一の小売業として知られています。以下、2位は会員制倉庫型店舗のコストコ、3位は食品雑貨を展開するクローガーという順でした。 残念ながら日系企業は10位以内にはランクインしていなかったものの、毎年発表されている「世界の小売業ランキング」のトップ250の中には、日本企業が31社ランクインしています。
これはランキング全体の12.4%を日本企業が占めていることになり、日本の小売企業が海外にも浸透しているということが分かります。
日本の小売業の強みとは
それだけ世界に浸透している日本の小売企業ですが、日本企業ならではの強みは一体何でしょうか。 ひとつの大きな強みとして、サービスのクオリティの高さが挙げられます。これはしっかりとした社員教育によるもので世界に誇れるものです。
言葉遣い1つを例にとっても、日本の小売業は海外諸国の小売業と比べて非常に丁寧で、挨拶や礼儀正しい言葉使いなどもしっかり教育されています。 また、スピーディで真摯な対応、笑顔を絶やさない清潔感のある身だしなみなども、社員教育の一環としているお店が多いことでしょう。
サービスの高さの一例として、日本を代表する高級ホテル、帝国ホテルのランドリーサービスは世界的に有名です。単に洗濯をして届けるだけでなく、プラスアルファの徹底したサービス精神がそこかしこに行き届いています。 このような接客姿勢が海外ではあまり一般的ではないため、日本のきめ細かいサービスがより重宝されているのでしょう。
日本企業が海外進出を進めている理由
日本企業が海外進出を進めているのは、少子高齢化に伴う人口減少により、国内の市場規模が縮小してきていることが理由のひとつです。日本の小売企業が生き残るためには海外進出を促進し、販路を拡大していくことが必要になってきます。 また、人口減少に伴って日本人の人件費が高くなってきている傾向にあります。
いっぽう海外では日本より人件費が安い国が多く、そうした場所に進出することで人件費を抑え、安い労働力によって経費を節約することができます。 それでは、海外進出を成功させている日本の小売企業を見ていきましょう。
イオン
現在、イオンモールは中国や東南アジアで急速に数を伸ばしてきています。実際に、「世界の小売業ランキング」トップ250の中で、イオンは13位にランクインしており、同ランキングの中の日本企業では最上位に君臨しています。7期連続で日本小売業の営業収益No.1を達成しており、イオンは名実ともに日本の小売企業の第1位です。
2019年2月期の連結業績は営業収益が8兆5,182億円で過去最高を記録し、店舗数は21,996カ所と発表されています。 イオンは海外進出の際に、エリアでのブランド価値を高める戦略で功を奏しています。例えば、ベトナムやインドネシア、カンボジアなどのASEANに出店の際は飛び地で出店せずに地域集中型の出店でエリアの認知度を高めてきています。
またショッピングモールとしての出店に留まらず、エンターテインメント施設としての出店を試みるなど、日本とは異なるアプローチで利益を拡大し続けています。日本のモデルで出店するだけでなく、その地域や国に合わせた店舗の開発が海外進出成功のカギとなっているのでしょう。
セブン&アイ
コンビニエンスストアのセブンイレブンやイトーヨーカドーでお馴染みのセブン&アイホールディングスもまた、目覚ましく海外進出を推し進めています。 セブン&アイホールディングスは、国内の利益拡大と海外での売上拡大を戦略として掲げており、2016年にはCSTブランズから約80店舗を買収、2017年にはSunoco(コンビニ・ガソリン事業)を買収することで1,000店舗以上を傘下に入れ、大きく利益を伸ばしてきました。
2018年度2月期連結決済での営業収益は6兆378億円で、純利益は前期比の87.2%増となっています。セブン&アイホールディングスが大きく利益を伸ばした要因は、先ほど触れたSunocoの買収など、積極的なM&A戦略が実を結んだ結果と言えるでしょう。
ファストリテーリング(ユニクロ)
ユニクロでお馴染みのファストリテーリング。中国や東南アジアに旅行などで訪れたことがあれば、ショッピングモールや繁華街にユニクロ店舗があるのを見かけたことがあるかもしれません。実際に、ユニクロは中国や香港、台湾などのグレーターチャイナで大きな営業利益を獲得しています。 2019年8月期の連結決算では営業収益が2兆2905億円で、過去最高でした。
成功の要因は、海外ユニクロ事業とジーユー事業の大幅な増益です。 ファストリテーリングは中期ビジョンとして、「情報製造小売業」として世界No.1のアパレル小売企業となることを挙げています。「無駄なものを作らない、無駄なものを運ばない、無駄なものを売らない」を情報製造小売業の究極の目的として、海外ユニクロ事業やジーユー、そしてeコーマスを中心に業績を上げています。今後もユニクロの海外展開には目が離せません。
ヤマダ電機
大手家電量販店のヤマダ電機も海外展開において成功を収めています。ヤマダ電機がグローバル化を推し進め始めたのは2010年12月からで、まずは中国瀋陽店に一号店を展開。続いて2011年6月には2号店の天津店、さらに翌3月には南京店と、続々と中国に出店しています。 ヤマダ電機は中国で店舗展開を進めるにあたり、人の質的、量的な確保を最優先としてきました。良い人材を確保し、企業文化や理念を徹底して教え込んで共有することが大切であるとしています。
セブン&アイホールディングス、ファストリテーリングなどの事業展開国数が20か国以上の企業と異なり、事業展開国数が5か国と比較的少ないものの、「世界の小売業ランキング」では堂々の67位にランクインしています。
伊勢丹三越
伊勢丹三越は、日本における百貨店業界の第1位で、衰退し続けている日本の百貨店業界をけん引する企業です。あまり海外への事業展開のイメージがない伊勢丹三越ですが、日本の百貨店企業の中では最も多くの海外店舗を展開しています。 海外の伊勢丹三越の店舗数は33店舗。出店している国は新富裕層が誕生している台湾やシンガポール、マレーシアなど東南アジアが中心で、人口増加と経済発展の著しい地域で店舗数を増やしています。百貨店事業が縮小傾向にある国内とは対照的です。
また伊勢丹三越は単に百貨店経営だけでなく、ショッピングモール全体の開発からプロモーションまでの販売管理業務を一括担当する、「小売り+不動産開発」戦略を海外でも進めています。 三越伊勢丹ホールディングスの2017年度営業利益は240億円。そのうち不動産事業は64億円で全体の27%も占めています。不動産開発ビジネスによって非常に大きな収益を収めていることが分かります。
ドン・キホーテ
ドン・キホーテは、2018年2月に会社名を「株式会社ドンキホーテホールディングス」から「株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス」に変更しており、この屋号変更からも海外戦略を推し進めていく方針を汲み取ることができます。 ドン・キホーテの2019年6月期の営業利益は1兆3,289億円で、国内での収益のほかアメリカや香港、東南アジアへの出店でも大きな収益を獲得しています。
海外におけるドン・キホーテは、日本製の商品・日本向けの商材の取り扱いをコンセプトとしています。商品は8割が加工品を含む食品で、日本人のイメージするドン・キホーテとはかなり異なった業態で店舗を構えています。さらに、住宅街や繁華街など、場所や土地柄に応じて商品の構成費を変更しており、この戦略も海外進出を成功させている要因の1つと言えるでしょう。 将来的には、利益の半分を海外で上げたいと考えており、東南アジアへの出店もさらに続けていく方針です。 海外事業を成功させるには、海外に駐在している日本人に向けたビジネスと、現地の人々に本物を発信していくビジネス、この両輪が重要だとドン・キホーテは考えています。
小売業界 海外と日本の違い
海外進出を成功させている日本の小売企業についてここまでご紹介しましたが、海外と日本の小売業界にはどのような違いがあるのでしょうか。そして、日本の小売企業が海外進出する際には、どのような点に注意が必要なのでしょうか。海外と日本は何が違う?
海外の大手スーパーマーケとチェーンと言えば、冒頭でも登場したアメリカの「ウォルマート」、フランスの「カルフール」、イギリスの「テスコ」がビッグ3と言われています。しかし、この3社の日本での業績は芳しくありません。テスコやカルフールは2000年代初頭に日本に進出したものの、テスコは2011年、カルフールは2005年に撤退を余儀なくされています。
では、これらのスーパーマーケットビッグ3は盤石な小売り技術があるにも関わらず、なぜ日本での地位をなかなか確立できないのでしょうか。 その大きな要因として、日本の食文化が大きく関わっているのではないかと言われています。日本人は高い鮮度の食材が毎日のように食卓に並びます。また、季節によって野菜や魚などの旬があり、日本のスーパーでは季節ごとに違う方法で野菜や魚が陳列されています。 このような日本人の食に対するブランド志向が海外の大手スーパーマーケットチェーンが日本進出の際に苦戦する要因なのではないかと言われています。
さらに、日本と海外では気候も違えば商品に求められる品質も違います。海外の小売企業が日本進出する際も、日本の小売企業が海外進出する際も、この違いを十分に分析した上で戦略を練る必要がありそうです。
海外進出に関する注意点
最近の海外での日本ブームは目覚ましく、日本関連商品の海外での人気は年々高まっています。このような「ジャパニーズブランド」の浸透は、小売企業にとっても海外進出のための大きなアドバンテージになるのではないでしょうか。 しかし、海外進出の際にはいくつか注意しなければならない点があります。海外進出を失敗させないために必要なことを3つご紹介します。
まず1つめは、言葉の問題です。サービス内容や商品について現地の言葉で流暢に説明し、魅力を十分に伝えることは非常に難しいことが想像できると思います。現在目まぐるしく発展し続ける東南アジアの国々では、ほとんどの場合英語が通じますが、日本人で英語を流暢に話せる人材は限られています。したがって、日本の小売企業が海外へ進出する際には、通訳を雇うか英語を話せる人材を確保することが必要になってくるでしょう。
2つめの問題点は情報収集に多額の予算が必要になるという点です。海外の企業が日本進出する際にも言えることですが、日本企業が海外進出する際には、現地の市場調査が必要不可欠です。 現地のニーズを正確に把握するには膨大なデータが必要となり、そのデータを収集するためには現地へ赴く必要があります。優秀な調査員の確保や調査費用などを考慮すると、大きな予算を割く必要があります。
3つめの問題点は文化的な違いです。日本企業が海外へ進出する際には、必ず現地の人とのコミュニケーションを取る必要があります。 しかし、日本と現地の商習慣は異なります。例えば、時間に対する考え方やビジネスの常識などが日本のモデルとは大きく異なる場合が多いと言われています。現地の人材に日本のビジネスの考え方や習慣を押し付けすぎたり、逆に現地の習慣を取り入れすぎたりしすぎないよう、適度なバランスが必要となるでしょう。