IoTやAI、クラウドなどのIT技術の発展によって現代のシミュレーション技術は新たな局面に突入しています。そこで本記事では、製造業におけるシミュレーションの重要性やメリットを改めて解説すると共に、クラウド上で柔軟かつ高度なシミュレーションを可能にするソリューション「Ansys Cloud」のご紹介をします。
製造業におけるシミュレーションの重要性
そもそも「シミュレーション」とは、日本語にすると「模擬実験」や「模擬訓練」などと訳される言葉です。要するに何かを作ったり実施したりする前に、本番と似せた環境や模倣品を使って実験することを指してシミュレーションといいます。
このような元々の意味を考慮すれば、製造業とシミュレーションが密接な関係にあることは、エンジニアでなくとも多くの人が理解することでしょう。たとえば物を作る上でつきものの設計作業は、最も基本的なシミュレーションです。設計作業を通して制作者は、目的の物を作るためにはどのような材料や工程が必要なのか可視化し、実際の作業がスムーズに進むように事前に理解を進めます。現代の製造業においてシミュレーションと言えば、高度なコンピューターソフトを使ったものを指すことが一般的ですが、基本的な意義は今述べたことと同様と言っていいでしょう。
とはいえ、昨今の製造業においてシミュレーションは製品の設計段階で実施されるだけではなく、市場分析、売り上げ分析、生産ライン全体の評価や業務フローの最適化など、非常に広範な用途に使われています。とりわけ、近年はAIやIoT、クラウドといったIT技術の発展により、従来とは比較にならないほど膨大なデータをリアルタイムに収集できるようになり、シミュレーションの精度は劇的に向上しました。
豊富なデータや高い分析力を用いたシミュレーションはROI(投資収益率)や製品ライフサイクルを最大化するための方法を明確にし、製品の製造過程におけるボトルネックを事前に把握することに寄与します。要するにシミュレーションは、企業が問題を事前に予測して解決し、プロセス全体の改善を可能にするため重要視されるのです。
シミュレーションが製造業にもたらすメリット
製造業におけるシミュレーションの利点としては、主に以下のようなものが挙げられます。
品質の向上
シミュレーションは、メーカーが製造プロセスの詳細を正確に把握し、問題点を特定し、それに応じて最適なソリューションを発見することに寄与します。これによって製品の品質が向上することが期待できるでしょう。
リードタイムの短縮
製造業においてシミュレーションは、メーカーが製造作業で必要なあらゆる要素を把握するための理解をもたらします。この適切な理解は、一連の製造プロセスに必要な時間を節約するだけでなく、適切なリソースを適切なタイミングで使用するのにも役立つでしょう。
資源の節約
シミュレーションによって、メーカーは自社の生産システムや製造施設内のリソースの使用状況を正確に把握できるようになります。これにより、メーカーは廃棄物の量を削減し、貴重な資源やエネルギーの消費を節約できるでしょう。つまりシミュレーションは、全体的な生産効率の向上にも役立つのです。
リスクの検出
シミュレーションは、過酷な状況下での設備の機能を理解するのに役立ちます。これにより、人命や機械の安全のための予防措置を講じることができます。とりわけコンピューターソフトによるバーチャルシミュレーションは、現実には用意することの難しいような特殊な状況下でのテストも安全かつ低コストで実施することが可能です。
クラウドシミュレーション「Ansys Cloud」
すでに触れたように、現代はAIやIoT、クラウドなどのIT技術の発展によって、シミュレーション技術も飛躍的に向上しています。こうした、時代に即した最先端のシミュレーションツールのひとつとして紹介するのが、クラウドソリューション「Ansys Cloud」です。
Ansys Cloudは、世界の優良なシミュレーションソフトウェアを活用した新時代のソリューションです。クラウドコンピューティングの技術によって、オンデマンドのHPC機能を提供し、高速かつ高精度の結果を実現します。Ansys Cloudはクラウドベースのサービスなので、ユーザー企業はHRCクラスターへの投資や社内データセンターの構築、あまり利用しないライセンスに対する長期支払いなどに悩まされることなく、フレキシブルな価格で、本格的なシミュレーションソフトを導入できます。
Ansys Cloudの機能一覧
Ansys Cloudには次のような機能が搭載されています。
【クラウドHPCへのワンクリックアクセス】
Ansys Cloudでは、クラウド上のHPCにワンクリックで簡単にアクセス可能です。実際の分析ジョブはこのクラウドHPCに送信されて行われるので、ユーザーは自社の端末の性能に囚われることなくシミュレーションを行えます。
【堅牢かつ安全なワークフロー】
Microsoft Azureをプラットフォームとして採用しているAnsys Cloudは、物理的アクセスの制限や安全なデータの格納、高度な暗号化による情報保護機能を備えています。これらのセキュアな機能によって、ユーザーはクラウド上で安心してシミュレーションを実行することが可能です。
【リモートジョブモニター】
Ansys Cloudによるシミュレーションの進行状況は、Mechanical、Fluent、HFSSなどのデスクトップ画面や、Webベースのクラウドポータルから確認できます。また、このクラウドポータルにはモバイル端末からのアクセスも可能なので、ユーザーはいつでも好きな場所からシミュレーション状況をモニター可能です。
【解析結果の3D表示】
Ansys Cloudでは、データをクラウドに置いた状態で、シミュレーション結果の確認や検証をできます。つまり、ユーザーは重いデータをインターネット上でその都度やりとりすることなく、3Dレンダリングにおいて必要な情報のみを受け取ることができるのです。
Ansys Cloudを導入するメリット
Ansys Cloudを導入する主なメリットとしては、より正確なシミュレーションの結果の取得や最適なトレードオフ、新規市場の開拓などが挙げられます。
【正確なシミュレーション結果】
Ansys Cloudを活用することでユーザーは、自社のコンピューターリソースに縛られることなく、必要なモデルやメッシュでシミュレーション可能です。これによってシミュレーションの結果はより正確になり、ユーザーはより高品質な製品の生産が期待できます。
【最適な設計トレードオフ】
製品設計においては時間的・経済的制約や求められる機能など様々な要求事項を満たす必要がありますが、それは往々にして両立の難しいトレードオフの関係を示し、そこで最適なバランスを見つけるのは困難です。Ansys Cloudでは、何千もの動作パラメーターを設計に適用可能な上、最大規模の最適化研究にも対応できるハードウェア及びプロセッサに簡単にアクセスできます。これによってユーザーは最適な設計トレードオフを模索することができるでしょう。
【新規市場の開拓】
新たな事業の展開にあたって、シミュレーション作業は欠かせないプロセスです。シミュレーションもなしに新規事業に取り組むのは、航海図も持たずに海に出るようなものでしょう。Ansys Cloudを導入することで、企業は必要に応じて機敏にシミュレーションを実施し、新規事業の展開において必要な大小の決断に役立てられます。
まとめ
クラウドベースのシミュレーションソフトであるAnsys Cloudを導入することで、ユーザーは自社のシステム環境に縛られることなく、高度なシミュレーションを自在に行えます。Ansys Cloudは「使った分だけ費用を払う」といった使い方もできるので、あらゆる企業にご利用いただけます。