「マスカスタマイゼーション」には、製造業の未来を切り開く可能性があるといわれています。そんなマスカスタマイゼーションを導入してみたいと考えてはいるものの、メリットがよくわからず躊躇している経営者の方も少なくないでしょう。本記事では、マスカスタマイゼーションが求められる背景や、導入で得られるメリットを解説します。
マスカスタマイゼーションとは
「マスカスタマイゼーション」とは、「大量生産(マスプロダクション)」と「個別受注生産(カスタマイゼーション)」のよいところを掛け合わせた、ハイブリッドな生産体制のことです。大量生産ならではの低コストを活かしつつ、多様な顧客のニーズにマッチした商品・サービスを販売します。近年では製造業やアパレル業、食品業などさまざまな業界において、このマスカスタマイゼーションを積極的に導入しようとする動きが加速しています。
たとえば、スポーツ品メーカーの「アディダス」は、スニーカー革命を成し遂げた「ナイキ」に対抗するため、スピードファクトリーを立ち上げました。スピードファクトリーとは、最先端の3次元モデル技術を投入し、ユーザー情報に基づき個々に適した靴をデザインできる仕組みです。これにより、大量生産のモデルであっても、個々のユーザーにマッチした製品を提供できるようになりました。
ほかにも「ユニクロ」や「ZOZO」など、名だたる国内ブランドがマスカスタマイゼーションに取り組んでいます。本格的にマスカスタマイゼーションを導入したいと考えているのなら、さまざまな企業の成功事例に目を通してみるとよいかもしれません。
マスカスタマイゼーションが求められている背景
マスカスタマイゼーションが広がりを見せる昨今において、「なぜ、そこまで注目を集めているのか」と疑問を感じる経営者も少なくないでしょう。さまざまな理由が考えられますが、ひとつには顧客ニーズの多様化が挙げられます。
安価で手に入る大量生産品も、たしかに時代と顧客のニーズにマッチしたものでした。しかし、時代は大きく変化し、人々のニーズも変わりつつあります。インターネットやモバイル端末が広く普及した現在では、誰もがさまざまな情報を容易に入手できます。オンラインで複数メーカーの商品スペックやカラー、価格などをチェックし、より自分のニーズを満たせるものを欲するようになったのです。
このようなニーズがあるのは間違いないため、企業が継続的な発展と成長を続けるには、顧客の求めるものに対応できる力を身につけなくてはなりません。これこそ、マスカスタマイゼーションが注目されている背景といえるでしょう。
また、市場に投入した当初は脚光を浴びていた商品・サービスであっても、やがて衰退します。その結果、また新たな製品を開発→コモディティ化→開発→コモディティ化といった負のスパイラルに見舞われてしまうのです。
コモディティ化に伴う商品価値の低下を避け、競合に打ち勝つには、価格以外の付加価値を提供しなくてはなりません。これも、マスカスタマイゼーションが求められる背景です。
マスカスタマイゼーションのメリット
マスカスタマイゼーションは、大量生産と受注生産双方の「いいとこどり」をしたハイブリッドな仕組みです。両方のメリットを得られることこそ、最大の魅力といえるでしょう。以下、それぞれのメリットについてわかりやすく解説します。
大量生産のメリット
大量生産のメリットは、製品1つあたりの製造コストを抑えられることです。製造コストを抑えて生産できるため、顧客へ低価格で提供できるのが魅力です。
コストを抑えられる理由としては、原料の大量仕入れが挙げられます。大量仕入れを約束することで、単価の値下げ交渉を進めやすく、コストを抑えて原料を仕入れられるのです。
また、大量生産が可能なシステムをつくり上げれば、あとはシステマチックに作業を進めるのみです。無駄を極力排除した生産体制を整えることで、時間あたりの生産数も最大化できます。
大量生産の環境下では、設計の変更はほとんど行われません。そのため、ベースとなる設計に基づき大量生産が可能で、納品までの時間を短縮できます。納品までの時間を短縮できれば、それだけ早く商品を市場に投入できるのです。
受注生産のメリット
受注生産のメリットは、顧客のさまざまな要望に対応できることです。カラーやデザインを変更したい、一部分だけ形状を変えたい、もう少し小さくしてほしいなど、顧客の求めに応じて柔軟に仕様変更を行えます。
顧客の要望に寄り添った製品を提供できるため、顧客満足度を高められる効果も期待できます。満足度が向上した結果、再度別の商品を購入してくれるかもしれません。つまり、リピーター化につながるメリットがあるのです。
また、大量生産品ではなく、顧客の要望に合わせてカスタマイズした製品であるため、付加価値を提供できます。設定した価格が多少高くても、自身の要望が反映された製品であれば、満足して購入してもらえるでしょう。付加価値の設定により、競合との差別化にもつながります。
そのほか、在庫リスクを軽減できるのもメリットです。原料の大量仕入れと生産を行うケースでは、在庫を抱えるリスクがあります。製造した先からどんどん売れていけば問題ありませんが、いつまでもそのような状況が続くとは限りません。強力な競合の登場により、またたく間に商品が売れなくなり、大量の在庫を抱える事態になることは十分考えられるでしょう。大量に在庫を抱えてしまうと、すでに生産した分の赤字はもちろん、管理コストも発生します。
一方、受注生産であれば注文を受けてから製造を開始します。そのため、基本的に在庫を抱える心配がありません。顧客へ引き渡すまで、一時的に在庫として管理することはあっても、売れ残る心配がないのです。
マスカスタマイゼーションのデメリット
マスカスタマイゼーションのデメリットとして、大量生産と受注生産を完全に両立させるのは困難であることが挙げられます。大量生産を行うとなれば、システマチックかつスピーディーに生産できる体制が必要ですが、受注生産では顧客の要望を反映させなくてはならないため、どこかで生産の手を緩めなくてはならないのです。
大量生産に比重が偏ってしまうと、顧客のニーズをうまく満たせない可能性があります。一方、受注生産に偏ってしまうと、大量生産ならではの低コストや納品までのリードタイム短縮といったメリットが薄れてしまいます。
このあたりは、マスカスタマイゼーションに取り組もうとしている企業の多くが課題と感じているようです。いかに双方のバランスをとれるのかが、成否を分ける鍵になるでしょう。
マスカスタマイゼーションを実現するために必要なもの
マスカスタマイゼーションを実現するには、シームレスな製造環境の構築が必須です。受発注から設計、開発、製造といった各プロセスが分断されている状態では、マスカスタマイゼーションを実現できません。
各プロセスのシームレスな連携を実現するには、ITツールやシステムの導入も視野に入れてみましょう。すでにDXの推進に取り組んでいるのなら、併せてマスカスタマイゼーション環境の構築も進めてみてはいかがでしょうか。
また、製品の仕様にも目を向ける必要があります。顧客の要望をスムーズに反映できる仕様に変更すれば、同一モデルであっても付加価値をつけられます。そのほか、顧客の要望に応じた柔軟な生産を実現するには、CRMやERPの機能を実装したツールを導入し、受注から生産までスムーズに進められる環境を構築することも必要です。
まとめ
組織として成長と発展を続けるには、多様化する顧客ニーズに対応できる体制を整えなくてはなりません。マスカスタマイゼーションであれば、多様化するニーズに対応でき、競合との差別化も実現できます。大量生産と受注生産を完全に両立するのは困難ですが、ツールやシステムを活用し、うまくバランスをとりつつ実現を目指してみましょう。