建設業の経営者、また、AIやIoTを活用しようと考えている建設事業者の方の中には、建設業の近年のスマートビルディングの取り組みに興味を持っている方も多いでしょう。 本記事では、大成建設と日本マイクロソフトの取り組みや、導入システムの紹介をします。
大成建設とマイクロソフトによる協業
大成建設とマイクロソフト社は2019年10月に協業を開始し、施設運用や保守事業に取り組んでいます。背景には、昨今の日本の建設業界で既存建物の改装や改修の企画をはじめ、設計や維持管理の効率化が求められていることがあります。
現代の建設業界では、従来の事業モデルの転換が必要であり、その中で注目されているものがAIやIoTを活用した施設運用・保守です。オペレーション&メンテナンス(O&M) ビジネスともいわれています。
大成建設はこの取り組みに注目し、2019年7月にAI・IoTを活用したビジネスを推進する部署を立ち上げ、不動産価値の維持や業務の効率化を目的として事業を展開したのです。なかでもサービス事業本部を中心にマイクロソフトが支援する形で協業しています。
これにより、IT技術を活用しあらゆる情報の収集や、設備の自動制御を可能にするクラウドサービス基盤の構築を行いました。この基盤をもとにデータ蓄積などを実施することで、より付加価値のあるサービスを提供できるようになる見込みです。
建設業界とクラウドサービスのそれぞれを代表する2社がタッグを組むことで最適なソリューションを提供し、デジタルトランスフォーメーションを推し進めていくでしょう。
施設運用、保守事業を変革するオペレーション&メンテナンスビジネス
ここからは、今回紹介している協業で2019年後期から展開している3つの事業を紹介します。
地震発生直後の建物健全性把握
1つ目は、地震が発生した後に建物の健全性を迅速に評価し、すぐに所有者、管理者に通知するシステムです。所有者や管理者は地震が起きた際、建物に問題はないか、倒壊の危険はないかなど、気になることが多くあります。短時間で正確な情報を収集するべく、Microsoft AzureとWindows 10 IoTをベースとしたエッジデバイスを活用します。
地震が起きた直後に対象となる建物の状況データを素早く収集し、正確な情報を届けることで、特にインフラ面での事業継続計画への一助となるでしょう。このシステムは、すでに製造業や全国の自治体から依頼を受けていて、今後の数年で1000件近くの導入が検討されています。
特に倒壊の危険性については、目に見えない部分で大きな問題が発生することもあり、事前に逃げることが難しいケースもあります。人命を守るためにも、健全性を評価して通知することで、二次災害を引き起こさないための適切な判断材料にもなるでしょう。
施設統合運営管理
建物は設計費や施工費などのイニシャルコストよりも維持管理費などのランニングコストの方が高い金額がかかります。継続的な支払いは、ビル所有者の負担にもつながるでしょう。大成建設はこの建物運営管理費を最小化するため、業務効率化のサービス構築を行っています。これにより、オーナーにかかる金銭的負担を軽減する効果が期待できるでしょう。
具体的にはMicrosoft AzureとWindows 10 IoTをベースにしたスマート・ビルディング・ソリューションを活用しています。今後は、両社で協力して施工と建物運営管理をパッケージ化した事業モデルを進めていきます。これにより、建築から運営管理に至るまで、一気通貫で支えることが可能になります。
生産施設での従業員の作業状況見える化
近年は労働人口の減少や従業員の高齢化といった働き手の減少により、作業効率や安全性を高めることが現場での重要課題になっています。これらの課題に対しては、施設や装置の改善を行うだけでなく、従業員をモニタリングすることで得られる情報により、負担や疲労を減らす解決策を開発しているのです。作業効率を高める方法を見つけ出すことで、作業員一人一人にかかる負担を減らすことができ、少ない人数でも生産性向上のほか、離職率の低下にも寄与できるでしょう。
具体的に、モニタリングでは体温や心拍数などの情報を収集、Microsoft Azure上に蓄積を行います。また、労働環境を改善するために、作業導線や作業場のレイアウトなどが既存のままでよいのか、変更すべき箇所の有無などを、AIを用いて検討していきます。これらのポイントに問題があると、適切な導線や配置であればスムーズに作業できるはずの作業でも、必要以上に時間を要してしまう恐れがあるのです。それらを改善するために、データも駆使して作業状況の見える化を実施することで、作業効率を高め、ひいては働きやすい環境の整備にもつながるでしょう。
大成建設とマイクロソフトの今後と新たなソリューションの提供
今後、両社はAIやIoTを利用した事業の展開を拡大し、建物の所有者や利用者だけでなく、周辺地域の人たちも含めた様々な関係者に対し、施設運用と保守事業の変革を目指しています。新しいプラットフォームを活用することで、社会や経済、職場など、あらゆる分野において、時代の流れに合った新しい解決策を展開していくことが期待されているといえるでしょう。
まとめ
本記事で紹介した大成建設とマイクロソフトの取り組みのように、建設企業とIT企業が協業することで、AI・IoTなどを活用した施設運用・保守事業の実現が可能です。今後、建設業で求められるビジネスモデルの転換に対応するためには、このようなテクノロジーを活用していくことが重要になるでしょう。