全国的に、スマート自治体の実現に向けて様々な取り組みが行われています。特に重要視されているのがシステムの標準化で、具体的には17の業務がその対象として挙げられています。ここでは自治体でデジタル化に取り組む部署の管理職クラスに向けて、詳しい業務の詳細やシステムを標準化するメリットなどについて解説します。
地方自治体でシステム標準化の対象となる17業務とは
自治体の業務に関して、新システムへの移行が進められています。すでに標準仕様が策定済の住民基本台帳を2022年度に開始し、17の業務に関しても原則2025年度末までの実施が目標として掲げられています。そのため、各自治体には標準システム導入が義務付けられているのです。自治体の標準システム導入で、各自治体がばらばらに業務システムを整備してきた状態が是正されると期待されています。
標準システム導入のフローを簡単に説明すると、国が標準仕様を定め、企業がその内容に沿って要件を満たすシステムを開発、自治体が導入・運用、という流れです。
新たな取り組みが必要となる17業務は、優先的に実施される住民基本台帳のほか、地方税や児童手当といった、主に市区町村が遂行する業務が対象です。以下がその一覧です。
- 住民基本台帳
- 選挙人名簿管理
- 固定資産税
- 個人住民税
- 法人住民税
- 軽自動車税
- 国民健康保険
- 国民年金
- 障害者福祉
- 後期高齢者医療
- 介護保険
- 児童手当
- 生活保護
- 健康管理
- 就学
- 児童扶養手当
- 子ども・子育て支援
税金や保険関連、健康関連、子どもに関するものなど、住民の生活と繋がりの強いものが多く挙げられています。これらの業務のシステム移行ができれば、職員の事務負担が削減できます。また、窓口の待ち時間短縮や手続にかかる作業量の減少など、行政側だけではなく住民側にも様々なメリットが生じます。
例えば、自治体をまたいだ転居の際には必要な情報を新しい自治体に移す必要があります。しかし、手続に必要な書類の様式がすべての自治体で統一されているわけではありません。そのため、情報のやり取りを異なる様式の書類で行う場合、機械で自動的に情報を読み取ることができません。そのため、転入先の書類に情報を書き込んだり、職員が手入力したりといった負荷が生じます。また、情報の確認や入力を自動で行えないことによる人的ミスが起きやすいという問題もあります。
しかしながら、改善に対しては課題も多く、費用面が懸念材料の一つとされています。それだけでなく、規模の異なる自治体間でシステムを統一する問題や、システムの変更に必要な専門的な知見を有する人材の不足なども指摘されています。
スマート自治体の実現に向けたシステム標準化の方策について
現状としては、自治体が各々でシステムをカスタマイズする傾向にあり、このことが自治体自身のみならず、企業や住民等の負担にもなっています。
負担を減らすためには、システムを提供するベンダまでもきちんとコミットし、各分野の標準仕様書作成が重要です。標準仕様書の作成はすでに開始されており、最終的には行政の各分野で行われる予定ですが、住民記録に関しては重要な位置づけにあることから優先的に実施されています。他にも福祉や税務の分野に関して、優先的に取り組まれています。
標準書作成後は、ベンダが仕様書の内容に従った機能をシステムに搭載し、それを5年ほどの更新時期を踏まえて自治体が導入していきます。また、現状の課題解決のため、導入後は原則としてカスタイマイズは行わないことなどが挙げられています。
この過程は各分野において進められるものであり、この施策を経て2020年代にはそれぞれでアプリケーションを提供、全国展開されるような計画が進んでいます。
こうした方策が取られることで、最終的にスマート自治体が実現されます。ただし規模の大きな取り組みであるため、近年中に完了できるものではありません。10年、20年と長期的に取り組まなければならず、その過程では技術力向上も予想されるため、その都度状況に合わせた軌道修正等が必要になるでしょう。
システム標準化が必要な背景
標準化が必要な理由には、「手続等の負担」の軽減も挙げられますが、将来起こり得る「社会の変動への対応」も含まれています。
例えば、今後数十年にわたる継続的な人口減少が予想されています。しかしながら、人口が減少したとしても、行政や自治体は持続可能な体制の構築や福祉の水準維持を実現させなければなりません。そのことを見据えて、事務作業から職員を開放し、人にしかできない業務に集中できる環境を整えておくことが重要です。
近年注目度が高いAI技術の向上はいろいろな場面で実用化が進んでいます。こうした技術を導入すれば、職員の持つ経験をデータとして蓄積、最終的には代替可能な作業は人の手を介さずに済むような環境も実現できるでしょう。規模の大きさや職員の能力・経験に左右されることなく、事務作業が遂行できるような体制づくりが今後はさらに大切です。
自治体のシステムを標準化することで得られる効果とは
続いては計画が進むことによって得られる効果を、具体的に見ていきましょう。
行政業務の標準化
行政業務において、効率的に遂行できている自治体もあればそうでないところもあります。上手く進められているやり方をその他の地域でも取り込めれば、全体としてよい方向へ進めますが、業務の微妙な差異がその妨げになっていることも否めません。
そこで重要視されるのがシステムの標準化です。システムを標準化すれば、業務の標準化も実現でき、その結果ベストプラクティスの全国展開も可能となるのです。
ただし、ある特定のエリアで最適とされる手法が、全国どこでも最適であるとは限りません。そのため、組織体制や人口規模などをきちんと調査し、類似の自治体間で比較を行いつつ、抜本的な業務改革に取り組む必要があるでしょう。
行政サービスの連携
行政サービスのデータ連携ができれば作業の効率化が見込めます。これは行政に限った話ではなく、一般の企業でも同様です。現代社会では、様々なITツールが簡単に利用できるようになっていますが、まったく連携の取れない個別のツールを多数導入してしまうと、管理面でデメリットが生じることもめずらしくありません。
便利さを優先して、それぞれのよさだけに着目したツールを利用した結果、全体の効率低下につながっているというのも、現実問題としてよく聞く話です。二重に作業が発生していないか、無駄に機能ばかりを備えていないか、といったことに目を向けることが重要です。
行政においてもクラウド上でサービスのシステム連携がしっかりできれば、自治体が各々に行っている調整も必要なくなり、制度の改正やアップデートといった対応も自動でできるようになります。改正のたびに協議を行うこともなくなる、といったメリットにもつながるのです。
システムの開発及び運用コストの削減
特に直接的な恩恵が受けられるのは、システムの開発や運用にかかるコストです。自治体ごとに設計から始めていたのでは労力がかかり、コストもその分膨らんでしまいます。しかしシステムが標準化されれば個別にゼロから取り組む必要がなくなるため、それぞれのフローで生じるコストが削減されることでしょう。
このように、作業を省力化するという単純な目的だけにとどまらず、様々な観点から考えてもよい効果が得られるだろうと、国を挙げて計画が進められているのです。
まとめ
近い将来起こると予想される社会の変化に適応するため、またこれまでの問題を解決するためにもスマート自治体への取り組みが進められています。17の業務に関しては特に、業務の効率化・コスト削減が求められるため、きちんと把握しておくとよいでしょう。スマート自治体の実現にシステムの標準化が必要なのです。