「サプライチェーン(Supply Chain)」とは、ある製品が消費者の手元に届くまでのプロセスを意味します。例えば日本で人気の高いスマートフォンのiPhoneは、国を問わず多くのサプライヤーから部品が供給されており、それらを受容予測のもと仕入れてApple社がアセンブリを行い、通信キャリアや家電量販店などへおろしています。このような製品供給までの企業における大きな流れをサプライチェーン(供給の連鎖)と言い、それらを管理することをサプライチェーン管理と表現しているのです。
本記事では、このサプライチェーンにおいてよくある課題をご紹介します。自社を取り巻くサプライチェーンを見直すきっかけとしていただけますと幸いです。
サプライチェーン5つの課題
それではさっそく、サプライチェーンによくある5つの課題をご紹介します。
課題1. 開放的なサプライチェーンの構築
多くの企業の目的は顧客との信頼関係の構築です。そのために企業は良質な部品や材料を安価に、そしてタイムリーに仕入れながら最適なサプライチェーンの構築を目指しています。しかし、長年ビジネスを実施していると実際にはサプライヤーとの結びつきが深まりすぎて、製品開発や需要計画の面で顧客ニーズの把握に遅れが生じてしまうケースがあります。これは、閉鎖的なアプライチェーンによって情報の流通が滞り、顧客志向ではなくなってしまうことが原因です。企業はサプライチェーンを構築するにあたり常に顧客志向を目指した開放的なサプライチェーンの構築が急務とされています。
課題2. リスクマネジメント
企業運営には常にリスクはつきものです。例えば最近では新型コロナウイルスの影響により、サプライヤーの生産や物流が止まってしまい物が生産できないといったことが多くの企業で起きてしまいました。なかなか予測は難しいことではありますが企業としては常にこのようなリスクを考えておく必要があります。そのためサプライチェーン全体のみならず各プロセスの細部に至るまで、リスクを想定した対応の標準化を制定しておくことが重要です。日々の安定供給を目指すためにはリスクマネジメント体制の構築が必要です。
課題3. サプライチェーン全体の可視化
サプライチェーンを最適化するために必要なことは、それぞれのプロセスの状態を可視化できる環境に他なりません。サプライチェーン全体で発生する各種データを可視化することで問題点を把握したり、需要予測など迅速な経営判断を下すことが可能になります。また、企業はサプライチェーンだけで成り立つわけではないため、生産・製造であったり財務会計、営業などあらゆるデータを連携させることがより精密なデータの可視化・分析が可能になります。
課題4. コストの削減
製造業にとってサプライチェーンにおけるコスト削減は急務と言えます。そのためには上記で述べたようなサプライチェーンの可視化が重要であり、可視化を通じて無駄を省くことが可能になります。特には戦略の見直しや拠点配置の最適化、サプライヤーの変更などをしながらサプライチェーンにかかるコストを見直しているケースが多いでしょう。
課題5. サプライチェーンのグローバル化
多くの日本企業において日本国内企業のみでサプライチェーンを構築することは少なくなってきていることでしょう。日本は少子高齢化による労働力の不足や新興国の台頭など様々な課題を抱えています。そのため競争力維持のためグローバルレベルで最適なサプライチェーンを構築することが重要になります。日本企業においてはこのグローバル化も大きな課題であると言えるでしょう。
サプライチェーンマネジメントの重要性
上記で紹介した課題を解決する手段として「サプライチェーンマネジメント(SCM)」が必要不可欠です。サプライチェーンマネジメントは企業内に閉じられたものではなく供給事業者など多岐にわたることから他に比べて広範な視点で管理を行わなければなならないという難しさがあります。その一方でサプライチェーンをしっかりと管理することで強い経営基盤を得ることが可能になることも事実です。それではサプライチェーンマネジメントによってどのようなビジネス効果が得られるのでしょうか?
サプライチェーンマネジメントの効果
多くの企業では、経営基盤の強化として売上拡大とコスト削減、2つの側面からアプローチを実施することが一般的です。サプライチェーンを見直すことにより、供給連鎖の最適化と供給力向上、在庫適正化などを実現することが可能になるため売上拡大とコスト削減を同時に行えるというメリットがあります。
売上拡大にはどのような施策が考えられるか?一般的には欠品を減らし、需要予測や売上データを分析することで最適なタイミングで最適な数量を供給することが大切です。いわゆるトヨタ生産方式の「ジャストインタイム」の実現です。そのためには販売状況や消費者動向といったデータを生産部門がリアルタイムで共有し、原材料・部品・製品の最適な数量を把握することが重要です。
さらに、供給そのものもスピーディに実施できるようにするためには情報連携が重要なポイントになります。例えば購買と輸送は切ってもきれない関係であることが多く、それらを効率的に連携させることでスピード感をもって生産活動にあたれるでしょう。
コスト削減はどうでしょうか?まずは過剰な部品・製品生産を防ぎ、その上で在庫回転率を可能な限り高めます。過剰生産や需要期を逃した生産により売れ残りが増え、過剰在庫による原材料費や在庫管理費の増加は避けなければいけません。このため、サプライチェーンマネジメントを最適化することで過剰在庫などのリスクを低減させることがコスト削減に影響します。
サプライチェーンマネジメントは人材不足解消にも
サプライチェーンマネジメントを実施する効果は他にもあります。例えば日本企業において人材不足は製造・配送・流通などサプライチェーン全体を取り巻く環境において深刻な問題として提起されています。サプライチェーンマネジメントを実施すると、無駄な部分が可視化しやすくなるため現行の供給体制を見直してより効率的かつ省人化できる体制を構築し、人材不足問題の解消に役立ちます。
サプライチェーンマネジメントにデメリットはあるのか?
結論から言えば、サプライチェーンマネジメントを実施するにあたってデメリットはありません。あえていうのであれば「コスト面の負担」と「戦略策定の負担」かもしれません。
サプライチェーンマネジメントでは部門ごと、サプライヤーごとのデータを集約して一元的に管理し、サプライチェーン全体を俯瞰するためのシステム構築が必要です。こうしたシステムの構築にかかる投資が必要になります。これを最近ではこれをデメリットと捉える企業はいないかもしれません。なぜなら企業の成長にはサプライチェーンの管理が必要不可欠であるからです。
また、「戦略策定の負担」についてはより大きな負担になる可能性もあります。サプライチェーンマネジメントを実施するにあたり、システム構築や組織体制の再編を行いますが、これらは場当たり的に進めたところで大きな効果は発揮しません。サプライチェーンを最適化するためには現場分析と正しい目標設定によってサプライチェーンの理想像を常に想定しながら、施策ごとの費用対効果を考慮した上で実行する必要があります。
こうした負担はサプライチェーンに特化したシステムを構築することでカバーできる面も多いため、何をサプライチェーンマネジメントの目的として設定するかを明確にし、その上で適切なシステム構築を目指すことが大切です。
今こそサプライチェーンの見直しを
製造業のビジネスモデル変革や消費者ニーズの多様化が起こっている今、多くの製造業にサプライチェーンの見直しが求められています。消費者が求めているものが変わればサプライチェーンも瞬時に変化させなければいけません。現時点でのサプライチェーンは実態に即したものかどうか?常に自問自答しながらサプライチェーンの最適化を図っていきましょう。