変化が加速する現代市場において、市場の競争優位性を確立するためには、競合他社との差別化が欠かせません。そして、独自の付加価値を創出し、顧客や消費者から選ばれるために欠かせないのが「ブランディング」です。本記事では、ブランディングという概念の基礎知識や重要性などについて詳しく解説します。
ブランディングとは
「ブランディング(英:Branding)」とは、組織のイメージ向上やプロダクトの認知度拡大などを目的とした、一連の施策を指します。「ブランド(英:Brand)」は「品種」や「銘柄」などと和訳され、一般的には第三者が対象に対して抱くイメージの総体を意味する概念です。たとえば、企業が創出する製品やサービスは、名称・ロゴ・パッケージ・色・機能・性能・キャラクター・キャッチコピーといった複数の要素によって構成されており、これらの総体を指してブランドと呼びます。このブランドがもつ独自性や物語性、世界観、安心感、必要性、信頼感などを醸成するための戦略的な仕組みがブランディングです。
マーケティングとの違い
マーケティングとブランディングは混同されがちな概念ですが、それぞれの定義は明確に異なります。
まずマーケティングとは、プロダクトを販売する一連の仕組みや利益を生み出す構造、または見込み客の獲得・育成・選別などの総合的な販売促進活動を指す用語です。一方でブランディングは、ステークホルダーの心に蓄積される心理的な価値の最大化を目的とする仕組みを指します。平易な表現でいえば、マーケティングは「販売戦略」であり、ブランディングは「イメージ戦略」と定義できます。
マーケティングとブランディングに優劣はなく、どちらか一方に注力しても効果は見込めないため、それぞれの仕組みが相互作用を生み出す事業構造を整備しなくてはなりません。
ブランディングの役割
企業にとって重要な経営課題のひとつが競合他社との差別化であり、それこそがブランディングの本質的な役割です。現代は情報通信技術の進歩・発展に伴って、顧客ニーズが多様化かつ高度化しており、製品や技術のライフサイクルは短縮化していく傾向にあります。このような時代のなかで競争優位性を確立するためには、競合他社にはない独自性を打ち出し、新たな市場価値を創出していかなくてはなりません。
ブランディング戦略の推進は、競合他社との差別化を図るのみならず、顧客のロイヤルティの向上につながり、ひいては企業価値そのものを高める一助となります。
2種類のブランディング
ブランディングは大きく分けると、「インナーブランディング」と「アウターブランディング」という2つの方向性が存在します。
社内に向けたインナーブランディング
インナーブランディングとは、主に組織内部の人的資源を対象とするブランディング戦略です。企業経営の羅針盤となる「Mission(使命)」「Vision(理念)」「Value(行動指針)」を明確化し、組織としての在るべき姿を浸透させる活動を指します。インナーブランディングの実践は、企業の存在意義や経営ビジョンの浸透につながり、従業員のエンゲージメントやロイヤルティの向上が期待できます。
社外に向けたアウターブランディング
アウターブランディングとは、見込み客や消費者などの市場を対象としたブランディング戦略です。見込み客の獲得や潜在顧客の顧客化、既存顧客のロイヤルカスタマー化などを目的とし、市場に向けて自社の製品やサービスのブランド価値をアピールする、一連の戦略を指します。売上高の増大や収益性の向上といった目に見える成果につながりやすいため、インナーブランディングよりも重要視される傾向にあります。
ブランディングによる3つのメリット
ブランディング戦略の推進によって得られる主なメリットは、「価格競争の回避」と「利益率の向上」、そして「人材確保」の3つです。
無駄な価格競争を避けられる
自社ブランドの確立によって得られるメリットのひとつが、価格競争からの脱却です。現代は市場の成熟化に伴って商品が飽和状態にあり、市場のコモディティ化による価格競争に巻き込まれている企業が少なくありません。情緒的価値を醸成するブランディング戦略を推進し、「高くても欲しい」というコアなファンを獲得できれば、価格競争を避けられます。
また、為替の変動や人件費の高騰によって値上げを余儀なくされた場合でも、利益率を維持できる可能性が高いという点も大きなメリットです。
利益率が向上する
価格競争に巻き込まれた場合、薄利多売の経営体制になることで資金繰りが逼迫し、キャッシュフローの悪化による黒字倒産を招く要因となりかねません。ブランディングの成功は価格競争を回避するだけでなく、購入頻度や顧客単価の上昇につながり、結果として利益率の向上に寄与します。自社ブランドを確立できれば、製品やサービスの認知度が大きく向上するため、広告費用を大幅に削減できるというメリットがあります。
人材確保につながる
企業イメージの向上やプロダクトの認知度拡大といった取り組みは、顧客だけでなく求職者の目にも留まるため、優秀な人材を獲得する一助となります。どれだけテクノロジーが発展しても、ビジネスの土台にあるのは人間関係であり、企業が中長期的に発展していくためには優れた人材の確保が不可欠です。
また、ブランディングの確立は求職者へのアピール材料となるだけでなく、事業活動を支援してくれる組織や投資家との接点を創出するきっかけにもなり得ます。
ブランディングの手法
自社のブランド価値を確立する具体的な手法として挙げられるのが、以下の3つです。
- 現状を分析する
- ブランドのコンセプトを確定し反映する
- 認知度や共感度を検証する
現状を分析する
ブランディング戦略を立案・策定する第一ステップは、市場の動向や自社の経営状況を分析し、現時点における立ち位置を把握することです。自社ブランドを確立するためには、まず自社が参入する市場にどのような需要があり、どんな企業が競合となるのかなどを大局的な視点から分析しなくてはなりません。見込み客の潜在ニーズや消費者インサイトを発掘するとともに、自社の製品やサービスの長所・短所などを総合的に分析するプロセスが必要です。
ブランドのコンセプトを確定し反映する
唯一無二のブランドを確立するためには、理念やビジョンに基づくコンセプトを明確化しなくてはなりません。ここでいうコンセプトとは、ブランドのコアバリューを言語化したものであり、この工程によってブランディングの具体的な方向性が定まります。
そして、コンセプトの立案・策定において重要なポイントは、インナーブランディングとアウターブランディングの両立です。企業の存在意義を明確にするだけでなく、組織に属する人材が誇りをもてるようなビジョンを提示することで、経営基盤の総合的な強化につながります。
認知度や共感度を検証する
ブランディングの確立は一朝一夕で実現できるものではなく、「計画(Plan)」→「実行(Do)」→「評価(Check)」→「改善(Action)」のPDCAサイクルを回し続ける継続的な改善が必要です。したがって、ブランディング戦略の展開後は、その施策によってどれだけ認知度が向上したのかを調査し、結果が予想を下回るのであれば施策を見直さなくてはなりません。
ブランドの認知度調査にはネットリサーチや該当調査、郵送調査などのさまざまな方法があるため、自社の組織体制や事業形態に適した手法を選択することが大切です。
まとめ
ブランディングとは、企業のイメージ向上やプロダクトの認知度拡大などを目的とした、一連の戦略を指します。ブランド価値の向上は、競合他社との差別化や既存顧客の優良顧客化に寄与し、価格競争からの脱却や利益率向上といった成果の創出につながります。なお、ブランディングではデータ分析が重要であるため、高度な分析機能を有するITツールの導入が効果的です。ぜひ本記事を参考にして、ブランディング戦略の確立に取り組んでみてください。