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労働力不足のための対策とは?政府や企業の取り組みを解説

労働力不足のための対策とは?政府や企業の取り組みを解説

日本では労働力不足が深刻な問題となっており、企業や政府がさまざまな対策に取り組んでいます。人口減少や少子高齢化が進むなか、労働力不足が企業経営に与える影響は甚大で、早急な対策が求められています。

本記事では、労働力不足の背景や原因を解説するとともに、政府や企業が取り組んでいる労働力不足対策について詳しく解説します。業界別の労働力不足解消に向けたDX例も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

労働力不足とは?問題の背景と原因を解説

労働力不足とは?問題の背景と原因を解説

昨今、日本国内において労働力不足が深刻な問題となっています。そこでまずは、具体的なデータをもとに労働力不足の現状から背景、原因を詳しく解説します。

データで見る日本における労働力不足の現状

日本における労働力不足は年々深刻化しており、その影響はさまざまな産業に広がっています。厚生労働省のデータによると、2024年6月の有効求人倍率は1.23倍(季節調整値)と、求職者数に対して企業が求める労働力の数が上回る「売り手市場」となっています。

職業別に見てみると、特に介護を含むサービス分野や専門技術分野で労働力不足が浮き彫りになっているようです。

データで見る日本における労働力不足の現状 01

引用:「人材」について(経済産業省)

また、少子高齢化が進む中、生産年齢人口(15歳〜64歳)の減少も顕著です。内閣府が公開している「令和6年版高齢社会白書」によれば、国内の生産年齢人口は1995年の8,716万人(全人口の約69%)をピークに減少しており、2023年10月1日の時点では7,395万人(全人口の約59%)まで低下。

将来推計を見ると、2030年には7,076万人、2050年には5,540万人、2070年には4,535万人と、減少の一途をたどることが予想されています。

データで見る日本における労働力不足の現状 02

引用:令和6年版高齢社会白書(内閣府)

労働力不足の主な原因:人口減少と少子高齢化

日本における労働力不足の主な原因として、人口減少と少子高齢化が挙げられます。1950年代から1970年代にかけての「ベビーブーム世代」の高齢化が進行していることに加え、出生率の低下により新たな労働力が補充されず、労働市場に深刻な影響を及ぼしています。

現在、日本の合計特殊出生率は1.3前後で推移しており、人口の自然増加が期待できない状況です。労働力の供給は今後も減少し続ける見込みであり、企業は労働力不足に対応するための新たな戦略を模索しなければなりません。少子高齢化に伴う社会保障費の増加も、労働力不足に拍車をかけており、経済成長の維持が困難になっています。

労働力不足が企業に与える影響とは

労働力不足が企業経営に与える影響はさまざまです。

厚生労働省のデータによると、企業の約7割が労働力不足が経営に「大きな影響を及ぼしている」あるいは「ある程度の影響を及ぼしている」と回答。特に「既存事業の運営への支障」や「技術・ノウハウの伝承の困難化」が主要な問題とされています。

労働力不足が企業に与える影響とは

引用:人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について(厚生労働省)

さらに、労働力不足は倒産リスクを増大させており、2022年には倒産件数全体の7.5%が人手不足に関連するものでした。

労働力不足とは?問題の背景と原因を解説 05

引用:人口減少社会への対応と人手不足の下での企業の人材確保に向けて(厚生労働省)

特に中小企業で人材不足が深刻化しており、事業継続のために人材確保が急務となっています。このように、労働力不足は企業経営に深刻な影響を与えており、早急な対応が求められています。

政府による労働力不足対策

政府による労働力不足対策

日本政府は深刻化する労働力不足に対処するため、さまざまな政策を展開しています。女性や高齢者の活躍促進、デジタル人材の育成など、多様な取り組みが進行中です。

以下よりそれぞれの対策について詳しく見ていきましょう。

女性をターゲットとしたパートタイム労働者の活躍支援

政府は労働力不足解消の一環として、女性の労働市場への参入と活躍を促進するための支援策を展開しています。なかでも特に注目されているのが、2023年から開始された「中小企業向け補助金における子育て支援・女性活躍企業の優遇措置」です。

この政策により「くるみん認定(子育て支援に積極的な企業に与えられる認定)」や「えるぼし認定(女性活躍推進に積極的な企業に与えられる認定)」を取得している企業は、中小企業補助金の申請時に優遇されます。

加点措置の対象となっている補助金としては、事業再構築補助金、ものづくり補助金、IT導入補助金、小規模事業者持続化補助金、事業承継・引継ぎ補助金の5つです。

政府は他にも以下のような取り組みを行っています。

  • パートタイム労働者の就業制限の見直し
  • フェムテック技術を活用した女性特有の健康問題への支援
  • 家事支援サービスの導入推進
  • 働いている女性のリスキリング(再学習)・キャリアアップ支援の強化

高齢者の活躍促進

政府は、少子高齢化と人口減少が進む中で、働く意欲を持つ高齢者がその能力を最大限に発揮できる環境を整備するための取り組みも行っています。

これまで企業には、希望する従業員を65歳まで雇用する義務がありました。しかし、2021年「高年齢者雇用安定法」の改正により、企業は70歳までの就業機会確保が努力義務となりました

努力義務の項目は以下の通りです。

  1. 70歳までの定年引き上げ
  2. 定年廃止
  3. 70歳までの継続雇用制度の導入
  4. 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
  5. 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
    ・事業主が自ら実施する社会貢献事業
    ・事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業

引用:厚生労働省|高年齢者雇用安定法 改正の概要

また、政府は「65歳超雇用推進助成金」を通じて、高齢者の雇用環境を整える企業を支援しています。

デジタル人材の育成・確保

政府は、労働力不足の解消と産業の競争力向上のため、デジタル人材の育成と確保を重要な政策課題とし、以下のような取り組みを進めています。

  • デジタル人材育成プラットフォーム「マナビDX」
  • 情報処理技術者試験
  • DX認定制度
  • 公的職業訓練
  • 数理・データサイエンス・AI教育プログラム
  • スマート農林水産業の人材育成

これらの施策を通じて、2026年度までにデジタル人材を230万人育成することを目指しています。例えば「マナビDX」は、経済産業省が中心となり運営するプラットフォームで、デジタル技術に関する多様な学習コンテンツを一元的に提供しています。

このプラットフォームには、民間が提供する講座を含む約640の学習コースが掲載されており、個人や企業が自分のニーズに合ったコースを選択して学習することが可能です。

企業でできる労働力不足対策

企業でできる労働力不足対策

労働力不足に対処するため、多くの企業が自社内での取り組みを強化しています。ここからは、企業が今からできる具体的な対策を紹介します。

DXの推進で業務効率化・生産性向上を図る

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を用いて業務プロセスやビジネスモデルを革新し、企業の価値向上を図る取り組みです。業務の効率化や生産性の向上が期待されることから、昨今多くの企業がDXに取り組んでいます。

例えば、デジタルツールの活用で情報共有がスムーズに行えるようになれば、作業時間が短縮され、余剰リソースをコア業務に集中させることが可能です。これにより、従業員の負担が軽減されれば、長時間労働の是正や生産性の向上も望めるでしょう。

このように、DX推進により限られたリソースで最大の成果を上げることができ、労働力不足をカバーしつつ競争力を高めることが可能となります。

女性・シニア層がはたらきやすい環境を整備する

労働力不足を解消するためには、女性やシニア層が働きやすい職場環境の整備も必要です。例えば、テレワークやフレックスタイム制度を導入し、育児や介護を担う従業員が仕事と家庭を両立しやすい環境を提供するのも1つの手でしょう。

また、シニア層の中には、これまで積み上げてきた経験と知識を活かして働き続けたいと考えている人も少なくありません。このような人材を採用する企業は年々増えており、労働力不足対策としては非常に有効です。とはいえ、若い世代と比べると体力や新しい業務への適応力に課題がある場合もあるため、仕事内容の調整や短時間勤務など、柔軟な労働条件を整えることが求められます。

この他、女性の活躍を促進するために、社内託児所の設置や女性管理職の育成を目指した研修制度を設ける企業も増えています。

リスキング・リカレント教育を導入する

労働力不足の解消に向け、企業が従業員のスキル向上を支援するリスキングやリカレント教育の導入が重要視されています。

リスキング教育とは、従業員が新たなスキルを習得し、別の業務に適応できるよう支援する取り組みです。昨今のデジタル技術の急速な進化に伴い、プログラミングやデータ分析などのスキルを従業員に習得させる企業が増えてきました。

一方、リカレント教育は、既に社会に出ている人が再度教育機関などで学び直し、キャリアアップや自己実現を図るものです。日本では社内教育が主流ですが、最近では外部での学習を評価し、キャリアチェンジを支援する動きが広がりつつあります。

実際に、数カ月間の長期学習休暇制度を導入している企業もあるようです。こうした取り組みは、労働力不足を克服する上で有効な手段といえるでしょう。

業務の一部をアウトソーシングする

労働力不足を補うため、多くの企業がアウトソーシングを活用しています。アウトソーシングとは、社内業務の一部を外部の専門企業に委託することで、経営リソースの効率化を図ることです。

特に、経理や人事などのバックオフィス業務、あるいはカスタマーサポート業務などの「ノンコア業務」をアウトソーシングすることで、内部リソースをよりコアな業務に集中させることが可能です。固定費を変動費にシフトさせ、経営の柔軟性を高められるため、全体の生産性向上につながるでしょう。

外国人労働者を採用する

外国人労働者の採用も1つの選択肢です。外国人労働者を採用することで、多様な視点やスキルを社内に取り入れられ、業務の効率化や新たなビジネスチャンスの創出が期待できます。

また、「特定技能」や「高度専門職」といったビザ制度の整備により、以前よりも外国人労働者の受け入れが容易になりました。昨今特に建設業、介護業、製造業などの分野で、外国人労働者の採用が進んでいます

ただし、言語の壁や文化の違いといった問題があるため、これらを克服するためのサポート体制は欠かせません。適切な受け入れ環境を整えることで、外国人労働者の能力を最大限に引き出し、労働力不足を補いましょう。

労働力不足解消の事例

労働力不足解消の事例

ここからは実際の企業事例を取り上げ、どのように労働力不足を克服しているのか、その具体的な対策と成果を紹介します。

旭電機株式会社|女性が働きやすい職場づくりで労働力確保

旭電気株式会社は、制御盤・配電盤などの設計・製造を行っている会社です。同社では新事業着手に伴い、既存の女性社員のスキル不足と、働きやすい環境の整備が課題となっていました。特に、これまでの製造工程では、女性社員が新しい製品の設計に必要な専門知識を習得しづらいという問題を抱えていたのです。

これらの問題を解消するため、同社は以下の取り組みを行いました。

  • 1日1つずつ専門知識を学ぶ「ワンポイントレッスン」を導入し、業務に必要なスキルを習得できる仕組みを整備
  • フレックスタイム制度や半日休暇制度を導入し、育児や介護と仕事を両立できる柔軟な働き方を推進
  • 業務の一部を機械化し、体力的な負担を軽減する作業環境を整備

この結果、女性社員が働きやすい職場環境が形成され、従業員の定着率向上を実現。社内外からの評価も高まり、人材の採用にも成功しています。

参照:中小企業・小規模事業者の人手不足対応事例集‐旭電機株式会社(経済産業省)

有限会社有吉農園|シニア活用と短時間シフトで労働力確保

有限会社有吉農園は、北海道で青果卸売・青果包装を営んでいる会社です。同社は季節労働者や若手正社員の採用に難航しており、農繁期には深刻な労働力不足に直面していました。

そこで同社は「短時間シフト勤務」を導入し、シニア層の積極採用を実施。具体的には、以下のような取り組みを行いました。

  • シニア層が働きやすいよう、午前や午後の4時間勤務が可能な短時間シフトを設け、無理のない働き方を提供
  • 募集広告ではシニア層の目に止まるよう簡単な作業であることを明示

この結果、最高68歳のシニアスタッフ10名の採用に成功。シニア層の労働力を効果的に活用し、農繁期の安定した労働力確保に繋げています。

参照:中小企業・小規模事業者の人手不足対応事例集‐有限会社有吉農園(経済産業省)

エイベックス株式会社|教育改革と残業削減で離職率を改善

エイベックス株式会社は、自動車関連部品や建設機械部品などの製造・販売を行っている会社です。同社では、従業員の早期離職が問題となっており、特に入社1年未満の退職者数が多いことが課題でした。これを解決するため、同社は「教育体制の強化」と「労働環境の改善」に取り組みました。また、女性社員の採用と定着を促進するための施策も導入しています。

具体的な取り組みは以下の通りです。

  • 入社後すぐに必要な知識を習得できるよう「導入教育」を実施
  • 年3回の「共育デー」を設け、入社1年未満の社員の成長を促進
  • 毎週金曜日を「定時の日」とし、全社員が定時退社することで残業を減らすとともに、残業時間を「見える化」して管理
  • 産前産後休暇や育児休暇の取得推進、フレックスタイム制度の導入で女性の採用・定着の強化
  • 短時間勤務(4時間~)の採用を開始

これらの取り組みにより、離職率の大幅な改善(13.2%→5.4%)に成功しました。また、「子育てをしながら短時間のみ働きたい」といった女性の応募者が増加し、採用活動も活発化しています。

参照:中小企業・小規模事業者の人手不足対応事例集‐エイベックス株式会社(経済産業省)

【業界別】労働力不足を解消するためのDX例

【業界別】労働力不足を解消するためのDX例

各業界で労働力不足を解消するために、DXの導入が進められています。ここからは、製造業、農業、サービス業、医療業の4つの業界におけるDXの取り組み例を紹介します。

製造業

製造業では就業者数が年々減少しており、特に少子高齢化により若年労働者の不足が深刻です。少ない人数で事業を継続するため、各企業ではDXの導入が急務となっています。

以下は、各社のDX取り組み例です。

  • 沖電気工業株式会社:複数工場を仮想的に統合し、生産効率を向上
  • 富士通株式会社:設計と製造をシームレスに連携するデジタルプラットフォームの構築で製品開発の効率化を推進
  • トヨタ自動車株式会社:工場IoTで生産プロセスの最適化とデータ分析を強化
  • 三菱電機株式会社:工場内データのリアルタイム分析で生産現場での即時対応を可能に

農業

農業における労働力不足も年々深刻化していますが、これは高齢化や若年層の減少に加え、仕事量が特定の時期に集中しやすいことも、農業従事者の確保を難しくしている要因です。また、後継者不足や輸入品との価格競争といった問題もあり、これらを解決するためには農業DXの推進が求められています。しかし、多くの取り組みが実証段階に留まっており、まだまだDXが進んでいない分野の1つといえるでしょう。

以下は、農業DXの取り組み例です。

  • AI病害虫雑草診断アプリの活用で生産性向上
  • IoTセンサーを用いた水門管理自動化システムでコスト削減・品質向上を実現

サービス業

サービス業では、コロナ禍により多くの従業員が別の職種に転職したことや、低賃金、離職率の高さが原因で労働力不足が慢性化しています。この状況を打開するため、飲食店や小売業、福祉分野を中心にDXの導入が進んでいます

以下は、サービス業におけるDXの取り組み例です

  • AIやセンサー技術を活用して、レジ無人化や在庫管理を自動化
  • 顧客対応を自動化し、24時間対応を実現
  • モバイルオーダーを活用した効率的なサービス提供

医療

医療業界では、不規則な労働時間や高齢化の影響で、慢性的な労働力不足となっています。この状況が続くと、医師や看護師一人ひとりの負担が増え、過重労働による退職者の増加が懸念されます。

こうした問題を解決する手段として期待されているのが医療DXです。DXを推進することで、業務の効率化や患者の利便性向上を図りながら、医療の質を維持することが求められています。

以下は、医療DXのよくある取り組み例です。

  • オンライン診療で通院や待ち時間の負担を解消
  • 電子カルテの導入で業務効率を向上
  • AI診断システムの導入で医師の負担軽減

まとめ

まとめ

本記事では、労働力不足の背景や原因、政府や企業が取り組んでいる労働力不足対策について詳しく解説しました。

労働力不足は日本社会において深刻な問題であり、少子高齢化や働き方の変化により、その影響は今後ますます広がると予測されています。こうした状況のなか、企業が持続的に発展していくためには、DXの導入や多様な人材の活用、働きやすい環境の整備など、さまざまな対策が求められるでしょう。

記事内で紹介した労働力不足対策の内容も参考にしながら、自社で取り組めそうなものから変革を進めてみてはいかがでしょうか。

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