「エコシステム」と言えば、自然環境における生態系に関連した概念ですが、昨今ではビジネスシーンにおいてもこの言葉が使われているのはご存知でしょうか。本記事では、ITやビジネス領域においてエコシステムは何を意味するのか、その導入メリットや導入方法と一緒に分かりやすく解説します。
IT・ビジネスにおけるエコシステムとは?
エコシステムとは元々、生態系を構成する諸生物間の相互依存関係を示す概念として生態学の分野で使われていた言葉です。しかし近年では、「デジタル・エコシステム」「ビジネス・エコシステム」というように、ITやビジネスの包括的な仕組みを表す言葉としても使用されます。
ビジネスにおいて大きな成果を挙げるには、自社のビジネスプロセスだけでなく、他の企業との関係や協業が重要になります。また、ITにしても、単一の技術・プラットフォーム・アプリケーションで全てのユーザーニーズを満たすことは難しく、一からすべてを構築すれば時間や費用などのさまざまなコストが必要です。そのため、多くの場合複数の企業間・技術間の連携の下でビジネスを成立させています。
つまり、エコシステムという用語は、他の企業が用いるビジネスノウハウやツールなどとの相互依存関係の下で成り立つビジネスシステムを示す言葉として使われます。エコシステムを理解することは、自社のビジネスモデルやITシステムをより包括的な観点から見ることであり、企業間・ツール間の協調関係を改善し、お互いの利益や持続可能性を向上させることに繋がるのです。
エコシステムが注目される理由
エコシステムという視点が現代のIT・ビジネス領域において重要視されるのは、ビジネスモデルやIT技術の発展に伴い、単一の企業・システムによってサービスを生み出すことが難しくなったことが挙げられます。特に1990年代以降はインターネットが巨大な市場基盤となり、世界中の企業がネットワーク上で互いに協力や切磋琢磨を繰り返ししながら、サービスを展開するようになりました。
たとえば、通販会社として有名なAmazonは、インターネット上に巨大な小売市場やデジタルプラットフォームを構築し、それらを世界中の企業に貸し出しています。昨今では、動画や音楽などのストリーミングサービスも展開し、小売業・ITサービス・メディアサービスなどを横断した巨大なエコシステムを形成しているのです。Windows OS、Microsoft Azure、Microsoft 365などのOS・プラットフォーム・アプリケーション群を提供しているMicrosoftも、サードパーティー企業やその製品・サービスを巻き込んで巨大なエコシステムを形成している企業の代表例と言えます。
エコシステムはもちろん、IT分野以外でも成立します。とはいえ、昨今のビジネスにおいて一切ITが関与しない仕事などもはや殆ど考えられません。今後、社会でIT活用がさらに進んでいくにつれ、ITを基軸にしたビジネス・エコシステムの形成はますます進んでいくことでしょう。
エコシステムを導入するメリット
近年注目されるエコシステムですが、これだけの広がりを見せるにはそれなりのメリットがあります。エコシステムの導入によって得られるポジティブな効果を紹介します。
企業認知度の向上
第一のメリットは、企業認知度の向上です。他の企業とのコラボレーションを通して、従来は接点がなかった他社の既存顧客に対しても自社の製品・サービスをアピールできます。自社の既存の顧客層とは異なったターゲットにアプローチすることで、新たな市場開拓のきっかけになることが期待できるでしょう。
新しいプロダクト・ビジネスモデルの創出
第二のメリットは、新たなプロダクトやビジネスモデルの創出可能性を広げられることです。コラボレーションを通して、社外の人材・アイデア・技術などに触れることで、単独の企業活動からは生まれてこないイノベーションの創出が期待できます。他社の技術やビジネスプロセスを学ぶことで、顧客の多様なニーズに応えるためのノウハウも蓄積しやすくなるでしょう。
多くのデータを集積できる
第三のメリットは、多くのデータを集積できることです。昨今、データは重要な知的財産として注目されており、DXにおいてもデータ収集およびデータ活用は必須の取り組みとされます。エコシステムを通して各社の有用なデータを集積し、それらのデータを活用すれば、新たな製品・サービスの創出にもつなげられるでしょう。近年ではこうした効果を見込んで、「データ・エコシステム」を構築し、イノベーションの創出を図る企業も増えています。
エコシステムを導入するには?
では、上記のようなメリットを得るために、エコシステムを導入するにはどうしたらいいのでしょうか。続いては、エコシステムを導入する際のポイントを解説します。
自社の立ち位置を明確にする
第一に重要になるのが、業界や市場における自社の立ち位置を明確にすることです。強力なエコシステムを構成するには、中核となる企業・サービスの存在が欠かせません。たとえばECマーケットにおいて、Amazonや楽天がコミュニティの中心として機能しているのと同じことです。
エコシステムの導入を検討する際には、業界・市場における自社の立ち位置を確認し、自社自身が中核を担うエコシステムを形成するか、それとも他社が中核を担う既存ないしは新規のエコシステムに参入するかを考えることから始めます。
市場における自社の立ち位置を分析する方法としては、SWOT分析などが挙げられます。自社のStrength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)を客観的に分析し、今後の戦略に活かしましょう。
比較・検討し最適なエコシステムを見極める
次の検討課題は、自社にとってのエコシステムはどのような形が最適なのかを明確にすることです。エコシステムにはさまざまな在り方が存在し、他社と共有する対象も情報・技術・特許・通貨など多種多様に分かれます。
自社で構築するにせよ、既存のものに参入するにせよ、最大のシナジー効果を生み出すためには、エコシステムのさまざまな在り方を比較検討し、自社に最も適したエコシステムを導入することが大切です。ただし、エコシステムは相互依存的な関係の下で成り立つ以上、他社との共存共栄という観点を持つことも重要です。それゆえ、自社の利益のみを追求するのではなく、協業する他社との折り合いも考える必要があります。
導入後得られたメリットをチェックする
エコシステムの導入後、それによって得られたメリットを確認・評価する作業も重要です。市場状況は流動的であるため、一度成功したからといって、そのエコシステムがいつまで経っても最適な状態であるとは限りません。
エコシステムはただ導入するだけでなく、定期的にそのメリットや改善点を確認し、有機的に最適化を図っていくことが大切です。また、エコシステムを導入するには、コストや労力などに関してある程度の投資が必要であることも念頭に入れておきましょう。メリットの確認は重要ですが、短期的な利益だけに拘泥するのではなく、長期的なビジョンを常に意識しておくことが大切です。
まとめ
エコシステムとは、ビジネスやIT領域において、企業間やサービス間の相互依存関係によって成り立つビジネス形態ないしはITシステムを意味します。エコシステムを導入するには他社との連携・協業が必須となるため、お互いに情報共有がしやすく効率的な業務フローに整えることが大切です。