最近話題のカーボンニュートラルについての概要と、特に大きな影響を受けやすい製造業での取り組み事例や指標を解説します。また、製造業界がカーボンニュートラルに取り組む具体的な方法、導入により直面する課題についてもご紹介します。
製造業界で重要なカーボンニュートラルとは?
最近よく耳にするカーボンニュートラル(脱炭素)とは、「地球温暖化の要因となる『温室効果ガス』の排出量を植林などの吸収量を差し引いてゼロにする」ことで、日本をはじめ世界の120以上の国々が2050年までに実現するという目標を掲げています。
一般的にカーボンニュートラルの達成のためには、温室効果ガスの排出量を削減したり、森林管理による吸収量を上げる取り組みをしたりすることが必要とされています。本来、CO2を排出することの多い工場を操業する製造業においては、どのように責任を果たしていくべきかが大きな課題です。
製造業界におけるカーボンニュートラルの取り組み事例
では、製造業界ではカーボンニュートラルを実現するために、どのような取り組みをしているのか。分野ごとの事例を通してご紹介しましょう。
鉄鋼分野
鉄鋼業においては、基本的に鉄鋼石とコークスと呼ばれる原料をもとに製鉄が行われており、そのプロセスにおいて大量のCO2が排出されています。
そこで、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization or Storage)と呼ばれる新しい技術を用いた設備を排気口へ設置することによって、CO2が排出される前に回収するようになりました。しかし、鉄鉱石を採掘する段階で発生した温室効果ガスは防げません。
そのため、鉄鉱石からの製鉄ではなく、廃棄されるような鉄のスクラップを活用した電炉製鋼法という方法に注目し、取り入れる企業が増えてきています。
電炉製鋼法は、鉄スクラップを高温で熱するため、不純物を除去できるというメリットがあり、鉄鉱石からの製鉄よりもCO2排出量を削減できるという効果が見込まれます。
化学製品分野
化学品の製造プロセスにおいては、技術の進化により製鉄時に有効に使えないエネルギーをできる限り減らすなど、さまざまな取り組みが行われています。
また、資源を循環させるという観点では、バイオマスやCO2を利用して化学品を製造する方法も注目されています。
現在、一部の大手化学工業では「SBTイニシアチブ」と呼ばれる「科学的根拠に基づく目標」を掲げる世界的なプロジェクトに参加し、カーボンニュートラル実現に向けて取り組みを進めています。
製造業界がカーボンニュートラルに取り組む方法
では、製造業界がカーボンニュートラル実現の目標に向けて取り組もうとした場合、どのような方法があるのでしょうか。
エネルギー活用におけるCO2排出を削減する
経済産業省のホームページ「カーボンニュートラルって何ですか?(前編)〜いつ、誰が実現するの?」によると、2018年における温室効果ガス全体の約85%を「エネルギー起源のCO2」が占めています。そのため、カーボンニュートラル実現には、まずエネルギー起源のCO2を削減することが必要不可欠と言えます。排出削減が難しい分野もあるため、吸収や除去によって排出分の埋め合わせをする必要があります。
省エネルギーを実践する
今使用しているエネルギーを単に節約するだけではなく、照明を蛍光灯からLEDへ変更したり、バルブからインバーターへ流量調整方法を変更したりするなど能動的な取り組みも、温室効果ガス削減に有効とされています。
そこで、一般財団法人「省エネルギーセンター」が提供する「省エネ最適化診断」を受けると、エネルギーの無駄を洗い出し、専門家から具体的な対策などを提案してもらえます。たとえば温度、照度など設定値の適正化、メンテナンス方法の改善による省エネ、高効率機器への更新などの提案と実施方法などの丁寧なアドバイスや、気になる補助金活用についても相談できます。
スマートファクトリー化により生産性を上げる
最近は人手不足や人材育成が困難な状況から、IoTやAIによってデータ活用や分析を行い、製造のプロセスを管理、改善する工場、「スマートファクトリー」が注目されています。
スマートファクトリー化が進むと、人の手で行う作業は、自動化によって生産性向上が期待できるでしょう。また、無駄なエネルギーを排出する稼働削減にもつながります。コストやメンテナンス費用も鑑みて、小さなところから始めてみるのもよいでしょう。
再生可能エネルギーを一部利用する
よく耳にするようになった「再生可能エネルギー」には、主に太陽光、風力、火力、地熱、バイオマスなどがあります。電気に換えて使用しやすいため、これらを使うのも1つの方法です。再生可能エネルギーは自社の事業所などで発電するほか、小売電気事業者から購入したり、グリーン電力証書などの環境価値を購入したりすることでも確保できます。
製造業界がカーボンニュートラルに取り組むための指標
製造業におけるカーボンニュートラル実現に向けた取り組みを行うための「指標」についても併せてご説明します。
Enpl
工場でカーボンニュートラルを達成するためには、まず、いつどこで、どれだけのエネルギーが使われているのか現状を把握することが重要です。その手段の1つとして「Enpl(エネルギー性能指標)」があります。
Enplによって、組織が定めたエネルギーの性能(エネルギー使用量や変換効率)を測れるため、工場内のさまざまなポストや目的に応じて、的確な効果測定を行えるメリットがあります。
工場の責任者はエネルギー使用量やエネルギー原単位を、製造部門ではエネルギー使用量の過去比較が見られるようになります。
FEMS
もう1つの指標は「FEMS」です。これは、工場のエネルギー管理システムを指します。
本来必要のないエネルギーを使用していたり、大きな負荷がかけられている工場の機器を特定し状況把握を行うことで、無駄なエネルギーを使用しないよう設定するほか、他にエネルギーが必要な機器へまわすことも可能です。また、エネルギーの使用状況について見える化できるため、カーボンニュートラル実現に向けて分かりやすく、対策に取り組みやすい方法と言えるでしょう。
製造業界がカーボンニュートラル導入の課題
2050年のカーボンニュートラルを実現するため、菅元総理大臣は2030年度において2013年温室効果ガス排出量から46%の削減を目指すことを宣言しました。
世界に目を向けてみても、米国は従来の目標が2025年に2005年比26-28%削減でしたが、2021年4月の気候サミットを踏まえ、2030年に2005年比50~52%削減するよう、大幅な目標引き上げを公表しました。カナダも従来の30%から40~45%と同様に見直しを行うなど、2050年のカーボンニュートラルに向けて、日本も見直しの対応が必要となったと言えます。
しかし、目標を達成するためには、以下のように困難な課題があることも理解しなければなりません。
- 高額な電気料金がかかる
日本は安価な再生エネルギー資源に乏しく、発電にかかるコストが高いエネルギーを利用せざるを得ないため、一定程度の電気料金の負担増を覚悟する必要があります。そのため、蓄電池や水素など、現在導入途上にある技術コストをできるだけ抑制し、利用拡大が求められるでしょう。 - 産業競争力維持
電気に依存しがちな製造業界にとって、高額な電気料金は経営に痛手です。安定した経営のため、日本から、安価なコストで生産できる海外拠点へと、移転が進んでしまう可能性があります。
カーボンニュートラルに向けた議論はもはや環境問題という枠組みを超えて、国家間の産業競争力をいかに維持、成長させるかという問題になってきていると言えるでしょう。
まとめ
製造業では、工場や製造プロセスなどにおいて多くのCO2を排出しています。そのため、カーボンニュートラルへの取り組みは重要な課題です。分野ごとの実際の事例も参考にしながら、「省エネ最適化診断」を活用し、自社にとってどのような取り組みが必要なのかを把握するところから始めましょう。