自治体の公文書管理の方法や目的、ありがちな問題点、公文書管理条例の実施状況についてまとめました。文書管理のコツとして4つの段階も取り上げています。
自治体の公文書管理に関し理解を深めたい方、文書管理の改善を図りたい方はぜひ参考にしてください。
公文書とは
公文書とは、行政が物事を決定する過程や決定事項、歴史的事実を記録したものです。文書といっても必ずしも紙である必要はなく、パソコンのハードディスクに記録した電子文書も含まれます。
文書化することで決定事項に関する認識の食い違いを防げますし、信頼性を担保できるようになります。決定の過程に問題がなかったかを後に検証することも可能です。
公文書というと国や自治体のものという印象がありますが、民主主義を支える国民共有の財産であるというのが原則です。そのため、国民が必要なときに利用できる状態にしておかなければなりません。
保存期間は自治体で定める場合もあれば、法令で定められているものもあります。
公文書管理の目的とは
公文書管理を行う目的は、役所その他行政機関が意思決定過程などの情報を開示し、主権を持つ国民へ説明責任を果たすことです。大災害への対応など歴史的価値のある文書は国民共有の知的資源ですから、情報の検索性を向上させることで、国民が活用しやすい状態にしておく必要もあります。
また、行政の適正な運営に資するためでもあります。公文書を通して、過去の決定の経緯や対応に関する正確な記録を把握することで、今後の政策を立案したり現状を改善したりするのに役立てられます。
もしも文書がないと、過去の担当者を探して話を聞かなければなりませんが、非効率的で現実的ではないでしょう。何年も経っていると記憶があいまいになりますし、担当者がすでに退職しているなどして不明のまま終わるかもしれません。
このような目的があることを考えると、公文書を適切に保管・管理するのは非常に重要なことといえます。
自治体の公文書管理に関する問題点
公文書は国民共有の知的資源であるにもかかわらず、担当職員に私物化されてしまい、当人しか文書を探し出せない状況が見られます。検索性が悪いと、必要なときにすぐ文書を見つけられなくなるため、国民が主体的に活用するのが難しくなってしまうでしょう。
また、監査体制が脆弱なため、内容の改ざんが行われてしまう問題もあります。公文書は信頼性の担保のために作成されているにもかかわらず、改ざんされ得るとなれば、その目的や意義が失われかねません。
以下では、これらの問題点に関して解説します。
行政による管理体制の私物化
公文書が私物化されてしまうと、担当職員が不在のときに必要な書類を見つけることが難しくなり、他の職員の業務や住民へのサービスが滞ってしまいかねません。さらに問題なのは、当人にも見つけられなくなった場合です。管理が属人化している状態では、他の人が見つけるのはさらに困難でしょう。
自治体はもともと扱う文書が多く、しかも次々に増えていくため、適正に管理されていないと山積みになってしまいます。保管場所が足りなくなったり、担当者のデスク周りに散乱したり、といった状況も見られます。そのような状態では、通常の業務に支障をきたしかねませんし、情報の検索性は当然悪くなってしまいます。
改ざんなど監査体制の脆弱性
2017年に明るみに出た森友学園問題に見られるように、文書の改ざんを監視できる体制になっていないことも指摘されています。森友学園問題では当初、契約に関する交渉記録は、保存期間が1年未満に定められていたためすでに廃棄したと説明されていました。しかしおよそ1年後になって、記録は廃棄されておらず、一部が改ざんされていたことが判明しました。
公文書の改ざんを防ぐ監視体制を構築、強化する必要があるでしょう。
公文書管理条例について
公文書管理条例は、以下のような目的で定められています。
- 市民の信頼を確保する
- 管理責任を明確に定める
- 管理・保管方法を整備する
- 適切な利用方法を定める
では、自治体において公文書管理条例はどの程度普及しているのでしょうか。
まず、2018年3月に総務省自治行政局行政経営支援室により「公文書管理条例等の制定状況調査結果」が公表されています。47つの都道府県、20つの政令指定都市すべてと、全体の93.3%にあたる1,605の市区町村(指定都市を除く)が、「条例等」で公文書管理について制定していました(2017年10月現在)。
ただし、規則・規程・要綱といったものではなく「条例」として定めている自治体はまだ少数派です。2021年3月時点では、14つの都道府県、5つの指定都市、29の市区町村(指定都市を除く)に限られています。
公文書管理のコツとは
公文書管理の重要性を理解したところで、管理のコツについて見ていきましょう。文書管理の運用方法も、管理状況の点検も、以下の共通する4つの段階について考えることができます。
- 廃棄
- 共有
- 検索性
- 標準化
文書管理の運用方法を明確にする
文書管理について上記4段階をどのように実行していけばよいでしょうか。
1.廃棄
文書が多過ぎるといくら整理しても管理しきれなくなります。これは、紙の文書に限らず、電子的文書(ファイル)にもいえることです。
文書管理ができていない場合、どの程度捨てるべきでしょうか。文書の半分程度は捨てても問題ない、というのが目安です。「将来、何かのときに使うかもしれない」という可能性のために取っておく発想は禁物です。そのような機会はまず訪れませんし、そのような文書を捨てておかないと、近日中に必ず使う他の重要な文書を埋もれさせてしまうことになりかねません。必要な文書を検索しやすい状態を保つために、不要と判断できる文書は思い切って廃棄しましょう。
2.共有
先述のように、担当者が文書を私物化し、個人管理することには多くの弊害があります。そのような問題を防ぐには、文書を適切に共有し、他の人がいつでも見られる状態にしておくことが必要です。業務の属人化を解消することにもつながるでしょう。
具体的には、パソコンで文書を作成中は自分のパソコンに保存しておくとしても、文書が完成した後は共有フォルダに移します。紙の文書も同様で、共有すべき正式な文書は自分の机に積み上げるのではなく、既定の文書保管キャビネットに入れておくようにしましょう。
文書の紛失を防止するためにも、公文書は共有化が原則です。
3.検索性
共有フォルダや保管場所に文書を入れたとしても、それだけでは不十分です。雑然と文書が積まれているだけでは、机の上にあった山を共有キャビネットに移動しただけに過ぎません。検索性は依然として悪いままでしょう。検索性を高めるため、以下のことができます。
まず、適切な文書名をつけて、一目で内容が分かる状態にします。その際、分類やネーミングの仕方も統一させて、誰にでも検索しやすいようにしてください。
また、日付なども入れて最新版を判別しやすいようにする「版管理」も行いましょう。
さらに、文書名の一覧表も作り、現在どのような文書がどこにあるのかを把握できるようにします。
4.標準化
文書管理規程を作るなどして、以上の1.~3.の点をルール化します。運用方法を決めても明文化しないなら、人によって解釈が異なったり、いつの間にか疎かになったりしてしまうでしょう。
管理状況の点検をする
上記プロセスが確立した後も、引き続き運用できているか点検し、維持・発展させていく必要があります。
1.廃棄
一度廃棄しても、毎日のように文書は増えていきます。そのため、保管する必要のない文書はその度に廃棄する必要があります。また、文書の種類ごとに保管期限を決め、それを文書の一覧表に記入しておき、過ぎたものは廃棄しましょう。人の目で期限管理するのが難しいようなら、文書管理システムの利用も検討できます。
2.共有
共有すべきものが、個人ファイルや個人のデスクに入ったままになっていないか、定期的にチェックしてください。
3.検索性
共有フォルダ・キャビネットに入れた全てのものに文書名がついているか、文書一覧表への記入漏れはないかを確認します。必要に応じて、紙の文書もスキャニングして電子化すると、さらに検索性がアップします。
4.標準化
定期的に、ルール通りに運用されているかを監査します。運用を続ける中で改善を加えるべき点や、条例改正や状況の変化に応じて変更すべき点が見つかれば改定します。
まとめ
公文書には「国民への説明責任」「行政運営の適正化」といった明確な目的があり、それを意識して管理しなければなりません。
また、文書の私物化や改ざんといった問題を防ぐためにも、文書管理のコツを押さえる必要があります。「廃棄する」「共有」「検索性」「標準化」という4つの段階をクリアして、適切に管理していきましょう。