さまざまな業種において「KPI」による改善が進められていますが、製造業の現場ではどのように活用されているのでしょうか。当記事では、製造業の現場におけるKPIの意味や具体例、重要性についてご紹介します。KPIを設定するポイントも解説しているので、ぜひ自社でKPIを設定する際の参考にしてください。
製造業におけるKPIの意味とは?
「KPI」とは最終的な目標を達成するにあたり、進捗がどのくらいかをチェックする指標を指します。分かりやすい例として、営業部門に例えてみましょう。
営業の現場における「最終的な目標」といえば、もちろん売上・利益の達成です。しかし、そのためには「訪問件数を上げる」「成約率を上げる」などの目標をクリアすることが必要です。このように、売上・利益の達成のために必要となる「訪問件数を上げる」「成約率を上げる」などの目標が、営業における「KPI」となります。それらをKPIで管理することによって、最終的な目標に対して「どれだけ達成できているか」が、より正確に把握できるようになるわけです。
一方、製造業の現場におけるKPIは、業務の可視化を実現し、生産性・効率性・安全性を高めるために利用されます。製造現場では、いろいろな技術や設備などを採用して、業務の改善を図るシーンが多いです。
例えば「人(Man)」「設備(Machine)」「モノ・材料(Material)」に着目し、工学的な手法で生産システムの改善などをはかる「IE(インダストリアルエンジニアリング)」の採用や、ネットワークカメラによる製造現場の管理などの例が挙げられます。KPIを利用することによって、その効果を高めつつ改善を継続していくことができます。
製造現場で使われているKPIの例
製造現場では、具体的にどのような形でKPIが使われているのでしょうか。
まず、生産品目・スケジュール単位で進捗をチェックすべき代表的なKPIの例として、以下が挙げられます。
○原価率(例:原価構成要素と原価の間に差があるか確認する)
○原材料保留差異(例:仕込み原材料ごとに「標準保留-実績保留」を算出する)
○収率差異(例:製造品ごとに「標準収率-実績収率」を算出する)
○工数差異(例:「標準加工(切替)工数-実績加工(切替)工数」を算出する)
○製造リードタイム(例:生産着手から在庫の滞留、生産完了までの期間が長いことになる)
○製造指図量比(例:月初指図量と製造実績量を比較する)
○製造指図工数比(例:月初指図標準工数と実績出来高標準工数を比較する)
○生産計画日程比(例:月初製造計画と製造実績日を比較する)
○不良率(例:「不良品÷商品数」で算出する)
当初想定していた「計画値」と、実際に算出された「実績値」を比べることにより、どこに改善すべき点があるか見えてきます。
次に、工程・製造系列・整備ユニット単位で作成されるKPIとして、以下の例が挙げられます。
○生産量差(例:「月初計画量合計-実績生産量合計」を算出する)
○生産指図数差(例:「月初計画指図工数-実績指図数」を算出する)
○標準工数差(例:「月初計画標準工数-実績生産標準工数」を算出する)
○就業工数生産性(例:標準時間における直接時間と就業実績校数との比率をチェックする)
○投入工数生産性(例:標準時間における直接時間と直接作業投入工数との比率をチェックする)
○目標比率達成率(例:直接実績工数と就業実績工数比率の目標値を比較する)
○設備稼働率(例:「設備稼働時間÷稼働可能時間」を算出する)
○時間稼働率(例:「設備稼働時間÷負荷時間」を算出する)
○設備パフォーマンス(例:「標準出来高時間÷設備稼働時間」を算出する)
○設備総合効率(例:「標準出来高時間÷負荷時間」を算出する)
これ以外にも事故発生件数などのように、ルールをきちんと守ったり研修をしっかり行ったりすることで防げるような作業環境に関するKPIも、生産性に関わるため重要になってきます。
製造現場を改善するKPIの活用法
製造業において、KPIは現場を可視化し、さまざまな業務改善を進めるために活用されています。
製造現場の可視化を実現するための方法として、まず挙げられるのが「原価管理」です。原価管理では、目標となる利益率を達成するための標準原価をあらかじめ設定した上で、実際にコストをもとに算出された原価との差異を比較し、その原因を分析することでより正確な原価を把握します。これにより適切な価格設定を行い、利益を確保するのが目的です。
原価管理では材料費(原料費・燃料費)や労務費(人件費)、製造経費(機械の減価償却費等、材料費や労務費以外の経費)についてKPIをそれぞれ作成し、管理します。
2つ目の方法は「製造現場KPI評価」です。製造現場KPI評価では、商品の製造に関わる「ヒト」「モノ(材料費)」「設備」に着目してKPIを作成し、生産性を高めることを目的とします。
3つ目の方法は「製造作業監視」です。ネットワークカメラを利用して、現場の作業状況をリアルタイムで監視し、「ムリ・ムダ・ムラ」の原因がどこにあるのかを分析します。例えば不良品が発生した瞬間に注目し、録画された映像からその原因を分析して情報共有を図るのもその例です。これによってQCD(品質・コスト・納期)向上につながります。
製造作業監視では、稼働率・不良率・事故発生件数などのKPIを設定し管理します。
KPIを設定する際のポイントと注意点
KPIについては、多く作成すればよいというものではありません。製造業に限らず、正しいKPIを設定するためには「SMART」と呼ばれる5つのポイントに注目するとよいとされています。製造業においては、自社の製造現場に合わせて、このポイントに沿ったKPIを作成するとよいでしょう。
ちなみにSMARTとは、「Specific(具体的な)」「Measurable(計測可能な)」「Achievable(達成可能な)」「Related(関連した)」「Time-boundedly(期限を定めた)」の頭文字をとった言葉です。それぞれの詳細は以下の通りです。
○Specific(具体的な)
製造現場の現状に合わせて、確かに改善の余地があると考えられ、かつ具体的な改善目標を立てることのできる項目をKPIに設定します。
○Measurable(計測可能な)
目標をどの程度達成できているか、あとどの程度で達成できるのかなど、継続的に実績を計測・把握できる項目をKPIに設定します。
○Achievable(達成可能な)
いくらKPIを作成したとしても、達成が不可能と考えられるものについては意味がありません。現実的な改善目標を立てることのできる項目をKPIに設定します。
○Related(関連した)
KPIとして作成すべき項目は、部門や企業の最終目標や戦略と直接的な関係性があるものでなくてはありません。ですが実際には「自部門に特化した問題」といったように、関係性が感じられないようなKPIが作成されてしまうことがよくあるようです。
○Time-bounded(期限を定めた)
KPIを作成する際には、必ず期限を決めます。KPIを適切に計測するためには、期限についても設定する必要があります。
KPIを設定する際は、これらのポイントを念頭において考えることが大切です。その上で、製造現場の担当者に適切な権限を与え、担当者自身で自律的・継続的にKPIの結果を把握しながら適切な対応ができるようにする必要があります。
まとめ
製造業におけるKPIは業務を可視化し、効率性や生産性、安全性を高めます。どのようなKPIを設定すればよいかは、現場によってそれぞれ異なるため、一概にはいえません。ただ、何でも設定すればよいというわけでなく、現実的かつ具体的で計測・達成が可能な内容をKPIとして設定することが、基本にして重要です。