2021年5月にデジタル改革関連法案が成立したことを皮切りに、DXやBXの実現を目指す企業が増加しています。本記事では、DXとBXがそれぞれ持っている意味や事例の紹介の他、実際にBXを推進する場合に気を付けるべきことを紹介します。
BXとは?
BXとは、ビジネストランスフォーメーションの略です。最近話題となっているDXの前提になる業務の変革を目的としています。また、ビジネスの基盤となるインフラを改革することを指す言葉です。
BXの2つの種類
業務プロセスやビジネスモデルを効果的に変革し、競争力を向上させる取り組みが、BXです。このBXには、BMXとBPXの2種類のアプローチ方法があります。以下で2つのアプローチ方法について詳しく解説します。
BMX|ビジネスモデルの変革
BMX(Business Model Transformation)は、企業がデジタル技術やイノベーションを活用して、従来のビジネスモデルを見直し、新しい価値を創造することで、収益向上を目指す取り組みです。
ビジネスモデルは変えずに、既存のビジネスモデルを活かしながら、時間やコストの効率を重視した改革はこれまでも行われてきました。
しかし、BMXでは、従来のビジネスモデルとは異なり、抜本的な改革を目指す点が特徴です。具体的には、デジタル技術を活用した新規事業の創出、サブスクリプションモデルの導入、顧客とのコミュニケーション方法の改革などが挙げられます。
BPX|プラットフォームの変革
BPX(Business Platform Transformationは、企業がデジタル技術を活用して、新たなビジネスプラットフォームを構築したり、ビジネスプラットフォームを変革することで、競争優位性を確立する取り組みです。
企業の各部署やグループ会社の中で、同一のビジネスプラットフォームを利用している場合は、プラットフォームを変革すれば、企業全体の効率化や業績アップにつなげることもできます。
部署間や企業間で、同一のビジネスプラットフォームを利用していない場合は、同一のものを使うように整備するところから改革が必要となります。
BXに必要とされるもの
BXを進める上で必要とされるシステムが3つあります。
- ERP
- PLM
- CRM
それぞれのシステムの概要と、BXとの関係性について詳しく解説します。
ERP (Enterprise Resource Planning)
ERPは、企業全体の業務プロセスを統合的に管理するシステムです。ERP導入により、会計、在庫管理、生産管理、販売管理など、幅広い業務を網羅し、データの一元管理と共有を実現できます。
ERPは、BX推進をスムーズに行うための業務プロセスの標準化や効率化、データの可視化・分析など、BX推進に欠かせないシステムの1つです。
PLM (Product Lifecycle Management)
PLMは、製品のライフサイクル全体を管理するシステムです。企画・設計、製造、販売、アフターサービスまでの全ての工程を統合的に管理し、製品開発の効率化、品質向上、コスト削減を実現します。
PLM導入によって製品開発プロセスが最適化され、新製品開発や既存製品改良をスムーズに行えます。また、PLMは、製品に関する全ての情報を一元管理するため、BXに必要な製品情報に基づいた意思決定が可能になるでしょう。
CRM (Customer Relationship Management)
CRMは、顧客との関係を管理するシステムです。顧客情報を一元管理し、顧客とのコミュニケーションを円滑にすることで、顧客満足度向上、売上拡大が見込めます。
これらの3つのシステムを連携させることでより大きな効果を発揮できます。BX推進において、これらのシステムを効果的に連携させ、企業全体の業務改革を進めていくことが重要です。
BXならびにDXの基本的な情報
近年使用されることの増えた「BX」と「DX」は似て非なる言葉であり、異なった意味合いを持ちます。本項ではそれぞれの概要について紹介し、該当事例なども詳しく解説します。
BX(ビジネス トランスフォーメーション)の概要について
BX(ビジネストランスフォーメーション)は、IT戦略によって企業の業務を根本から見直し、システムの改革を通して業務改善を行うことです。これは部門ごとの業務に限らず会社全体の業務改革にあたるため、比較的大規模なシステムの導入に踏み切ることも珍しくありません。具体的には、人事や会計、総務など、会社の経営にかかわる基幹情報を1カ所で管理するためのシステムやソフトを導入し、より効率のよい経営を目指すERPや、顧客情報を一元管理し、チームで営業活動がしやすくなるといったメリットのあるCRMなどが挙げられます。
また、BXは業務をデジタル化する変革にとどまらず、従業員の意識改革といった意味合いも持ちます。業務の見直しはあくまでも手段であり、ゴールは業務効率の改善や業績の向上に置かれているためです。
ここではビジネストランスフォーメーションとしてのBXを解説しますが、「ビジネスオブエクスペリエンス」や「ブランドエクスペリエンス」という言葉もBXと略されており、使用時にはどの意味合いを含んでいるのか注意することが必要です。
DX(デジタルトランスフォーメーション)の概要について
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、社会全体にデジタル技術を浸透させて、人々の生活をより便利なものへ改善することを指す言葉です。一企業の業務を超えて直接暮らしにかかわる領域のため、実際に変化を感じることも多いのではないでしょうか。
例えば公共交通機関に乗る際、従来の支払い方法は現金のみでしたが、現在は全国的にチャージ式のICカードが使用でき、切符を購入する手間が不要になりました。他にも映画館の窓口に並ばずにチケットを購入できるシステムや、AIを使用したタクシーの配車サービスなど、さまざまな所でDXが進んでいます。
また、上述した事例では利用者が利便性の向上を感じられることに加え、各分野の労働者においても業務改善や効率アップにつながります。デジタル化やIT化を用いて社会貢献になるような業務変革を行うことは、結果的に労働効率や、労働者のワークライフバランスの改善といったメリットもあるのです。
BXとDXの関係性
BXとDXは、両方ともプロセスに業務改革が伴うという点で一致しますが、目的を網羅する領域が異なります。前項で解説した通り、BXは業績や業務効率の向上を目指し、一企業の業務に対して抜本的な見直しを行うことを指す言葉です。一方でDXは企業内部の業務改善にとどまらず、デジタル化やIT化された新しい技術が社会全体に共有された状態を指します。このことから、一般的な意味におけるDXの前提にはBXが存在しているといえます。
また、近年では新型コロナウイルスの世界的な流行を受け、経営方法の変更を迫られるような環境の変化も生じるようになりました。実際、時短営業を求められた飲食店が料理のテイクアウト販売を始めたり、外出自粛の流れで客足が遠のいた小売店がECサイトへ出品したりなど、新しい環境に合わせて柔軟に経営方針の追加・変更を行う企業も増加しています。高頻度で変化する環境に都度適応することは簡単ではありませんが、時にはAIなども活用しながらデータ分析を行い、BXやDXの検討を継続することが大切です。
BX・DXとRPAの関連性
RPAとは、Robotic Process Automationの略で、その名の通り、ロボットを活用して業務を自動化することを指します。BX、DXにおける、RPA活用のメリットは以下のとおりです。
- 定型業務の自動化
請求書処理、データ入力、顧客対応など、決まった手順で繰り返される定型業務を自動化することで、人件費や作業時間を削減できます。 - 業務効率の向上
RPAによる自動化により、人間はより付加価値の高い業務に集中でき、業務全体の効率が向上します。 - 人為的ミスの削減
RPAは人為的ミスを犯すことがないため、作業の精度が向上します。 - 業務改革の推進
RPAによる自動化を契機に、業務フローの見直しや改善を図ることができます。
RPAを活用することで、効果的にBX、DXの推進が可能です。企業の業務効率化を目指す場合は、RPAの導入もあわせてご検討ください。
BXを進める際に意識しておきたいポイント
実際にBXを推進する場合、企業が意識すべきことにはどのようなものが挙げられるのでしょうか。本項では、BXを成功させるために意識しておきたいポイントについて詳しく解説します。
現状の業務に対する改革
まずは、企業が抱える既存の業務に正面から向き合い、作業効率を上げたり、より低コストでの業務成立を実現したりするための施策を打ち出すことが重要です。この点においては企業ごとに課題点が異なるため、解決策も一様ではありません。
ただし、業務改革のプロセスで新しいシステムの導入が必要になった場合は、どのようなものにおいても使いこなすことを念頭に置いた精査が重要事項となります。どれほど便利なシステムを取り入れたとしても、作業担当者が使いこなせなくては意味がありません。
また、作業効率を重視するあまり、従来の作業と全く異なる手順に変えてしまうことも現場の混乱につながります。新システムには、従業員が置いてきぼりにならないよう十分な説明を行った上で、既存の作業方法も活かしながら生産性の向上を図ることができるものを意識しましょう。
将来に向けての業務改革
消費者のニーズ変化が頻繁に起こる現代社会では、企業がこうした環境の変化に適応し、都度経営方針を見直す必要があります。そのためには、ある程度先を見据えた経営戦略を立てておくことも大切です。
時代の変化によってテクノロジーが発達した結果、小売業界はインターネットへの進出が当たり前となりました。情報源が紙媒体やテレビだったニュースや広告も、現在はスマートフォンといった個人が所有する端末で、より気軽にチェックが可能です。今や、マーケティングはBXに直結するといっても過言ではありません。
こうしたさまざまな変化に伴い、企業の経営陣にはBXの成功に向けた柔軟な発想が求められます。テクノロジーのアップデート速度が上がっている時代の潮流に身を置きながら、次に台頭する技術を予想し未来を見据えた戦略を立てたり、既存の業務方法が将来的に通用するのかを検討したりすることが必要です。
戦略を練り直す
企業の経営は、全てが計画通りに進むわけではありません。3~5年後の経営ビジョンと現在置かれている状況の差を縮めるために作成する「中期経営計画」という書類があります。
中期経営計画では業績や企業価値の向上を目的とし、現状の分析と目標達成のために何をすべきかを検討しますが、いくら現段階の問題点を洗い出したとしても、完璧な予測ができない以上変更はつきものです。経営方針の変更や決定は主に経営陣のみで行われますが、BXにもかかわるような、作業ベースの変更点については、実際に作業をする従業員も一丸となって協力することが必要不可欠といえます。
特に新しいシステムや技術を要する業務などは、従業員に求められるスキルが企業ごと、部署ごとに異なります。組織の問題は組織全体で共有し、各自が当事者意識を持ちながら解決に挑むことが重要です。
BX実現のために企業が取り組むべきこと
BXを実現するためには、企業全体でさまざまな取り組みが必要です。ここでは、その中でも特に重要な3つのポイントをご紹介します。
ITへの投資
BXを成功させるためには、最新のIT技術への投資が不可欠です。具体的には、以下のようなITツールやシステムを導入することが考えられます。
- 顧客関係管理(CRM)システム:顧客とのやり取りを一元管理することで、顧客満足度の向上や営業活動の効率化を図ることができます。
- データ分析ツール:顧客データや販売データなどの分析により、市場動向を把握し、的確な意思決定を行うことができます。
- クラウドサービス:社内外からのアクセスが可能で、場所や時間を選ばずに仕事を進めることができるため、業務効率化に貢献します。
これらのITツールやシステムを効果的に活用することで、企業全体の業務効率化を図り、BXの実現を加速できます。
既存システムの活用
既存システムを有効活用することも、BX実現に向けて重要なポイントです。近年では、AIやIoTなどの技術を活用することで、既存システムの機能を拡張したり、新たな価値を生み出すことが可能です。
例えば、AI技術の活用により、顧客データから購買傾向を分析し、個々の顧客に最適な商品やサービスを提案できます。また、IoT技術を活用することで、工場の設備を遠隔監視したり、リアルタイムにデータを収集できます。
このように、既存システムの有効活用により、投資を最小限に抑えながら、BXの実現に向けた取り組みを進めることができます。
顧客リサーチ
顧客のニーズや要望を把握することは、BXを実現するための基盤となります。そのため、定期的に顧客リサーチを行い、顧客の声に耳を傾けることが重要です。
顧客リサーチには、アンケート調査、インタビュー、顧客満足度調査など、さまざまな方法があります。これらの調査結果を分析することで、顧客のニーズや要望を正確に把握し、それに応じた商品やサービスを開発できます。
また、顧客とのコミュニケーションを密にすることで、顧客との信頼関係を築き、長期的な顧客ロイヤルティを獲得できます。
BXを進めている際の経営管理について
BXの推進にあたっては現場や作業レベルでの業務見直しを行ったり、その結果を踏まえて効率化やコスト削減を図ったりしますが、将来へ向けて経営管理を高度化することも重要な目的の1つです。将来へ向けた経営戦略を始めとしたさまざまな事業計画と照らし合わせながら、ただ目の前の業務を改善するのではなく、未来を見据えた施策の実行が必要となります。常に前を見て予測と検証、修正を繰り返すことで、企業価値の向上にもつながるでしょう。
まとめ
本記事では、BXの概要やBMXとBPXの取り組みについて解説し、DXとBXの違いや、両者の関係性についても解説しました。BXを進めることで業務の効率化やコスト削減などのメリットが見込めますが、実際に解決すべき課題は企業によって異なります。
将来の経営まで見据えながら、この記事でも紹介した、BX実現のために企業が取り組むべきことを実践し、手探りでも予測と検証を繰り返すことが、長期的な企業の成長へつながる近道です。