「i-Construction(アイ・コンストラクション)」は土木・建設・建築の分野でICT技術を活用して生産性の向上を目指す取り組みです。今回はi-Constructionの定義や目的、メリットと導入に伴う課題について解説していきます。
政府が主導するi-Construction(アイ・コンストラクション)とは?
i-Constructionは政府主導で始まったプロジェクトで、土木・建設業界の効率化を目指しています。i-Constructionの概要を見ていきましょう。
i-Constructionとは建設現場における生産性向上の取り組み
i-ConstructionはICT技術を土木や建設の現場で応用する取り組みで、国土交通省が2016年から推進している生産性向上のためのプロジェクトです。ICT機器の導入で効率化を図ったり、人手不足を解消したりするなどの取り組みによって現場の環境を改善し、生産性の向上を目指しています。
i-Constructionの目的について
2017年3月に開催された第1回i-Construction委員会では、i-Constructionが目指すべきものとして次の4つが明示されました。
- 一人一人の生産性を向上させ、企業の経営環境を改善
- 建設現場に携わる人の賃金の水準の向上を図るなど、魅力ある建設現場へ
- 建設現場での死亡事故ゼロに
- 「きつい、危険、きたない」から「給与、休暇、希望」を目指して
引用:国土交通省「i-Construction ~建設現場の生産性向上の取り組みについて~」
土木・建設業界でも人材不足が続いています。「きつい」「危険」「きたない」いわゆる3Kのイメージが定着し、若年層が就業を避ける傾向にあることも人材不足の原因になっています。i-Constructionは、ICTの活用でこれらの問題を解決し、労働環境の改善と生産性の向上を目指そうという国家的なプロジェクトなのです。
i-Constructionを導入して得られる企業全体のメリット
i-Constructionの導入で企業が得られるメリットについて詳しく見ていきましょう。
企業のメリット1:建設現場の生産性向上
ICTの導入で生産性の向上が見込めます。ドローンなどを導入すれば、短時間で正確に測量が行えます。ドローンで得た3次元測量データを活用してCIM/DIMなど3次元モデリングを行えば、作業の対象になる建物の構造や施工手順などを画面で具体的に確認して、共同作業者とイメージを共有できるので、認識のすり合わせもしやすくなり作業時間の短縮につながります。
企業のメリット2:建設現場の労働環境の改善と3Kのイメージチェンジ
土木や建設の現場は体力的に「きつい」、現場が「きたない」「危険」の3Kで長らく語られてきました。このマイナスイメージを払拭するカギになるのがi-Constructionです。
重機などを自動制御できれば操作ミスが減り、オペレーターの経験が浅くても施工速度や品質などを一定に保てるので、作業効率が上がります。また、3D設計データを使ったシミュレーションや施工手順確認を行っておくことで、作業員と機械の接触事故などのリスクも減らせます。
こうして安全性の向上と業務効率化が実現すれば、「きつい」「危険」「きたない」の3Kは、プラスの3Kである「給与」「休暇」「希望」に置き換わることが期待できます。
企業のメリット3:人手不足の解消
現代の現場の課題として、若年層の就業者が増えないというものがあります。これには、業界にマイナスの3Kのイメージが定着し、休日が少なかったり、労働賃金が低かったりすることも理由とみられています。
ICTの導入はこうした人材不足を解決する手段としても有効です。自動化、業務効率化が進めば、その分の人員を他の業務で活用することも可能です。
こうして労働環境が改善し、現場のイメージが好ましいものに置き換われば、若手の就業希望者も増え人手不足の解消が期待できます。
i-Constructionの測量・施工・検査現場におけるメリット
では、i-Constructionの導入によって、具体的な作業ではどのような変化があるのでしょうか。「測量」「施工」「検査現場」の3つの視点から解説します。
- 測量
ドローンの導入で大幅な効率化が実現しています。地形を撮影して自動で3次元地形データ生成システムにデータを送信すれば完了です。測量をすべて手作業で行った場合に比べ大幅に時間が短縮されます。
- 施工
ICT機器の導入で重機などの操作が簡単にできるようになれば、幅広い人材の活用が実現します。重量物を扱う作業などでも体力や筋力、経験やスキルに関わらずいろいろな人材を登用できます。
- 検査
検査・点検作業でも、ドローンや各種センサーなど各種IoT機器を利用して効率的に定点観測できるので大幅な省力化になります。IoT機器が集めた計測データはコンピューターシステムに直接送信されるので、入力の手間が不要になり便利です。
i-Constructionを導入するにあたっての課題
このように、i-Constructionには多くのメリットがありますが、課題もあります。導入に関する主な課題3点を取り上げます。
課題1:導入時に設備投資への費用負担が大きい
ICTの導入にはある程度のコストが発生します。企業規模によってはこれがネックになり、導入の妨げになることもあります。ドローンや機器などはリースで費用を抑え、各種の補助金や助成金を利用するとよいでしょう。
課題2:ICT施工を行うためのスキル向上や新たな人材の確保
もちろん、ICTの各種機器を扱うには、ドローンの飛行や撮影の技術、3Dモデリングツールの操作などいままでとは別の知識やスキルが必要です。しかし、実際に働く労働者が機器を扱うことができなければICT活用は難しくなります。ICTを運用できる人材を新たに確保したり、ICTを使いこなせるように既存の作業者を教育したりと努力が必要です。
課題3:コストパフォーマンスへの疑問・不安
コストをかけてICTを導入しても、費用に見合った効果が得られるとは限りません。導入しても、思うように受注が増えず採算が取れないこともあり得ます。導入費用に見合った効果が得られるかを検討して、自社に必要な内容を見極めましょう。
i-Constructionの導入にかかる補助金や融資等
i-Constructionに関連して受けられる補助金や助成金、税制優遇などの各種制度もありますので、確認して利用するとよいでしょう。2022年3月時点で利用できる主な制度を紹介します。
- ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
中小企業庁と独立行政法人中小企業基盤整備機構が実施する補助金で、生産性向上などを目指す中小企業・小規模事業者の設備投資を支援するものです。1社あたり3000万円を上限として補助金が受けられます。
- IT導入補助金
製造業、建設業、運輸業では資本金3億円以下、従業員300人以下のいずれかを満たす法人や個人事業主を対象とした補助金です。業務効率向上のためのソフトウェア、クラウドサービス利用料、導入関連費など最大で450万円の補助を受けられます。
- 人材開発支援助成金
厚生労働省の助成金で、従業員の訓練経費や訓練期間中の賃金が対象です。7つのコースがありますが、そのうち建設業向けの「建設労働者認定訓練コース」と「建設労働者技能実習コース」では、それぞれ上限1000万円、上限500万円まで助成が受けられます。
- 中小企業経営強化税制
生産性を向上させる建設機械や情報化機器などを新たに導入した費用について、所定の条件を満たせば、特別償却や税額控除を認める制度です。
- IT活用促進資金
ICTの普及に伴う事業環境の変化に対応するための融資を日本政策銀行から受けられます。融資限度額は7億2000万円です。
まとめ
i-Constructionは、ICTを活用して土木や建設の現場を効率化し、生産性を上げるための一連の取り組みです。安全で魅力のある現場環境の維持と業務の効率化を両立させるには、i-Constructionの導入が今後は不可欠になることが予想されます。