近年、経営の多角化へ舵を切る企業が増えています。多角化戦略を進めるにあたっては、基本的な知識はもちろんメリット・デメリットも把握しておかねばなりません。本記事では、多角化戦略のパターンやメリット、デメリットを解説します。正しい知識を身につけ、経営の多角化を成功させましょう。
多角化戦略とは
企業における多角化戦略とは、保有する資源を活かし、関連分野の新たな事業を展開する取り組みです。戦略的経営の父と呼ばれた経営学者、イゴール・アンゾフ氏が提唱した「成長マトリックス」戦略のひとつであり、資源の有効活用や収益拡大など、さまざまなメリットが期待できます。
多角化の注意点や進めるポイント
多角化にあたり、既存の事業が疎かにならないよう注意する必要があります。新たな事業に注力するあまり、既存事業を継続する体力を失えば組織全体の経営悪化を招きかねません。既存と比べて前例の少ない新事業はどうしても失速するリスクがあるため、主力事業に十分な余力を残しつつ多角化を進めることが大切です。
そのため、新事業は少額投資からはじめるとよいでしょう。最低限のリソースで行える事業から自社の適性、市場などを見極め、時機に応じて順次規模を拡大していくことでリスクを最小化できます。
また新事業の内容については、既存事業とのシナジー効果を狙うことが重要です。既存のノウハウを活かせる事業であれば、たとえ新規参入する業界であっても他社にはない市場競争力を得られる可能性があります。さらに、新事業から新たに得られたノウハウを既存事業に活かすことができれば、すべての事業の躍進へとつながるチャンスになり得ます。
多角化戦略が注目される理由
国内外における経済状況や時代の変化に呼応して、消費者のニーズも多様化しています。多様化する消費者のニーズに対応するには、既存の事業のみに固執せず、新たな商品やサービスの提供を模索することが重要です。
現代、事業を営む企業を取り巻く環境は、決してよくありません。1つのビジネス分野で多くの競合がしのぎを削っており、単一事業のみに注力しても思うように成果を得られない時代となりました。このような状況の中で、企業が安定した収益を確保しつつ成長を図るためにも、多角化戦略が求められています。
多角化戦略の分類
多角化戦略には、水平型と垂直型、集中型、コングロマリット型などの種類があります。それぞれに特徴があり、戦略の進め方も異なるため、興したい事業にあった方式を選ぶ必要があります。
水平型多角化戦略
水平型多角化戦略とは、既存の生産技術を活かして既存事業に類似する市場へ新たな商品、サービスを投入する戦略を指します。たとえば、住宅の新築工事を手掛けていた工務店がリフォームにのり出す、トラックを製造していた自動車メーカーがスポーツカーを生産することなどが考えられます。
自社が保有するリソースをフル活用できるのが、水平型のメリットといえるでしょう。新たな設備を投入する必要がほとんどなく、資金面におけるリスクを軽減できます。また、既存事業と類似する市場であれば、蓄積したノウハウを活用できるため失敗のリスクも下げられます。
垂直型多角化戦略
既存の生産技術にない新たな技術を用いて、既存事業と類似する市場へ新商品やサービスを提供する戦略です。たとえば、布団・マットのメーカーがベッド台を製造する、パソコンメーカーがパソコン用のデスクを生産するなどが該当します。
既存事業と類似する市場が対象であるため、既存の顧客や取引先にアプローチしやすいことがメリットです。また、パソコンメーカーの例では端末だけでなく、デスクやチェアなども扱うことで、顧客にワンストップサービスを提供できるメリットもあります。
一方、従来の生産技術では対応できない部分が出てくるため、新たな生産設備やノウハウの獲得に相応の投資を必要とします。
集中型多角化戦略
集中型多角化戦略とは、自社のリソースや技術で生産可能な商品・サービスを従来の事業と関連の少ない業界へ投入する戦略です。たとえば、カメラのレンズを医療機器の部品として提供する、食品メーカーがバイオ事業にのり出すなどが該当します。
これまで蓄積したノウハウや技術を活用できるのがメリットです。うまくいけば、既存事業以上の収益も期待でき、従来の事業とのギャップから話題性を得られる可能性もあります。
リソースの消耗が少ない一方、既存事業と異なる分野に参入するため、求められる品質の違いや、一からの販路開拓が必要など、状況によりさまざまなリスクがあります。まず、参入前に需要の有無をきちんとリサーチしておくことが大切です。
コングロマリット型多角化
コングロマリット型多角化とは、自社の技術や既存事業とまったく関連がない未知の世界へ参入するケースです。たとえば、飲食店がハウスクリーニング事業にのり出す、工務店がカフェをオープンするなどが考えられます。
ビジネスの可能性を広げられるのが、コングロマリット型の魅力といえるでしょう。新規事業が大当たりし、収益を大幅に拡大できる可能性もあります。
一方でこれまでのノウハウをまったく活かせないため、高い初期投資が必要となるうえ、大きな失敗のリスクもあります。見向きもされず、投資したコストがすべて無駄になることも考えられるでしょう。ハイリスクハイリターンであることを理解したうえで取り組む必要があります。
多角化戦略のメリット・デメリット
多くの企業が多角化戦略にのり出しているのは、さまざまなメリットが期待できるからにほかなりません。ただ、多角化戦略にはデメリットがあるのも事実なので、正しく理解しておきましょう。
多角化戦略のメリット
多角化戦略のメリットとして、リスクの分散が挙げられます。1つの事業にしか取り組んでいなければ、情勢の変化や収益の悪化に対して経営への影響が直接的にふりかかります。複数の事業を展開していれば、いくつもの収益源を確保できるため、このようなリスクを回避できます。類似市場や新たな市場へ参入した結果、組織全体で以前と同等の収益を確保できる程度であっても、経営が安定することで組織の土台を盤石にできます。
シナジー効果が期待できるのも、多角化戦略で得られるメリットです。垂直型多角化戦略のような、新たな技術やノウハウの開拓から既存事業とのシナジーが発生すれば、大幅な収益性の向上が期待できます。
多角化戦略のデメリット
多角化戦略のデメリットとして、投資を行うことによるリスクが挙げられます。取り組み方次第ではコストを抑えられるものの、やはり新たな事業の創出、未知の市場への参入となると、相応のコスト・リソースを割く必要があります。新事業が必ずしも成功する保証はないため、投資した資金が無駄になってしまうリスクがあることは理解しておきましょう。
また、かえって非効率な経営になってしまう可能性もある点に注意が必要です。たとえば、システマチックな管理体制を整えていた企業であっても、複数の事業を展開するとなればそれに合わせた新しい管理システムが求められます。ひとつに集約できていた管理が煩雑になり、効率の低い組織運営が業績を悪化させる可能性があります。
そのほか、新事業の内容によってはブランド価値の低下につながるリスクもあります。たとえば、高級メーカーとしてブランディングを確立していた企業が、突然安さを売りにした飲食店の経営をはじめたとなれば、高級なイメージの毀損を招くかもしれません。その結果、従来の顧客が離れ、収益の悪化にくわえて新規顧客の獲得が難しくなるおそれがあります。
まとめ
企業として成長を続け、収益の安定化を図るには多角化戦略が有効です。複数の収益源を確保することが組織の安定につながるほか、既存事業とのシナジーにも期待できます。
多角化戦略の種類やメリット・デメリットをよく理解したうえで、自社にあった事業の開拓を目指しましょう。