高齢化社会が進む中、医療業界は海外に依存した技術や製品から脱却し、最先端の医療技術を国内で実用化するオープンイノベーション推進が重要になってきています。この記事では、医療業界におけるイノベーション推進についての概要、メリットや課題、事例についてご紹介します。
医療業界におけるイノベーション推進の必要性
そもそも「イノベーション」とは、従来のモノや仕組みなどに対して、全く新しい技術や考え方を取り入れて新しい価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことを指します。近年、医療業界においても、イノベーションが強く求められています。
その背景には、より高度な医療機器が開発される中で、特に疾病の治療機器が海外から輸入されるケースが増えるなど、日本国内における技術の国際競争力不足という問題があります。また、超高齢化社会が目前に迫り、急性疾患から慢性疾患への対応にシフトしつつある医療ニーズの高まりも挙げられるでしょう。
世界に目を向けてみると、欧米ではICTを駆使して医療の安全を担保しつつ、革新的な製品、技術を国民に提供することで経済発展につなげています。
そのため、日本も早急に医療分野におけるイノベーション政策を推進し、持続的な経済成長と健康長寿社会の実現を果たしていくことが求められているとして、平成24年に日本政府は「医療イノベーション5か年戦略」を策定しました。
では、各分野で何ができるのかをご紹介していきましょう。
健康管理分野
国民の平均寿命が延びるに従って健康管理をどうするかという問題はますます大きくなります。まず、研究開発費については、健康増進だけでなく先進諸国に対する優位性確保のため、医薬品や医療機器開発分野へ重点的に配分するとともに、それらの国際標準化も重要とされています。
また、産学官連携による研究によって、医療ニーズに応える優れたシステム整備にも力を入れるとしています。
疾患管理分野
特に国民からのニーズが高いがん治療については、がんによる死亡率を20%減少させるという目標を掲げ、早期発見を行うために革新的な診断方法を開発、普及させ、発展的な放射線治療を行うなど、優れた治療機器の開発や整備を進めることが掲げられています。
また、がん以外の難病や肝炎などの希少性、難治性疾患についても、革新的な実用化研究を進めるとしています。
先制医療分野
日本の最先端医療技術は優秀で、iPS細胞などの幹細胞技術など、世界をリードしている分野もあります。そういった分野だけでなく、IT技術などを取り入れた抗体やワクチンといった創薬関連技術を開発することも、重要なイノベーションの取り組みと言えるでしょう。
リハビリテーション分野
公的保険では賄えない多様なニーズに応える医療や介護サービスを創出するため、制度面の課題などを洗い出し、民間事業者と連携して取り組みを行うことも挙げられています。高齢者や介護現場からのニーズから、ロボットを使った取り組みへの研究開発や実用化も進められています。リハビリテーション分野でのイノベーション実現により、治療後の生活における質向上が期待されているのです。
医療業界におけるイノベーション推進のメリット
では、医療業界において、イノベーション推進はどのような効果をもたらすのでしょうか。
医療機器の技術進化に寄与する
世界的に競争が激化する中で、創薬や医療機器研究開発の環境は厳しい局面を迎えています。グローバルな競争に勝ち残るためには、世界に通用する製品を生み出す研究開発に力を注ぐほか、製品を市場に投入するためのプロモーション活動に積極的に取り組んでいくことが必要です。
そういったイノベーション推進によって、新しい国産の医薬品や医療機器の開発が進み、国際競争力も向上するでしょう。
管理コスト効率化
イノベーション推進のプロセスにおいては、開発などに多大なコストがかかります。一方で、実現後にはインフラが整ったり一元的な医療システムが構築できたりすることから、管理コストが効率化できるというメリットもあります。これまで欧米からの輸入に依存していた医薬品や医療機器産業を日本の成長産業に変え、海外への市場拡大もできれば、さらなる低コスト化が実現できるでしょう。
医療業界におけるイノベーション推進の課題
ではイノベーションを推進するにあたって、障壁となるものは何でしょうか。
前述したように、まず巨額なコストが挙げられるでしょう。医療機器の技術が高度になればなるほど、研究開発費なども高額になります。しかし、欧米が開発した製品に依存していると、継続的に高い導入・運用コストがかかり続けるため、イノベーション推進により革新的な新薬や医療機器を国内で創出できるよう、当面はインフラや制度などの基盤づくりを早急に進めていくことが必要です。
また、開発までに時間がかかるという課題もあります。
海外から製品化されたものを輸入し利用するのではなく、国内で研究開発を一から始めるとなると、一定の期間を要することになります。
国内における産学官連携を強化し、優れた基礎研究の成果を実用化研究につなげていく、いわゆるオールジャパン体制を築くことで、開発期間の短縮化が図れるでしょう。
もちろん、そのためには、ボトルネックを解消し重点的に支援する部分を絞り込むなどの行政による制度改革や国内のアカデミアなどに対する技術開発支援策の充実、予算の柔軟な運用といった抜本的な改革も望まれるところです。
医療業界におけるイノベーション推進の事例
ここまで、医療業界におけるイノベーションのメリットや課題について見てきましたが、実際にイノベーションに取り組んでいる企業の事例もご紹介しましょう。
大正製薬アクセラレーター
2019年、製薬大手企業の大正製薬と、国内最大級のスタートアップコミュニティを運営するCreww株式会社は、募集により選定したスタートアップ企業とともに、医薬事業の枠を超えた新しい事業モデルを創出する「大正製薬アクセラレーター」を開始しました。
1912年創業の大正製薬が長年にわたり培ってきた経営資源を活用しながら、スタートアップ企業ならではの斬新なアイデアをミックスさせることでイノベーション推進を促しました。より便利なヘルスケアサービスの提供、医薬開発の効率化など、新しい価値を生み出すことを目標に掲げたプログラムです。また、この取り組みによって企業や業界だけとどまらず、社会全体の課題解決にもつながっていくことが期待されています。
ファイザーヘルスケアアクセラレーター2020
世界をリードする研究開発型の製薬会社であるファイザーも、2019年に「ファイザーヘルスケアアクセラレーター2020」というオープンイノベーションプログラムを開始しています。
たとえばNCD(非感染性疾患)は治療が長期間にわたるため、満足度の高い治療を必要に合わせて受けられることや、医療従事者とのコミュニケーションを増やし、患者自身が治療の効果をしっかり把握できることが課題です。
そこで本プログラムは、ファイザーの高品質な製品を様々な医療現場へ提供しているブランド力や情報力を活用することで、健康寿命の延伸や、NCDに多い慢性疾患の患者でも、病気とうまく付き合いながらQOL(Quality Of Life)を上げられる、新しいライフスタイルを提案することを目的としています。
人生100年時代と言われる中、医療における新しい価値を創造し、より良い社会に変えていくためには、オープンイノベーションがますます重要性を増してきていると言えるでしょう。
まとめ
医療業界におけるイノベーションには、開発に時間がかかるなどの課題もある一方で、革新的な医薬品や医療機器の技術開発を進め、管理にかかるコストも効率化できるなど大きなメリットがあります。この記事でご紹介した企業の事例も参考に、自社にとって最適なイノベーションのあり方や方法について検討してみてはいかがでしょうか。