突然ですが問題です。日本の外食産業における、大学卒業者の就職後3年目までの離職率はどれくらいでしょうか?答えは「50.2%(宿泊・飲食サービス業)」。産業全体の平均値が32.2%なので、約20%も高い結果となっています。
外食産業の離職率がここまで高い理由とは何なのでしょうか?そして、離職率低下を実現するには何が必要なのでしょうか?
本記事では、飲食店経営者やマネージャー、店長クラスなど外食産業の深刻な問題に直面している方に向け、従業員満足度向上に向けたポイントをご紹介します。
外食産業の離職率が高い6つの理由
理由1. 過度な価格競争と人手不足による過酷な労働条件
飲食産業は価格競争が非常に激しく、破壊的な低価格でサービス提供する事業者が登場すると、競合他社もそれに応じて価格を変動させる必要があります。これに加えて、処遇改善に必要な人材や賃金が十分に確保できていない中で、利便性追求による深夜営業・24時間営業が常態化した結果、深刻な人手不足に陥っています。
労働環境に目を向けると、生鮮食品を扱う場合は作業空間が低温状態であり、逆に揚げ物・蒸し物などを調理する空間では常に高温にさらされます。作業工程によっては同じ姿勢での単調作業が長時間継続するため、労働条件・労働環境は総じて過酷になりがちです。
理由2. 経営理念の共有やモチベーションの維持・向上が難しい
飲食産業ではパート・アルバイトなどの非正規雇用社員を採用することが多く、そうした人材の多くが「時間あたりの賃金のため」だけに労働します。それ自体悪いことではありませんが、企業の経営理念やビジョンを従業員全体で共有することが非常に難しく、従業員の労働意欲や職業意識の低迷に影響しています。
労働に対するモチベーションが向上しない限り、労働生産性や企業価値を向上するような取り組みの効果は半減し、結果として企業自身も非正規雇用社員に対する期待が薄れ、社員と非正規雇用社員の中で格差が生まれていきます。
理由3. 中小企業経営が多く資金力に乏しいため、生産性向上が実現されない
飲食店を経営している企業のほとんどが中小企業です。その多くが資金力に乏しいことから、生産性向上に向けた投資をタイムリーに行うことが困難です。昨今では生産性向上のためにITツール活用が欠かせないとされていますが、十分な投資ができない場合は十分な生産性向上効果が得られません。
また、人材層が薄く柔軟な雇用形態を導入するための仕事量の調整や再配分も難しいため、人材不足が廃業に直結する可能性もあります。
理由4. 経営トップの業務改善意識が低く、現場のケアが不十分になる
飲食店における仕事は単純作業が多く、特別高度なスキルを必要としないため未経験者も歓迎しており、働く側としては「手が出しやすい職場」です。この事実から「代わりがきく仕事」という認識を持ってしまっている経営トップも多く、非正規雇用社員に対するケアが軽薄なりがちです。
離職率を下げることは人材の出入りを極力少なくし、労働生産性を最大化するのに欠かせない施策です。しかしながら、現場とのコミュニケーション不足により店舗組織の大半を占めている非正規雇用労働者にとってどんどん働きづらい環境を作ってしまっています。
理由5. やりがいを感じにくい職場が多く定着率向上につながらない
「やりがい」は労働に対するモチベーションを維持・向上するために欠かせない要素です。しかし、飲食店における仕事内容は単調かつクリエイティブ性も求められず。かつ言われ作業ばかりなのでどうしてもやりがいを感じられない人材が多いでしょう。
人材側からすれば働き口は他にもあり、かつやりがいを感じられるような仕事を求めるので離職率は高くなってしまいます。
理由6. 不安定な業界事情から将来性に不安を感じる人材が多い
飲食産業は不安定な業界であり、社会情勢の影響を直接的に受けやすいことも相まって将来性に不安を感じる人材が多いようです。TKCグループが出した2013年度の決算速報をもとに集計した調査では、全国の飲食店のうち純利益を創出している企業は約3割、残りの7割は赤字経営となっています。
実際に自分が働いている店舗が赤字続きでは不安を感じる人材も多く、安定を求めて他業種への転職を行います。
飲食店における従業員満足度のポイント
ポイント1. 「褒められる仕組み」を作る
最初のポイントは、従業員が上司や店長、マネージャーや時には経営トップから「褒められる仕組み」を作ることです。人間には承認欲求があり、自分の近しい人物から認められたいと考えています。しかし、多くの飲食店では従業員を褒めるための仕組みが完成していません。そのためには、ひとりひとりの行動を記録し、その情報を上層へと打ち上げて褒められる仕組みを作ることが大切です。そのために人材管理ツール等を導入するのもよいでしょう。
ポイント2. ITツール活用による効率化
昨今のITツールはクラウドサービスで利用すれば低価格であり費用を抑えられるものもあります。特に経理にかかわるITツールは重要であり、手間の多い経理業務を効率化することで経営者の手が経営以外のところにも回るようになります。経営トップがバックオフィス業務に集中してしまうと、現場の統制が取れなくなります。
ポイント3. 定期的なコミュニケーション
ITツール活用が促進すれば、経営者やマネージャーに時間の余裕が生まれて現場従業員と定期的なコミュニケーションを取ることが可能になります。企業の経営理念やビジョンを共有するためには積極的なコミュニケーションが大切であり、それに加えて現場の意見を反映されるような環境を構築すれば、従業員満足度を向上するきっかけになります。
ポイント4. クリエイティブ性を高める
飲食店におけるクリエイティブ性とは、「お客様とコミュニケーションを取る時間」です。従業員が仕事に対してやりがいを感じられる瞬間は、自分が接したお客様から「ありがとう」の言葉をいただいたり、笑顔を見たりしたときでしょう。そうしたクリエイティブ性を高めることで仕事に対するやりがいを感じやすくなり、やはりそのためには労働生産性向上に向けた取り組みやITツール活用を促進しなければいけません。
飲食産業が従業員満足度を高め、離職率低下を目指すためには「徹底した従業員目線」が大切です。職場環境を改善するにはどうすればよいか?現場とコミュニケーションを積極的に取るには何が必要か?などを考え、仮説検証を繰り返しながら各店舗における取り組みを促進していきましょう。そのためには飲食業界においてもデジタルトランスフォーメーションが必要不可欠であり、それらを活用して企業成長を実現しつつ、社員の満足度を高めてみてはいかがでしょうか?