さまざまな業界でビッグデータの活用が進む中、医療現場においてもデータ分析やデータ活用の重要度が増しています。そこで本記事では、医療データ分析がどのように活用されているのか、なぜ重要とされているのか、具体的な事例の紹介もまじえつつ解説していきます。
医療データ分析とは
医療データ分析とは、CTやレントゲンなど様々な手段で取得・蓄積した症例データを解析することです。医療データ分析はAI技術の発展に伴って活用が進んできました。
AIとは人間の知的な能力の一部を再現したコンピューターソフトウェアのことで、日本語では人工知能と訳されます。AIは当初限られた能力しか発揮できませんでしたが、「ディープラーニング」と呼ばれる新たな機械学習技術の開発によって、その性能を飛躍的に向上させました。人の手で膨大な医療用データを解析するのには非常に手間と時間がかかりますが、AIならばコンピューターならではの情報処理性能を活かして、より短時間で効率的に解析ができます。
AIによる医療データ分析の活用の場は幅広く、例えば臨床現場では画像診断技術などによる病気の発見や症状の見逃し防止などに役立てられています。また、ヒトゲノムの解析などの研究分野や治療薬を開発する製薬現場、あるいは日常の健康管理まで、あらゆるヘルスケア分野において医療データ分析は活用されています。医療データ分析を活用することで、適切な診療の実施や、患者の幸福度向上などが期待できます。
医療データ分析の重要性
医療データ分析はどのような事柄に役立つのでしょうか。続いては、医療データ分析の重要性を確認するため、どのような医療分野に医療データ分析が寄与するのかを見ていきます。
病気の早期発見をしやすくなる
医療データ分析の第一のメリットは、病気の早期発見がしやすくなることです。AIは人間の肉眼では見過ごしてしまいそうな極小の病変などを発見するのにも適しているので、画像診断などで高い効果を発揮します。それゆえ、CTやレントゲンなどの医療機器、あるいはスマートウォッチなどのウェアラブルデバイスを通して患者の生体データを取得・蓄積し、それらのデータをAIによる分析にかけることで、日頃の健康管理や病気の早期発見、あるいは予防医療などに役立てることができます。今後、少子高齢化社会が深刻化し、社会保障制度の維持が懸念視される中、病気が軽微なうちに早期発見し、迅速な回復を可能にする取り組みは非常に重要性を増してきています。
客観的な判断が可能
医療データ分析の利点の一つとしては客観的な判断が可能なことも挙げられます。人間の医師は個人の経験や資質などに応じて、その能力やスキルは各々ばらばらです。また、一人の医師に限定しても、疲労や体調不良などによって、パフォーマンスにある程度のムラが出るのは避けられません。その点、AIならば人間とは違い、常に一定のパフォーマンスを保って客観的な判断ができます。つまりAIは、医療現場における属人性の解消に役立つのです。こうした効果は医療の地域格差を是正し、どの地域に住んでいる人にも均一の医療サービスを提供できる未来にもつながっていきます。
患者の幸福度向上が期待できる
医療データ分析の活用は患者の幸福度向上にも寄与することが期待されます。先に述べた通り、日本はいま「人生100年時代」と言われるほどの超高齢化社会に直面しています。そして高齢者が快適に人生を過ごしていく上では、健康の維持が非常に重要です。その点、AIによる病気の早期発見や予防医療の提供は、健康寿命の延伸に寄与し、適度な就労や地域参加、趣味などを楽しめるようにすることで、患者や高齢者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ))ないしは幸福度向上につながります。
データが増えるほど正確な診断が可能
AIによるデータ分析では、CTやレントゲンなど医療データの母数が増えれば増えるほど正確な診断が可能になります。これはAIによる機械学習ないしはディープラーニングの特性です。近年は、スマートウォッチなどのウェアラブルデバイスなどに象徴されるように、IoT技術の発展によって様々な手段で医療ビッグデータの取得が可能になりました。病気や患者に関するデータが多くなれば、AIはそれらのデータから病気の兆候や、ある特定の病気にかかりやすい人のパターンなどを特定し、病気の診断や予防医療などの分析において高い精度を発揮することが期待できます。
医療コスト削減が可能
医療データ分析や医療用AIが発展することで、医療コストの削減も期待できます。将来的にAI診断の精度がより高くなってくれば、必ずしも医師が診察を担当する必要がなくなってくるため、診断の正確性を担保しつつ医療コスト削減を実現することができます。もちろん、現状ではAIは医師の補助的ツールに過ぎませんが、それでも先に挙げた画像診断技術の活用や、レセプト業務などの自動化ないしは効率化を通して、医師の負担を下げ、業務を円滑に回すことに寄与します。医療従事者の過酷な労働環境は日本の医療業界における積年の課題となっているため、AIによる業務サポートには大きな期待がかかっています。あるいは、病院の経営者層がデータ分析を活用することで、たとえば手術室の利用法を効率化したり、外来診療の待ち時間を短縮する策を練ったりと、病院経営の効率化や医療サービスの改善などに役立てることができます。
医療データ分析の活用・取り組み事例
医療データ分析の実際の活用例・取り組み事例としてはどのようなものが挙げられるでしょうか。以下では参考例として、大阪大学大学院と米国ゲノムセンターの取り組みについてご紹介します。
大阪大学大学院
大阪大学大学院は産学連携のクロスイノベーションイニシアティブにて日本生命保険の協力のもと、医療ビッグデータを活用した健康増進や健康寿命延伸の研究に取り組んでいます。双方の保有する医療ビッグデータを活用することで、予防医療や特効薬の開発などが期待できます。今後、超高齢化社会が深刻化していく日本において健康寿命の延伸は喫緊の課題であるため、同研究の価値は非常に大きなものです。また、医療現場においてAIの活用が進む中、医療従事者にもAIなどの基礎知識を身に付ける必要性は年々増しており、医学部の基礎教育にAI関連の科目を取り入れる案も浮上しています。医療データ分析の今後の普及発展において、大学が研究・教育の両面において担う役割は非常に大きなものと言えるでしょう。
米国ゲノムセンター
米国ゲノムセンターは医療データ分析をヒトゲノムの解析に活用しています。ヒトゲノムとは、人間の染色体を構成する約30億塩基対ものDNAのことです。ヒトゲノム解析とは要するに人間の遺伝子情報の構造を明らかにする研究で、これが進展すれば、遺伝子治療や、免疫性の疾患などの治療方法の発見などが期待できます。ヒトゲノム全体のDNA配列の解析は2003年に完了しましたが、従来の方法でこれを解析するには膨大な時間と労力が必要でした。しかし近年ではヒトゲノムのデータもAIを用いて解析できるようになり、大幅にコストを削減しながら精度の高い分析が可能になっています。ヒトゲノム解析は医療分野においてAIの恩恵を最も受けた領域のひとつと言えるでしょう。
まとめ
本記事では医療データ分析の概要やその活用例などについて解説しました。患者の生体データなど様々な医療ビッグデータをAIで分析することで、病気の早期発見や正確な診断の実施、医師の業務負担の軽減などが実現できます。AIの診断技術が向上し、さらに活用が進めば、医療の地域格差の是正など大きな社会問題の解決も期待できます。