新型コロナウイルス感染症の影響により、さまざまな産業が世界的に大きな打撃を受けています。コロナ禍が長期化する中で、コロナが小売業界に対してどのような影響を及ぼしたのかを紹介するとともに、そこで生まれてきた新潮流について詳しく解説します。
ワクチンの普及やテレワークの導入に伴うアフターコロナの世界が始まりつつある今、これからの小売業界に必要なものはいったい何なのか、実際に企業がどのようなことに取り組んでいるのかを見てみましょう。
小売業界におけるコロナの影響
まず、小売業界における新型コロナウイルス感染症の影響を解説します。国や地域を問わず、多くの産業に大打撃を与えた新型コロナウイルスですが、特に痛手を負わせたのは小売業界です。さまざまな産業の中でなぜ小売業界への影響が大きかったのかを見てみましょう。来客の減少が小売業全体を覆う
新型コロナウイルスの影響により、小売業界は店舗への来客が少なくなったことが大きな影響の一つとして挙げられます。
東京商工会議所の調査では、中堅・中小流通・サービス業の73.8%の割合で受注や来客が減少したという結果になっており、この影響で日本だけではなく世界的にも有名な企業の倒産が相次いでいます。
小売業界はインターネットでの対応も可能である一方、衣料品店や百貨店をはじめとする来店型・対面型の店舗をもつ企業も多く存在します。そのため、新型コロナウイルスによって外出を敬遠する人や、緊急事態宣言で不要不急の外出を余儀なくされた人が増え、店舗への来客も減ってしまったということです。
日本では、政府の支援策により小売業の倒産は減少に転じていますが、それでも多くの企業が影響を受けたことに変わりはありません。
生活必需品を扱う小売業は活況
一方で、小売業界の中でも活況なのが、生活必需品を扱う企業です。食品スーパーの多くは、長引くコロナ禍による巣ごもり需要で逆に業績を伸ばしました。レジャーや外食が難しくなったことや、学校の休校やテレワークの導入によって家にいる時間が大幅に増えたことが要因です。
また、マスクやアルコール消毒液をはじめ、新型コロナウイルス対策のグッズがそろう薬局・ドラッグストアにも特需が発生し、売上増になっています。
逆に、デパートといった百貨店、コンビニエンスストア、アパレルなどは売上が落ちたといいます。つまり、食品スーパーやドラッグストアなどの「生活必需品」か、衣料品やコスメなどの「不要不急」の店舗かで、くっきりと明暗が分かれた形だといえるでしょう。
特に、外に出ない時間が増えたことで、衣料品やコスメの売上は大きく落ち込んでいることがわかっています。
オンライン販売が伸長
コロナ禍の小売業界において注目すべきなのが、インターネットを利用した「オンライン販売」が伸長したことです。
アマゾンや楽天をはじめとするオンライン販売の大手は、コロナ禍の巣ごもり需要を受けて大きく業績を伸ばしました。これは大手ショッピングサイトだけではなく、ECサイト全体にいえる傾向だといいます。中堅・中小企業のインターネットサイトでも、13.3%でEC取り引きが増加しており、感染予防のために外出を控えたい人にとって大きな需要が生まれた形になりました。
コロナへの特別な対応が求められる
小売業界には、新型コロナウイルス感染症への特別な対応が求められるようになりました。
食品スーパーやコンビニエンスストアをはじめとする小売業の店舗には、直接顧客が集まり、店員と接触する形のため、コロナ禍では特別な対応が必要となりました。
どの企業でも店舗や従業員に対するコロナ感染対策を広く実施しており、店員や顧客へのマスク着用を義務化、消毒液を設置、レジに並ぶ際のソーシャルディスタンスを保つこと、セールをはじめとする広告(チラシ)の自粛などが挙げられます。
また、地域によって発令されているまん延防止等重点措置や緊急事態宣言下の影響により、業態によっては時短営業や休業を要請されることも増えています。小売業界にはこうしたイレギュラーな対応が求められており、各社が生き残りをかけてさまざまなコロナ対策を講じているところです。
コロナ禍の長期化で生まれた小売業の新潮流
ここからは、コロナ禍の長期化によって生まれた「小売業の新潮流」について解説していきます。さまざまな制約のもと苦境を強いられている小売業界ですが、各社はコロナ禍を乗り越えていくために多くの取り組みを行っています。業界の再編が進行
コロナ禍による顧客ニーズの変化を受け、多くの企業が思い切った改革を進めており、業界の再編が進行しています。
家具や雑貨を取り扱うインテリア小売業大手のニトリは、ホームセンターの島忠を子会社化し、複合店をオープンさせることを決定しています。また、ドラッグストア大手のマツモトキヨシとココカラファインは経営統合し、「マツキヨココカラ&カンパニー」を誕生させるなど、小売業の再編と寡占化の進行が目立ちました。
さらに、小売業の中でも売上が落ち込むコンビニエンスストアは、日本ではなく海外に活路を求めたり、異業種とタッグを組んだりするなど、新たな方法で道を切り開いています。
コロナによってどの小売業においても、従来の事業モデルからの脱却を迫られているのが背景にあるといえるでしょう。
ニューノーマルへの対応
小売業界がコロナ禍を生き延び、新たな時代を作るために必要なのが、「ニューノーマルへの対応」です。
長引く新型コロナウイルスとの生活ですが、この事態を「新しい日常」として捉え直す流れが生まれ始めています。緊急事態宣言が各地域で長引くこと、まん延防止重点措置をはじめさまざまなルールが登場していることなど、新型コロナウイルス発生以前の生活に完全に戻ることは難しいでしょう。
そのため、各小売業では生き残りをかけて需要の高いECサイトやデリバリーへの本格的対応を模索しています。特にその傾向が強いのが、「不要不急」とされた小売業です。衣料品や雑貨、コスメをはじめとした小売業は、多くの費用がかかる従来の店舗を抱えるのではなく、インターネットを通じたECサイトにシフトするといった、新しいライフスタイルを提案して適応を図る必要があります。
ICT活用の増加と深化
こうした波の中で必要とされるのが、ICTの活用です。
ICT活用の増加と深化は著しく、小売業の実に48.7%の割合でデジタル化・ICT活用が増加していることがわかっています。在庫の管理や販売など、細かなデータの管理を必要とする小売業界では、ICTを用いた業務効率化を図ることが急務になっており、この動きは新型コロナウイルスの影響によってさらに加速化しているといえるでしょう。
また、在庫管理や販売だけでなく、商品の受発注や販路開拓、イベント開催などにもICTが積極的に活用されており、その幅はさらに広がりつつあります。
ウィズコロナ、アフターコロナでは、さらにICTを活用して顧客と店員同士の密の回避や、ECの実現などが求められています。
ワクチン接種が進んだ国では小売全体が回復
新型コロナウイルスの突破口といわれているのが、ワクチン接種です。日常生活を取り戻すために多くの国でワクチン接種が進んでいますが、ワクチン接種が進んだ国ではすでに小売業全体が回復していることがわかっています。
アメリカでは、バイデン政権下でコロナ対応が進められており、現金給付や経済再開が進んだことで、小売売上高が過去最高になったことも話題になりました。
小売業界にとって大きな希望となるニュースである一方、ワクチンで出遅れた日本が回復軌道に乗るにはまだ時間がかかると考えられます。また、日本ではワクチン接種率の問題だけではなく、ECやテレワークへの移行が一時的なものか恒久的な変化となるのかという点や、東京オリンピックの開催などさまざまな点で議論が進められています。
まとめ
新型コロナウイルスの影響が長引く中、売上低下に耐え忍んでいる小売業界は新たな対応策を求められています。長期化するコロナ禍の下で、小売業にもICT活用をはじめとするDX(デジタルトランスフォーメーション)化が重要となってきており、来るウィズコロナやアフターコロナの時代に合わせ、各社でデジタル化に取り組む必要があります。
活用できるサービスやツールは急増しているため、導入が難しいと考えている企業もまずはサービス利用の検討・相談から始めることをおすすめします。