超高速なモバイル通信技術「5G」の登場で、私たちの生活は大きく変化すると言われています。「テレビは終わる」というショッキングな言葉もささやかれるようになってきました。この記事では、5Gの特徴を振り返ると共に、5Gが普及することでテレビ業界が実際にどう変わっていくのか、解説します。
5G(第5世代移動通信システム)の特徴
移動中も、安定したインターネット接続を可能にしてくれる、モバイル用通信システム。今や、私たちの生活になくてはならないインフラの1つとなりましたが、その発展は止むことなく、日進月歩の勢いで続いています。
その発展の最先端として、今注目されている「5G」(第5世代移動通信システム)ですが、この「G」とは「Generation(=世代)」のことです。つまりモバイル用インターネット環境が、第1世代(80年代前半~90年代初頭)から4回の世代交代を遂げてきた末に、この「5G」に至ったのです。
現在最も普及している移動通信システムは4Gですが、4Gと比べ5Gは飛躍的に進化しており、日常を大きく変えると期待されています。その5Gの特徴としてよく挙げられるキーワードが「超高速・大容量」「超低遅延・超高信頼」「多数同時接続」です。これらキーワードを基に、4Gとの比較を交え、まずは「5Gとは何か?」を説明していきます。
超高速・大容量
今日私たちが使っている4Gの通信速度は、最大1Gbps程度ですが、5Gになると、理論上最大20Gbpsまで高速化すると言われています。単純計算で、最大通信速度が約20倍になります。
この高速通信により、2時間の映画も数秒でダウンロードできるようになります。それだけでなく、「VR(仮想現実)」や、3D映像を好きな視点でみることができる「マルチアングル視聴」といった、臨場感あふれる映像サービスも普及可能になる、と期待されています。
超低遅延・超高信頼
4Gでは10ms(1/100秒)ほどの通信遅延が生じるところ、5Gでは1ms(1/1,000秒)以下の遅延に収まる、と言われています。この超低遅延による信頼性の高い通信は、誤差を許さない精確な遠隔作業を、各所で実現可能にすると予想されます。
例えば車の自動運転システムは、様々な情報をリアルタイムで処理する必要がありますが、一般道でこれを実現していくためには、遅延のない5G環境の整備が必要です。また医療の世界でも、精密な遠隔治療・遠隔手術が、5Gによって広く可能になると期待されています。
多数同時接続
1平方km内で同時に接続できる機器数は、現在の4Gでは10万台ですが、5Gではその10倍の100万台になる、と言われています。そのため、通信機器に加え、家電や各種センサーなど様々な機器(モノ)までがオンラインになり、相互に情報をやり取りし合って働くことが可能となります。この状況は特に「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)と呼ばれています。
「IoT」では、外出先からエアコンを操作する、お風呂を湯張りする、といった家電の遠隔操作は当たり前になります。それだけでなく、朝起きると自動的に部屋のカーテンが開き、温かいコーヒーがマグカップに注がれる、といったことも、センサー類の発達により日常化するかもしれません。このように多くの一般家庭でも、様々なモノを相関的に作動させることが、5Gによって可能になると推測されています。
5Gの到来によりテレビ業界はどのように変わるのか?
前述のVRやマルチアングル視聴など、新しく多様な映像技術が、5Gにより普及すると期待されています。その変化の波を前にして、テレビ業界はまさに転換期を迎えています。
その転換のポイントとなるのは「インターネットとの共存」です。この点を考えるためにまず、ネットの動画配信サービスと比較して、テレビ業界の現状を確認しておきましょう。
4K・8Kに対応していくネット配信
フルハイビジョンの4倍の画素数を誇る4K。ネットの動画配信では現在、この4Kに対応するサービスが広まってきています。さらに5Gが普及すれば、4Kはもちろん、4Kの4倍の画素数を誇る8Kに対応した配信サービスまで、一般に行き渡ると予想されています。
一方のテレビ業界は、衛星放送こそ4Kに対応しているものの、地上デジタル放送は2Kの画質に留まっています。そして地上デジタル放送は今後も、4K以上に対応する予定はありません。
その主な理由の1つは、地上波では娯楽だけでなく災害情報やニュースを届ける必要があるためです。つまり地上波を4K放送へ切り替えてしまうと、命に関わるような緊急性の高い放送までも、4Kテレビのない多くの家庭で視聴できなくなってしまうのです。これを解決するには、一般家庭側に、4Kテレビや受信機を買ってもらうなどの準備をお願いしなくてはなりません。
ただでさえ若者を中心にテレビ離れが進んでいると言われる今日。地上波は画質の面でも動画配信サービスに大きな後れを取ることになっています。これが、昨今「5Gの登場でテレビが終わる」と言われる所以です。
ネット配信へ活路を見出すテレビ業界
そんな中でテレビ業界には、インターネットでの動画配信事業へ積極的に参入する動きが出てきました。テレビ朝日が、サイバーエージェントと組み、オンラインでテレビ番組などを視聴できる「Abeam TV」を開局する一方で、日本テレビが動画配信サービス「Hulu」を買収し、自社のコンテンツを配信しています。さらにNHKでは、テレビ番組をインターネット上で同時配信する「NHKプラス」を2020年4月に開始しました。
日本のテレビコンテンツの海外輸出
そして、国内テレビコンテンツの海外輸出も非常に活発化してきています。アニメを中心とした日本のテレビコンテンツは、海外での需要も高まっているのです。
総務省がまとめた「放送コンテンツの海外展開に関する現状分析(2018年度)(※)」によれば、2018年度の「放送コンテンツ海外輸出額」は519.4億円で、2013年度の137.8億円の約4倍にも上っています。さらに、2018年度の輸出額構成を見てみると「インターネット配信権」が実に全体の33,5%(173.9億円)を占めていることがわかります。
5Gが本格的に到来しつつある中、インターネットを通じて、国内外に自社コンテンツを提供できるような環境作りに、テレビ業界は注力し続けているのです。
「ローカル5G」事業の動きにも今後注目
全国に広がっていく5G環境と比較して、「ローカル5G」にも注目してみましょう。ローカル5Gとは、特定の地域や施設内のみに利用を限定された、5G通信サービスを指します。
ローカル5Gの使用免許を取得すれば、専用の周波数帯を自営のネットワーク構築に利用できるようになります。実際に、東芝やNEC、富士通、パナソニックといった国内の電機メーカーが次々と、ローカル5Gによる「スマート工場」サービス事業への参入を、表明しています。こうした、大手通信会社以外の多くの業者が、独自にローカル5G事業を開始してくることが、今後ますます期待されます。
テレビ業界のローカル5G
そしてテレビ業界では、ケーブルテレビ各社が、より高画質な映像配信用のインフラとして、ローカル5Gの導入を進めています。
従来のケーブルテレビでは、電柱を通じて契約者宅まで有線のネットワークを引き込んでいました。この際、住居によっては、壁に穴を開ける必要すらありました。
ローカル5Gによりネットワークを無線化すれば、上記の様な工事が要らなくなり、膨大なコストカットが見込め、さらに解約時の撤去作業も大幅に簡略化されます。もちろん、契約する家庭側にとっても、これは大きなメリットです。
まとめ
5Gの普及が私たちの生活を変えていくのを前に、テレビ業界もインターネットとの共存や融合へ向けて、変化し続けています。番組のネット配信や、自社コンテンツの海外輸出などの新しい可能性に向けて、これまで培ったノウハウを活かすため着実に邁進しているのです。