最近話題となっているESG投資、ESG経営についての解説記事です。ESG投資の概要と7つの種類をはじめ、SDGsやCSRとの関係、ESG経営の課題などについても説明しています。また、企業におけるESG投資や経営の事例も紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
ESGとは?
そもそもESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」のそれぞれ頭文字をとった言葉で、企業が長きにわたり持続的に成長していくため、そして投資家から投資先として選ばれるために必要な観点であるとされています。
上記3つの観点における具体的な代表的な取り組みとしては、以下のようなものがあります。
環境
- 二酸化炭素(CO2)排出量の削減
- 再生可能エネルギーの活用
- 事業における廃棄物削減
- 海洋マイクロプラスチック対策 など
社会
- 人権問題への配慮
- ダイバーシティやワークライフバランス推進
- プライバシー保護 など
ガバナンス(企業統治)
- 女性管理者の積極登用
- コンプライアンス遵守
- 情報開示の明確化
- 資本の効率化に対するモチベーション など
特に、ガバナンスは企業経営の透明性を高め、経営基盤を強固なものとし、長期的に成長させるために必要不可欠とされています。環境・社会についても投資家から高い評価が得られる重要な観点となるため、多くの企業がESGに対して取り組みを行っているのです。
海外で市場成長しているESG投資とは?
投資の世界においては長らく、企業の環境保護や労働環境改善といった非財務的観点からみた取り組みを評価して、投資してもリターンが得られにくいというのが通説でした。
しかし、利益のみを追求する企業が増えたことで、環境や社会に悪影響が及ぼされるケースも散見されるようになりました。
そこで2006年、当時の国連事務総長、コフィー・アナン氏が投資家の取るべき行動として提唱した「PRI(責任投資原則)」の中で、ESGの観点を持つことの重要性を謳い、大きな変化が起きたと言われています。
世界中にESGの認知が広まり、これまでの売上高や利益といった財務情報のみを重視するのではなく、ESGの3つの観点から投資対象を選択する方法である「ESG投資」が誕生したのです。
2018年には、全世界でのESG投資額は約3,100兆円で、全投資額の3分の1を占めています。2012年からの5年間で約3倍になったことからも、ESG投資市場は驚くほど急速に伸びてきていることが分かります。
日本においては2015年、「世界最大の年金基金」と評される年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名を行い、2017年にはESG投資の本格運用が始まったことで、投資額が前年比約45%増加しました。日本政府も2014年に金融庁から「“責任ある機関投資家”の諸原則」、また翌年には東京証券取引所から「コーポレート・ガバナンスコード」が公表されるなど、国としてESG投資を進めています。
ESG経営の概要
このように投資家から高い評価を得られるESGの観点を取り入れた経営のことを「ESG経営」と呼びます。投資家から選ばれる企業になると、将来的なキャッシュフローが増加したり、高度なリスク管理ができたり、企業イメージの向上につながったりといったメリットが享受されるとして重要視する企業が増えています。このような傾向に至った背景には、どのようなものがあるのでしょうか。
1つには、投資額の増加が挙げられます。前述のとおり、ESG投資は全世界における投資額の約3分の1を占めるようになり、日本国内だけみても加速度的に投資額が伸長していることを鑑みると、今後もその額は増え続け、もはや投資家に選ばれるためにはESG経営が必須になりつつあると言えるでしょう。
また、ESG経営を行うことによって、投資家以外にも、自社を取り巻く利害関係者、つまりステークホルダーにアピールできるようになったとことも考えられます。たとえば、減農薬や地産地消などを好む顧客層や、労働環境の見直しを望む従業員などが挙げられます。新たな嗜好の顧客層を取り込むことができたり、労働環境が良くなった結果として生産性やパフォーマンスが向上したりする可能性が高まります。加えて、生産体制の見直しにより、地域や業種の枠を超えて、取引先を新規開拓できる可能性が高まることも考えられます。
では、ESG経営を目指すために企業がすべきことは何でしょうか。まず、自社と利害関係にある人々が、自社に対して期待していることについて正しく把握することです。相手が求めることから外れたことに取り組んでしまわないように「何を求められているのか」をしっかりと見極めることが大切です。
また前述のとおり、ESGの3つの観点のうち、ガバナンスは企業統治について透明性の高い経営体制や情報開示、ダイバーシティへの取り組みなどがあります。これらは企業経営の問題に直結する取り組みが多いため、ESG経営にとってガバナンスの要素は外せないものと言えます。
ESGとSDGsの関係性について
近年、メディアなどでもSDGs(Sustainable Development Goals)という言葉をよく耳にするようになりました。これはESGと非常に近しい関係にあります。
SDGsとは、2015年の国連サミットで採択された「2030年までに、持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現する」ために掲げられた目標で、日本では「持続可能な開発目標」と呼ばれています。貧困や飢餓、気候変動、水、エネルギー、教育など17つの項目に分かれ、将来にわたり世界が抱える課題にどのようにアプローチするかを考える際に、大切な指標となります。
ESGは、企業がステークホルダーに対し責任を果たしていくことが求められています。一方SDGsは、企業という枠組みを超えて、国や自治体も含めた幅広い対象に対し、世界における持続可能な目標を達成することを目的としています。
つまり根底にあるにある趣旨は似ていますが、よりSDGsの方が広域に及ぶ上位目標であり、企業はESG経営を推す進めることで、結果的としてSDGsの数々の目標を達成できると考えられます。
ESG投資の種類とは
では、ここからは投資家がどのようにESG投資を行うのかについて紹介します。主に7種類あります。
ネガティブ・スクリーニング型
「ネガティブ・スクリーニング型」とは、1920年に米国で誕生した最古の考え方で、武器やタバコ、アルコールなど特定の業界を除いて投資する方法です。これまでは、倫理的か否かで業界を特定することが多くありましたが、最近は「環境破壊」といった定義での特定することも増えています。
ポジティブ・スクリーニング型
ネガティブ・スクリーニング型と相反する考え方が「ポジティブ・スクリーニング型」です。1990年代に欧州で誕生し、ESGに対して積極的な取り組みを行っていると評価される企業を選定して投資する方法です。このコンセプトの根底には、「ESG経営を行っている企業は安定して長期的な成長が見込める」という考え方が存在しています。環境や人権、ダイバーシティなどの項目で定めた基準をスコア化する「ESG評価」が使われています。
ESGインテグレーション型
3つ目は「ESGインテグレーション型」です。ESG投資全体ではネガティブ・スクリーニングに次いで大きな規模となっている注目の方法です。売上高や利益といった財務情報を、ESG情報とともに総合的に勘案し投資対象を選びます。比較的リスクが少なく穏やかな方法であり、特に長期投資に向いているとされ、人気を集めています。なお、財務情報とESG情報のそれぞれを、どれだけ重視して投資を行うかは各投資家が決めることができ、自由度が高いこともメリットと言えるでしょう。
インパクト投資型
「インパクト投資型」とは、環境や社会に大きな影響を与えている企業に対して投資を行う方法です。大手ではなく、比較的小規模、非上場企業であるケースが多いことが特徴です。指標がコミュニティとなる「コミュニティ投資型」もインパクト投資の1つに分類されます。インパクト投資型には、財務情報よりもESG情報を重視するパターンと、両方の情報を追求するパターンがあり、投資家の意向によって選択可能です。
サステナビリティ・テーマ投資型
「サステナビリティ・テーマ投資型」は、日本において比較的古くからある方法です。持続可能な社会を実現するために選んだテーマについて、どのくらい積極的に取り組んでいるかを見て、投資する企業やファンドを選定します。代表的なものに、「エコファンド」「水ファンド」「再生可能エネルギー投資ファンド」などがあります。
規範に基づくスクリーニング型
前述の「ネガティブ・スクリーニング型」は、ある特定の業界を排除する方法でした。一方、2000年代に北欧で誕生した「規範に基づくスクリーニング型」はESGについての国際規範をもとに、基準に満たない企業があればその業界ごと排除する方法として差別化しています。国際規範の例としては「児童労働」「強制労働」、そして「環境破壊」などがあり、どの規範を採用するかは投資家自身の判断に委ねられています。最近では規範ごとにスコアリングを行い、スコアの低い対象を外すといった方法も取られるようになりました。
エンゲージメント・議決権行使型
ここまで紹介した投資方法は「どのように投資対象を選ぶか」という視点でした。一方「エンゲージメント・議決権行使型」は一線を画しており、株主の立場から企業に対し、ESG経営について意見を伝えられます。最近では、議決行使権はエンゲージメントよりも強力だと捉えられ、株主総会の場で議決権を行使することは株主としての必要な責務として認知されてきているのです。
ESGとCSRとの違いとは
CSR(Corporate Social Responsibility)とESGの相違点についても解説します。まず、CSRは「企業における社会的責任」を意味する言葉です。企業は営利のみを追求するのではなく、たとえば雇用では人権やプライバシーに配慮をしたり、顧客に対し真摯な対応を行ったり、自然環境保全に努めたりすることを経営に組み込んでいくことを指します。しかしこれらはあくまでも「企業側の視点」によるものです。
一方、ESRはこれまで紹介してきたように、「投資家側の目線」による経営の観点であり、同じような意味合いでも、両者の視点が違うことを認識し、正しく使い分けることが必要です。
ESGの課題
ESG経営に取り組む企業が増えています。今後、自社もESG経営を進めていくのであれば、取り組む際の課題についてもあらかじめ理解しておく必要があります。たとえば以下のような課題があります。
短期で成果が出にくい
財務的な情報ではなく、将来に向かって企業価値が高まるかどうかを注視するのがESGである以上、成果に結びつくまでは、長い目で見ていく必要があります。SDGsも同様ですが、ESGの地道な取り組みによって短期での成果がすぐに出るわけではないことを認識した上で、長期的資産形成といった視点で投資対象を選ぶことになります。
基準が分かりにくい
そもそもESGの正しい定義がなかったり、複数の調査会社が提供している情報をもとに、各国の団体や企業が基準を作っていたりするため、投資家にとってみると、成果の分析・比較がしにくいという問題があります。
たとえば、米国では「MSCI指数」という指標が使われています。これは、CO2の排出抑制や雇用する労働者の安全衛生といった課題を設定し、リスクが発生した場合に財務にインパクトがあるかどうかによって複数選択して評価されています。
日本では「ESGテラスト」という指標が登場しました。これはESG経営を行う企業の株価や収益を見える化できるというもので、開発が進められています。
このように、ESGの取り組みを評価するのに基準が乱立しつつあることから、投資家の主観的な意向に頼るところが大きく、客観的な分析がしにくくなっているのが現状です。
ESG投資・経営の事例
ここからは、ESG投資やESG経営を行っている日本企業の実例について見ていきましょう。
オムロン
大手電気機器を扱うオムロンは「企業は社会の公器である」という基本的な考えのもと、サステナビリティの方針を定め、積極的に実践している企業です。同社のホームページには、下記のような主要ESGに関するデータが年度ごとに開示されています。分析や評価を行う際には参考にできるでしょう。
環境面
- 温室効果ガスの排出削減
- 水銀削減への貢献
- 化学物質の管理
- 廃棄物の削減
- 水使用量
- 商品リサイクル・リユース
- ISO14001認証取得状況 など
社会面
- 海外重要ポジションに占める現地化比率
- 障がい者雇用率
- 育児休職率
- 労働災害による死亡者数
- 従業員エンゲージメント率 など
この他、「ステークホルダーエンゲージメント」として社会貢献活動支出額などを、「ガバナンス」ではコンプライアンスのリスクマネジメントとして、内部通報や相談件数などが公表されています。
カネカ
「カガクでネガイをカナエル会社」というフレーズでおなじみのカネカは、世界中に拠点を構える化学メーカーです。カネカグループとして2018年に「ESG憲章」を制定しました。ESG経営を進めるにあたり、企業理念実現のため、社員一人ひとりの行動方針を示しています。
具体例を挙げると、「化学素材の無限の可能性を引き出し、持続可能型社会を支え、地球環境と生活の革新に貢献」することや、「それぞれの国や地域の文化・慣習を理解して、地域に根ざした企業活動を行い、積極的に社会へ貢献」することなど全7項目が設定されています。
これらを実現するために、社内にESG委員会を設置し取り組みを推進しています。また、2019年にはESG推進会議も新設し、具体的な施策の検討も進めています。
SOMPOホールディングス
保険大手のSOMPOホールディングスは、グループ全体における複数の課題を下記のように設定した上で、ホームページ上にてESGの取り組みについて全情報を開示しています。
- 気候アクション
- ダイバーシティ&インクルージョン
- 新型コロナウイルス感染症に対する対応 など
環境面では温室効果ガス排出量の抑制に取り組み、「直接排出」や「エネルギー起源の間接排出」、「輸送・配送」、「事業活動で発生する廃棄物」、「従業員の通勤」などの項目ごとに算定を行い、年度ごとの実績を公表しています。
また、社会面では「女性管理職比率」や「障がい者雇用率」、「育児休業取得者数」「在宅勤務制度の利用者数」、「労働災害発生度数率」、「時間外労働比率」など、細分化された項目の実績が確認できるようになっています。
このように、全世界へESGの取り組みを明示することで、さらなるESG経営の進化を目指し、企業価値を高めている事例と言えるでしょう。
まとめ
投資先の新しい選定基準として生まれたESGは、今や企業活動にとって無視できない重要な要素です。ESGを意識した経営を行うことにより、長期的に企業価値を高められるなど多くのメリットがあります。今回ご紹介した事例も参考にしながら、ESGの3つの観点から、自社に合った取り組みを検討してみてください。