ビジネスの世界に身を置いている方であれば、一度は「サプライチェーン」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。ビジネスを考える上で、商品やサービスが供給側(企業)から需要側(消費者)に届くまでの流れを押さえておくことが重要です。
小売業「サプライチェーン」の基礎知識
消費者が毎日の生活で消費・使用している食料や電化製品、自動車、衣服などは、消費者の手に届くまでにさまざまな過程を経ています。こうした一連の流れを考える上で不可欠なのが、サプライチェーンという考え方です。
サプライチェーンとは
サプライチェーンとは、経済市場において原材料の仕入れや加工を経て最終消費者に届くまでの供給(サプライ)の一連の流れを指す言葉です。日本語では供給連鎖とも呼ばれています。
サプライチェーンは、企業から最終消費者に提供される商品(いわゆる「モノ」)の流れに着目している点が特徴です。サプライチェーンを把握するには、最終製品を扱っている企業だけでなく、材料の仕入れや流通といった垂直方向の流れを対象にするため、必然的に多くの企業に着目することになります。
例えば、ハンバーガーが最終消費者に届くまでの供給の流れについてみてみると、牛を育てる畜産家が牛肉を卸売業者に供給し、卸売業者はその牛肉を仲卸業者に供給します。次に、仲卸業者はハンバーガーショップに牛肉を供給し、ハンバーガーショップはそれを調理して最終消費者に供給します。これが、一般的な供給連鎖、すなわちサプライチェーンです。
なお、モノの供給は必ずしもひとつの業者からひとつの業者に対して行われるというわけではありません。上記の例でいえば、ひとつの畜産家が複数の卸売業者に供給するというケースや、ひとつのハンバーガーショップが複数の仲卸業者から供給を受けるというケースもあります。すなわち、サプライチェーンは企業と最終消費者をつなぐたったひとつの鎖ではなく、複数の企業と複数の消費者を結ぶ形です。
3つのサプライチェーン
ひと口にサプライチェーンといっても、その流れは3つに大別することができます。それぞれ、「購買物流」「製造」「出荷物流」です。サプライチェーンの概念をより詳細に把握するためには、この3つを押さえておくことが大切です。
購買物流
原材料を調達し、製造工程に送るまでの過程を指します。上述したハンバーガーの例では、「畜産家、卸売業者、仲卸業者、ハンバーガーショップ」の流れが当てはまります。
製造
原材料を製品に加工する過程を指します。例えば、ハンバーガーショップがハンバーガーを調理する過程が当てはまります。
出荷物流
加工された製品が最終消費者に提供される過程です。ハンバーガーが顧客に提供される過程が当てはまります。ネット通販企業の場合では、ネット上の注文が完了し、商品を注文者に発送した段階が当てはまります。
バリューチェーンとの違い
バリューチェーンとは、商品やサービスに付加価値が生じる過程を指す言葉です。ひとつの企業が行う活動が、どのように商品の付加価値を生み出していくかについて表されます。最終的な価値を生み出すためにかかった費用と、最終的な利益の総計が、総合的な価値として算出されます。
サプライチェーンというときは、供給プロセスの中で複数の企業に着目している一方、バリューチェーンはひとつの企業の中で価値が付加されている流れに着目するのが一般的です。
サプライチェーンとバリューチェーンの違いをまとめると、以下のようになります。
▼サプライチェーン
- 供給の流れを表す
- 製品の流れに着目した考え方
- 複数の企業で構成される一連の流れ
▼バリューチェーン
- 価値の流れを表す
- 付加価値の生じ方に着目した考え方
- ひとつの企業内での流れ
サプライチェーンマネジメント(SCM)の仕組み
サプライチェーンの概念を押さえておく上で、併せて押さえておきたいのは「サプライチェーンマネジメント(Supply Chain Management)」という考え方です。これは、企業が最終消費者に商品を提供するまでの全体の流れを効率的に管理する手法を指します。別名「供給連鎖管理」とも呼ばれます。サプライチェーンマネジメントの考え方は1982年に提唱され、90年代になって大きく発展しました。
サプライチェーンを考える上で重要なのは、製品が流れる過程だけでなく、その過程に関する情報です。この「過程」と「情報」を適切に管理し、企業活動の最適化を図ることこそが、サプライチェーンマネジメントの目的であり本質といえます。
具体的な例を挙げると、企業は全体最適を実現するために、製品の原材料の仕入れから最終消費者へ販売する流れの中で非効率をみつけたり、仕入れや在庫、そして販売の管理にいたるまで、あらゆる過程・部門の情報を把握し連携させたりする必要があります。また、それ以外にも仕入れや販売の計画、さらにはマーケティング戦略なども取り入れて考えなければならないケースもあるでしょう。これらを実現するのが、サプライチェーンマネジメントです。
サプライチェーンマネジメントは2000年頃に大きな注目を集め、近年になって再び注目されるようになりました。その要因としては、企業のグローバル化が加速したことや、労働環境の変化、さらにはビジネスモデルの変化などが挙げられます。
ますます広がる経済のグローバル化によって、企業は調達・生産・販売に関するネットワークを拡大しています。これにより、それぞれの工程の管理や情報を一元化しなければ競合他社に後れをとるビジネス環境です。こうした背景が、サプライチェーンマネジメントの考え方を再び注目させる要因になっています。また、特に日本国内では小売業界や物流業界などをはじめとして、労働人口の減少が深刻化。それゆえ、各工程でムダを省く必要に迫られています。さらに、インターネットが爆発的に普及しECサイトが拡充したことで、いっそう総合的な管理体制が求められるようになっている点も背景として挙げられます。
SCMを導入するメリットとデメリット
サプライチェーンマネジメントがもたらすメリットは、いったいどのようなものなのでしょうか。具体的には、「時間の短縮」「在庫の適正管理」「売上の拡大」などが挙げられます。
時間の短縮
サプライチェーンマネジメントにより、作業の開始から終了までの時間(いわゆるリードタイム)を短縮させることが可能です。原材料の仕入れから商品の提供に至るまでには、さまざまなリードタイムが発生します。例えば、仕入れ、製造、販売などにはそれぞれリードタイムが生じます。サプライチェーンマネジメントによって各工程の流れや情報を把握して最適化を図ることで、各工程の非効率を改善し、ムダな時間を削減することが可能になるでしょう。
在庫の適正管理
製品を製造し、適切に提供していくにあたり、原材料や完成品の在庫の管理は不可欠です。在庫が過剰であれば管理のコストが増加し、企業が保有するキャッシュ(現金)も減少します。また、在庫が過少であれば販売機会を逃してしまい、いわゆる機会損失を生じさせてしまう可能性もあります。
売上の拡大
サプライチェーンマネジメントによってリードタイムを短縮し、在庫の適正管理が実現されると、生産性が向上してキャッシュフローが改善されます。これによって企業は時間と資金を新たな原資として投資に用いることができるようになるため、自ずと売上も拡大していく傾向に向かいます。
以上がサプライチェーンマネジメントの主なメリットです。それでは、サプライチェーンマネジメントにデメリットはないのでしょうか。デメリットを挙げるとすれば、システムの導入によって効率化を意識するあまり、販売戦略の視野が広がりにくいといった点があります。効率化ばかりを求めると、消費者の潜在的な需要を把握し損なってしまい、結果的に機会損失や逸失利益を生み出してしまう可能性があるので注意が必要です。
もう一点のデメリットとして挙げられるのが、ソリューションシステムの導入に関するコストです。サプライチェーンマネジメントを実行するためには、システムを導入することが一般的です。従来のソリューションシステムは高価なものも多く、これが理由となってシステムの導入に踏み切れなかった企業もあるかもしれません。しかし近年ではクラウドシステムの発達もあり、一昔前に比べると安価に導入できるようになりつつあります。
小売業者がサプライチェーンを見直すヒント
小売業者にとって、小さな改善を積み重ねて売上や利益を高めていくことは最重要課題のひとつといえます。そのために、サプライチェーンを見直すことは非常に効果的です。それでは、自社を取り巻くサプライチェーンを見直し、売上や利益を高めていくためには具体的にどのような取り組みを行えばよいのでしょうか。取り組みのひとつとして挙げられるのが、ITを活用したサプライチェーンマネジメントです。現在では小売業向けのクラウドシステムも充実しており、費用対効果を高く改善効果を得ることが期待できます。
昨今の主流のひとつともいえるのが、クラウドシステムによるERPソリューションです。ERPは「Enterprise Resource Planning」の略で、統合基幹情報システムを指します。企業の経営に欠かせない基幹業務システムをオールインワンで提供するソリューションで、これによってサプライチェーンマネジメントに不可欠な購買管理や倉庫・在庫管理、販売管理などを実施できます。
それでは、これからサプライチェーンを見直す場合にどのようなことが必要なのでしょうか。サプライチェーンマネジメントを実現する上で重要なのは、仕入れから加工・製造・販売にいたるまでの各工程に関する情報の一元管理です。そこで、まずは各部門の情報がどのように生じ、関連部署に伝達されていくのかについて把握し、見直す必要があります。現場レベルの情報のやりとりにとどまらず、経営陣のレベルでやりとりできる環境作りも大切でしょう。
また、ソリューションシステムの導入にあたっては、意思決定者や決裁者を明確にしておく必要があります。どのような優れたシステムであっても、それを導入するまでに大きな障壁があればサプライチェーンの最適化は実現できません。円滑にシステムを導入できるよう、関連する担当者に必要なアクションをとっておくことが重要です。
まとめ
競合の多い小売業界が市場で優位に立つためには、サプライチェーンの効率化が極めて重要です。原材料の購買・仕入れから加工・製造、物流と販売に至る各工程を効率化していくためには、ソリューションシステムを導入することが効果的です。