現代の企業活動においては、単純に利潤のみを追求するのではなく、さまざまな社会的責任を果たすCSR活動が求められるようになってきています。この記事では、CSRの意義や背景、サステナビリティやSDGsとの関係について解説します。また、CSRとして考えられる主な活動内容や、実践する際のメリット、デメリットについてもご紹介します。
CSRとは
企業は従来、利益を追求するために事業を行う営利組織とされてきました。しかし近年、CSRという概念が浸透し、企業の姿勢や取り組みのあり方が問われ始めてきています。
CSRとは、「Corporate Social Responsibility」の略で、日本では「企業の社会的責任」と訳されます。「社会的責任」とは、自社の利益のみならず、従業員や顧客、投資家、地域などといったステークホルダーとの関係から、その企業を取り巻く社会的な要素までを包括した上で、負うべき責任について示すものです。
CSRの重要性
では、CSRという概念が生まれてきたのは、どういった背景があったのでしょうか。
もともと、欧米では社会と企業は密接な関係があると捉えられており、社会の発展のために企業は責任を負っているという考え方が根付いていました。まさにCSRの基本的な概念といえるでしょう。一方、日本では1970年頃からの公害問題や、企業による食品偽装などの不祥事が相次いだことなどで、企業の責任が社会的に問われるようになってきました。そうした問題は利益のみを追求した結果であるとして、世間からは厳しい目が向けられるようになったのです。そこで、各企業は信頼獲得のため、環境問題や消費者の健康増進といった社会的な取り組みが重要であると認識するようになっていきました。
また、昨今CSRとあわせて語られることの多い用語として「サステナビリティ」がありますが、両者には明確な違いがあります。CSRは企業目線であり、良いサービスを通じて社会的責任を果たすことを指します。一方、サステナビリティは経済や環境に配慮した取り組みによって、持続可能な社会を創出することを目指すという意味で、CSRよりも高い位置にある概念といえます。
他にもサステナビリティと関わりが深い用語として「SDGs」があります。2015年9月の国連サミットで採択された概念ですが、2030年までに達成すべき「持続可能な開発目標」のさまざまな項目が定められています。この活動を行うことで資金も集めやすくなり、ひいては利益の向上にもつながっていくと期待されているのです。これらを実践することにより、事業発展のために不可欠な人材確保という面でも良いイメージを与えることができるため、人材が集まりやすくなり採用活動がスムーズかつ効率的に行えるようになります。
実際に東京商工会議所が2005年に「企業の社会的責任(CSR)」として実施したアンケート結果によると、大企業では98.3%、中小企業でも79.7%が一番大きなCSRのメリットとして「企業イメージの向上」と回答しています。
また、CSRが重要であるとされることについて、企業にメリットがあることも大きく関わってきています。その詳細については、後ほど詳しく説明します。
CSR活動の内容例
CSRが企業の社会的責任を意味することは理解できても、なかなかイメージがわかない方も多いのではないでしょうか。そこでここからは、考えられる具体的な活動内容についてご紹介します。
社会全体に関わること
社会全体を俯瞰してみると、企業がCSRとして取り組めるさまざまな課題があることが分かります。たとえば、「自然環境保護」のテーマであれば、環境に配慮した商品を開発したり、生産体制を整えたりすることが考えられます。また。地域文化を保全する取り組みや、義援金や献血活動などの慈善活動なども挙げられるでしょう。
顧客・従業員に関わること
自社が事業活動を行うのに影響を与える者や利害関係者、つまりステークホルダーに関わる取り組みもCSR活動として捉えられます。たとえば、顧客に対し、より高品質の商品やサービスを提供することが挙げられます。また、従業員に対し、雇用の機会を創出したり、将来の経営基盤を強固なものとするために人材育成を図ったりする、といったことも重要な取り組みといえます。
企業そのものに関わること
最後に、企業そのものにも取り組むべき課題があります。特に社会に与える影響が大きく、蔑ろにしていると一挙に信頼を失ってしまいかねないため注意が必要です。
具体的な内容としては、コンプライアンス強化や透明性のある情報開示、情報セキュリティやコーポレートガバナンス(企業統治)強化などが挙げられるでしょう。
CSR活動がもたらすメリット
利益に直結しないCSR活動ですが、重要視されている背景として、企業にとってメリットがあることが挙げられます。ここからは、どのようなメリットがあるのかについて、解説します。
企業のイメージや評価を改善できる
CSRは、社会から企業に求められている責任です。それに応えてCSR活動をしている企業は、顧客や投資家から良いイメージを持ってもらうえるため、評価も高まります。すると、自社のファンやリピーターが増え、投資家からの信頼も厚くなることから、企業活動の安定化につながります。このため、CSR活動はますます重要視されてきているといえます。
関係者とのつながりを強められる
企業の周囲には、さまざまな利害関係者がいます。積極的にCSR活動に取り組んでいると認知してもらえると、特に顧客を含めた取引先からの信頼度を大幅に高められます。先ほどの項目とも関連しますが、投資家からの支持も強化でき、資金が集まりやすくなります。さまざまなステークホルダーとのつながりを強化できるということは、経営基盤の強化にも有効になるのです。
従業員の意識や満足度を高められる
長期的な目線でCSR活動を見ると、人事的なメリットも多くあります。たとえば、「社会貢献をしている企業に勤めている」という自信や誇り、モチベーションが生まれるでしょう。従業員の満足度が上がると、エンゲージメント(従業員の企業への信頼や企業に対する貢献意欲)も向上します。生産性が上がったり、離職率が低下したりすることで、安定した経営環境が実現できます。
CSR活動におけるデメリット
企業がCSR活動を行うには大きなメリットがあり、そのため重要視されてきていることはご説明したとおりですが、逆にデメリットはどのようなものがあるのでしょうか。考えられるポイントについてご紹介します。
コストがかかる
メリットでもご紹介した、東京商工会議所のアンケートでは、CSR活動を行う際の最も大きなデメリットとして、大企業で81.1%、中小企業で73.8%が「コストの増加」を挙げています。CSRで取り組む項目は、短期的に結果が出るものではなく、ある程度長期間見ていく必要があります。そのため、資金力が乏しかったり、設立間もなかったり、業績が悪化していたりすると、短期で直接利益に直結するような項目に取り組めない可能性があるのです。長期で見ると業績向上を見込めるメリットがあるCSR活動ですが、企業の財務状況によってはハードルが高くなることに注意しなければなりません。
人手が必要になる
CSR活動を行うためには、本業とは別の人材を確保することが求められます。東京商工会議所のアンケートでも、企業規模に関わらず、コストに次いで多かった回答が「人材不足」の項目でした。社内の人材に余裕がなく、CSR活動と本業とで人員のバランスを取れない企業には、CSR活動は推進しにくくなってしまうといえるでしょう。
まとめ
今、多くの企業では自然環境保護や雇用創出、コンプライアンス遵守などのCSR活動を重視し、取り組んでいます。企業イメージや顧客満足度の向上が期待できますが、コスト増や人材不足といったデメリットも考えられます。自社にとって必要なことは何か、どこまでできるかを考えた上で実践するようにしましょう。