近年、新しい通信規格として、「5G」が徐々に普及してきています。これはモバイル端末の利便性を高めるものですが、ビジネス領域にもさまざまな応用が可能です。そこで本記事では、新たなサービス展開を考えるうえで押さえておきたい5Gの基礎知識や活用例をご紹介します。
5Gとは
5Gとは、4Gの次の世代にあたる新しい通信規格です。「第5世代移動通信システム」と呼ばれており、前世代と比較して「通信が高速」「同時接続数の増加」「低遅延」といった特徴があります。近年では「ストリーミング」「ビデオ会議」「仮想現実」など、大容量のデータ通信が発生するサービスが増えており、これらに対応するために考案されました。
また、上記のようなサービスやスマートフォンなどだけでなく、幅広い産業においてもこの技術が応用されています。対象地域は未だ拡張中であるため未対応の地域もありますが、これが日本中に広がれば、高速通信を使用したさまざまなサービスの誕生が期待されます。
5Gがもつ主な特徴
前述したように、5Gには「高速」「低遅延」「多数同時接続」といった特徴があります。以下では、それぞれの詳細について解説します。
高速・大容量
4Gにおける通信速度は最大1Gbps程度でしたが、5Gは最大10~20Gbps程度と大きく向上しています。この速度であれば、外出先で4Kの動画を見ても高画質で観覧できます。こうした高速通信や大容量は、「Massive MIMO」「ビームフォーミング」といった新しい技術や、「ミリ波」「Sub6」などの通信帯域によって実現しています。
○Massive MIMO
送受信側に複数のアンテナを用意して、分割したデータを同時に送受信する技術です。これまではひとつの電波をシェアして使用していましたが、各々の端末が固有の電波を使えるようになります。
○ビームフォーミング
電波を絞ることで、より遠くに集中してデータを届けられる技術です。遠距離でも高品質な通信が利用できます。
○ミリ波
ミリ波とは一般的に、30GHz〜300GHzの高周波を指します。日本で扱う5Gのミリ波は28GHzで、帯域幅は最大400MHzです。4Gの帯域幅は40MHzだったので、10倍もデータ容量に違いがあります。電波は高周波であるほど通信速度も早くなりますが、障害物や距離による減退がデメリットです。
○Sub6
Sub6は、6GHz未満の周波数を指す言葉です。日本の5Gでは、Sub6の通信領域として3.7GHz帯と4.5GHz帯が使用されます。帯域幅は最大100MHzとミリ波に劣りますが、障害物に強いという性質があります。
低遅延
4Gのレイテンシ(遅延)は最短10msでしたが、5Gでは最短1msとなっています。レイテンシは、秒数が増すなるほど遅延が大きくなりますが、5Gは1秒の1/1000のため遅延をほとんど感じません。
「10msでもさほど遅延を感じないのではないか」と考える方もいるかもしれませんが、1msというレイテンシは、さまざまな分野に活用できます。たとえば、医療ロボットや自動車の自動運転システムなど、命の関わるシステムでは数ミリ秒の遅延が問題につながることもあります。特に人間が体感するほどの遅延であれば、サービス品質も悪くなってしまうでしょう。その点、5Gの通信技術はほとんど遅延を感じないため、高品質のサービスが展開できるのです。
このような低遅延の技術は、エッジコンピューターというシステムが実現しています。通信データをクラウドなどのシステムに送らず、近くのエッジサーバーで処理することにより、低遅延の通信が可能となっています。
多数同時接続
5Gでは、1平方kmあたり約100万台の同時接続が可能です。4Gは1平方kmあたり約10万台だったため、10倍増加したことになります。こうした多数の同時接続は、ネットワークスライジングやグラントフリーという技術が可能にしています。
○ネットワークスライジング
サービスによってネットワーク割り当てを変更する技術です。これまではすべてのサービスがネットワークを共有していたため、効率が悪く、障害時もすべてに影響が及ぶというデメリットがありました。しかし、この技術により特定サービスのみに特化したネットワークを割り当てることが可能です。通信速度が他サービスによって干渉されることがなく、障害が発生しても他サービスに影響しません。
○グラントフリー
スマートフォンなどの通信では、基地局から通信許可(グラント)を取得してから、通信を行います。グラントフリーではこの工程を省くことで、混雑の緩和と同時接続数の向上につなげています。
5Gのビジネス活用例
ここでは実際に、5Gがどのように展開されているのかをご紹介します。
サービスへの活用
○AR
ARはスマートメガネなどによって、現実世界の3D空間に情報を映し出す技術です。代表的なサービスとしては、「ポケモンGO」が挙げられます。このサービスは、スマートフォンのカメラを使って、あたかも現実世界にポケモンが現れたかのような臨場感を楽しめるゲームです。ARが発展すれば「屋外広告」「コンサート」「アート」「ファッション」など、幅広い分野で応用ができます。
○VR
VRとは、VRゴーグルを付けて仮想空間を楽しむサービスです。VRは現実世界を投影したものであるため、大容量データの高速通信が必要であり、遅延があれば違和感につながります。そこで5Gの高速・大容量通信を利用することで、こうした問題の解消に役立てられます。
○自動運転
先述した通り、自動運転には高速通信技術が欠かせません。自動車に取り付けられた複数のセンサーが現在の状況を分析して、通信を行ったあとに制御を行います。そのため、わずかな遅延が重大な事故を招くおそれもあるのです。5Gは自動運転技術の向上に役立ち、こうした問題の解消にもつなげられます。
業務への活用
○IoT
IoTは、インターネットとつながるシステムをモノに搭載することで、新しい製品にする技術です。たとえば、エアコン・冷蔵庫・テレビといった家電をインターネットとつなげて、遠隔操作や外出先からの確認を可能にするなど、新しいサービスを提供しています。
これを活用すれば、工場のラインや農家のハウス内、インフラ設備などにセンサーを取り付けて、情報収集やリアルタイムな監視が可能です。IoTではセンサーを用いることが多く、端末数も膨大になるため、5Gのような多数同時接続の技術が役立ちます。
○遠隔作業
遠隔作業は、主に医療現場や建設業などで応用ができます。全く違う国にいる専門医が執刀を行ったり、工事の危険な作業を遠隔作業で行ったりすることが可能です。
○AI
リアルタイム性の高いAI機能は、データ分析や問い合わせ対応、定型作業の自動化などをより高精度で実現します。
5Gのビジネスに関連して知っておきたい用語
5Gをビジネスに導入する際、中核となるものが「ローカル5G」「B2B2X」です。今後、この2つを利用した企業が増えてくることが想定されるため、事業者はしっかりと押さえておかなければいけません。
ローカル5G
ローカル5Gとは、自営で5Gを展開できるサービスです。自社や自治体の建物・敷地内でプライベートな5Gネットワークを形成できます。
通常5Gは、大手通信事業者が展開しているエリア内でしか利用できません。しかし、これでは企業や自治体にとって使い勝手が悪いため、5Gを利用したい事業者や自治体向けに提供したものがローカル5Gです。利用にあたっては無線局の免許を取得する必要がありますが、多くの企業で5Gが運用できるようになります。
また、これと似たものに「プライベート5G」がありますが、独自の5G領域を展開できるという点では共通します。しかし、こちらは通信事業者が環境の構築や保守・運用を行うため、無線局免許を取得する必要がありません。
B2B2X
B2B2Xとは「Business to Business to X」を略称した新しいビジネスモデルです。1番目のBusinessはローカル5Gを提供する「ローカルな通信事業者」、2番目のBusinessは「提供された5Gをもとにサービスを提供する企業」をそれぞれ指します。
そして最後のXは、2番目の事業者にサービスを提供される「企業・人」を表します。2番目の事業者がサービスを提供する相手は、企業や顧客、消費者などと変化するため「X」を用います。これを加味すると、B2B2Xは「5Gを提供するローカル通信事業者」→「5Gをもとにサービスを提供する企業」→「企業・顧客・消費者」という構図となります。
前述したローカル5Gの技術により、地方の「FTTH」「CATV」「FWA」といった事業者が5Gサービスを展開できるようになります。これを企業が活用すれば、地方に新しい産業をもたらすことが可能です。そのため、こうしたモデルは「地域課題解決型ビジネスモデル」ともいわれます。
5Gのビジネスにおける注意点
5Gは黎明期なので、まだまだ課題や注意点があります。たとえば、大きな課題となるのが導入コストです。5G対応デバイスは種類が限られているうえ、価格も高額なため、予算的に導入が難しいケースも考えられます。
また、通信事業の構造が大きく変わることによるセキュリティリスクも懸念されます。5Gの通信やIoT端末などに対し、新しいサイバー攻撃が誕生する可能性もあるでしょう。事業者が5Gを導入する際は、こうした問題も知識として押さえておく必要があります。
まとめ
5Gは「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」が可能な新しい通信規格です。さまざまな分野での活躍が見込め、新しいサービスの登場が期待されます。たとえばMicrosoft社は、5Gを用いた新たなAzureサービスを発表しています。5Gビジネスへの参入に向けて、ぜひチェックしてみてください。