デジタル社会を実現させるには、住民の身近なところで行政を担う自治体のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が非常に重要です。本記事では、自治体が取り組むDXにクローズアップし、なぜ自治体にDXが必要なのか、DX推進のポイントなどを解説していきます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)についての概要
最初にデジタルトランスフォーメーション(DX)について、整理しておきましょう。
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは
DX(Digital Transformation:デジタルトランスフォーメーション)とは、2004年にスウェーデンにあるウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念です。Digital Transformationを直訳すると「デジタル変換」ですが、意味としては「変換」より「変革」の方が適しているでしょう。
DXの目的は、進化し続けるテクノロジーを社会や企業経営に浸透させることで、人々の生活をよりよいものに変革していくことです。DXがもたらすものは単なる「変革」ではありません。既存の価値観や枠組みを根底から覆すような革新的なイノベーションです。
一見すると難しい印象をもつかもしれませんが、DXは身近なところにも普及しています。たとえば、自宅にいながら医療機関への予約はもちろん受診もできるオンラインシステム、コンサートやスポーツ観戦、新幹線など、各種チケットのオンライン決済システムもDXの一例といえるでしょう。
自治体デジタルトランスフォーメーションとは
政府は、2020年に発表した「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」において「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会」を目指し、そのビジョンとして「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化」を掲げています。そして、これを受け、全国の各自治体でもDX推進の動きが始まっています。
自治体DXとは、デジタル技術やデータを活用し、業務を効率化させて行政サービスを改善しながら、住民の利便性向上を目指すことです。つまり、デジタル技術を活用して自治体職員のみならず住民の生活をよりよくすることといえます。
自治体が抱えている課題
なぜ自治体でもDX推進が必要なのでしょうか。DXによって解決できる自治体の課題について整理しておきましょう。
労働人口の減少
日本の総人口は、2008年以降減少傾向にあります。人口減少による少子高齢化も深刻化し、労働人口の減少も顕著です。
総務省によると15歳から64歳の生産年齢人口は、2020年に7,406万人(総人口の59.1%)だったのが、2040年には5,978万人(53.9%)に減少することが予想されています。このまま日本全体の人口減少が進めば、地方の人口も急速に減少することが予測され、自治体による円滑なサービス提供が困難になるほか、サービス産業は撤退を余儀なくされるでしょう。
デジタル人材の不足
DX推進に欠かせないデジタル人材が、日本全体で不足していることも大きな課題です。IPAが公表した「DX白書2021」によると、デジタル人材の「量が不足している」と回答した企業は76.0%、「質の面で不足している」とする企業は77.9%にも上っています。この数字は、アメリカとの比較において顕著な差があり、日本のデジタル人材が不足している現状を浮き彫りにしています。
自治体デジタルトランスフォーメーションの重要取組事項
総務省は自治体DX推進のため、2020年に「自治体DX推進計画」をまとめました。このなかから、DX推進のための重要取組事項を解説します。
自治体の情報システムの標準化・共通化
2025年度末までにガバメントクラウド(政府共通のクラウドサービス利用環境)を活用するため、住民基本台帳や住民税、児童手当といった17の基幹業務システムを、国が定めた標準仕様のシステムへと移行します。これまでバラバラだった自治体の情報システムを標準化・共通化することで、職員の事務負担が軽減されるとともに、住民の利便性が向上するでしょう。
マイナンバーカードの普及促進
オンライン化された行政サービスをスムーズに提供するための大前提は、オンラインによる住民の本人確認です。そのためには、マイナンバーカードの普及が欠かせません。マイナンバーカードの普及を促進するため、申請に関して以下の取り組みが計画されています。
- 出張申請受付の積極的な実施
- 臨時交付窓口の開設
- 土日開庁
- マイナンバーカード電子証明書の発行や更新などを自治体指定の郵便局で実施
自治体の行政手続のオンライン化
行政手続のオンライン化によって、住民は必要な時に気軽に行政手続きをしたり、適切な公共サービスを受けられたりすることが見込めます。行政手続きのオンライン化は、優先順位をつけて行います。たとえば、処理件数が多く業務効率化の効果が高い手続きや、出産・結婚などに関する多くの手続きをワンストップ化させる取り組みについては、優先して進める計画です。さらに住民にとって操作しやすく、時間がかからない申請受付システムの整備も進める予定です。
自治体の AI・RPA の利用推進
労働人口減少の対策として、AI(人工知能)やRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の利用を促進します。RPAとはソフトウェアロボットにより業務プロセスを自動化することです。具体的には、データの入力や転記といったシンプルな定型業務を自動化するツールを指します。自治体における膨大な事務作業を自動化できるので、労働人口の減少にも対応できるでしょう。
テレワークの推進
新型コロナウイルス感染症の対策としてテレワークが普及しつつあります。テレワークは非常時における事業継続、育児や介護、障害などのために制約がある人材活用の点でも非常に有効な施策です。自治体の情報システムが標準化・共通化され、行政手続きのオンライン化が進めば、職員のテレワーク業務がさらに拡大するでしょう。
セキュリティ対策の徹底
クラウド化や行政手続きのオンライン化、テレワークの普及といった自治体DX推進の取り組みは、盤石なセキュリティがあってはじめて実現します。セキュリティ対策を徹底するため、「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」の見直しや、自治体ごとにセキュリティレベルに差があった「自治体情報セキュリティクラウド」を、よりレベルの高い民間クラウドサービスに移行することが計画されています。
自治体のデジタルトランスフォーメーションの事例:広島県
自治体DXの代表的な事例として、広島県を紹介します。広島県では、2019年にデジタルトランスフォーメーション推進本部を発足させ、DXを進めています。広島県の取り組みの特徴は、DXを単なるITツールの導入ではなく、あくまで課題を解決するための手段と考え、価値のある変革を目指していることです。
たとえば、水道事業では職員の減少を見据え、これまで職員の経験値に頼ってきた浄水場の運転監視や薬品注入作業、水道メーターの検針などについて、AIを活用した自動化を図っています。また、子育て事業では、子どもに関するさまざまなデータを収集し、虐待などが表面化する前にAI分析でリスクを予見し、出産・育児支援施設「ネウボラ」などと連携して子供を守る仕組みの構築に取り組んでいます。
まとめ
デジタル社会を実現させるには、自治体によるDX推進が不可欠です。現状の業務がデジタル化されれば、職員の負担が減るとともに、公共サービスのクオリティが向上するでしょう。労働人口減少に対応することも可能です。専門家のサポートを受けながら、DXに応じた新規事業の創出や既存事業の改善を積極的に進めましょう。