インターネットやSNSの普及などでチャネルの多様化が進む現代において、デジタルマーケティングを成功させるために注目されている技術に「DXP」があります。
DXPはこれら多様化したチャネルを統合・一元管理するためのプラットフォームであり、良質な顧客体験を提供するためのツールとしても用いられます。DXPにはさまざまな種類があり、そしてメリット・デメリットも同時にありますが、これらについて理解できている人は少ないのではないでしょうか?本記事では、DXPについての概要と、導入メリットや利用例などについて紹介します。
DXP(デジタルエクスペリエンスプラットフォーム)とは?言葉の意味を解説
「DXP」とは、Digital Experience Platform(デジタルエクスペリエンスプラットフォーム)の略称で、現代の多様化したチャネルを統合・一元管理することで、一貫した良質な顧客体験を提供することを目的とします。
デジタルマーケティングにおいて、従来のCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)は自社業務の効率化に重点を置いていました。ですが、DXPではその発展系として顧客を取り巻くチャネルを一元化し、一貫した顧客体験を提供することで、顧客の購買活動を自然な形でサポートすることができるようになりました。
例えば、通学・通勤時に目にした商品情報を、時間を空けた帰宅時などに再確認しようとした場合を想像してみましょう。もう一度検索し直す必要があり、最悪のケースだと、商品名をメモしておらず忘れてしまったなども考えられます。こうなると購入に繋がりません。しかし、これまでの検索履歴の結果から、顧客が望む情報を自動的に発信することができればどうでしょうか。顧客自らが情報を入手する必要がなくなり、継続的に顧客の購買意欲を刺激し続けることで、購入される可能性が高まります。
逆に、顧客が購入したばかりの商品がインターネット広告などで宣伝されてしまった場合、その広告情報は顧客にとって不要な情報であるため、うんざりさせてしまう可能性があります。
このようにDXPを利用すれば、必要な情報を顧客にタイムリーに届けることができると同時に、顧客が不快感をつのらせる情報については排除することが可能です。スマートなコミュニケーションと、顧客に応じてパーソナライズされた関連情報をタイムリーに提供できるのがDXPの特徴になります。
DXPには2つの種類がある
DXPには「オープンDXP」と「クローズドDXP」の2種類があります。オープンDXは他社のサードパーティ製品を自由に組み合わせられる特徴を持ち、クローズドDXは自社完結でセキュリティ確保に有利な特徴があります。
オープンDXP|複数の製品を一元管理する
「オープンDXP」は、第3者ベンダーが提供する複数製品を一元管理してパッケージ化することができ、ユーザー側で必要な機能のみをオン・オフし自由に取捨選択することができるプラットフォームです。各社システムの統合機能を実装しており、互換性などについて事前に検証済みのため、そのままカスタマイズして利用することが可能な点が魅力でしょう。
使い慣れたCRMや新システムをそのまま利用することができるため、新たなシステム設計に必要なリソースを割く必要がない点がメリットになります。
一方で、パッケージ化されていないシステムについては利用することができないため、利用前には必要なシステムがサポートされていることを確認しておきましょう。
クローズドDXP|すでに製品が内蔵されている
「クローズドDXP」は、必要なDXPコンポーネントや製品を内蔵した、特定ユーザーに特化したプラットフォームです。既存のサードパーティ製品を利用するのではなく、ユーザーに必要な機能を実現するための最適なDXPコンポーネントを自社開発し、保守までを行います。
既存のサードパーティ製品との連携を想定しないクローズドな環境であるため、外部侵入のリスクが低減され、オープンDXPと比べてセキュリティが高いことがメリットです。一方で、他システムと組み合わせる場合には、統合に関する検証が必要となり、そのためのリソース確保が必要になる点がデメリットになります。
DXPにはどんな機能が含まれているのか
DXPは、CMS(Content Management System:コンテンツ管理システム)やWEM(Web Experience Management:Webエクスペリエンス管理)の発展系になり、これらCMSとWEMが持つ機能を拡張したプラットフォームです。
CMSは複数コンテンツの配信と維持を行う機能、WEMはWebブラウザ・モバイルアプリでのコンテンツ公開機能の基盤をなす技術です。DXPはこれらCMSとWEMの機能に加えて、デジタルマーケティングで成果を出すための効果的なコンテンツフロー制御に関する機能を含んでいます。
他にも、
- コンテンツの安全性を確保するためのセキュリティ機能
- デジタル資産を保存・管理するアセット機能
- 商品在庫の管理・処理・自動アクションをサポートするeコマース機能
- 顧客情報を追跡管理する顧客エンゲージメント管理機能
- AIや機械学習を用いてインサイトを提供するための分析機能
などがあります。
DXPが生まれた背景とは?
DXPが生まれた背景には、デジタル技術の発展があります。インターネットやスマートフォンが普及し、人々はいつでもどこでも自由に情報を手に入れることができるようになりました。
また、SNSの普及でデジタルコンテンツのチャネルは多様化が加速し、マーケティングの世界もこれまでの「モノ売り」からサブスクリプションなどの「コト売り」へと急速にシフトしています。
SNSを通して欲しい情報を自ら手に入れる時代になったことで、企業は商品やサービスの性能・価格だけではなく、顧客体験や顧客との結びつきを重視するようになり、DXPの重要性が認識されるようになりました。
CMSから生まれたDXPの特徴 |顧客獲得
CMS出身のDXPは顧客獲得に優れている点が特徴です。
CMSは複数コンテンツの配信と維持を行う機能を持ち、Webサイトのコンテンツ作成や管理を容易にし、PCだけでなくスマートフォンなどへのマルチデバイスへの対応もできます。
DXPはこのCMS技術を基盤に、健在顧客に対して効果的な誘導・宣伝を行うためのデジタルマーケティングを可能とするプラットフォームです。検索履歴や閲覧履歴から顧客が欲しい情報をタイムリーに提供することで、顧客獲得に向けて効率的にアプローチをします。
ポータルから生まれたDXPの特徴 |インテグレーション性の高さ
ポータル出身のDXPはインテグレーション性の高さが特徴です。
ポータルは、特定の情報やリンクを寄せ集めたまとめ集などのWebサイトから、企業の社員や、ユーザーに使用されるモノまで幅広く存在します。DXPが生まれるまではただ単純に情報やリンクを羅列し、必要な情報はユーザーが取りに行くことでよかったのですが、DXPが注目されるようになってからはポータルの在り方について見直されるようになりました。
特にビジネスにおいては時代や戦略の変化に合わせて、必要なコンテンツや情報を適宜見直す必要があります。このとき、戦略の変化に伴って過去のコンテンツを再利用することもあり、すぐにポータルへの導入を可能とするインテグレーション性の高さが大いに役立ちます。
ECから生まれたDXPの特徴 |オンライン決済機能の高さ
EC出身のDXPはオンライン決済機能の高さが特徴です。
小売業などのオンラインショッピング構築に利用されることが多く、eコマース特有のインターフェースを備えている他に、在庫管理・ショッピングカート・決済サービスとの連携・注文履歴などのショッピングに必要な機能を取り揃えています。
企業がDXPを導入するメリット
ここでは企業がDXPを導入するメリットについて紹介します。
複数のデータを一元化して分析できる
DXPの導入メリットの一つに、複数データを一元化して分析できる点があります。
多様化するチャネルを自社で管理しようとするとWeb担当者の負担は増え、コンテンツを量産していく場合や、そのメンテナンスにも莫大なリソースを投じる必要があるでしょう。DXPは複数のチャネルを一元管理して、これらのチャネルから収集したデータをフル活用して分析することで、デジタルマーケティングに役立つ顧客情報を始めとしたインイトを得ることができます。
運用にかかるコストや手間を減らせる
デジタルマーケティングの運用にかかるコストや手間を減らすことができる点も、DXP導入のメリットです。今後も増えていくチャネルや、自社コンテンツのことを鑑みると、Web担当者で対応できる範囲には限界があります。さらに、メンテナンスの観点も考えると、多くのリソースを投じる必要があるため少人数での運用はあまり現実的ではありません。だからと言って担当者を増やすと、次は人件費が大きくなるでしょう。
そこで、DXPを導入してこれらチャネル管理やコンテンツ配信・維持を一元管理することで、Web担当者は重要な箇所のみの運用に留めることができ、リソースの最適化と運用コストや手間を減らすことが可能になります。
顧客のロイヤリティやLTVを向上できる
DXP導入により、顧客のロイヤリティやLTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上を期待することができます。顧客ロイヤリティとは、顧客が商品やサービスに対して感じる信頼や愛着のことで、LTVとは顧客と取引を始めてから取引が終わるまでの間に企業にもたらされる利益のことです。一般的に、新規顧客を獲得するのに必要なコストは、既存顧客を維持するコストの5倍かかると言われています。既存顧客の維持の重要性が説かれ、これら顧客ロイヤリティとLTVが意識されるようになりました。
DXP導入によって、効率的な宣伝やアプローチを行うことで、顧客により質の高い顧客体験を提供するようになり、結果的に顧客のロイヤリティとLTVの向上を期待することができます。
セキュリティ面でのリスクを削減できる
セキュリティ面でのリスクを削減できる点もDXP導入のメリットです。多様化するチャネルを自社管理しようとした場合、各チャネルが掲げるセキュリティポリシーレベルが異なるため、自社のセキュリティポリシーにそぐわない可能性があります。
また、チャネルにバックドアなど外部脅威となるセキュリティホールが潜在する可能性もあり、これらを自社管理だけで対応しようとするととても大変です。
DXPはDXPが掲げるセキュリティポリシーの中で管理されるため、対応するセキュリティレベルが明確であり、セキュリティ面でのリスク削減ができます。さらに、クローズドDXPを利用して、外部ネットワークと遮断することで外部脅威のリスク軽減にも期待ができます。
DXP導入では事前に目的や使い方をしっかり決めておくことが重要
DXP導入では事前に目的や使い方をしっかりと決めておくことが重要です。DXPは便利なプラットフォームであるため、目的や使い方を事前に決めておかないと、本来の目的である顧客獲得や売り上げアップに繋がらない可能性があります。ここでは、DXPの利用例について紹介します。
利用例1:顧客やユーザーに合わせた戦略の展開
DXPの導入目的を「顧客やユーザーに合わせた戦略の展開」とした場合、ユーザー目線にたち、検索履歴や閲覧履歴から効率的な宣伝を行うことと、パーソナライズされた顧客体験を提供することが重要です。顧客やユーザーのニーズは日々変化しており、これに追従したアプローチが必要となります。
例えば、一度検索された商品の宣伝はタイムリーに行なっていかないと顧客の興味がなくなってしまい、購入に繋がらない可能性が考えられるでしょう。さらに、すでに購入された商品の広告や宣伝を行なってしまうと顧客の不快感を煽ってしまう可能性もあります。
このようにDXPを利用することで、顧客やユーザーがどんな商品やサービスを求めているのか、逆にどんな情報は求めていないのかを分析し、購買意欲を刺激し続けるような戦略を取ることができます。
利用例2:マーケターのスピーディーな判断や施策の実行
DXPの導入目的を「マーケターのスピーディーな判断や施策の実行」とした場合、多様化したチャネルを統合・一元管理して、データ分析から顧客情報を始めとしたインサイトを得ることが重要です。
例えば、顧客やユーザーのニーズは日々変化しており、その時代にマッチした判断や施策を実行していくことが大切です。しかしこれは、簡単なことではありません。そのため、マーケターは常に新しい情報をDXPから入手して、その情報をもとに次の戦略の判断や施策を実行していく必要があるのです。
このようにマーケターにとっては、多様化したチャネルを一元管理して必要な情報を集め、スピーディーな判断を行わなければなりません。必要な施策を実行していくことをサポートしてくれるためのツールとしてDXPを利用することができます。
顧客体験向上にも繋がる脱サイロ化やインテグレーションの必要性
DXPの重要性が認識され始めた昨今においても、企業内部のデータが分散化した状態となっている「サイロ化」が課題になっています。自社開発したコンテンツやシステムであっても、データ連携の際のインテグレーションに問題があり、そのまま取り残されてサイロ化してしまうケースは多いです。サイロ化が生じると、コストの無駄・機会損失・意思決定の鈍化・ロイヤリティの低下などのデメリットが多く、経営面にも響く可能性があるため、早急に解決すべき課題となっています。
顧客体験向上に繋がる脱サイロ化とインテグレーションの必要性を再認識した上で、DXP導入に取り組むことが重要と言えます。なぜならDXPはこれら問題を解決する可能性を秘めているからです。
まとめ
本記事では、DXPについてとその特徴、メリットについて紹介しました。データのサイロ化が課題となっている昨今の状況を踏まえると、DXP導入で質の高い顧客体験を提供することはデジタルマーケティングには欠かせない技術です。顧客体験向上に繋がる脱サイロ化とインテグレーションの必要性を再認識して、積極的にDXP導入に取り組んでいきましょう。