製造業

SXはビジネスに不可欠? DX・GXとの違い・メリット・事例を解説

SXはビジネスに不可欠? DX・GXとの違い・メリット・事例を解説

昨今、DXとともに「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」が注目を集めています。

直近では、コロナ禍によって事業を継続できなくなる企業が多く、経済に大きな影響を与えました。そのため、企業の持続性、社会の持続性を考慮したSXの取り組みが話題です。
この記事では、SXの概要や重要視されている理由、SXで得られるメリット、SXの効果を最大化するために注意したいポイントなどについてご紹介します。DXやSDGsとの違いについても解説します。

Factory of the Future

SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは

今日では、さまざまな企業がDXに取り組み、デジタルを活用してビジネスを変革し、市場優位性の確保に力を注いでいます。しかし、その視点はあくまで短期的なものです。感染症の流行や国家間の紛争など、先行きが不透明な時代では、利益の確保とともにESG(環境・社会・ガバナンス)に目を向け、中長期的に企業価値を高めることも求められています。

そこで誕生したのが「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」です。SXとは、企業の「稼ぐ力」と長期的な持続可能性(ESG)を、どちらも同じように重視して同期化させ、投資家との対話を重ねながら企業のレジリエンス向上を目指す指針です。

日本におけるSXは、経済産業省の「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」が2020年8月に公表した、「中間取りまとめ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現に向けて~」から認知が広まりました。SXを推進することでDX化も進み、企業と社会それぞれのサステナビリティを向上させられるようになるでしょう。

SXで重要視される2つのサステナビリティ

SXは、社会課題の解決と経済成長の両立を目指す取り組みです。従来は利益追求のみが重視され、環境破壊や社会格差などの問題が生じることもありました。SXはこうした問題を解決するために、企業と社会のサステナビリティを重要視しています。

企業のサステナビリティ

企業のサステナビリティとは、企業が長期的な視点で存続していくために必要な取り組みです。企業が持続的に存続するためには、目先の利益や売上を重視するだけでなく、将来的にも、市場に対する企業の競争力を保つ取り組みが必要不可欠です。

具体的には、環境保護、社会貢献、ガバナンスの強化などがあげられます。

  • 環境保護:省エネルギー、再生可能エネルギーの利用、廃棄物削減
  • 社会貢献:地域社会への貢献、ボランティア活動、社会課題解決に向けた事業
  • ガバナンスの強化:コーポレートガバナンスの強化、コンプライアンスの遵守

企業はこれらの取り組みで社会課題の解決に貢献し、同時に自社の競争力を高めることが求められます。

社会のサステナビリティ

SXで企業の持続性とともに重要視されているのが、社会のサステナビリティです。

社会のサステナビリティとは、環境問題や資源の使いすぎなどといった社会問題に配慮しながら企業活動を行い、社会の持続性を保つ考え方です。

社会のサステナビリティの例としては以下のようなものがあります。

  • 貧困や格差の解消:社会福祉の充実、教育機会の均等化
  • 教育や医療の充実:質の高い教育や医療の提供
  • 環境保護:自然環境の保護、生物多様性の保全

企業は自社の利益追求だけでなく、環境や社会への責任を果たしながら事業を展開することが求められます。

SXとDXの違い

SXとDXは、いずれも企業が生き残るために必要な変革ですが、その目的とアプローチには明確な違いがあります。SXは環境や社会に対する取り組みが考慮されているのに対し、DXはIT技術の活用に焦点を当てています。

DXは、デジタル技術を活用して既存のビジネスモデルや業務プロセスを革新し、効率化や競争優位性の確立を目指すものです。具体的には、AIやビッグデータ分析、IoTなどの技術を導入することで、業務の自動化、顧客体験の向上、新たなサービス開発などを実現します。

一方でSXは、企業と社会の持続可能性(サステナビリティ)を両立して追求する経営戦略です。ESG経営の考え方をベースに、環境問題、社会課題、ガバナンスといった要素を考慮しながら、中長期的な視点で企業価値の向上を目指します。

SXとGXの違い

GXは顧客との関係性の強化やイノベーションの促進を目指し、SXは持続可能なビジネスモデルの構築や社会的影響力の向上を目指すという点で違いがあります。

GXは「グリーントランスフォーメーション」の略で、経済活動における温室効果ガスの排出量を削減し、カーボンニュートラルを目指す取り組みです。具体的には、再生可能エネルギーへの転換、エネルギー効率の向上、省エネルギー設備の導入などを推進します。

一方でSXは、企業と社会の持続可能性を両立して追求する経営戦略です。環境問題だけでなく、社会課題、ガバナンスなどの要素も考慮しながら、中長期的な視点で企業価値の向上を目指します。

SXとSDGsの違い

SXは、SDGsの達成に貢献するための1つの手段です。そして、SDGsは国際的な開発目標であり、世界の持続可能な発展に向けた包括的な目標です。

SDGsは、「Sustainable Development Goals」の略称で、2015年に国連で採択されました。17のゴールと169のターゲットから構成されており、貧困や飢餓、環境問題などの社会課題を解決するために、世界全体で取り組むものとされています。

一方でSXは、企業と社会の持続可能性を両立して追求する経営戦略です。ESG経営の考え方をベースに、環境問題、社会課題、ガバナンスなどの要素を考慮しながら、中長期的な視点で企業価値の向上を目指します。

SXが重要視される背景

では、なぜSXが重視されるようになってきたのでしょうか。現代の社会は、予期できないさまざまな変化が目まぐるしく起きています。具体的には、AIやビッグデータを活用し、斬新なビジネスモデルが次々誕生している一方で、新型コロナウイルス感染症の流行により、既存の経営戦略の見直しを余儀なくされている企業が増えています。

また前述したように、DXは基本的に短期的な目標を設定しますが、SXは将来のあるべき姿を想像し、中長期的に取り組んでいく指標です。競合他社に追随されれば、DXはたちまち陳腐化してしまう可能性があります。つまり、事業を進める上で、これまでの価値観や方法、成功体験に固執せず、時代の流れに合わせて戦略を練り直すことが求められているのです。

近年は、デジタルによる変革を意味するDXよりも、将来にわたる持続可能性を求め、SXをより重視する動きが活発化しています。SXの取り組みでは、短期的な利益を追求すると同時に、社会へ貢献しながら中長期的に社会のサステナビリティ向上も図っていきます。

SXに取り組むメリット

では、実際に企業がSXに取り組み推進することで、どのような効果やメリットを享受できるのでしょうか。ここでは、そもそもSXが中長期的な視点の戦略であることを踏まえ、投資家や社会から享受できるメリットを2つご紹介します。

株主から注目されやすい

2020年12月、財務省は「ESG投資について」というレポートにて、ESGを重視した投資方法である「ESG投資」の市場規模が世界的に拡大していることを公表しました。

従来、投資家は投資先を選ぶ際、利益や株価など、短期的かつ財務的な情報のみで判断するのが主流でした。しかし、現代は環境や社会、ガバナンスなどの非財務情報をもとに、中長期的な視点で企業の成長を見極める動きが活発化しています。

SXはESGと深いつながりがあるため、積極的にSXを推進している企業は、おのずと投資家や株主からの評価が高くなるメリットが期待できるでしょう。すると、企業にとって資金を集めやすくなり、キャッシュフローが改善され、将来にわたって経営を強化できるようになります。
参考:ESG投資について(財務省)

企業のイメージが向上する

投資家によるESG投資市場が拡大している背景には、さまざまな環境的・社会的な原因が存在します。例えば、激しい気候変動によって資源が枯渇したり、災害リスクが高まったりすれば、世界の金融市場に大きな影響を与えます。また、自社の利益だけを追求している企業よりも、よりよい社会を目指して積極的に貢献活動に取り組んでいる企業のほうが、企業としてのブランディング強化につながるでしょう。昨今は、そうした価値観や考え方が社会に広まっており、それゆえESGに対する注目が集まっていると考えられます。

そこで企業がサステナビリティを重視したSXを実践すると、企業イメージが向上し、投資家や株主のみならず消費者など幅広いステークホルダーから、「信頼できる企業」として高い評価を受けられるようになるのです。

信頼できる企業は、優秀な人材を引き付け、新規事業の検討や現在のビジネスの発展など、好循環を生み出す基盤となるでしょう。

新たなビジネスモデルの創出

SXに取り組むことで、従来のビジネスモデルとは異なる新たなビジネスモデルの創出が可能です。

あるIT機器を開発・販売する企業では、100%循環型リサイクルで、使用済みの機器を資源として、新たな機器をつくり出すことに成功しています。

100%循環型リサイクルは、廃棄物を大幅に削減し、環境負荷を低減、企業のESG経営にも貢献します。このように、SXに取り組むことで新たなビジネスモデルを発見し、企業の利益向上、イメージアップなどの効果も期待できます。

SXの実現にはダイナミック・ケイパビリティが必要不可欠

SXの実現にはダイナミック・ケイパビリティが必要不可欠

SX(エスエックス)の実現には、企業が継続的な競争優位を確保し、急激な市場変化に適応する能力が求められます。そのためにはダイナミック・ケイパビリティが不可欠です。

ダイナミック・ケイパビリティとは

ダイナミック・ケイパビリティとは、変化の激しい環境に対応するために、企業が自らの能力を継続的に変革していく能力を指します。具体的には、以下の3つの要素から構成されます。

  • センシング(感知力): 環境変化を敏感に察知する能力
  • シージング(捕捉力): 変化をチャンスと捉え、新しいビジネスチャンスを見出す能力
  • トランスフォーメーション(変容力): 変化に対応するために、組織や経営資源を柔軟に変革する能力

これらの要素を組み合わせることで、企業は変化の激しい環境でも持続的な成長を実現可能です。

現代のビジネス環境は、技術革新やグローバル化などの影響を受け大きく変化しており、従来の経営資源やノウハウだけでは生き残ることが難しい状況です。変化の激しい環境でも持続的な成長を実現するために、ダイナミック・ケイパビリティを備えて、新たな価値を生み出すことが重要視されています。

ダイナミック・ケイパビリティを実現する方法

変化の激しい現代において、企業が生き残るために必要不可欠なのが、ダイナミック・ケイパビリティです。

ダイナミック・ケイパビリティを実現するには、セージング、シージング、トランスフォーメーションの3つの要素を強化する必要があります。この3つの要素を強化するためには、以下の取り組みが有効です。

  • 外部情報を取り入れ、社内外の人材交流を促進する
  • 変化を先導するリーダーの発掘・教育する
  • 失敗を恐れずに挑戦し、学び続ける環境作り
  • データ分析やAIで環境変化を察知し、新しいビジネスモデルを開発する

ダイナミック・ケイパビリティは日々の意識的な取り組みによって強化できます。変化を恐れず、常に挑戦し続けることで、企業は未来を切り開くことができるでしょう。

SXに取り組む際の3つのポイント

SXに取り組む意義が理解できれば、実際に取り組む段階に移ります。しかし、イメージはできても具体的にどのような点に気を付ければよいのか、迷ってしまう方もいるかもしれません。また、あらかじめ成功率を上げる方法が理解できていれば、スムーズに実践できるでしょう。ここでは以下の3つのポイントを取り上げ、より効果的にSXを実現させる仕組みについて解説します。

  • 社会のサステナビリティを経営に反映させる
  • ビジネスの安定を重視する
  • リスクに対処できる経営を行う

社会のサステナビリティを経営に反映させる

SXにおける重要なポイントとして、社会のサステナビリティを取り込み、自社の経営に活かすことがまず挙げられます。

2000年代以降、デジタル技術の目まぐるしい発達により、スマートフォンやタブレット、パソコンといったデバイス端末は急速に浸透しました。また、企業はビッグデータやAIといった先進技術を事業に活用し、さまざまな新しいビジネスモデルを誕生させています。これから先の世界がどうなっていくのか、全く見通せない時代となっている今、未来の社会の姿を考え、逆算して経営に活かす力が求められているのです。

例えば、SDGsに関する事業を始め、積極的に取り組むのもよいでしょう。また、時代や社会に合わせて、社会的な課題を解決できるプロジェクトを立ち上げることも一案です。このように社会を巻き込みながらサステナブルな企業価値を創造することで、経営の強化にもつながっていきます。

ビジネスの安定を重視する

SXに取り組む際に大切な2つ目のポイントとして、中長期的な視点で「企業としてのサステナビリティ」を高め、経営を存続・安定させることが挙げられます。前述したような社会のサステナビリティをどれほど向上させたとしても、企業のサステナビリティが不安定では本末転倒となりかねません。

そのため、企業にとって限りあるリソースを最適化することや、ディープラーニングなどの最先端技術を積極的に活用し、イノベーション創出に向けた取り組みを行うことなどが重要なポイントになるでしょう。つまり、SXに取り組み企業価値を上げるためには、事業やビジネスモデルを強化し、企業として「稼ぐ力」を養い、市場における競争優位性を確保することも求められているのです。

リスクに対処できる経営を行う

SXにおける3つ目のポイントは、常にリスクを念頭に置いた経営を行うことです。現代は「VUCA」の時代とも呼ばれ、将来に対する不確実性が増しています。デジタル技術の発達や感染症の流行、国家間紛争や金融危機、自然災害など、企業や社会を取り巻く変化は計り知れません。また、こうした大きな変化が起きる傾向は今後も変わらないでしょう。

そのため、企業は予期せぬ変化やリスクに対し、状況に応じて的確に対処できるよう備えておく必要があるのです。例えば、テレワークといった働き方やシステム環境を整備したり、BCP(事業継続計画)対策を策定したりすることなどです。このように、SXの本質は企業と社会それぞれのサステナビリティを同期化し、投資家と対話することで、企業価値を高める営みと捉えられます。

【事例】SXに取り組んでいる企業

【事例】SXに取り組んでいる企業

SXで企業も社会も持続させる取り組みをしている企業が増えています。ここでは、SXに取り組んでいる3つの業界での事例を紹介します。

環境問題解決に取り組む農業の事例

持続可能な社会への転換を目指すSXの波が、農業分野にも大きな変革をもたらしています。

農地の状態や作物の生育状況をAIやIot技術を活用して詳細に把握し、最適なタイミングで必要な資材のみを投入することで、農薬や肥料の使用量を大幅に削減可能です。

また、太陽光発電や風力など再生可能エネルギーを農業に取り入れる社会のサステナビリティに力をいれる企業も増えています。

社会問題解決に取り組む医療業界の事例

医療業界でも、SXにより企業や社会の問題解決を目指すケースが増えています。

医療業界のSXの例としては、膨大な医療データをAIや機械学習で分析した診断のサポートです。

また、iPhoneや家庭に取り付けたカメラで、遠隔地から診療を可能にする機器も開発され、医療従事者だけでなく、患者の負担を軽減する取り組みも積極的に行われています。

IT業界の事例

IT業界でも、SXが重要な取り組みとなっています。AIやIoT、ビッグデータなどの技術を活用して、環境問題や社会課題の解決に貢献するソリューションやサービスを開発・提供しています。

例えば、スマートエネルギーやスマートシティ、災害対策、医療・介護、教育などの分野で、IT技術を活用したさまざまな取り組みが進んでいます。

まとめ

DXに取り組む企業が増える中で、社会の急激な変化に合わせてSXも重視されるようになっています。SXは、企業が将来にわたり安定した経営を行うため、社会のサステナビリティも重視し、投資家との対話を重ねてレジリエンスを高める戦略です。SXに取り組むことで、ステークホルダーから注目されたり、ブランディング強化に貢献したりできるメリットがあります。このようにSXは、経営強化のための重要な要素として、今後も位置付けられるでしょう。

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