近年、いじめ、不登校、学力低下といった問題に加え、経済格差や地域格差による教育格差が顕著になり、社会問題として深刻な状況を迎えています。
本記事では、教育格差の現状と原因、コロナ禍で露呈した課題、そして教育DXによる解決策、格差解消に向けた政府の施策などを詳しく解説します。
すべての子どもが質の高い教育を受けられる社会に向けて、私たち一人ひとりができることを考えていきましょう。
教育における社会問題とは?
教育格差とは、生まれ育った環境によって、受けられる教育の質や機会に差が生じる問題です。現代の日本では、塾や習い事などの学校外教育が盛んになっています。しかし、これらの教育にはお金がかかり、貧困層の家庭の子どもたちは十分な教育を受けられないことが現状です。
さらに、世界全体で見ると、貧困や教育環境の悪化などの理由で、学校に通えない子どもたちが数多く存在します。このように、本人の努力や能力とは関係なく、教育を受ける機会に差が生じることを教育格差と呼びます。
教育格差は、子どもたちの将来の選択肢を狭め、社会全体の活力を低下させるなど、深刻な問題です。全ての子どもたちが質の高い教育を受けられるよう、社会全体で取り組んでいくことが重要です。
生徒が抱える教育の問題4選
教育は、すべての子どもが将来の社会を担う人材として成長するために不可欠なものです。しかし、近年、以下の問題が社会問題として深刻化しています。
- いじめ
- 不登校
- 学力低下
- 教育格差
これらの問題について1つずつ詳しく解説します。
いじめ
ニュースやSNSでもたびたび取り上げられているように、いじめが社会問題となっています。いじめは、身体的暴力や言葉による暴力、SNSを使った誹謗中傷など、さまざまな形態で子どもたちを苦しめています。
文部科学省のデータによると、2022年度のいじめの認知件数は681,948件です。これは2014年度の約3.6倍で、特に小学校でのいじめの認知件数が大きく増加しています。
いじめの問題を解決するためには、学校や家庭、地域が連携し、早期発見・早期対応、再発防止に努めることが重要です。また、子どもたちの心のケアや、いじめの加害者への適切な指導も必要不可欠です。
参考:児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要(文部科学省)
不登校
不登校は、子どもたちがさまざまな理由で学校生活を拒否してしまう状態です。近年、不登校児童生徒数は増加傾向にあり、中には長期化してしまい、社会復帰が困難になるケースもあります。
文部科学省のデータで、小中学生の不登校児童・生徒は299,048人と発表されています。割合も小学生が1.7%、中学生が6.0%と増加傾向にあります。高等学校の不登校生徒の割合は、全体の約2%です。
不登校の原因としては、いじめや学業不振、家庭環境の問題、友達関係のトラブルなどさまざまですが、不登校の問題を解決するためには、子どもたちの心のケアや、個々の状況に合わせた学習支援、学校復帰に向けた支援などが重要です。
参考:児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要(文部科学省)
学力低下
国際学力調査の結果、日本の学力は近年低下傾向にあり、子どもの学力低下が社会問題となっています。特に数学や英語の分野で顕著です。学力低下には、さまざまな要因が考えられますが、主に以下の点が挙げられます。
- 教員の質の低下
- 学習指導内容の詰め込み
- 長時間労働による教員の負担教育を受ける機会や質に差が生じてしまう問題増加
- ICT教育の活用不足
学力低下は、子どもたちの将来の選択肢を狭め、国際競争力を低下させるなど、深刻な影響を与えます。学力低下を解決するためには、教員の質の向上、学習指導内容の改革、ICT教育の積極的な活用、家庭における学習環境の改善など、さまざまな取り組みが必要です。また、子どもたちの主体的な学習意欲を高めることも重要です。
教育格差
学力低下にも関連しますが、教育格差も社会問題となっています。教育格差とは、経済状況や地域、家庭環境によって、教育を受ける機会や質に差が生じてしまう問題です。
教育格差は、子どもたちの将来の選択肢を狭め、社会全体の活力を低下させるだけでなく、経済格差の拡大にもつながるなど、深刻な影響を与えます。
教育格差を解決するためには、幼児教育の無償化、学習支援の充実、教員の質の向上など、さまざまな施策が必要です。全ての子どもが質の高い教育を受けられるよう、社会全体で取り組んでいく必要があります。
社会問題となっている日本の教育格差の原因を解説
教育格差は、低所得世帯に生まれた子供は進学したいと思っても進学できないなど、人生の選択肢が極端に狭められることにもつながるため社会問題です。
では、なぜ教育格差が起こるのでしょうか。その主な3つの原因について解説します。
経済的な問題
日本の教育格差の大きな要因の1つ目は、経済的な問題です。貧困家庭の子どもは、塾や習い事などの教育費を払えず、学習機会が制限されてしまうことが多い傾向にあります。
貧困家庭では、子どもの学習環境が整っていない場合が多く、集中して勉強できる場所がない、学習教材が不足しているといった問題があります。さらに、アルバイトなどで家計を支える必要があり、勉強をする時間がないといったこともあるでしょう。そして十分な睡眠や食事が取れず、学習意欲が低下してしまうこともあります。
また、勉強をしてこなかった親は、教育の重要性を正しく理解していない場合もあり、その子どもも学習習慣が身に付きにくいという悪循環になっているケースも少なくありません。
地域的な問題
日本の教育格差は、地域によっても差が出ています。都市部と地方では、教育資源の格差が大きいのが現状です。
都市部には、優秀な教員や充実した教育施設が集まっており、子どもたちは質の高い教育を受けることができます。一方、地方では、教員の不足や教育施設の老朽化などが問題となっており、子どもたちは十分な教育を受けられない状況にあります。
また、都市部と地方では、塾へのアクセスのよさや家庭教師の指導を受けられる環境、地域の社会教育施設などの充実度が異なることも地域格差が広がっている原因です。このような地域的な格差も、教育格差拡大の原因の1つといえるでしょう。
社会制度の問題
日本の教育に関する社会制度も教育格差を生み出している原因の1つです。
他の先進国と比べると、日本は国が教育へ投資する割合が著しく少ないといわれています。実際に、文部科学省のデータで、義務教育前の就学前段階における家計負担割合は調査した24カ国の中で最も高い結果となっています。大学などの高等教育にかかる費用の家計負担割合も2番目に高い結果です。
日本の教育制度は、画一的な評価基準に基づいており、子どもたちの個性を十分に活かすことができていないことも問題視されています。変化が激しい現在の社会のニーズに十分に対応できていないという指摘もあります。このように、社会制度の問題も、教育格差拡大の原因の1つといえるでしょう。
コロナ禍で浮き彫りになった教育の課題とは?
2019年12月に、世界中で猛威をふるった新型コロナウイルスが初めて確認されました。コロナ禍により、学生は登校できない時期が続き、外出できない中での教育の課題も浮き彫りとなりました。
ここでは、コロナ禍で浮き彫りになった2つの課題について解説します。
積極的なICT活用ができていない点
コロナ禍において、多くの学校で臨時休校やオンライン授業が実施されました。しかし、日本の学校では、ICT環境の整備が遅れており、オンライン授業の質が十分に確保できなかったという課題が浮き彫りになりました。
特に、地方の学校や貧困家庭の子どもは、ICT機器やインターネット環境にアクセスできず、オンライン授業に参加できないケースが多くあったのです。
また、教員側も、ICT機器の操作に慣れておらず、オンライン授業を効果的に運営できなかったという点も問題です。
このように、コロナ禍によって、日本の教育におけるICT活用の遅れが深刻な課題であることが明らかになりました。
臨時休業時の学習指導や学習状況の把握
コロナ禍において、臨時休校期間が長期間にわたるケースがありました。しかし、多くの学校では、休校期間中の学習指導や学習状況の把握に十分に対応できませんでした。
特に、個別指導や学習支援が必要な子どもに対して、十分なサポートを提供できなかったという点が課題です。また、休校期間中に学習意欲が低下してしまう子どもも多く、その後の学習指導が困難になるという問題もあります。
このように、コロナ禍によって、臨時休業時の学習指導や学習状況の把握が重要な課題であることが明らかになりました。
教員の多忙化が教育における社会問題に
教育格差などで、生徒が十分な教育を受けられないことが社会問題となっていますが、教員にかかる負担が大きくなり多忙化していることも社会問題となっています。
ここからは、教員の負担が増加している問題について解説します。
教員の長時間労働が問題視されている
教員は公務員のため安定していてやりがいのある職種というイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。子どもと接することができるため、憧れの職業に挙げる方も一定数います。そんな教員ですが、長時間労働の実態が明らかになり、問題視されています。
厚生労働省が公表している過労死等防止対策白書によると、2021年度に教職員で労務災害と認定された件数が16件、そのうち死亡された方が5件です。他の職種と比べても、労務災害の割合が多く教師の多忙化の裏付けとなっています。
教員の多忙化は、子どもたちと向き合う時間が減ってしまうだけでなく、教員の健康問題やモチベーション低下にもつながり、教育の質の低下にもつながってしまうという問題があります。
給特法により残業代がゼロに
文部科学省の調査によると、公立学校の教員の平均年間勤務時間は週あたり約50時間前後となっています。
民間企業でも週50時間以上の勤務をしている企業はあります。民間企業と異なる点は、給特法によって残業代が支払われない点です。
給特法は、教職調整額として、給与の4%を給与に上乗せして支払うことを定め、そのかわりに休日勤務分の給料や残業代は支給しないこととした法律です。1972年に施行されています。
授業の準備や部活動への参加・付き添い、行事の準備など、教員は長時間労働を余儀なくされており、残業代が支払われない状況は大きな問題となっています。
教員の多忙化を解決する方法
教員の不足は、多忙化の大きな要因の1つです。教員の配置・定数を適正化し、1人当たりに必要な業務量を減らすことが必要です。
教員は、授業以外にも膨大な事務作業に追われています。事務作業の削減・効率化を進め、教員の負担を軽減する必要があります。具体的には、ICTを活用した事務処理の導入や、民間企業への事務の一部委託などが考えられます。
また、給特法も教員の長時間労働を助長しているとして、給特法を廃止する動きが活発になっています。実際に、給特法廃止を求める18万人の署名が文部科学省に提出されました。
教育社会問題を解決に導く教育DXの例
教育DXとは、デジタル技術を活用して教育現場の課題を解決していく取り組みです。
近年、教育現場におけるさまざまな問題を解決するために、教育DXが注目されています。ここからは教育DXの具体例を紹介します。
VRゴーグル
教育DXの具体例1つ目は、VRゴーグルの活用です。歴史上の人物になりきって当時の様子を体感したり、地球の裏側にある場所を訪れたり、人体の中を旅したりするなど、現実では体験することが難しい疑似体験が可能です。
理科の授業では、危険度の高い実験も仮想空間で体験することで、安全に実施する取り組みを行う学校も存在します。また、防災訓練の疑似体験に利用するなどの活用も進んでいます。
連絡帳アプリ
2つ目の教育DXの活用事例は、リアルタイムでの情報共有や便利な機能が魅力の「連絡帳アプリ」です。
保護者がアプリで簡単に遅刻・欠席を連絡できます。担任の先生はすぐに出欠の確認ができ、保護者も電話による個別連絡の必要がありません。
また、地震や台風などの災害発生時、プッシュ通知機能で、学校から保護者へ迅速かつ確実に状況を共有できます。
このように、先生、保護者ともに利便性や効率性が上がる連絡帳アプリが注目を集めています。
黒板アプリ
黒板アプリも教育DXの事例として注目されています。黒板アプリとは、スマホ、タブレット、PCにインストールし、プロジェクターを使って、黒板に画面を投影するためのアプリです。
従来の黒板では、表現が難しかった図や表、絵や画像を簡単に表現できるため、授業の幅が広がるとして注目されています。
作成した内容を画像やPDFファイルとして保存したり、印刷したり、配布資料や復習用資料としても活用できます。
いじめ相談アプリ
4つ目の教育DXの事例は、いじめ相談アプリです。近年いじめが陰湿化しており、いじめを受けていても親や先生に相談できない生徒が多くいます。この問題を解決するために開発されたアプリがいじめ相談アプリです。
匿名で、いじめの報告や相談ができたり、チャット形式で気軽に相談できるため、増加傾向にあるいじめを減らすツールとして注目されています。いじめ相談アプリは、いじめ問題の早期発見・早期解決に役立つでしょう。
教育格差解消のための施策とは
教育格差は、子どもたちの将来の選択肢を狭め、社会全体の活力を低下させるなど、深刻な影響を与えます。教育格差を解消するためには、さまざまな施策が必要です。ここでは、代表的な施策とその内容をご紹介します。
幼児教育の無償化
幼児教育は、子どもの脳の発達や言語能力の形成に重要な役割を果たします。しかし、経済的な理由で幼児教育を受けられない子どもが多く存在します。
幼児教育の無償化は、経済状況に関係なく、全ての子どもが質の高い幼児教育を受けられるようにするための施策です。具体的には、3歳から5歳までの全ての幼児に対して、幼稚園や保育所の保育料を無料にするものです。
幼児教育の無償化は、教育格差の是正だけでなく、子どもの健やかな成長や社会全体の活性化にもつながることが期待されています。
高等学校等就学支援金制度の創設
高等学校等就学支援金制度は、経済的な理由で高等学校等に進学することが困難な子どもに対して、学費や生活費を支援する制度です。
具体的には、所得制限を設け、一定の基準を満たす子どもに対して、年間最大31万円の支援金が支給されます。高等学校等就学支援金制度は、経済的な理由で高等学校等に進学をあきらめていた子どもが、安心して学業に専念できるようにするための施策です。この制度により、高等進学率の向上や教育格差の是正が期待されています。
放課後子ども教室
放課後子ども教室は、放課後に小学校の校舎等を利用して、子どもたちに学習支援や体験活動などを提供する事業です。
放課後子ども教室は、経済的な理由で塾や習い事に行くことができない子どもたちに対して、学習機会を提供するための施策です。具体的には、地域のボランティアや教員が講師を務め、学習指導や工作、スポーツなどの体験活動などを実施しています。
放課後子ども教室は、子どもたちの学習意欲を高め、健全な成長を促進するための効果が期待されています。
学校外教育バウチャー
学校外教育バウチャーは、子どもたちが民間教育機関の教育サービスを利用できるようにするための制度です。
具体的には、一定の所得制限を設け、一定の基準を満たす子どもに対して、教育サービスの利用に使えるクーポン券を配布します。学校外教育バウチャーは、子どもたちの学習機会を拡大し、教育の質を高めるための施策です。
この制度により、子どもたちは自分の興味や能力に合った教育サービスを選択できるようになり、より個別のニーズに合わせた教育を受けることが可能になります。
まとめ
いじめや不登校など子どもの教育課題や先生の多忙化による問題など、日本の教育課題は大きな社会問題となっています。
その原因は複雑かつ多様であり、家庭環境、地域格差、学校教育の課題など、さまざまな側面から解決に向けた取り組みが必要です。この記事で紹介した教育DXの事例を参考にするなど、IT技術を取り入れた改革も求められています。
教育に関する社会問題を解決するためには、一人ひとりが問題意識を持ち、小さなことからでも行動を起こすことが重要となります。