医療・製薬

創薬とは?仕事の流れについて知っておきたいポイント

私たちは、病気や怪我などになったときには病院で診査を受け、その後は症状に見合った薬が処方されます。普段、何気なく服用している薬は、実は非常に長い年月をかけて研究・開発されたものばかりであり、そうした薬を作り出すことを「創薬(そうやく)」とよびます。

製薬会社は、病気や怪我等に対して有効な薬の開発を日夜続けており、その賜物こその薬と言えます。本稿では、創薬とは具体的にどういった過程で実施されるものなのか?普段はあって当たり前と意識することのない薬ができるまでのプロセスをご紹介したいと思います。

創薬とは?仕事の流れについて知っておきたいポイント

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新薬ができるまでのプロセス

創薬は大きく分けて5つのプロセスから成り立っています。①基礎研究、②非臨床試験、③臨床試験、④承認申請と審査、そして⑤認可と発売です。それぞれのプロセスにおいて、具体的に何が行われているのかを見ていきましょう。

①基礎研究

次のプロセスまでの期間:2~3年以上

新薬の開発は、病気や怪我などの疾病に対して有効な成分の発見から始まります。植物/動物/微生物などから抽出した自然由来の成分、合成成分、バイオテクノロジーに基づいた技術、ゲノム情報などあらゆる科学技術が集結して有効な対策のための研究が進められます。数年で研究が終わることは稀でずっと研究が行われているという実態もあります。

②非臨床試験

次のプロセスまでの期間:2~6年

病気や怪我などの疾病に対して有効と考えられる成分を対象に、動物実験や培養細胞を用いてその有効性と安全性を確かめていきます。さらに、当該成分を吸収/分布/代謝/排泄する過程を観察したり、品質や安定性を確認するための試験を同時に実施します。

③臨床試験

次のプロセスまでの期間:2~8年

非臨床研究をクリアした成分(新薬の候補)は、人間に対して安全か、そして実際に効果があるかどうかを研究するのが臨床試験です。臨床試験では3つのフェーズに分かれて、段階的に実施されます。また、実際に人間が研究対象となるため医療機関や試験対象となる人の同意を得た上で実施されます。

  • フェーズ1.
    少数の健康な人を対象に副作用などの安全性を確認する。
  • フェーズ2.
    少数の患者を対象に成分の有効性、安全な投薬量、最適な投薬方法を確認する。
  • フェーズ3.
    多数の患者を対象に、有効性と安全性について既存薬との比較を行いながら確認する。

④承認申請と審査

次のプロセスまでの期間:1年

臨床試験において有効性や安全性、そして品質が認められた成分(新薬)は、日本国内においては厚生労働省に承認の申請を行います。医薬品医療機器総合機構および学識経験者にてこれを精査し、薬事・食品衛生審議会の審査を受けます。

⑤認可と発売

以上のプロセスを経て認可が下りると初めて薬として製造・販売ができるようになります。医療用医薬品の品目と価格については、薬価基準制度に基づいて厚生労働省が決定します。

このように、創薬は多くの月日を費やすことになるので、私たちが今服用している薬は長い年限をかけて有効性と安全性、そして品質が保証された薬となっているのです。また、薬は「発売して終わり」ではなく、その後も継続的に調査・評価を繰り返して有効かつ安全な服用方法に関する情報を更新していきます。これらのプロセスは「育薬」と呼び、継続的に薬を育成していくという意味です。

薬の種類

上記で創薬のプロセスについて説明しましたが、私たちが服用する薬にはいろいろな種類があります。創薬は薬の種類によって若干プロセスが異なるので、一様に上記のようなプロセスを辿っているわけではありません。では、一般的にはあまり知られていない薬の種類についてご説明します。

ゲノム創薬

「ゲノム」という言葉は耳にしたことがあるという方が多いでしょう。これは遺伝子を意味する「Gene」とラテン語で全体を意味する「Ome」を掛け合わせて作られた言葉であり、生物が正常な生命活動を営むために必要な最小限の遺伝子群を含む染色体の1組を意味します。

ゲノム創薬とは、ヒトゲノム(人間のゲノム=人が持つ全ての遺伝子)情報をコンピューターによって解析し、病気や病態に効果を示す新しい有効成分(新薬)を論理的に研究開発する創薬の方法です。

人間はヒトゲノム情報によってそれぞれ個性があります。つまり、全く同じ食事をして全く同じ行動をしても、健康状態を維持する人もいれば病気になる人もいます。薬においても同様に考えられ、同じ薬を服用しても高い効果が得られる人もいれば、そうでない人もいるのです。

全ての人間が異なる遺伝子配列を持っており、そのわずかな違いから差異を読み取りながら解析し、それがもたらす大切や病気発症のメカニズムを理解することでヒトゲノム情報を活用した新薬を作り出すアプローチがゲノム創薬なのです。

抗体医薬

人間には様々な免疫力が備わっており、外部から体内に侵入したウイルスはその免疫力(抗体)によって死滅させられます。また、免疫力が備わっているからこそアレルギー症状を発するのも事実です。抗体医薬とは人間が持つ免疫力を活用し、特定の細胞や組織を認識して活性を示す抗体を投与するか、体内で大量に発生させることで病気の症状を抑制することも目的として薬のことです。

免疫力のメカニズムは、体内に侵入した抗原(ウイルスや花粉など)に結合して抗原の作用を抑えるタンパク質により、特製の細胞や組織だけに働きます。例えば癌細胞の増殖を抑制する抗体医薬は、患部において死滅したい細胞だけを、その細胞が有する抗原に対応する抗体を使用してピンポイントに治療します。

分子標的薬

一般的な薬というのは、正常な細胞に対しても作用してしまうデメリットがあります。例えば風邪を引いて熱を出してもすぐに解熱剤を飲んではいけないのは、抗原と戦っている抗体の働きを鈍くしないためです。分子標的薬は特定の細胞にのみ作用する新しい薬のことであり、「ターゲット・ベースド・ドラッグ」とも呼ばれています。

分子標的の意味は、人間の細胞表面にあるタンパク質や、細胞内の遺伝子によってターゲットを見極めて作用することです。分子標的薬は癌治療の分野で有効視されており、正常な細胞を攻撃してしまう抗がん剤治療による重篤な副作用を抑制できると期待されています。

以上のように薬にはいろいろな種類があり、創薬の細かいプロセスは種類ごとに異なります。医学は日進月歩で進化していますが、現代社会で発生し得る病気に対して万能なわけはありません。しかし新薬メーカーの努力により、すでに多くの疾患を防ぎ、進行を抑止する薬が次々に登場しています。

創薬とICTの繋がり

現代の創薬技術を根底から支えているのがICT(情報通信技術)です。例えば、三井情報株式会社(MKI)では「MKI-DryLab for Microsoft Azure」というソリューションによって、MKIがこれまで培ってきたバイオサイエンスのナレッジ(知識体系)とICTを駆使した創薬支援サービスを展開しており、新薬の双手にかかる時間とコストを最小限に抑えることに貢献しています。

こうしたICTの存在が医学の未来を作り、今まで不可能だったことを可能にするためのスピードを飛躍的に高めています。創薬によって病気や怪我、精神疾患を治癒するための薬は、薬品メーカーの努力、研究者の情熱、医療機関や患者の協力、そしてICTが根底にあることをぜひ覚えておいていただきたいと思います。

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