近年、人工知能の研究領域が加速度的な発展を遂げており、AI技術を事業領域に導入する企業が増加傾向にあります。AIをビジネスシーンで戦略的に活用するためには、機械学習の基本や活用事例を学ぶことが大切です。本記事では、AIと機械学習の違いについて解説するとともに、機械学習の方法や事業領域における活用事例をご紹介します。
AIと機械学習の違いとは
「AI」とは「Artificial Intelligence(アーティフィシャル・インテリジェンス)」の頭文字をとった略称で、日本語では「人工知能」と訳される技術です。人工知能という概念が世に広まったのは半世紀以上前のことであり、1956年に開催されたダートマス会議で計算機科学者のジョン・マッカーシー氏によって提唱されました。一般社団法人 人工知能学会では、同氏が提唱するAIの定義を「知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術(※)」と訳しています。
AI技術の目的は言語理解や判断、認識、推論など、人間がもつ知的能力をコンピューティング環境で再現することです。そして、人間が備える学習能力や創造力をコンピュータ上で再現するためには、計算機科学上のモデルが必要であり、そのひとつが「機械学習(英:Machine Learning)」です。機械学習はその名の通り、定義されたデータの傾向やパターンを学習し、アルゴリズムに基づいて事象を法則化する技術を指します。
さらに、機械学習にはさまざまなアルゴリズムが存在しており、代表的な数学的モデルとして挙げられるのが「ニューラルネットワーク(英:Neural Network)」や「深層学習(英:Deep Learning)」です。これらの関係性は「AI」>「機械学習」>「ニューラルネットワーク」>「深層学習」という構造で成り立っています。つまり、人工知能研究には「AI」という最も包括的な枠組みが存在し、それを実現する代表的な数学的モデルのひとつに「機械学習」があるという関係性です。
(※)引用元:人工知能のFAQ|一般社団法人 人工知能学会
機械学習の方法
機械学習は、コンピュータに取り込んだ膨大なデータ群から法則性や規則性を導き出し、そこから得た知見を市場予測や需要分析、不良品検知、設備保全などに用いる技術です。そして、データ群からパターンやルールを発見する方法は、「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」の3つに分類されます。
教師あり学習
「教師あり学習」は、特徴量と模範解答を与えた状態で学習させる手法です。「教師」とは「正解となるデータ」を指し、模範解答を参照しながらデータの正当性を学習させることで、AIモデルを構築します。代表的なアプローチとして挙げられるのが「分類問題」です。たとえば、男性と女性の画像データを与え、それを「教師」と定義し学習することで、コンピュータが男女を自動的に分類します。
また、「回帰問題」も教師あり学習が得意とするアプローチです。回帰問題とは、連続値を用いてある数値から別の数値を予測する問題を指し、過去の売上データから将来の売上を予測する、といった領域で活用されます。教師あり学習は学習の精度・速度ともに優れていますが、未知の事象や正解が存在しない分野には対処できず、正解となるデータの品質に処理精度が大きく左右されます。
教師なし学習
「教師なし学習」は、正解のない入力データのみを与え、特徴量から法則性や規則性を学習する手法です。正解となるデータが存在しないため、教師あり学習のように分類問題や回帰問題には対応できません。教師なし学習が得意とするのは、データ間の類似性によって対象をグループ分けする「クラスタリング」や、多次元からなるデータセットを要約・縮約する「次元削減」などの領域です。
たとえば、マーケティング戦略では顧客の属性に基づき、市場をセグメンテーションするプロセスが非常に重要です。教師なし学習は、正解のないデータから内在する類似性や規則性などを見つけ出し、対象のグルーピングやセグメンテーションを可能にします。ただし、人間では想定できない分類方法を発見できる可能性があるものの、学習精度がコンピュータに依存するため、分析精度を担保できない点がデメリットです。
強化学習
「強化学習」は、置かれた環境のなかでコンピュータが自律的に試行錯誤を繰り返し、最適解を学習していく手法です。コンピュータが何らかの選択をした場合、その行動に対する評価を与えることで、スコアを最大化するための行動を学習していきます。強化学習を用いたAI技術の代表例としてはボードゲームの分野が挙げられ、コンピュータ囲碁プログラムの「Alpha Go」も強化学習を採用しています。
囲碁では次の一手を考える場合、妙手か悪手かを判断するのはプロ棋士でも容易ではありません。そのため、すべての盤面における最適手を人間が「教師」として提示し、学習させるのは困難を極めます。強化学習は、盤面における勝敗をスコアとして設定することで、勝利につながる打ち手を学習し続けることが可能です。すでに将棋や囲碁の世界ではAIがプロ棋士を凌駕する場面もあり、さまざまな分野に応用できる機械学習モデルとして大きな注目を集めています。
ビジネスにおけるAIや機械学習の活用例
ここからは、事業領域におけるAI技術の活用例をご紹介します。AIや機械学習をビジネスシーンで活用する具体的な方法として挙げられるのが、以下の3つです。
- 売り上げやニーズの予測
- 画像データを分類し人や文字、異常を検知
- 運転やクレーム対応の自動化
売り上げやニーズの予測
ビジネスシーンにおけるAI技術の代表的な活用法は、売上予測や需要予測の分野です。AIは複雑な情報処理を得意としており、膨大な市場データから規則性や相関関係などを導き出します。たとえば、過去の売上推移から需要を予測する「移動平均法」や、時系列データから将来値を予測する「指数平滑法」などの手法を活用し、AIがプロダクトの売上や市場のニーズを多角的に分析します。それにより、在庫ロスの軽減や予測誤差の最小化、受発注業務の効率化などにつながるため、組織全体における生産性の向上が期待できます。
画像データを分類し人や文字、異常を検知
近年、AI技術の積極的な活用を推進しているのが製造分野です。製造業では工作機械や駆動装置などの稼働状況を常に管理・監視し、異常が発見されれば迅速かつ的確に対処しなくてはなりません。機械学習モデルを用いたAIが生産設備の健全な稼働状況を学習することで、機械の異常や装置の異変などを自動的に検知します。
また、AIによる画像分析は、医療分野における疾患を発見する手段としても注目されており、病気の早期発見や最適な治療法の確立といった領域での活用が進みつつあります。
運転やクレーム対応の自動化
AI技術の導入によって大きな変革を期待されているのが、自動運転技術の領域です。区画線をはみ出した車体を横方向に制御する、前方の信号機が赤であれば自律的に減速・停止するなど、自動運転の実用化に欠かせない技術として注目を集めています。
また、コールセンターの業務領域でもAIの導入が進んでおり、通話記録のテキスト化や自動要約、クレーム対応の自動化などに活用されています。これにより、オペレーターの業務負担を大幅に軽減しつつ、応対品質や顧客満足度の向上が可能です。
まとめ
「AI」とは、人間がもつ知的能力をコンピューティング環境で再現する技術であり、その数学的モデルのひとつが「機械学習」です。AI技術や機械学習はさまざまな分野に応用が利き、これらを事業領域に用いることで、人間を遥かに凌駕する高精度な売上予測や需要分析が実現します。競合他社にはない市場価値を創出するためにも、ぜひAIの戦略的な活用に取り組んでみてください。