昨今では、AI技術を現場に取り入れる製造業者も少なくありません。本記事では、そうしたAIの要となっている「機械学習」についてまとめます。特に製造業での異常検知システムにおける、AI利用を念頭に置き、代表的な機械学習の種類・特徴・メリットなどを解説しています。製造業経営者・現場責任者の方などは、ぜひご参照ください。
近年普及している機械学習とは?
近年、ビッグデータ活用などによって実現してきた機械学習によって、AIはさらなる進化を遂げています。特に製造業では、この機械学習を搭載したAIを異常検知システムに役立てることで、大きな成果を出しているのです。こうした機械学習の特徴を押さえ、適切に導入していくことで、製造業の現場を現代的に効率化していくことが可能となります。
機械学習とは、多くのデータを入力されたAIが、そうしたデータの背後にある本質的なパターンを自分で見つけ出せるようになっていく仕組みです。具体的には、次のように利用されます。
例えば製造業では、同一の製品を大量に製造します。それら製品同士は厳密に見れば、ごく微量に誤差があります。「その誤差が無視できないほど大きい製品」が、すなわち不良品です。機械学習では、こうした不良品を含む大量の製品について、その情報を「教材」としてAIに読み込ませます。するとAIは、「どのくらい大きな誤差のある製品なら、不良品としてラインから弾き出す必要があるのか」を自動で学習します。
こうして、AIに自動で正常な製品と不良品を見分けられるようにする仕組みを、機械学習と呼んでいます。このような学習済AIを製造現場に導入すれば、製品の出荷前チェックや、製造ラインでの状態チェックなどから、人間の労働力を解放することができるのです。そのため従業員の負担は大幅に軽減されるでしょう。その分、人間でなくては不可能な業務内容に注力してもらうことにつがなり、業務の流れ全般がスムーズになっていくと期待されるのです。
機械学習による異常検知のメリット
先述のような機械学習による異常検知システムが実現されることで、製造業にもたらされるメリットについて、具体的にみていきましょう。
属人性を排除できる
人間の従業員が行う異常検知では、肉眼や皮膚感覚によって不良品を見抜く能力が非常に重要です。それと併せて特定の計器や機器を用いるにせよ、そうした検知スキルは、一種の職人技のように、個人に蓄積される能力と見なせるでしょう。つまり、そのスキルを長年培った担当者以外に、そうした検知業務をこなせる従業員を見つけたり育てたりすることは非常に困難なのです。結果、「特定の検知業務が、特定のごくわずかな個人しかこなせなくなってしまう」という状況に陥りやすくなります。
機械学習による異常検知が実現すれば、こうした属人性を現場から排除できます。新規人材探しや、教育コストなども削減されるでしょう。
業務効率化ができる
従業員たちは、属人性の排除された環境で、最低限の作業で異常検知業務をこなすことができるようになります。
AIは可視的・数値的な基準に則って異常検知業務を実行します。また機械学習の効果として、AIは人間には不可能なほど精密な検知を、素早く行ってくれるのです。従業員たちは、そうした明確なAIの動きを補佐することで、精密な検知業務を遂行していけます。自分の肉眼などの感覚によってそうした検知を行うには、大きな心理的負担もかかるでしょう。AI導入によって、そうした負担から従業員たちを解放しつつ、検知時間自体の削減にもなります。
ランニングコスト削減につながる
機械学習によって、人の手は必要とせずに、自動で検知業務が遂行されるようになります。このため、検知専用の担当者を雇用したり教育したりすることなく、高度な検知レベルを維持することが可能です。つまり、異常検知に関するランニングコストを大幅に削減できるのです。
こうして削減されたコストは、職場環境をさらに改善したり、新たなビジネスチャンス開拓を試みたり、さまざまな可能性へ使用していけるでしょう。
機械学習による異常検知の種類
一般に「機械学習」と呼ばれている仕組みには、いくつかの分類が存在します。ここでは、代表的な種類について紹介します。
教師あり・なし学習
特に「教師あり・なし」学習として、機械学習は大別できます。
教師ありの場合は、まずは正解データ、つまり正常な製品のデータをAIに与えます。AIは、そのデータからパターンを学習し、分析モデルを導きます。その分析モデルを軸とすることで、「正常か不良品かわからない」製品データについても、どちらなのか自分で判断可能な状態になるのです。正解の基準があらかじめ明確なため学習精度は高く、質の高い正解データを大量に用意できていれば、比較的早く学習が完了します。
現在単に「機械学習」と言われる場合はこの方式を指していることが多いので、「AIの基本的な学習形式」と理解しておいて差し支えありません。
教師なしの場合は、正常・不良品かをあらかじめ決めずに、それらが不明なデータを大量にAIへ与えます。AIは、それらデータに共通する構造や特徴といったものを自分で分析し、グループ分けを行います。これによって、次から新たに取り込んだ製品データについて、「それが正常なグループに振り分けられる製品か、そうでない不良品として弾かれるべきか」を判断できるようになるのです。
人間が「正解」の基準を設けることなく学習を開始できる点は、教師なし学習の利点と言えるでしょう。また「正解が不明」な状況において利用価値の高い方法です。例えば、試験的な製品などのデータについて既存製品と比較してパターン化することで、理想的な状態を探っていくときなどでも、真価を発揮してくれるでしょう。
異常部位検知
次に、検知方法について、代表的な3種類の方法を紹介します。まずは、異常部位探知と呼ばれるものです。あるデータの中で、異常をきたしている箇所を検出します。
AIは特定のデータを観測する際、大量の他データと比べて当然予測されるべき状態やパターンと比較しています。そうした中でもし、特定のデータについて「予期される状態から明らかに逸脱している箇所」を見つければ、それを異常部位として抜き出して報告するのです。
単に不良品として製品が弾かれるだけではなく、正常な製品と比べて「どこがどう異常なのか」が可視化されるため、今後の改善などにも役立ちます。
変化点検知・外れ値検知
変化点探知とは、データ内で何らかの急激な変化が生じている箇所を検出する方法です。例えば、時間軸に沿って特定のデータを分析しているとき、特定の期間に数値が急激に変移している箇所などがあれば、その契機となった時点を特定しつつ検出します。
外れ値探知とは、データ内で普段は生じることのない変化が生じたときに、その箇所を検出する方法です。大量のデータと比較して「予測されるよりも大きな変化」や「予測とは異なる傾向への変化」などが生じているとき、それを検出します。
これらによって、何かイレギュラーな事態が生じたときには、そのきっかけになった時間・時期を特定しつつ、異常を確認できるようになります。
製造業では画像による探知も有効
最近では、「ディープラーニング」と呼ばれる高度な機械学習も一般化してきています。これにより、画像を利用した異常探知も現場で実現するようになってきました。代表的な例は、「ライン上で順次製造されていく製品をカメラで監視し、その画像を資料として異常検知を遂行するシステム」です。先述してきたようなさまざまな学習方法・探知方法でも、こうした画像データを利用できるようになったことで、今日の製造業現場でのAI導入はますます盛んに進行しているのです。
まとめ
今日機械学習の技術が進化したことで、製造業現場でも積極的にAI導入が進んでいます。その代表的な例として、本記事では異常検知システムについて紹介しました。
画像を資料データとして利用するシステムも含め、機械学習をうまく役立てることで、従業員たちは少ない労働量で、より正確な異常検知業務を遂行可能となっていきます。現場における労働力不足や、属人化の回避などに関心があるなら、ぜひ一度、機械学習・AIを導入する道も検討してみてください。