製造業においてスマートファクトリーの流れが加速するなか、さまざまな作業を自動化し、効率や生産性の向上を実現する産業用ロボットへの注目が高まっています。用途によって適した製品が異なるため、導入を検討する際には産業用ロボットに関する理解が欠かせません。本記事では、産業用ロボットの概要や特徴、市場などについて紹介します。
産業用ロボットの定義とは?
産業用ロボットは、日本工業規格において次のように定義されています。「自動制御され、再プログラム可能で、多目的なマニピュレータであり、3軸以上でプログラム可能で、1か所に固定して又は移動機能をもって、産業自動化の用途に用いられるロボット。」
(引用元:https://kikakurui.com/b0/B0134-2015-01.html)
軸とは人間でいう関節部分のことで、マニピュレータとは腕の部分です。つまり産業用途に使われる、プログラムで制御でき、3つ以上の関節を曲げられる、腕のような機械が産業用ロボットということになります。
産業用ロボットは、特定の用途に特化しているのではなく汎用性が高いのが特徴です。専用機と比較すると精度や速度が劣る場合もありますが、専用機よりも低コストでの導入が可能です。
作業者の安全確保、ヒューマンエラーの防止、衛生面の改善といったメリットを持ちます。自動車の組み立てや金属の溶接、マテリアルハンドリング(製品の運搬管理)、電子電気機械の製造など工程の自動化用途などに利用されています。
それに加えて日本では、ベテランのノウハウや技術が途絶えてしまう技術継承問題が大きな課題になっています。その解決手段のひとつとしても、産業用ロボットは活用が期待されています。
産業用ロボットの種類と特徴
産業用ロボットは、軸の数や動く方向の違いによって「水平多関節ロボット(スカラロボット)」「垂直多関節ロボット」「直交ロボット」「パラレルリンクロボット」という4種類に分類することが可能です。それぞれ特徴が異なるため、目的や用途によって使い分けられています。
たとえばある印刷会社では、ダイレクトメールの製造過程において、作業員が手作業で加工を行った後に印刷物を箱に詰めていました。しかし、品質にバラツキがあるなどの課題があったため、印刷物の加工機と垂直多関節ロボットを組み合わせて導入し、作業員の負担軽減や生産性向上を実現しました。ポイントは他の機械と組み合わせたり、複数のロボットを組み合わせることです。専用機のようにニーズにぴったりとマッチすることは不可能ですが、組み合わせることでニーズに合致するようになります。
導入する際には、事前に下記のような種類ごとの特徴を踏まえることが重要です。そのうえで、制御方法や可搬重量、サイズ、コストなどを加味して、比較・検討するとよいでしょう。
組み立て作業が得意:水平多関節ロボット(スカラロボット)
水平多関節ロボットは、アームが水平に移動するタイプの産業用ロボットです。水平方向の動きに優れており、また4軸で上下方向にも動けるため、組み立てや部品の押し込み作業などに利用されています。英名「Selective Compliance Assembly Robot Arm」の頭文字を取って「スカラ(SCARA)ロボット」とも呼ばれています。
塗装・溶接作業が得意:垂直多関節ロボット
垂直多関節ロボットは、人間の腕のような動きをするタイプのロボットです。遠くまで届き、角度も変えられるため自由度・汎用性が高く、4種類の中でもっとも普及しています。
現在の主流は6軸で、組み立てや溶接、塗装などに利用されています。また、スペースが限られていても利用できるため、物流拠点・部品加工工場などでも活用されています。
部品の組み立てや搬送に使われる:直交ロボット
直交ロボットは、直線的な動きを得意とし、3方向に移動できるタイプのロボットです。「ガントリーロボット」とも呼ばれ、搬送などで利用されています。
単純構造なのが特徴で設計の自由度も高く、低コストで導入できるというメリットがあります。旋回などの複雑な動きができない分、1~6軸と用途によって軸数を増加でき、広範囲に動作することも可能です。また、垂直多関節ロボットなど他のロボットと組み合わせてひとつのコントローラーで制御できるのが強みです。
流れてくる部品や製品を運搬する:パラレルリンクロボット
パラレルリンクロボットは、並列の関節を複数持つタイプのロボットです。クレーンゲームのクレーンのような見た目で、垂直多関節ロボットのような自由度はなく稼働範囲は狭いものの、精度が高く加速度・出力が大きいのが特徴です。部品のピック&プレースや仕分け作業、食品加工などに利用されています。
産業用ロボット業界の特徴
様々な製品がある産業用ロボットですが、世界的な市場感や日本企業の位置づけはどのようなものなのでしょうか。産業用ロボットを操るための資格なども紹介するので、導入時の参考にしてください。
日本企業が世界的に強い
産業用ロボットに関しては、ファナック、川崎重工業、安川電機などが世界的に知られており、日本製品が世界的に高いシェアを占めています。世界の産業用ロボットの約半分を日本製品が占めており、「日本は世界最大のロボットメーカー」とも表現されるほどです。
後述するような産業用ロボットニーズの世界的な高まりを背景に、2021年の国内メーカー受注は対前年比で40%以上増加するなど順調に伸びています。
市場が継続的に拡大している
ドイツが掲げる「インダストリー4.0」や中国が提唱する「中国製造2025」などの政策からもうかがえるように、ファクトリーオートメーションやスマートファクトリーの流れは世界的に加速しています。2020年時点で世界では300万台以上の産業用ロボットが稼働しており、中国を筆頭に日本、韓国、アメリカなど世界各国で利用されている状況です。
一時期新型コロナウイルス感染症などの影響を受けたものの、産業用ロボット市場は全体的に堅調です。国際ロボット連盟は、2024年には出荷台数が2020年と比較して35%増加すると予測しています。
近年、産業用ロボットはIoTやAIを組み込んだ高度な製品が開発されています。ロボットに内蔵されたセンサーからデータを取得しAIで分析することで、稼働率改善や故障検知が可能になるほか、製造業以外の他業界でも産業用ロボットの導入が進むなど、将来的にはより幅広い作業での活用が期待されています。加えてこれから自動化が進む東南アジア市場では、2桁の成長率をとげると予想されています。
産業用ロボットを操るには資格が必要
産業用ロボットは、電気機械、自動車、機械など幅広い業種で利用が進んでいます。これら産業用ロボットは誰でも操作できるわけではなく、国が定めた特別教育を受け資格を取得した作業員のみが操作できます。
これは労働安全衛生規則(第36条第31号、第32号)で規定されているもので、ロボットのティーチングなどといった操作や点検を行う作業員は、安全のための特別教育を行う義務があるとされています。
主要ロボットメーカーや各地にあるロボットセンターで教育を行っており、ロボットの操作方法や法規則などを含む専門プログラムを修了すると資格が取得できます。操作を誤ると大きな事故につながる危険もあるため、このような専門教育の受講が不可欠です。
なお、人間と共に働くことを想定して開発されている協働ロボットなど出力が小さい(80W未満)ロボットに関しては、特別教育は不要です。
まとめ
産業用ロボットは人手不足解消、安全で衛生的な職場環境、高度な生産体制を実現するために不可欠な技術です。近年ではAIやIoTとの連携により自動搬送や高度なピッキングなど、活用範囲が広がっています。製造業だけでなく多様な企業にとって、競争力を高める有効な手段としての可能性を持っています。