ドイツ政府主導のもとインダストリー4.0が提唱され、製造業は大きな転換期を迎えています。インダストリー4.0とは、第4次産業革命の実現を目指す取り組みの1つで、その要となるのがモノとインターネットをつなぐ「IoT」の活用です。本記事は製造業の課題について考察するとともに、IoTの役割や導入事例などを紹介します。
製造業に関わる悩み
日本国内における製造業は昨今、さまざまな課題や問題を抱えています。かつて日本は「貿易大国」と「ものづくり大国」という2つの顔を持っており、工業用の原料や資源などを輸入し、それらを製品化して輸出することで経済的な発展を遂げました。エネルギー自給率が低い国でありながら、「貿易」と「ものづくり」によって、1968年から42年間に渡って世界第2位のGDP(国内総生産)を誇っていたのです。
しかしながら、2010年にGDPで中国に追い越され、2011年には31年ぶりに貿易収支が赤字となりました。そして、同時にものづくり大国と呼ばれた日本の主力分野である製造業の成長にも減速の兆しが見えはじめます。
その背景にあるのは、人口の減少や高齢化率の上昇などによる人材不足の深刻化です。現在、日本の総人口は2008年の1億2,808万人をピークに下降の一途を辿っており、さらに2021年9月に総務省が公表した調査によると、総人口に占める高齢化率の割合は29.1%と過去最高を記録しています。
このような社会的背景も相まって、いま日本国内におけるさまざまな産業で人材不足が深刻化しているのが実情です。特に製造業の人材不足は深刻で、経済産業省が発行した「2020年版ものづくり白書」によると、製造業を営む多くの企業が重要な経営課題として「人手不足」を挙げています。また、製造業界では若年層の入職者が減少しており、就業者の高齢化が進みつつある点も無視できない問題です。こうしたさまざまな課題や問題が重なり、いま製造業では生産体制や労働環境の抜本的な改革が求められています。
製造現場で効率化を担うIoTとは?
労働人口の減少や就業者の高齢化といったさまざまな課題を抱えている製造業ですが、実は将来的にもっとも大きな飛躍が期待されている業界でもあります。
その理由として挙げられるのが、IoTやAIといった技術革新による「第4次産業革命」の実現です。現代は第4次産業革命の黎明期と言われており、特に製造業ではIoTを活用した次世代的な生産体制を構築する企業が増加傾向にあります。
IoTとは「Internet of Things」の頭文字をとった略称で、電子機器や駆動装置などの生産設備をネットワーク接続してデータを収集・分析し、業務状況や作業進捗の管理などを効率化・自動化する技術です。さまざまなモノをインターネットに接続し、相互に情報交換する仕組みから「モノのインターネット」と呼ばれています。そして、IoTやAIの活用によってデジタル化・コンピュータ化された先進的な生産施設を「スマートファクトリー」と呼びます。
IoTを活用したスマートファクトリーの主なメリットとしては、生産体制のオートメーション化が挙げられます。工場内のさまざまな生産設備をデジタル技術によって一元化することで製造ラインを最適化・自動化し、人的資源の投入を最小限に抑えつつ生産効率の最大化を目指すことのできる技術なのです。
製造業におけるIoTは、業界が抱える人材不足などの諸問題を乗り越えつつ、先進的な生産体制を構築できる技術として非常に大きな注目を集めています。
IoTによる業務効率化・品質改善
IoTは各生産設備をネットワークで接続することで工場内のあらゆる生産データを収集・分析し、製造ラインの進捗管理や生産設備の保全業務、製品の在庫管理や外観検査など、さまざまな業務プロセスを効率化できる技術です。
結果として生産体制の省人化が進み、設備保全や検品業務などに人的資源を必要としなくなるため、企画やマーケティングなどのコア業務にリソースを集中的に投入できる点が大きなメリットです。
また、IoTを活用することで、人間の目視確認限界を超えた非常に高精度な外観検査や検品業務が可能になります。従来、こうした業務は熟練工の高度な知見が不可欠でした。しかしながら、現在は就業者の高齢化が進み、また熟練工の技術継承も人材難などの問題から困難になっています。IoTは検査・検品などの正確さや精密さを求められる領域を得意としているため、製品の品質改善や設備の安定稼働に貢献します。
IoT導入に関わるコストや懸念点について
国内のIoT市場は2024年には12兆円を超えるとの見方もあり、IoTを活用した生産体制を構築する企業が増加傾向にあります。
しかしながら、IoTの導入・運用コストの高さが大きなハードルと懸念されています。
デジタル技術を駆使した生産体制を構築するためには、IoTセンサーやアクチュエータなどの導入費用、運用基盤となるサーバーや通信回線の費用、システムの開発・運用・保守における費用などの莫大なコストが必要です。それらを支えるには相応の性能を備えた運用基盤が求められるため、既存の環境によってはシステムを刷新する必要があるでしょう。また、不正アクセスなどのサイバー攻撃やマルウェアによる被害といったセキュリティリスクや、ネットワークがダウンした場合の事業継続性といった懸念点もあります。
IoT導入によって劇的な変化を見せたオムロンについて紹介
ここからは、IoTの導入によって先進的な生産施設を構築した企業事例を見ていきましょう。京都府に本社を置く大手電子機器メーカー「オムロン株式会社」は、自社開発のソリューション「Sysmac Studio」の導入によって革新的な生産体制の構築に成功した企業です。「Sysmac Studio」とは、コンフィグレーションやプログラミング、モニタリング機能など、IoTの運用に不可欠な制御装置としての役割を持つソリューションです。
「Sysmac Studio」の導入によって、生産設備のさまざまなデータやログをデータベースに集約し、統合的に管理可能になります。そして、製造ラインの流れや生産性、設備の稼働状況などを定量的に分析可能になり、現場稼働率の大幅な改善に成功しました。また、製造現場のデータを一元管理することで異常検知や設備保全が効率化され、結果として工場全体における業務効率の改善と生産性の向上を実現しています。
IoTシステム導入を検討されている方へ
IoTの導入によるスマートファクトリー化を推進するためには相応の費用が必要です。大企業と異なり資金調達手段が限られる中小企業にとって、IoTの導入によるスマートファクトリーの実現は容易ではありません。そのため、IoTの導入を検討する際は、自社の生産体制や企業規模に基づく導入計画と慎重な経営判断が求められます。各社のシステムを比較するとともに、SIerへの相談やコンサルティングサービスなどを活用して自社の生産体制に適したソリューションを選択しましょう。
おすすめのIoTシステムを紹介!
ここからは、IoTの導入を検討している企業におすすめのソリューションを紹介します。1つ目は株式会社GUGENが提供するIoTゲートウェイの「PUSHLOG」です。「PUSHLOG」は、工場内の制御装置に取り付ける遠隔監視システムであり、さまざまな生産設備のデータを収集してクラウド環境で一元的に管理できます。スマートフォンほどのサイズ感で、立ち上げ時間も10分程度で完結するため、初めてIoTを導入する方にお勧めのソリューションです。
次に紹介したいのは、ウイングアーク1st株式会社が販売する「MotionBoard for iXacs」です。「MotionBoard for iXacs」は、製造ラインの遠隔モニタリングに特化した「iXacs」に、BIダッシュボードの「MotionBoard」をセットにしたサービスとなっています。IoTとの連携を考慮されていない古いタイプの生産設備にも対応可能なため、既存の製造ラインを刷新することなく生産データの可視化を実行します。
まとめ
IoTやAIなどの技術革新によって、製造業を取り巻く環境は大きく変わろうとしています。人材不足や労働者の高齢化が進むなか、製造業を営む企業が競争優位性を確立するためにはテクノロジーの活用が不可欠です。IoTの導入を検討している企業は、日鉄ソリューションズが提供するコンサルティングサービスの利用をご検討ください。