さまざまな産業でDXの実現が喫緊の経営課題となるなか、大きな注目を集めているのが「DataOps」です。DataOpsとは、データ活用における手法の1つで、製造分野においてもその重要性が注目されています。そこで本記事では、DataOpsの概要や製造分野にもたらすメリット、実際の導入事例などについて解説します。
DataOpsとは?
「DataOps(データオプス)」とは、米国の調査会社であるガートナー社によって提唱された概念であり、組織全体のデータ管理者と利用者のコミュニケーションを深め、データ活用の効率化と自動化に焦点を当てたデータ管理手法です。
情報通信技術の発展に伴って、企業が取り扱うデータ量は爆発的に増加しており、蓄積されたビッグデータをいかにしてマネージメント領域に活用するかが重要な課題となっています。そんなデータ活用を実行するうえで、重要な役割を担うのがDataOpsです。
DataOpsは、「Development(開発)」と「Operation(運用)」を組み合わせた「DevOps(デブオプス)」という造語から派生した概念です。DevOpsとは、システムの開発担当者と運用担当者が連携して協力するソフトウェア開発手法を指します。DevOpsにおけるシステムの「開発者」と「運用者」は、DataOpsではデータの「管理者」と「利用者」に該当し、DevOpsの文化と理論をデータマネージメント領域に応用したものがDataOpsです。
つまり、データの「管理者」と「利用者」が連携・協力することで、データ活用の省力化・効率化を実現することが、DataOpsの目指すところです。
DataOpsが企業DXにもたらすメリット
近年、多くの企業でデジタル技術の活用による経営改革、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の実現が重要な経営課題となっています。そして、DXを実現するうえで不可欠となるのがデータマネージメントであり、その最適化を支援するのがDataOpsです。DataOpsを企業のデータ管理体制に取り入れることで、以下のようなメリットが得られます。
- データ処理・分析が俊敏
- データ管理を一元管理できる
- クラウド移行によるセキュリティ強化
- データドリブン経営の実現
データ処理・分析が俊敏
データマネージメントにおいて重要となるのが、ほしいデータを必要なときに入手できる管理体制を構築することです。テクノロジーの進歩・発展とともに市場の変化速度も加速しており、変転する市場動向や多角化する顧客ニーズに迅速かつ的確な対応をするためには、スピーディなデータ分析に基づく意思決定も欠かせません。
そこで大きな役割を果たすのが、データの管理者と利用者が連携・協力して情報の管理体制を整備するDataOpsです。例えば、データの管理者と利用者が協調して業務プロセスやシステム環境などを整備・改善することで、「担当者がほしいデータを必要なときに入手できる情報管理体制」などもよりスムーズに構築していけるでしょう。データの管理者・利用者それぞれの視点から情報管理体制を整備することで、俊敏なデータ分析が可能となるのです。
データ管理を一元管理できる
DataOpsが必要とされる背景にあるのが、「データのサイロ化」です。サイロ化とは、「組織内の各部門で管理されている情報システムやデータが孤立し、情報の共有や連携が困難となっている状態」を指します。事業形態や経営体制によって異なりますが、組織のデータは各部門における情報システムで個別管理されているのが一般的です。
データ分析では基本的に、データの「収集・蓄積」「加工・変換」「可視化・分析」というステップを踏む必要があります。しかし、データがサイロ化している状態では、第一ステップの収集・蓄積の段階で多大な時間を要してしまいます。DataOpsの考え方に基づく情報管理体制を構築できれば、組織内に分散しているデータを一元管理し、分析プロセスの高速化や部門を跨いだ業務連携が可能です。
クラウド移行によるセキュリティ強化
DataOpsのアプローチと非常に相性がよいのが、クラウドサービスを活用したデータマネージメントです。オンプレミス型のシステムはカスタマイズ性や自由度に優れ、自社の機能要件やセキュリティ要件を満たす環境を構築できるというメリットがあります。しかし、そのためには相応のITインフラを構築する必要もあり、サーバー機器やネットワーク機器、ソフトウェアの導入に莫大なコストが必要です。
クラウド型のシステム環境であれば、ハードウェアの導入が不要で、パブリック環境にファイルサーバーやストレージを構築できるため、導入費用や管理コストの大幅な削減に貢献します。そしてAWSやMicrosoft Azure、Google Cloudのように、国際標準のセキュリティ認証を得ているクラウドサービスを活用することで、堅牢なセキュリティ体制のもとでデータやファイルを運用・管理できるのです。
データドリブン経営の実現
「データドリブン経営」とは、定量的なデータ分析を起点として、経営判断や意思決定を実行するマネージメント手法を指します。勘や経験といった右脳的な直感的要素に頼るのではなく、「データ分析に基づいた論理的要素によって、意思決定を行う経営体制」です。データドリブンな経営体制を構築するためには、Web解析や統計解析、ビッグデータ分析といったデータ分析が欠かせません。
こうしたロジカルなデータ分析のプロセスなしに、市場動向の把握や精密な需要予測は不可能です。データドリブン経営を実現するためには、組織全体にデータマネージメントの重要性を浸透させ、データガバナンスを整備する必要があります。このような情報管理体制を整備することも、DataOpsが目指すところであり、定量的なデータ分析に基づく経営体制を実現するうえで不可欠な概念と言えるでしょう。
DataOpsが製造業に向いている理由
DataOpsは、狭義ではデータ活用におけるマネージメント手法の1つですが、広義ではデジタル技術の活用によってデータ管理を最適化し、組織体制や企業文化に変革をもたらす取り組みと言えます。そして、それこそがDXの本質であり、今の製造業に求められている在り方です。現在、日本は少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少により、さまざまな業界で人材不足が深刻化しています。
特に製造分野では、人材不足とともに就業者の高齢化が進んでおり、デジタル化の遅れと相まって、産業構造自体も衰退傾向にあります。しかし現在は、AIやIoTによる技術革新「第4次産業革命」の黎明期と言われており、製造業はこうした新たな技術の活用によって大きな躍進が期待されている業界でもあります。例えば、AIやIoTを生産体制に組み込むことで、ディープラーニングや機械学習を用いた設備保全・検品業務のオートメーション化・人間を遥かに凌駕する精度の異常検知などが実現します。
こうした次世代型の生産体制を構築するためには、生産施設のあらゆる業務データを収集し、効率的に運用するデータ分析基盤が不可欠です。DataOpsに基づく情報管理体制を構築できれば、データ分析におけるプロセスを効率化し、AIやIoTの戦略的活用による生産体制を支援できます。最先端テクノロジーの効率的運用にはデータマネージメントが必須であり、そのためにはDataOpsへの取り組みも不可欠と言えるでしょう。
DataOpsの製造業における導入事例
プロセス制御システムの大手電機メーカー「横河電機株式会社」は、かねてから設備保全に関する業務課題を抱えていました。例えば、工作機械や駆動装置などのメンテナンス作業は、「設定されたスケジュールに則って定期的に実施される」というプロセスが一般的です。しかしこれでは、担当者たちは良好に稼働している生産設備も点検することになり、コア業務へ充てられるはずの時間・機会を浪費していることになります。
そこで同社は、Cognite社が提供するDataOpsプラットフォーム「Cognite Data Fusion」を活用し、新たなメンテナンスソリューションを構築しました。このソリューションはメンテナンス不要の設備を知らせる機能を搭載しているため、一定のスケジュールではなく実際のコンディションに基づく設備保全が可能となります。その結果、設備保全の省力化と効率化を実現し、人的資源をコア業務に集中できる生産体制をスムーズに構築し得ました。
まとめ
DataOpsとは、データ管理者と利用者が協調し、より効率的かつ生産的なデータ活用を実現することです。DXの実現が喫緊の課題となっている製造分野において、欠かせない取り組みと言えるでしょう。データドリブンに基づく生産体制を構築するためにも、ぜひDataOpsの推進に取り組んでみてください。