皆さまは「顧客提供価値」について考えたことはありますか?実は筆者もそうですが顧客提供価値について考えると、今までのマーケティングや営業のやり方が大きく変わったという経験があります。また、意思決定もしやすくなったりと言った好循環を生み出せる可能性も秘めています。今回は小売事業者が知っていた方が良い「顧客提供価値」についてご紹介します。
「顧客提供価値」とは何か?
多くの人にとって「顧客提供価値」という抽象的な言葉を聞いてもピンときません。これからこの「顧客提供価値」について具体例を交えてご紹介してみたいと思います。
皆さんはスターバックスコーヒーを利用したことがありますか?おそらく誰もが一度は利用した経験があるかと思います。スターバックスコーヒーはもともと米ワシントン州シアトルで1971年に創業されたコーヒーショップで、現在では3万1,256店舗を世界で展開しています。
コーヒーショップといえばドトールやタリーズ、最近ではコメダ珈琲や星野珈琲など多種多様な店舗が日本国内では展開されています。その中でスターバックスコーヒーは、人気の高いコーヒーショップとして事業の継続を行なっています。実は、人気が続く理由の一つが「顧客提供価値」と言われています。
スターバックスコーヒーの店内は「単純にコーヒーを提供するお店」とは違った雰囲気があります。店舗ごとに異なるコンセプト、お洒落な家具や壁紙、明るすぎない照明、長時間滞在しても苦にならない落ち着いた雰囲気、さらには高度にオペレーション化された接客にもかかわらず人間味のあるサービスなど、細部に至るまで洗練されています。
これはスターバックスコーヒーが核とする「サードプレイス(第3の居場所)」をコンセプトとして一貫した顧客体験を提供しているからです。サードプレイスとは、職場や学校など日常の生活とは隔離された心地よい場所のことであり、そうした居場所を提供することこそがスターバックスコーヒーにとっての「顧客提供価値」なのです。
スターバックスコーヒーを訪れる人々は、美味しくコストバランスの良いコーヒーを楽しむことはもちろん、サードプレイスなる空間で過ごすことに価値を感じています。つまりスターバックスコーヒーは人々の新しい居場所になることこそが提供できる価値だと判断し、それを愚直なまでに遂行しているのです。
Jeepラングラーを買う人はベンツGクラスも検討するのか?
外車でSUV(スポーツ用多目的車両)を検討する人が、よくリストアップするのがJeepのラングラーとメルセデスベンツのGクラス(別称:ゲレンデヴァーゲン)です。
では、Jeepラングラーを購入する人は、果たしてベンツGクラスの購入を検討するのでしょうか?
ここでは両者の「顧客提供価値」を考えてみましょう。
以前のJeepラングラーは、物によっては雨漏りをしたり、ナビが度々ずれるなどの現象が起きていたようです(今では改良されています)。また、車両も大型で小回りが利くとことはありません。しかし、そのような中でも街中でJeepラングラーを見かけることが多いのも事実です。では、何故多くの人がJeepラングラーを購入するのでしょうか?
おそらく、Jeepラングラーを購入する人は「機能性」は求めておらず、砂漠の真ん中を砂煙を上げながら走り抜く姿や、川岸や山中を楽々と駆け抜けていく姿など無骨さに惹かれているのではないでしょうか。実際に、軍隊においても採用されるケースが高く「アウトドア」というイメージがかなり強い車種です。このため、アウトドア好きの人々やSUVが好みの人々から強烈な人気があります。こうしたイメージの強い自動車を自分の所有物としたり、Jeepラングラーでアウトドアに出かけたり、爽快感を味わってもらうことがJeepラングラーの「顧客提供価値」なわけです。
ここまでの内容で既に理解している方も多いでしょうが、Jeepラングラーを購入する人は「ベンツGクラスは購入しません」。ここからは推測になってしまいますがベンツとはいわゆる「ラグジュアリーブランド」であり、ベンツGクラスを購入する人の大半はアウトドア好きではないのかもしれません。機能性も重視している可能性が高いためJeepラングラーを嗜好する人とは方向性が違うように感じられます。ほとんどのベンツGクラスユーザーは、ラグジュアリーブランドを身につける感覚で購入しており、それこそがベンツGクラスの「顧客提供価値」と言えるでしょう。
こうして考えると、JeepラングラーとベンツGクラスは同じハイクラスSUVだとしても、根底にある「顧客提供価値」は全く異なることがわかります。
自社製品・サービスの「顧客提供価値」を見つけるには?
皆さんが自社の製品やサービスにおいて真の「顧客提供価値」を見つけるために大切なことは、自社製品やサービス、会社についての信念やビジョンを持つことに他なりません。そして、それらを愚直なまでに実現する手段を考えて「PDCAサイクル」を回し続けることが重要です。
また、注意したいことの一つとして「顧客提供価値」はあくまで顧客や市場が決める事であると認識することです。そのため、ある程度戦略や戦術に落とし込んだとしても、顧客提供価値を理解してもらえないかもしれません。そのため、小手先の施策ではなく企業の文化レベルにまで落とし込んでこそということが重要なポイントになります。ぜひ今回の記事が皆様のビジネスにおいての顧客提供価値について考える機会になれば幸いです。