近年、生成AIの市場規模が急速に拡大しており、さまざまな分野で活用が進んでいます。そんな中で大きな注目を集めているのがMicrosoft Copilotです。本記事ではMicrosoft Copilotの概要を解説するとともに、Copilot for Microsoft 365の主な機能やユースケースを紹介します。
生成AIをめぐる動向
1956年に開催されたダートマス会議でAIという学術研究分野が確立され、現代では多くの産業でAI技術が活用されています。そしてディープラーニングを含むさまざまな機械学習技術を基盤とし、コンテンツ生成に特化したAI技術として誕生したのが生成AIです。
2022年11月30日にOpenAI社が大規模言語モデル(LLM:Large Language Models)をベースとするChat GPTを公開し、空前の生成AIブームを巻き起こす契機となりました。JEITAの調査によると、生成AIの市場規模は2030年に2,110億ドルに達し、2023年の約20倍に成長すると予測されています(※1)。
(※1)参照元:JEITA、生成AI市場の世界需要額見通しを発表|一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)
Copilot(コーパイロット)とは
Microsoft Copilot(以下、Copilot)とは、Microsoft社が提供する生成AIサービスです。Copilotは「副操縦士」と和訳される概念であり、テキストや画像の生成、ソースコードの添削、文章の翻訳や議事録の要約など、さまざまな作業をAIが副操縦士として支援します。OpenAI社が開発したLLMのGPTをベースとしており、Chat GPTと同様にチャット形式で多彩なコンテンツを自動生成できる点が大きな特徴です。
Copilotの基本的なプランは、無料版の「Copilot」、個人向け有料プラン「Copilot Pro」、企業向け有料プラン「Copilot for Microsoft 365」の三つに分類されます。Copilotは無料版でも非常に高性能なサービスですが、生成AI全般の問題点として情報漏洩のリスクを指摘する声は少なくありません。基本的に商用データの保護は企業向けのプランのみが対象のため、事業領域における個人向けプランの利用は相応のセキュリティリスクを伴います。
企業での活用に最適な「Copilot for Microsoft 365」
Copilot for Microsoft 365とは、Microsoft 365に生成AIのCopilotが組み込まれたサービスです。Copilotにプロンプトを入力することでMicrosoft Word(以下、Word)やMicrosoft Excel(以下、Excel)などの作業を効率化できるため、オフィスワークの合理化と自動化を促進し、労働生産性の大幅な向上が期待できます。
Copilot for Microsoft 365の仕組み
Copilot for Microsoft 365の基本的な仕組みは「Microsoft Graph」「LLM」「各種アプリケーション」の三つで構成されています。Microsoft Graphは、Microsoft 365のデータにアクセスできる単一のAPIエンドポイントであり、生成される内容や回答を裏付ける情報の取得元です。そしてプロンプトに基づいてLLMがコンテンツを生成し、各種アプリケーションにおける操作の自動化や作業の効率化を支援します。
Copilot for Microsoft 365では、オンプレミス環境のサーバやローカル環境のPCに保存されているデータは原則としてLLMの活用対象となりません。Microsoft Graph上のドキュメントやストレージ、情報共有ポータルに保管されているデータが充実するほど出力の品質が向上します。なお、Copilot for Microsoft 365を利用するには、月額費用とは別途で以下に挙げるライセンスのいずれかが必要です。
- Microsoft 365 Business Standard
- Microsoft 365 Business Premium
- Microsoft 365 E3/E5
- Office 365 E3/E5
MicrosoftアプリのCopilot機能
Copilot for Microsoft 365は、各種アプリケーションにCopilotが組み込まれており、さまざまなシーンで活用できる機能が搭載されています。たとえばWordによる文書の自動生成、Excelを用いたデータ分析の自動処理、Microsoft PowerPointによる資料作成の支援などが代表的な機能です。その他にもMicrosoft Teams(以下、Teams)で実施したオンライン会議を要約する、Microsoft Outlookに日々届くメールの優先順位を策定する、Microsoft OneNoteのメモを要約するといった使い方ができます。
Copilot Studio
Microsoft Copilot Studio(以下、Copilot Studio)とは、Copilotのカスタマイズや機能の拡張、プラグインの開発などをローコードで実行できるツールです。Copilotの機能を自社の要件に適した形式にアレンジしたり、独自のチャットボットを構築したりできます。
また、通常のCopilotに反映できるのはMicrosoft Graphからの取得データに限られますが、Copilot Studioを活用することでERP(Enterprise Resources Planning)やCRM(Customer Relationship Management)といった外部システムのデータを取り込むことが可能です。
Copilotを用いた生成AIのユースケース
Copilotはビジネス上のさまざまなシーンで活用されています。代表的なユースケースとしては、以下のような事例が挙げられます。
■営業での活用シナリオ
- 顧客から受け取ったメールの概要と依頼事項をリスト化
- 自社製品と競合製品のスペックを表形式に変換
- 営業活動のトークスクリプトを作成
- プレゼン資料におけるストーリーテリングの創出
- 商談後のお礼や次回のアポイントメントを含むメールの下書き
■会議での活用シナリオ
- 会議の議題に基づいてアジェンダを作成
- スケジュールを自動調整してリマインダーを送信
- Teamsを介したWeb会議の文字起こし
- 会議の要点や議論の内容を要約
- 議事録に基づくネクストアクションの体系化
Copilot導入時の費用対効果
Copilotの導入によって得られる成果として挙げられるのが、定型業務の効率化・自動化とノンコア業務に投入するリソースの削減です。たとえば文書やメールの作成、スケジュール調整、資料の要約、会議の文字起こしなど、定型業務に割く時間を大幅に削減できます。Microsoft社の試算によると、Copilotを活用することで低く見積もっても1週間あたり4時間程度の時間削減が見込まれます。
営業での活用シナリオそして定型業務の作業負荷が軽減されることで、プロダクトの企画や設計、セールスやマーケティングといったコア業務に人的資源を集中できる点がメリットです。ノンコア業務へのリソース投入量が削減され、新製品の設計・開発や顧客へのアフターフォローなどに多くの時間と資金を投入できるため、競争優位性の確立や顧客満足の向上が期待できます。
Copilotの実装は効果検証がポイントに
Copilotを導入する際はKGIとKPIを設定し、効果検証を通じて具体的な成果や節約されたコストを明確化するプロセスが重要です。たとえば日本ビジネスシステムズ株式会社(JBS)は、Copilot for Microsoft 365の正式リリースに先駆けてアーリーアクセスプログラムに参加し、2023年9月より社内で検証プロジェクトを実施しました。
300名の従業員が各種業務にCopilotを利用した結果、会議の要約とメール作成における作業時間の短縮が顕著であるとの検証結果を得ています。また、生成AIは指示によって出力内容が変化するため、プロンプト生成ツールを開発し、アウトプットの品質向上を図っているのも同社の特徴的な取り組みです。こうした効果検証を実施し、高い成果を得られる業務領域を周知することでCopilotをより効率的に運用できます。
効果検証の進め方の例
Copilotの効果検証を推進する際は以下に挙げる三つのポイントが重要です。
①検証プロジェクトの立案・策定
生成AIサービスに限らず、新システムの導入は相応のリスクを伴うため、スモールスタートを意識する必要があります。そのため、全社レベルでの導入前に対象部門を一部に限定し、1カ月程度を目安に検証プロジェクトを推進するのがおすすめです。
②As-Is/To-Be分析
「As is(現状)」と「To Be(理想の姿)」を明確化し、目標達成のルートを定める分析手法です。まず自社の現状と理想とする姿を洗い出し、その間にある差分を課題として抽出します。それにより、自社のあるべき姿に至るために必要なアクションプランを策定する一助となります。
③効果測定
たとえばCopilotとTeamsの連携により、これまで1時間かかっていたWeb会議の議事録作成を50%削減できたとします。年間100回の会議がある企業なら50時間の節約となり、議事録を作成する従業員の時給が2,000円の場合、年間100,000円のコストを削減できます。
まとめ
CopilotはMicrosoft社が提供する生成AIサービスです。文書の作成や資料の翻訳、ソースコードの添削、Web会議の文字起こしなど、さまざまな作業をAIが副操縦士として支援します。Copilotは個人向けと企業向けのプランがあり、基本的に商用データの保護は企業向けのプランのみが対象です。
Copilotを事業領域で運用する際は効果検証を実施し、高い成果を得られる業務領域を把握しなくてはなりません。JBSは効果検証のノウハウや生成AIの活用レベルに応じたサポートサービスを提供しています。Copilotの導入を検討している企業は、JBSのサポートサービスを活用してはいかがでしょうか。