新型コロナウイルスの感染拡大により多くの業界が打撃を受けている中、「建設バブル」と謳われるほどの建設需要があった建設業界でも、受注減などのさまざまな影響が生じています。本記事では、建設業界の現状や新型コロナウイルスによる影響を分析し、今後の建設業界における課題とその対応策について解説します。
建設業の現状
建設業の市場規模を示す国内建設投資額は、バブル崩壊後の1992年度の約84兆円をピークに減少傾向で推移し、リーマンショック後の2010年度には約42兆円と、ピーク時の50%にまで減少しました。その後は増加に転じ、2019年度には約65.4兆円(見込み)と、2010年度の1.5倍以上にまで回復しています。特に、近年の建設需要の高まりは「建設バブル」ともいわれるほど顕著で、その要因として主に以下が挙げられます。
- 東日本大震災の復興・復旧事業
- 東京オリンピック・パラリンピック関連投資
- ホテル建設などインバウンド投資
- 都市再開発
- 道路など老朽化したインフラの維持管理
- 自然災害に対する防災・減災対策
- EC市場の拡大による倉庫投資
- 製造業の設備投資 など
これらの事情もあり、政府・民間ともに建設投資額は堅調に推移してきました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う影響で、2020年度は約63.4兆円、2021年度には約61.8兆円まで減少するとの見通しが発表されています。
コロナ禍の終息に向かう時期がいまだ不透明ゆえ、民間建設投資の低迷など、今後の建設需要の動向には懸念があります。とはいえ、2025年に開催予定の大阪万博に向けた建設投資や、リニア新幹線の本体工事や関連する道路整備、まちづくりに向けた建設投資、首都圏を中心とする都市開発投資などは依然として期待できます。また、老朽化したインフラの維持管理や、自然災害に対する防災・減災対策、国土強靱化に対する政府の建設投資は、今後も増加していくものと思われます。
建設業におけるコロナの影響
2020年から続くコロナ禍は、好調であった建設業界にもさまざまな影響をもたらしています。東京商工リサーチが行ったアンケート調査によると、2021年3月時点で新型コロナウイルスの「影響が継続している」と回答した企業は47.1%(559社)を占めており、約半数の企業が新型コロナウイルスの影響を受けていることがわかります。
一方で、新型コロナウイルスの「影響はない」と回答した企業は7.3%(87社)、「現時点で影響は出ていないが、今後影響が出る可能性がある」と回答した企業は36.5%(433社)となっています。つまり現状、43.8%の企業が新型コロナウイルスの影響を受けておらず、建設業界では二極化が進んでいることが理解できます。
工事の延期と中止
建設業界における新型コロナウイルスの影響として最たるものが、工事の延期や中止が増加したことです。2020年4月の緊急事態宣言が発令された頃には、大手ゼネコンの建設現場においても工事中止の動きが見られました。しかし、同年5月に政府から「建設業における新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」が出されて以降は、多くの現場で工事が再開されました。
一方で、飲食店や宿泊業などサービス業の景況悪化に伴い、新規出店や改装リニューアルの中止など、中小規模の建設現場では工事の延期・中止が増加しています。そのため、中小事業者を中心に多くの建設業者の売上高が減少しています。
また、工事が延期・中止されなかったとしても、マスク・シールドヘルメット・消毒液などの資材購入費や、Web会議実施のためのICT機器購入費および通信費など、新型コロナウイルスの感染予防にまつわる費用が生じます。さらに三密を避けるため、従来の作業工程を組めないことにより人件費が増加するなど、多くの企業で費用面の負担増が経営課題となっています。
小規模倒産が増加
東京商工リサーチの調査によると、新型コロナウイルスの影響による受注減が原因で倒産した建設業は2020年後半以降、微増しています。その内訳は、負債額別では5億円未満の企業が約9割、従業員別では10人未満の企業が約8割となっており、小規模事業者の倒産が圧倒的に多い状況です。
2021年も新型コロナウイルスの影響により、小規模事業者の主なクライアントとなる飲食や宿泊、小売関連の事業縮小・廃業は続くと予想されます。そのため、設備工事などの民間受注工事をメインにしていた事業者が、新規受注獲得のために公共工事に参入していき、中・小規模業者間で競争が激化することも考えられます。
このままコロナ禍が長期化していけば、現時点では影響を受けていない建設事業者にも、いずれ受注減などの影響が及ぶかもしれません。
建設業の今後
建設業には、住宅・ビル・道路といった国民の生活や産業活動の基盤をつくり、防災など安全・安心を支えるとともに、地域の経済成長や雇用確保に貢献していく役割があります。その役割を果たすために、建設業には以下の3つの課題解決に取り組むことが求められています。業務の効率化
建設業は従来、製造業などと比較して生産性の向上が困難であるといわれてきました。それは主に以下の理由によるためです。
- いわゆる多重下請構造となっている複雑な施工体制
- 自社とは異なる場所で、顧客の注文に基づき一工事ずつ行う業務性質
- 材料や資機材、施工方法と専門工事会社を含め、さまざまな知見や技能を持った作業員が多数必要
- 作業進行が天候に左右されやすい
また、バブル崩壊後に建設投資が減少したことで、労働力が過剰となっていたために、省力化につながる生産性向上を図らなかったことも理由のひとつです。しかし、後述するように、建設業における人材不足は深刻化しています。今後の建設需要に対応するためには、人材確保だけでなく、ICTを活用した業務の効率化など、生産性の向上に取り組むことが求められています。
人材不足の解決
日本建設業連合会が発行する『建設業ハンドブック2020』によると、建設業の就業者数は1997年の685万人をピークに減少傾向が続いています。2019年にはピーク時から27.2%減の499万人にまで落ち込み、そのうち55歳以上の人口が約35%、29歳以下が約12%とのことです。この数字からもわかるように、ほかの産業と比較して高齢化が進行しており、若者の入職の促進と定着、そして技能伝承が課題となっています。
若者離れの原因としては、未だ根強く残る建設業特有の「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージが挙げられます。建設現場作業にあたる生産労働者と製造業生産労働者との賃金格差は縮小しているものの、依然として前者の賃金は低く、労働時間の長さもほかの産業と比較すると長いままです。
建設業を若者にとって魅力的な職場とするためには、「賃金水準の向上」「工期管理の見直しなどによる労働時間削減や休日の拡大」「安全管理の徹底」といった取り組みにより労働環境を改善し、3Kのイメージを払拭することが不可欠です。
デジタル環境の整備
業務効率化や人材不足などの課題を解決する手段として注目されているのが、国土交通省が提唱している「i-Construction」です。これはICTを導入することで、建設生産システム全体の生産性向上を目指す取り組みのことです。具体的には測量から設計、施工、検査、管理・運営に至る全プロセスにおいて、ICTやAIなどを取り入れ、業務のデジタル化を実現します。
建設現場では対面や紙ベースで行う仕事が未だに多く、情報共有やコミュニケーションを行うにしても、電話や現場で直接対応しなければならないケースが少なくありません。しかし、クラウドやAI、IoT、5G、ICT建機などの新しいデジタル技術を活用することで、従来の業務の進め方を改革し、生産性の向上が期待できます。
たとえば、建設現場にコミュニケーションアプリや業務アプリを導入すると、スマホやタブレットなどのICT機器で、打ち合わせや会議、帳票などの書類作成、資材管理、現場情報の共有などが容易に行えます。また、固定カメラやウェアラブルカメラなどを活用すれば、従来は建設現場で行っていた施工状況の確認なども、遠隔で可能になります。
まとめ
新型コロナウイルスの影響により建設業界でも、デジタル技術を活用した新しい業務方針への転換を求められています。デジタル化は業務効率の向上に寄与し、ひいては会社全体の生産性向上や雇用の促進にもつながります。デジタル化の動きは今後、業界全体で急速に進んでいくことでしょう。