ビル管理業では建物の管理をシステム化することで、業務効率を改善し、手間やコスト削減することができます。特におすすめしたいのはクラウド対応のビル管理システムです。今回はビル管理システムについて、求められる条件やクラウド化するメリットについて解説します。また代表的なクラウド型ビル管理システムも紹介します。
ビル管理システムとは
「ビル管理システム」とはオフィスビルや商業ビルをはじめとした建物の空調・電力・照明・防災・防犯などの各種機器設備を統合管理し、監視制御する仕組みのことです。ビルに限らず、ホテルや病院、工場などでも利用されます。快適で安全な建物環境を維持するには、空調や照明などが適切であることに加え、常に異常が発生していないか監視する体制が必要です。しかしそのために巡回などの人手をかけるとなると業務負担が大きくなります。
ビル管理システムの導入により、建物内の環境を維持管理する業務を自動化し、24時間監視制御することが可能になります。監視システムが常時作動しているため、警備員の巡回や作業員の設備点検業務を行う回数を減らし、業務効率化が図れます。
もし火災や事故など異常事態が発生した場合は、システムが検知しビル管理者に通知するようになっているので、緊急時に警備員や作業員を現場に派遣する体制を作ることができます。また、照明や空調を制御し、最適な電力量を管理することで省エネルギーやCO2排出削減に貢献することも可能です。
ビル管理システムに求められる条件
従来のビル管理システムは、主に大規模ビルで導入され、常駐管理者がホストコンピュータで操作・管理する形態でした。これは、リモートで各種設備を統合管理するオンサイト型が一般的です。設備更新などの大きなランニングコストがかかるため、中小規模ビルでは導入されないことが多く、簡易的な防災システムに留まっているのが現状でした。中小規模ビルでも導入しやすいよう、これからのビル管理システムには以下の条件を満たすことが求められています。
導入・メンテナンスの容易さ
中小規模ビルの場合は初期費用にかけられる予算が限られているため、ビル管理システムの導入費用を抑える必要があります。保守やメンテナンスやサーバの更新などのランニングコストについても同様です。できれば故障監視や電力量計測など、導入したい管理システムサービスから始め、必要に応じて後から管理システム機能を追加できる拡張性があると導入しやすくなります。
近年は、製品を所有するのではなく、製品を利用するというサービスの選択があらゆる業界で広まっています。ビル管理システムについてもビジネスの動向を受けて、初期費用をかけないレンタルサービスへのニーズが高くなっています。レンタルであれば、保守・メンテナンスも任せられるので手間がかかりません。
複数のユーザーが利用できる
ビル管理・運営業務は特定業者だけで行うのではなく、さまざまなユーザーに広がりつつあります。省エネ法の改正によりビルのオーナーや入居するテナントは、一定時間帯の電力使用量を、国や自治体など行政機関に報告するようになりました。また、国による夏期の電力需給対策などに備え、ビル側は非常用電力の適切な供給対策を講じる必要もあります。
そのため、オーナーやビル管理・運営業務を行う業者に加え、テナント関係者もビル運営に関わり始めています。これからのビル管理システムは、複数のユーザーが利用しやすい設計であることが必要です。電力使用量や入退室履歴など各ユーザーが必要な情報を入手し、活用できるようにすることで、ビル管理システムを効率化し、テナントの満足度を高めることにもつながります。
複数の遠隔監視や制御
ビル管理システムに期待されるのは、電力使用量の可視化だけでなく、安価な予算のICT(情報通信技術)により空調や照明をリモートで制御し、ビル管理の業務効率を向上させる利便性や新しさです。管理や保守を行う対象のビルが複数ある場合は、それらを一元的に管理したいという要望もあります。複数の拠点を同時にリモートで監視し、制御できるシステムであることが望ましいです。
柔軟な拡張性
今まではビルの電力需要の増減に合わせてエネルギーの供給体制を整備していましたが、スマートグリッドの実用化が進められ、電力需要のピーク量を下げ、供給サイドの負荷を平準化する方式に変わりつつあります。中小規模ビルのCO2対策として、導入が推奨されているBEMS(ビル・エネルギー管理システム)も、将来的にはビル単体ではなく、CEMS(地域やコミュニティのエネルギー管理システム)と連携できる方が望ましいです。今後のビル管理システムは、規模がより拡大するエネルギー管理システムに迅速に対応できるよう、柔軟な拡張性を備える必要があります。
クラウド化にするメリット
以上挙げたビル管理システムの条件相性がよいのが「クラウド」です。クラウドとはクラウンドコンピューティングの略で、ICT(情報通信技術)機器やソフトウェアを必要とせず、インターネットを介してさまざまな機能やサービスを利用できる形態をいいます。通信機器の導入が必要ないのでコストを削減し、クラウド化のスピードも速く、後から機能を追加できるなど柔軟な拡張性があるのが特長です。
クラウドサービスを利用することによって、エネルギー制御などビル管理システムのさまざまな機能を、システム運用開始後に必要に応じて追加できる点にはメリットがあります。それは、クラウド化を活用して機能を追加する場合、サーバなどのハードウェアやソフトウェアを必要としないために初期費用やランニングコストがかからず、スピーディーに導入できることです。これまで負担に感じていた、ビル管理システム導入の手間やコストが軽減できるのは大きな特長です。
代表的なクラウド型ビル管理システム5選
クラウド対応型ビル管理システムは各メーカーがさまざまなサービスを提供しています。その中で代表的なビル管理システムの特徴や機能、得られるメリットを紹介します。
wecrew
「wecrew」は電通国際情報サービス(ISID)が提供するスマートビルディングソリューションです。企業はwecrewを活用することで、各々の役割を果たすクルー(crew)のように、スペースの情報、働く人の情報、場所や予定、IoTデバイスなど、オフィス空間のあらゆる情報を集約して、未来のオフィスを実現させていくことが可能になります。
同製品の特徴は、会議室等オフィススペースの予約機能と入退室管理機能を連携する「Space Hub/Security Hub」と、スペースの利用状況に応じて空調や照明等設備を制御する「Facility Hub」の2つの機能からなり、日本マイクロソフトが提供するクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」上の統合されたプラットフォームとして稼働します。
Space Hub/Security Hub は、会議室等オフィススペースの予約状況を各スペースに設置されたタブレット端末や利用者のスマートフォンアプリにリアルタイム連携し、スペースの利用状況確認及び入退室管理を各デバイスで可能としています。 また、予約時間を過ぎても入室がない場合は自動で該当するスペースのキャンセル、利用が早く終了した場合は、自動で解放を行うことで、オフィスの稼働率を向上します。 さらに、各スペースに設置するタブレット端末で、社員証などICカードによる本人認証を行い、セキュリティを担保。顔認証や電子錠による入退出のセキュリティについてもカスタマイズにて提供が可能です。
wecrewは、Facility Hub Space Hubと連動し、スペースの利用状況に応じた照明や空調など設備を自動制御します。 タブレット端末やスマートフォンアプリを利用して使用者ごとに各設備を制御できる他、利用前からの空調調整や利用者がいない場合は自動で消灯する等スペースの予約・利用状況と連動した制御も可能です。これにより企業の効率的なエネルギー活用を支援します。
BIVALE
株式会社日立ビルシステムが提供する「BIVALE(ビヴァーレ)」は、ビル設備とエネルギー、セキュリティの統合管理を実現します。日立カスタマーセンターのサーバに、ビル管理に必要な機能を集約しているため、自社サーバや専用ソフトが不要です。既存ビルへの導入も簡単で、手持ちのPCで管理できます。月払いのレンタル利用が可能で、必要な管理サービスから始めて、後からサービスを追加するのも簡単です。
複数のビル管理が可能で、建物の特性やニーズに合わせたサービスを選択して運用できます。ビル管理者はテナント側に必要な管理権限を付与することが可能です。テナント入居者はエネルギーの可視化やエアコン・照明の制御、入退室の履歴管理などができるので、テナントサービス向上につながります。万一のトラブルに備えた24時間365日のバックアップ体制もあるので安心です。
Butics
NECネッツエスアイ株式会社は、総合ビル管理システム「Butics(ビューティクス)」にクラウド対応のBEMS機能を追加した「Butics-SX」を提供しています。再生エネルギー利用やBCP(事業継続計画)対策で増加した蓄電池や太陽光パネルも含め、複数ビルの統合的なエネルギー管理を可能にしました。蓄電池や太陽光パネルの出力を管理し、自動制御で夜間に蓄えた電力を日中に使用するため、コスト削減に有効です。
電力使用量の分析データで、ピークカット対応や効率的なエネルギー管理を可能にします。ビル管理者はタブレットPCでどこからでも監視を実現し、トラブル時はタブレットPCで現場の状況確認が可能です。クラウド利用によりビルやエリアごとの消費電力量の可視化もできます。今後は需要予測やテナント課金管理などのサービスも提供予定となっています。管理する設備点数の規模に応じたサービスが選べます。
OCTBAS
アイテック阪急阪神株式会社が提供する総合ビル管理システム「OCTBAS」は、クラウドと自社サーバを運用するオンプレミスの両方に対応できます。中央監視システムとクラウド対応を併用し、BCP(事業継続計画)対策を行いつつ、サーバ更新が必要ないためランニングコストを軽減します。オープンプロトコルのネットワークにより、さまざまな設備機器を柔軟に接続可能です。
タブレットなどのモバイル端末でどこからでも監視を実現し、遠隔地でもビル内監視と変わらない操作ができます。各機能に最適な仕様の機器を選定できるマルチベンダー対応で、柔軟なビル管理システムの構築が可能です。中央監視設備のコントローラはファンやディスクを使用しないため、故障しづらく、安定した長期稼働が期待できるのもメリットです。
iNBIS
株式会社ネットワーク・コーポレーションが提供する「iNBIS」は、最小単位のユニットから構築できる次世代型中小ビル管理システムです。必要なアプリケーションを規格化し、導入にかかる費用と時間を大幅に削減します。クラウド上でエネルギー遠隔監視や制御、アプリケーションの変更も可能で、省エネ効果とメンテナンスコストの削減により、ビル運営投資の費用を短期間で回収できます。
AIを使用し、スマートフォンによる簡単操作で、一部屋ごとに制御し、IoTセキュリティなどを実現します。システムの部分改修や増築も簡単で、常に最新状態のアップグレードがリーズナブルな価格で実現可能です。快適な環境を構築することで集客力やテナント稼働率の向上が期待できるので、ビルの資産価値も高めます。
BuilUnity
三菱電機ビルテクノサービス株式会社が提供する「BuilUnity(ビルユニティー)」は、高度なセキュリティでどこからでもビル設備の管理・制御ができるビル総合ソリューションです。外出先からスマートフォンでビルの空調や運転モードを変更し、ビル設備の異常や不正使用はメール通知されるので、迅速に対応できます。複数ビルの設備状態や警報履歴も、スマートフォン画面の一覧で確認可能です。
入退室管理と監視カメラ機能を連携させるセキュリティ機能と、アラーム発生の通知により、外出先でも映像を確認して状況を把握できます。複数ビルについて、エレベーターの監視・制御もクラウドにより一元管理が可能です。クラウドサービスは基本機能と必要なラインセンスを契約し、オプションでライセンスを追加していけるので無駄がありません。
まとめ
業務効率を改善するビル管理システムは、サーバやソフトウェアを必要としないクラウド型がおすすめです。初期費用やランニングコストを抑え、外出先からもスマートフォンやタブレットでビル設備機器の監視・制御を簡単に行えます。必要に応じて管理機能を柔軟に追加できる点もメリットです。クラウド型は中小規模ビルの管理システムに最適です。