インターネットが普及する前と後では、小売業界をはじめとする、市場の消費者の行動パターンに変化はあったのでしょうか。これからの時代において、より効果的なマーケティング戦略をとるためには、今の時代における消費者の特徴や行動の法則を押さえておくことが大切です。
消費行動が変化した背景
サービスを提供する企業にとっては、消費行動の変化を捉えることが大切です。企業が安定的・継続的に発展していく上で重要なのは、市場のニーズをつかむマーケティングです。その目的のひとつが、自社の製品やサービスのファンを増やすことにあります。マーケティングにおいては、消費者がどのようなものを求め、どのようなものに喜びを感じるかを明確にすることが求められます。そこで重要になるのが、時代によって変化する消費者の購買行動モデルです。
マスメディア時代の特徴
今でこそインターネットが普及し、個人レベルで毎日のように利用されていますが、これほどまでに普及したのは2000年以降のことです。現在ではパソコンやスマートフォンでいつでも気軽に情報を得ることができます。しかし、インターネットが社会に広く浸透する前は、情報を集める方法が限られていました。消費者の意思決定を促すのは主にテレビやラジオのCM、または新聞や雑誌の広告、さらには企業や店舗からのカタログやパンフレットでした。これらの特徴は、企業側からの発信という点にあります。すなわち、消費者が自ら情報を取捨選択することは困難で、企業側から一方通行のように宣伝広告が行われるという、いわゆる「マス広告」が主流でした。
このときに提唱されたのが「AIDA(アイーダ)」と「AIDMA(アイドマ)」という消費行動モデルです。
AIDAの法則は、「Attention(認知)」「Interest(興味)」「Desire(欲求)」「Action(行動)」の頭文字を並べたもので、1900年にアメリカの広告研究家が提唱した法則です。1925年に応用心理学の分野に関する論文の中で取り上げられたことで有名になり、現在における多くの消費行動モデルの基盤となっています。なお、これに「Memory(記憶)」を付け足したものがAIDMAの法則です。消費者の動きを当てはめることで、的確なマーケティングが可能になります。企業側がとる施策と、それにともない変わる消費者の状態についてみると、以下のようになります。
Attention(認知)
企業は、テレビやラジオのCMや雑誌・新聞広告などを通じて情報を発信します。そして多くの人が商品やサービスを知ることになります。
Interest(興味)
企業は自社商品・サービスの魅力を伝え、消費者は商品・サービスに興味を抱きます。
Desire(欲求)
企業は、自社の商品・サービスが潜在消費者の要望や需要に合致していることを伝えます。消費者は購入を検討するようになります。
Memory(記憶)
企業がメールや電話などで情報を発信し続けることで、潜在消費者は商品やサービスを記憶します。
Action(行動)
企業が行動を促すことで、潜在消費者は購買に至ります。
インターネット時代の特徴
インターネット時代では消費行動に違いがみられるようになりました。従来のマス広告では企業が一方的に情報を提供するというのが一般的でした。インターネットが登場し、広く普及して以降、消費者はWebサイトから気軽に情報を得ることが可能になりました。さらに、Webサイトからだけでなく、FacebookやInstagram、TwitterなどのSNSが浸透することで、これらのツールを使って口コミなども参考にできるようになったのです。そこで登場したのが、AISAS(アイサス)という消費行動モデルです。AISASはAIDMAの「Desire(欲求)」と「Memory(記憶)」の代わりに「Search(検索)」と「Share(情報共有)」が含まれています。
Attention(認知)
企業は、テレビやラジオのCMや雑誌・新聞広告などを通じて情報を発信します。これによって、商品やサービスの情報が潜在消費者に届くようになります。
Interest(興味)
企業は自社商品・サービスの魅力を伝え、消費者は商品・サービスに興味を抱きます。
Search(検索)
企業は自社の商品やサービスだけでなく、自社のWebサイトが検索結果に表示されるよう対策を行います。消費者は検索した際に、企業のWebサイトにたどり着けるようになります。
Action(行動)
企業が行動を促すことで、潜在消費者は購買に至ります。
Share(情報共有)
企業は、ネットユーザーがSNSを活用して情報を発信、共有しやすい仕組みをつくります。消費者は友人や知人、家族などに情報を伝えやすくなります。
コンテンツマーケティング時代の特徴
インターネットが広まると、次第に新しい消費行動モデルが注目されはじめます。それが、DECAX(デキャックス)です。
Discovery(発見)
企業に求められるのは、多くの人に興味をもたれるコンテンツです。Web検索やSNSなどを活用して触れられる仕組みをつくります。サイト訪問者はWebコンテンツを通じて商品やサービスを発見できるようになります。
Engage(関係)
企業はコンテンツに継続性をもたせることで繰り返しユーザーと接触できるようにします。そして消費者は何度もWebサイトに足を運び、企業との関わりを深めていくようになります。
Check(確認)
企業はより詳細な情報を提供できる仕組みをつくり、消費者は商品やサービスに関するさらに詳しい情報を確認できるようになります。
Action(購買)
企業は購買のための導線を設け、消費者はスムーズに購買が可能となります。
eXperience(体験と共有)
企業は消費者がSNSなどでさまざまな情報をシェアできる仕組みをつくります。そして消費者は、購入後の体験を多くの人たちに発信・共有できるようになります。
ミレニアル世代の消費行動とSNSの影響
情報のデジタル化が進む昨今、特に注目されているのが「ミレニアル世代」の購買行動です。ミレニアル世代とは、厳密な定義があるわけではありませんが、一般的には1981年から1996年の間に生まれた世代を指します。インターネットが普及した時代に生まれ育ったことで、他の世代よりもITリテラシーが高いと考えられています。休日にじっくりと買い物をする傾向がみられ、SNSにかなりの影響を受けていることがさまざまな調査によって分かっています。
消費行動の変化へ小売業はどう対応するべきか
インターネット全盛期の今日では、小売業界もまた同様に、時代に合わせた戦略が必要となります。消費者と頻繁に触れ合うことになる小売業界ではWebサイトへの集客も重要ですが、SNSによる情報共有もまたそれ以上に重要といえます。現在のように多くのものがあふれている時代において、消費者は興味のあることを検索し、目に入った情報を取捨選択して購買に至ります。
この点、小売業界も他の業界と同様に、コンテンツマーケティング時代の消費行動モデルのDECAX(デキャックス)を踏まえた戦略に、効果が期待できるといえます。商品やサービスを知らなくてもそれらを「発見」できる仕組みをつくり、継続的にコンテンツと関わることで、情報過多の時代でも情報を自然な形で届け、売上につなげることができます。コンテンツマーケティングには、小売業界の潜在顧客を掘り起こし、顧客のロイヤリティを高めていくというメリットがあります。長期的な費用対効果も高いことから、小売業界にとってはまさに今の時代に適した戦略といえます。
まとめ
インターネットが普及し、多くの消費者がインターネットを活用して購買行動をとる昨今においては、小売業界においても時代の変化に合わせたマーケティングが重要となります。今後は、コンテンツマーケティング戦略の一環として多様なWebコンテンツを発信し、潜在的なユーザーの需要を掘り起こすことが効果的な戦略になるといえます。