日本政府が推進している「キャッシュレス社会」の実現は、小売業者にどういった影響を与えていくのでしょうか?
我が国では、海外諸国に比べてキャッシュレス決済率が低い傾向にあります。2016年に野村総合研究が行った調査によれば、日本のキャッシュレス決済率は19.8%であり、おとなり韓国では96.4%、イギリスでは68.7%、米国では46.0%となっており、多くの国が日本の2~4.5倍ほどの規模を持っています。
しかし近年では、キャッシュレス決済の種類が拡充したことや、クレジットカードセキュリティが日々向上していることもあり、国内におけるキャッシュレス決済率は年々伸びています。本稿ではそんなキャッシュレス決済について、小売事業者が知っておきたい基礎知識についてご紹介しますので、ぜひご一読ください。
キャッシュレス決済とは?
キャッシュレス(Cash Less)とは文字通り、現金を使わない決済方法を指します。クレジットカード、デビットカード、交通系ICカード、QRコードのように、その決済方法は多種多様です。
海外で主流なのは、NFC(Near field communication)という近距離無線通信規格を使ったクレジットカード決済であり、カードを専用端末にかざすだけで支払いが完了します。その他、デビットカードの使用率も高いでしょう。
デビットカードは銀行口座と連動して、決済をすると同時に引き落としが行われる決済方法です。現金を持ち歩かなくても、現金に近い感覚でショッピングができることから、海外では主流の決済方法の1つとなっています。
銀行振込も一種のキャッシュレス決済ですが、即時性が低いことや特定のシーンでしか利用されないため、日本政府推進のキャッシュレスには含まれない模様です。
日本政府が策定した「キャッシュレス・ビジョン」とは?
経済産業省では2018年4月に「キャッシュレス・ビジョン」と呼ばれる、これからの日本のキャッシュレス社会について述べた資料を発表しています。それによれば、2017年「6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」にて、1つのKPI(Key Performance Indicator:重要評価指標)として「10年後(2017年)までにキャッシュレス決済率を4割程度とすることを目指す」とされています。
さらに、東京オリンピック・パラリンピックの開催時までには、訪日外国人観光客が訪れる主要な施設及び観光スポットにおいて、クレジットカード決済対応率100%目指すことを公表しています。
なぜキャッシュレス社会を目指すのか?
日本は依然として少子高齢化という大きな社会問題を抱えており、いずれは労働者人口減少の時代を迎え、国の生産性低下が懸念されています。労働者不足の解消は喫緊の課題であり、キャッシュレス社会の実現は、実店舗などの無人化省力化、不透明な現金資産の見える化、流動性向上、不透明な現金流通の抑止による税収向上につながる、という効果が期待されています。さらに、支払いデータの利活用による消費の利便性向上や消費の活性化など、国力強化なども想定されています。
ちなみに「キャッシュレス・ビジョン」は、キャッシュレス決済の種類について次のように定義されています。
プリペイド (前払い) |
リアルタイムペイ (即時払い) |
ポストペイ (後払い) |
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主なサービス例 | 電子マネー (交通系ICカード、流通系ICカード) |
デビットカード (銀行系、国際ブランド系) |
モバイルウォレット (QRコード、NFCなど) |
クレジットカード (磁気カード、ICカード) |
特徴 | 利用金額を事前にチャージ | リアルタイム取引 | リアルタイム取引 | 後払い、与信機能 |
加盟店への支払いリサイクル | 月2回など | 月2回など | 即日、翌日、月2回など | 月2回など |
主な支払い方法 | タッチ式(非接触) | スライド式(磁気) 読み込み式(IC) |
カメラ/スキャナ読込(QRコード、バーコード) タッチ式(非接触) |
スライド式(磁気) 読み込み式(IC) |
小売事業者がキャッシュレスに対応するメリット
さまざまな種類があるキャッシュレス決済。それらの決済方法に小売事業者が対応するメリットとは何でしょうか?
まず、消費者の利便性向上による消費の拡大効果が挙げられます。現金払いにしか対応していない店舗よりも、クレジットカード決済にも対応している店舗の方が消費者の母数を確保できることは明白です。クレジットカード1つに対応するだけでも、今まで取りこぼしていた消費者層を獲得することで、消費の拡大を促せます。
さらに、現金払いが少なくなることで、現金をやり取りする機会が減り、作業効率が向上します。現金を扱う際はおつりの渡し間違いなどをしないよう細心の注意を払いますし、締め作業にかなりの負担がかかります。キャッシュレス決済ならば精神面の安定を目指すことができ、安心したレジ仕事で生産性が向上します。
事例:完全キャッシュレス決済を目指したロイヤルホールディングス
「ロイヤルホスト」や「シズラー」といった飲食ブランドを有するロイヤルホールディングス株式会社(以下ロイヤルホールディングス)では、2017年11月に完全キャッシュレスの飲食店「GATHERING TABLE PANTRY(ギャザリング・テーブル・パントリー)馬喰町点」をオープンしました。
同店舗では、現金払いを受け付けない完全キャッシュレス決済を採用したことで、これまで約40分かかっていたレジ締め作業をたった5分で完了できるようになり、店長からは閉店後に1人で現金を数えるという作用から解放され安心感が生まれていると精神的安定を主張しています。
さらに、釣銭の準備や銀行への入金など、現金にかかわる管理・事務作業は店長の業務時間のうちおよそ19%を占めていたのに対し、同店舗では全体の5.6%ほどに削減したといいます。
こうした完全キャッシュレス決済へ対応することはそれほど難しいことではありません。さらにこれらの例からもわかるように作業時間短縮や精神的安定など、従業員の生産性を上げるのに十分な効果を発揮します。
キャッシュレス決済を検討しよう!
現状として、まだキャッシュレス決済に対応していないという小売事業者では、最低限クレジットカード決済だけでも対応しておくことをおすすめします。そうすれば、これまで取りこぼしていた消費者を救えることによる売上拡大へとつなげたり、生産性向上などの効果が得られるでしょう。