企業が持つあらゆる販売チャネル・流通チャネルを統合し、会員情報と在庫情報などを統合管理することで、消費者がどのチャネルを選択しても一貫性の高いサービスを提供するのがオムニチャネル(Omni-channel)戦略です。2011年に米大手百貨店のメイシーズが「オムニチャネルリテーラー」を宣言してから約10年、今でも多くの小売事業者がオムニチャネル戦略に挑み、中には事業戦略の中枢にする企業も存在します。本記事でご紹介するのは、アパレル業界を中心とした小売企業におけるオムニチャネル戦略の実例です。どのような取り組みがなされ、何が功を奏しているのか?気になる実例をチェックしてみましょう。
アパレル業界の今と未来
アパレル業界は全体として厳しい状況が続いています。矢野経済研究所が2019年12月に発表した調査結果によると、2018年の国内アパレル小売市場は前年比0.1%増の9兆2,239億円で着地し、2年連続して横ばいだったと発表しました。販売チャネル別に見ると百貨店は前年比4.0%減の1兆7,945億円、量販店は3.7%減の8,027億円、専門店は1.0%微増の5兆674億円となっています。その中で唯一大幅に成長しているのが「専門店チャネルおよびその他(通販など)」であり、前年比4.2%増の1兆5,593億円となりました。
アパレル市場ではここ数年間横ばいが続いており、今後は少子高齢化のあおりを受け市場が縮小していくと考えられています。しかしその中で、ECサイト等の販売チャネルが大きく伸びているのは、やはり消費者の購買行動がリアルからデジタルへと完全に移行したことを示唆しているでしょう。
ちなみに、経済産業省が取りまとめた『電子商取引に関する市場調査の結果』によると、BtoC-EC(消費者向けの電子商取引)市場規模は18.0兆円(前年比8.96%増)となり、EC化率※は6.22%となっています。一方、上記のアパレル市場規模データからEC化率を算出すると16.9%であり、商取引全体と比較して圧倒的にEC化率が高いことが分かります。
※市場全体におけるEC経由の商取引の割合「EC取引総額÷市場取引総額×100(%)」
アパレル業界におけるEC事業は「サイズ感」や「実物が手に取れない」などの課題から、黎明期は成長が難しいと考えられてきました。しかし最近では、新しいデジタル技術や動画コンテンツなどの活用により、ECサイト上でも様々な視点から商品を眺めたり、実際に使っているところを想像できたりと、ECサイトでの快適なショッピングが整備されています。
大手アパレルEC事業者のZOZOTOWNでは、ZOZOスーツと呼ばれる身体計測スーツを提供することで、ECサイト上のショッピングであっても自分にピッタリのサイズが分かるサービスを展開しています。
オムニチャネル戦略でアパレル事業者はどう変わるのか?
ECサイトにおける市場は堅調に伸びているものの、アパレル業界全体が厳しい戦いを強いられている事実は依然として変わりません。では、オムニチャネル戦略はこの現状をどのように打破してくれるのでしょうか?ここでは、大手アパレル事業者のオムニチャネル戦略をご紹介します。
ユニクロのオムニチャネル戦略
アジア、北米、ヨーロッパなど主要国へ幅広く海外事業展開している日本のアパレルブランド、ユニクロ。日本国内では全国に実店舗を出店しており、2019年8月時点では2,196店を展開しています。ユニクロが行っているオムニチャネル戦略の基点となっているのが、スマートフォンアプリでの「UNICLO IQ」です。この機能はAIチャットボットが実店舗の在庫情報やコーディネイトの相談に乗ってくれるなど、様々なサービスを提供しています。
この機能を通じてユニクロは、ユーザーの性別や年齢などの個人属性データと購入データを紐づけて収集し、常に最新のデータにもとづいて商品開発や在庫管理を実施しています。さらに、既製品の販売だけでなくビジネススーツやYシャツのオーダーメイドサービスも受けており、ユーザー自身で採寸したデータか店舗で採寸してもらったデータを送信するだけでオーダーできます。出来上がった商品は郵送してもらうか、店舗で受け取ることもできるため、オムニチャネル戦略の基本的サービスだと言えます。
ただし、ユニクロのようなサービスを提供するには高度なシステムが必要です。RFID(無線電子タグ)を取り付けて非接触で読み取り可能な在庫管理を実施することで、アプリへのデータ反映をリアルタイムに行います。さらに、取得したデータを活用するにはサプライチェーンの整備が必要であり、ユニクロは大和ハウス工業と合併して消費地により近い場所に大型多機能物流拠点を設置することで、配送コストと時間を大幅に短縮し、リアルタイムの販売状況に合わせた商品を短時間で仕分け、各店舗に配送しています。
ユナイテッドアローズのオムニチャネル戦略
全国に200以上の店舗と年商1,000億円を超えるユナイテッドアローズは、実店舗での売上が減少傾向にあるものの、EC事業は堅調に伸びています。現時点で18%程度のEC化率を25~30%へ引き上げる目標を立てており、オムニチャネル戦略を強化しています。
ユナイテッドアローズはZOZOグループにECサイト運営や在庫管理を委任していたましたが、2020年3月期からはZOZOの手を離れ、EC事業を自社でコントロールする新体制に向けた方針を打ち出しました。ユナイテッドアローズとZOZOは長年にわたる取引関係にありましたが、発表時はZOZO離れと大きく報道されました。
消費者動向やトレンド情報などの外部環境データと、ハウスカードを通じて消費者から取得可能な属性情報、さらには実店舗やユナイテッドアローズオンラインストアにおける購買履歴などの各種データを有効活用して、将来的にひとりひとりに高度に最適化されたサービスを提供するビジョンを描いています。商品調達や物流などのインフラ面においても、消費者が求めている商品を、欲しい場所から欲しいタイミングで購入できるように体制と業務基盤を整えていく予定です。
オムニチャネル戦略を目指そう!
いかがでしょうか?アパレル業界ではオムニチャネルに事業復活の一手をかけている企業も多数存在します。また、最近ではAIやIoTの活用によってデジタル改革を遂げる企業が多く、そうした最新のデジタル技術も追い風になるのではないかと考えられています。オムニチャネル戦略には一定の投資は必要です。しかし、それ以上の利益を生み出す可能性も非常に高いため、自社にとってオムニチャネル戦略とは何か?何ができるか?などを考えた上で、新しいUX(顧客体験)を提供するための販売プロセスについて考えてみてください。