BIMとは、あらゆる情報を用いて3次元によるデジタルモデルの作成を行うシステムです。従来はCADと呼ばれるシステムで建物の設計作業が行われていましたが、現代ではより情報を有効に扱える手段として注目が集まっています。
今後はシステムの一新およびCADからの移行を行う企業が増えることで、建設業界全体も活気づくと期待されています。本記事では、BIMの基本とそのメリットに加えて、具体的な事例を紹介します。
BIM(Building Information Modeling)とは
BIMとは、3Dのデジタルモデルを作成するシステムで、一般的に「ビム」と発音されます。日本語にすると「情報を使って建物を形成(構築)する」といった意味になり、デジタルデータを活用して設計などを行うシステムを意味します。
具体的にはコンピューター上の仮想空間に3次元モデルを作り出し、建材の幅、奥行き、高さ、設備機器の情報(品番、メーカー、価格など)といったあらゆる情報を参考に実際の建物をデザインする形で設計が行えます。建設・設計に必要な情報を一元化して管理できるので、業務における流れを効率化することが可能です。
その機能には多くのメリットがあるため、今後は多くの建設事業が利用を検討すると考えられるでしょう。実際に「BIM活用実態調査レポート」の2020年度版によると、すでに56%が「勤務先でBIMを導入している」と回答しています。この割合は今後も増加する可能性があるため、今から本格的な導入を計画することもおすすめです。
従来のCADとの違い
建設業においては、これまでもCADによってデジタルな設計が行われてきました。しかし、CADは一旦2次元の図面を作成した上で、そこから3次元の形に組み立て直す必要がありました。CADによるCGシミュレーションを使った設計で全体の作業は非常にやりやすくなりましたが、それでも多く課題が残っています。
例えばCADの場合、3次元化したあとに修正が必要になれば、再び2次元の図面に戻って修正の該当箇所をすべて直さなければなりませんでした。この仕様ゆえに、作業がなかなか進まないケースも多く、作業効率の低下につながっていたのです。
一方で、BIMは最初から3次元による設計を行い、あとから2次元の図面に切り出すという手順を取ります。そのため2次元図面を作成する作業そのものが省略され、仮に修正が発生しても関連箇所はすべて自動で修正されるのです。修正によって作業を中断されることがないため、生産性向上につなげられます。
BIMの種類
BIMには、「3D BIM」「4D BIM」「5D BIM」の3種類があります。3D BIMとは、基本として使用される「3Dデータ」のことで、あらゆる情報を集約して図面を作成することが可能です。例えば平面図、立面図、断面図などの自動作成ができ、設計に必要な3Dモデルを簡単に手に入れられます。
4D BIMとは、上記の3D BIMに「時間」の概念をプラスしたデジタルモデルです。具体的には施工期間や管理にかかる時間を情報として加え入れることで、正確なスケジューリングの把握につなげます。
5D BIMとは、3D BIMに時間とコストの情報を加えたモデルです。実際に設計に使われるパーツや機器の原価を、リアルタイムで把握できるようになります。作業に連動してコストを確認できるため、事業における利益の確保がしやすくなるでしょう。
BIMを利用するメリット
BIMを導入することには、さまざまなメリットがあります。以下からは、実際に業務に活用していくことにどのようなメリットがあるのかを解説します。
設計・管理が効率化する
BIMの導入は、設計および管理業務の効率化につながります。修正や資材の変更による結果もすべて自動で反映されるため、作業工程の調整や予算の再計算などの作業はなくなるのです。
また、これまでソフトウェアごとに管理されていた各情報が、一元管理できるので、情報共有のスピードを上げられます。各部署との連携もしやすくなるので、会社内全体の業務効率化にも影響するでしょう。CADの課題であった修正・変更の問題や、情報管理の煩わしさまで軽減される、という大きなメリットを持っています。
設計初期からシミュレーションが行える
これまでの設計では、初期段階においては専門家に依頼をしてそれぞれシミュレーションを実施してもらわねばなりませんでした。そのため設計に取り掛かるまで時間やコストがかかる、という大きな課題がありました。
しかし、BIMの機能を使えば、会社のデスクからでも具体的な情報を取得できます。
例えば照明器具の配置をシミュレートして明るさが満遍なく室内に届くのか計算したり、空調の動きを考慮して快適な空間を構築できるか想定したりといったことが自社だけで可能です。工数やコストの見積もりが簡単に行えるほか、建造物に初期段階で発見される課題を早めに把握できるため、プロジェクトが進行する前に問題に対処可能です。
取引先へのプレゼンテーションに役立つ
BIMによるデータの作成は、取引先に具体性を持ってプレゼンテーションをする際にも役立ちます。
CADの時代には、まず取引先に2次元の図面を提出していました。しかし、2次元の図面では全体像をイメージするのは難しく、建造物の良さを伝えるのが難しいケースも多かったのです。
一方で、BIMを使用して、最初から3Dデータを提出することで、取引先にも初期段階から具体的な完成像を確認してもらうことができます。イメージを取引先と共有しやすく、あとから想定外の注文や修正が入る可能性が低くなるため、スムーズに業務を進められるというメリットもあるでしょう。
BIMは国土交通省でも導入戦略が立てられている
BIMは国土交通省からも注目され、導入戦略が立てられるほどの期待を得ています。すでに具体的な導入ロードマップが表明されており、現在は「どのように浸透させていくべきか」が考えられている段階です。
具体的に国土交通省におけるBIMの導入戦略は、以下の工程によって進められると計画されています。
- BIMを活用した建築生産・維持管理に係るワークフローの整備
- BIMモデルの形状と属性情報の標準化
- BIMを活用した建築確認検査の実施
- BIMによる積算の標準化
- BIMの情報共有基盤の整備
- 人材育成、中小事業者の活用促進
- ビッグデータ化、インフラプラットフォームとの連携
(建築BIMの将来像と工程表より引用)
このように、あらゆる業務の標準化や情報共有の基盤整備、人材育成や中小事業者における活用促進などが計画されているのです。最終的にはビックデータ化やインフラプラットフォームとの連携なども考えられているため、DX化(デジタルトランスフォーメーション)の一部として導入されることも増えるでしょう。それぞれの企業が上記のロードマップを参考に、導入のタイミングを考えていく時代が来るかもしれません。
BIMの導入事例3選
BIMは、すでにそのメリットが多くの企業に認知されています。以下では、実際にBIMを使っている企業の事例を紹介します。
BIMで遊具などの安全性を確保|株式会社丹青社
株式会社丹青社は、非日常的でインパクトのあるデザインを作成することで有名な企業です。
子ども向けの施設をデザインするなかで、2Dによる図面だけでは実際の雰囲気をイメージしてもらうことが難しくなっていました。
そこでBIMを導入し、最初から3D化して構造や施工上の納まり具合をきちんと検証したり、子どもが体験する遊具の活用や移動もイメージしやすくしたりといった工夫を行っています。クライアントと共通の認識・イメージ像を持って、仕事に取り掛かれるようになっています。
BIMで会議の時間が1時間から5分に削減|空創房、一級建築士事務所
空創房は、福祉施設や個人住宅など、さまざまな建築を手がける一級建築士事務所です。
打ち合わせの段階で、BIMを使い、タブレットPCなどで実際に3Dデータを提示し、その場で指示をもらえるようになりました。クラウド経由でも3Dデータを提示可能なので、具体的な指摘や意見をすぐに反映できる地盤が構築されたのです。
これは施工者との打ち合わせ時にも応用され、これまで1時間かかっていた現場会議が5分間の電話で終わるようになったとのこと。
業務効率化とクライアント・関連事業者との意思疎通が行いやすくなった点が、導入におけるメリットになっているでしょう。
BIMでグローバル化・効率的な人材育成を実現|八千代エンジニヤリング株式会社
八千代エンジニヤリング株式会社は、3Dモデルを活用して環境解析を行っている会社です。
BIMのモデルデータを使っての簡単なデータ共有ができるため、海外の顧客ともスムーズに意思疎通が行えるようになりました。
3Dモデルは人間に具体的な内容をイメージさせることができるので、人材育成にも応用されています。八千代エンジニヤリング株式会社では2D図面が主流の頃と比較して、短期間でエンジニアの育成まで可能になったそうです。
まとめ
BIMは、CADに代わる新しいシステムとして注目を集めています。本記事を参考にBIMのメリットと魅力を具体的に理解し、自社業務の改善や、新たなビジネスチャンス獲得へつなげていってください。その上で、自社にとっての明確な必要性が認識できた場合は、ぜひ実際の利用を検討してみてください。