SNSなどの発達とともに、「D2C」と呼ばれるビジネスモデルが注目を集めています。今回は、スタートアップを含めた多くの企業が参入しているD2Cについて解説します。
ビジネスモデルの特徴や注目度が高まる背景に加え、導入にあたり知っておきたいポイントもまとめているので、自社に取り入れる際の入門編として活用してください。
D2Cビジネスとは
D2Cとは、「Direct to Consumer」の略称で、わかりやすくいうと「製造者が直に消費者と取引を行う」ビジネスモデルです。D2C企業とは、このモデルで商品を販売する企業を指します。
D2Cでは小売店や大型のECモールではなく、自社のECサイトで販売するのが一般的です。なかには、ポップアップショップや直営店などのリアル店舗で販売する場合もあります。
間に卸やテナントが入らないため手数料がかからず、しかもユーザーとダイレクトにコミュニケーションがとれるとあって、新しい時代に即したビジネスモデルとして浸透しつつあります。多くのD2Cブランドは、ソーシャルメディア(SNS)などを活用し、ユーザーとの直接のやりとりを行っているのも特徴の一つです。
世界的なトレンドとして注目を集め、日本でもアパレルや生活雑貨、家電や家具、食品まで、数多くのD2Cブランドが売り上げを拡大しています。
D2Cビジネスが普及した背景
D2Cのビジネスモデルが急速に普及した理由には、消費者全体のなかで1980年〜1995年生まれのミレニアル世代と、続く1996年〜2015年生まれのZ世代の割合が増加してきた点が挙げられます。この世代は、幼少期からPCや携帯電話が身近ないわゆるデジタルネイティブであり、インターネットでの買い物に抵抗感を持たないのが特徴です。日頃からSNSなどを使いこなし、情報収集やシェアが生活の一部になっています。
加えて、世の中全体で消費のニーズが所有から体験へと転換している背景も、D2Cの発展を後押ししました。これまでは、品質や機能性に優れたものを手に入れる所有欲をかき立てることで、商品購入を促していました。今は、購入を含めた消費体験を楽しみ、使用価値に重きが置く傾向が強まっています。
SNSなどを使ってマーケティングを展開するD2Cは、ブランドの世界観や商品が生まれた背景などを訴求するブランドが多いため、この「モノ消費からコト消費」へと切り替わる世の中の流れとマッチしているのです。また、ECプラットフォームやSNSが発達し、サイト運営・PRなどが容易になった点も、大きな要因でしょう。
D2Cビジネスの特徴
D2Cビジネスが、従来の商品販売モデルと大きく異なるのはどういった点でしょうか。ここでは、D2Cの特徴について解説します。
消費者に直接販売する
D2Cの最大の特徴は、ECサイトを中心に自社で販売チャネルを持ち、顧客とダイレクトに取引する点です。通常、大型のECモールなどを通して販売した際は、ユーザーの声が拾いにくいことに加え、サイト内での行動に関する情報の取得も限られています。
それに対して、自社が管理する販売チャネルの場合は、ユーザーの行動を自在に把握できます。どんな人がどれほどの頻度で商品を購入しているのかといったユーザーの傾向を細かく分析できる上、改善点があればスピーディーな反映が可能です。また、商品の企画から販売、発送に至るまで自社で管理するため、ステップごとにリアルな声を吸い上げられます。
コンテンツマーケティングを行う
D2Cの市場では、コンテンツマーケティングを積極的に行うブランドが多い点も特徴です。ユーザーにとって有益な高品質かつ充実したコンテンツを定期的に発信することで、見込み客の育成を図り、購入や成約へとつなげます。
オウンドメディアやSNS、メールマガジン、動画や音声配信など、ブランドによってさまざまな方法でコンテンツ配信を行なっています。コンテンツは、ブランドの世界観を打ち出す施策としても重要です。
安価に商品を販売する
D2Cのビジネスモデルでは、基本的にはブランドとユーザーの直取引となり、間に中間業者をはさみません。そのためECモールへの出店手数料や、卸や販売店への中間マージンなどにかかる費用を大幅に削減できます。
コストが減った分だけ利益率がアップしますし、商品の価格を抑えられることが可能になります。安価でハイクオリティーな商品が多いことも、D2Cブランドが人気の集める理由の一つでしょう。
ストーリーや世界観を売る
従来多くのブランドでは、商品の機能性や品質の高さを売りにしてきました。しかし、それだけで他社の商品との差別化を図ることには限界があります。
D2Cブランドでは、商品自体のクオリティーの高さに加え、開発の背景にあるストーリーやブランドの世界観も含めて、価値ある消費体験として売り出す方法が主流です。実際、多くのD2CブランドのサイトやSNSでは、なぜその商品が生まれたのか、また取り入れることでどんな体験やライフスタイルを提供したいのかを、明確に打ち出しています。
また、大手のECモールや販売店を介する場合は、世界観を統一したり、ストーリーを訴求したりするのが難しいケースもあります。それと比較すると、D2Cでは自社のチャネルがメインであるため、イメージを全面的に打ち出すことが容易です。
売り手側には、ユーザーを惹きつける魅力的な世界観の構築や、オウンドメディアやSNSなどを使いこなす手腕が求められるでしょう。
買い手がファンになる
従来の販売方式は、買い手はあくまで小売店やECモールの顧客という位置付けでした。しかし、D2Cではブランドの担当者が消費者と直接コミュニケーションをとるため、ファンになってもらいやすいのも大きなメリットです。ユーザーとの接点を多く設けるために、SNSのコメント欄やライブ配信などが活用できます。
ブランドの商品や世界観に惚れ込んでもらえれば、リピーターが増え、LTV(Life Time Value)つまり「顧客生涯価値」は高まるでしょう。LTVとは、顧客から生涯にわたり得られる利益の総額を指す言葉です。
滅多に買い替える機会のない大型の商材を取り扱うブランドであっても、世界観にマッチする周辺商品を用意しておけば、継続利用を期待できるでしょう。
D2Cビジネスを始めるときのポイント
D2Cブランドを立ち上げ、ビジネスとして軌道に乗せるには、「商品選定」「資金調達」「集客」の3つのポイントを押さえる必要があります。
商品選定
まず大切なのが、2Cに適した商品を商材として選択することです。
例えば、継続的な利用が見込まれる消耗品は、消費者のリピーター化を促しやすいためD2C向きです。サプリメントや青汁、漢方といった健康管理に関わる商材や、一定期間で必ず補充が必要なコスメ、好きな人は毎日必ず飲むコーヒーやお茶など、数多くの選択肢があります。これらは、サブスクリプション(定期購入)として展開できる点も見逃せません。
資金調達
商品企画と同時に、資金調達の方法も考えておきましょう。近年は、クラウドファンディングで支援を募る方法も人気を集めています。商品の背景にあるストーリーや世界観を訴求してファンを集める手法なので、D2Cのビジネスモデルと好相性で、スタートアップの企業でも参入のハードルが低くなる点も魅力です。
集客
D2Cの商品は、小売店や大型モールを利用しないため、いかにユーザーに存在を知ってもらうかが重要です。オウンドメディアやSNSを活用した集客を視野に入れ、買った人が思わず拡散したくなるような商品設計を意識しましょう。
ライブ配信の活用や、ハッシュタグを活用した拡散、インフルエンサーを起用したマーケティングなどは多くのブランドが取り入れています。同時に、数あるSNSのなかから商品の特色やターゲットに合うものを選ぶのも重要です。
まとめ
D2Cのビジネスモデルでは、消費者の声を直に取り入れ、よりニーズにマッチした製品やサービスへと改善が可能です。特に、消費財メーカーなどにとっては、ユーザーと双方向でコミュニケーションを取れるのは大きな利点となるでしょう。時代に即したビジネスとして、D2Cのような新しいスタイルを取り入れてみてはいかがでしょうか。