リテール(小売り)業界では、ECサイトに流れた消費者を実店舗に引き戻さんとする取り組みが各地で行われています。中でも注目されているのが、「顔認証による来店者の属性分析」です。昨今のAI技術を活用すれば、来店者1人1人の顔認証を実施するのはもはや難しい話ではありません。しかも、顔認証から得られる情報は幅広く、今までのリテール業界ではあり得なかった情報分析と、店舗運営の最適化を実現できます。本記事ではそんな、「顔認証による来店者の属性分析」が実店舗にもたらすインパクトについて解説します。
リテール業界、実店舗の今
情報分析による小売最適化といえば、ECサイトの十八番でした。インターネット上ではデータ収集が容易であり、サイト内において利用者1人1人の行動を追跡したり、購入した商品を把握したりすることでさまざまな情報分析へと繋げることができます。
また、昨今ではECサイト外での行動を追跡するために、外部オーディエンスデータを組み合わせてインターネット全体における行動履歴を把握することも可能になっています。そうした情報分析を武器に、ECサイトは店舗レイアウト改善や仕入効率化などの小売最適化を繰り返してきたことで、堅調に市場規模を拡大しました。今では物販系市場全体の6.2%をEC市場が占めており、その規模は年々広がっています。
だからといって、実店舗の価値が下がっているとは言い難いでしょう。物販系市場における実店舗市場は全体の93%以上を占めていますし、「ショッピングを楽しむ」という観点から見れば、やはり実店舗に足を運んで自分自身の目で商品を見極め、購入した時の方が同じ商品であっても購買意欲は満たされるはずです。
問題は「利便性」です。ECサイトなら自分が求めている商品を瞬時に検索し、いくつかの店舗で比較しながら購入を検討できます。決済方法も多様ですし、買い回りも楽です。こうした圧倒的な利便性の高さから、やはり多くの消費者がECサイトへと流れます。
しかしこれは、考え方を変えれば「利便性向上を実現すれば、ECサイトよりも実店舗の方が消費者にとって魅力的なショッピングになる」ということが言えます。そして、AI技術が発展した今、ECサイトでしか収集できなかったデータは、実店舗でも類似したデータを収集できるようになりました。いえ、場合によってECサイト以上に価値あるデータを収集できます。
顔認証によって得られるデータとは?
「顔認証による来店者の属性分析」とはつまり、AI技術を搭載したカメラを店舗内・店頭に設置し、そこを通過する来店者・通行人の顔情報をAIが処理することにより、さまざまなデータが得られるようになるのでそのデータを分析することで、価値ある情報へと変換するプロセスを意味します。では、顔認証によって具体的にどういったデータが得られるのでしょうか?
<顔認証によって得らえるデータ>
- 来店者・通行人の年齢
- 来店者・通行人の性別
- 来店者の入店時間・退店時間
- 来店者の滞在時間
- エリアごとの滞在時間
- 店舗内における行動
- 店頭ディスプレイ閲覧者数
- 新規来店者数
- リピーター数
顔認証AIを搭載したカメラは、来店者1人1人の特徴を認識することから店舗内における行動を常にモニタリングし、入店から退店までどういった行動をしたのか?各人の性別や年齢は何か?といったデータをリアルタイムに収集できます。これはECサイトにおける、属性情報(ブラウザ、端末、アクセス地域)やページ滞在時間などに該当します。
来店者に関するさまざまなデータを、ここまで収取できれば後はそのデータを如何に分析し、価値ある情報へと変化するかに真価が問われます。属性分析を実施することで、企業は次のような情報が得られるでしょう。
- 時間帯別、来店者の性別や年齢などの傾向
- 来店したが何も購入しなかった消費者の割合、生別、年齢
- 店舗内における来店者の行動の傾向
- 正しい導線設計のためのエリア滞在時間
- 性別、年齢ごとに興味を持ちやすい商品
顔認証によって実現する新しいサービス
実店舗に顔認証技術を採り入れることは、来店者の属性分析が行えるだけではありません。来店者1人1人の顔を認識することによって、今までにない革新的なサービスを提供することもできます。
1. 顔認証によるウォークスルー決済
ウォークスルー決済とは、レジに商品を通さずに退店すると同時にキャッシュレス決済が完了するという、実店舗の新しい決済方法です。これに顔認証を採り入れることで、スマートフォンアプリによるチェックインなどを行わずともウォークスルー決済が可能になります。
従来のウォークスルー決済は入店時にスマートフォンアプリに表示されるQRコード等を端末に読み込ませ、店舗にチェックインします。一方、顔認証があればチェックイン作業すら不要です。AIが来店者を自動的に識別してチェックインを行い、商品を持って退店すれば来店者に紐づけられて決済情報によってウォークスルー決済が完了します。
2. 属性ごとに表示内容を変えるデジタルサイネージ
最近では、商品棚に設置された小さいデジタルサイネージを見かけることが多くなりました。しかし、それらのディスプレイは未だ決められた映像を静的に流すだけであり、来店者ごとに最適化することはできません。それに対し、顔認証を採り入れれば商品棚を見ている来店者の属性分析を行い、デジタルサイネージに流す映像を動的に、自動的に変化させられます。
つまり、マーケティングのカスタマイゼーションを実現することにより、施策効果の向上が狙えます。
3. 属性分析にもとづいた商品レコメンド
小売店における大きな課題の1つは、接客サービスに割く時間が少ないことです。従業員の多くはレジ対応や商品陳列に追われていて、顧客ごとの課題を聴きとってそれに適した商品を提案することができません。
海外のスーパーマーケット等では、来店者が商品選びに困っているときは店舗スタッフが積極的にコミュニケーションを取って商品提案を行っています。「食品や日用品の売り場で?」と思われるかもしれませんが、コミュニケーションを重視することでリピート率をアップしているのです。
一方、日本のスーパーマーケットでは顧客に求められれば笑顔で対応しますが、店舗スタッフ自ら積極的にコミュニケーションを取ることは少ないでしょう。しかし、様々な技術を駆使した業務効率化を図り、来店者とのコミュニケーションに割く時間を作り、かつ顔認証の属性分析にもとづいた商品レコメンドがあれば、単純な売上向上だけではなく来店者と良い関係性を構築するきっかけにもなります。
いかがでしょうか?実店舗において、顔認証で得られるデータは非常に多く、さまざまな価値ある情報を取得できます。それによって実店舗としての価値を拡大させ、最適な店舗運営を目指すことにも繋がります。リテール業界の明日を変える新しい技術に、ぜひご注目ください。