2018年、物販系EC市場の規模は前年から8.9%増加し17兆9,845億円となったことを経済産業省が発表しています。EC化率※は6.2%となり、前年から0.43ポイント上昇しています。
※物販系市場全体に占めるECの割合
数年前から「ECビジネスが実店舗の売上を脅かしている」とささやかれ、店舗ではショールーミング化などの問題が深刻化していることを、多くのメディアが伝えています。しかしながら、96%を超える商品購入は今でも実店舗で行われていることから、リテール(小売)企業にとっては実店舗での自社商品取り扱いや、革新的な店頭体験が今後重要になっていくと考えられています。
本記事では紹介するのは、実店舗における革新的購買体験を実現するための、「AIカメラを使った店舗分析」です。実店舗での売上伸び悩み、カスタマイズされた接客などを課題として感じている方はぜひ参考にしてください。
「AIカメラを使った店舗分析」とは?
AI(Artificial Intelligence)とは「人工知能」のことであり、もはや説明する必要もないほど我々の私生活やビジネスに浸透している技術です。昨今ではビジネスにおけるAI活用が盛んであり、自律的に情報処理を行うコンピューターによって、人間では不可能なレベルでの業務効率化や情報収集・分析を可能にしています。
このAIを搭載したカメラを使って店舗分析を行うとは、どういうことなのでしょうか?まずは、AIカメラが処理できる情報を下記に整理してみます。
<AIカメラが処理できる情報の一例>
- 店舗来店者数
- 店舗退店者数
- 店舗前交通状況
- ディスプレイ閲覧者数
- 入店へ転換した顧客数
- 店舗内混雑状況
- 平均店舗滞在時間
- 店舗内導線
- 来店者属性(性別、年齢)
- 新規客数
- リピーター客数
- エリア滞留回数
- エリア滞留時間
- 商品購買率
この他にも、AIカメラによって処理できる情報はいろいろとあります。また、AIカメラがPOSシステムと連携したことで、「誰が何を買ったか?」といった情報統合も可能であり、店舗分析の幅が広がります。
なぜ店舗分析が必要なのか?
EC市場が急速に拡大し、実店舗を脅かすほどまでに成長した理由は何か?スマートフォンが普及したことでインターネットへの接続容易性が増し、実店舗に足を運ばなくてもショッピングが楽しめるようになった、と考える方が多いかもしれません。しかし、最たる理由は他にあります。
それが、ECサイト内・インターネット上の行動履歴分析による「カスタマイゼーションされた接客」です。ECサイト内では、誰が・どこで・何を・どれくらい閲覧し、その後どういった商品を購入したかという情報をすべて取得できます。もちろん、個人情報を特定しない範囲で。これらの情報は積極的にECサイト改善に役立てられ、さらには利用者ごとに最適化された情報や商品・サービスの提供を実施することにより、ショッピングにおける利便性を大幅に向上しました。
「購買意欲を満たす」「ショッピングを楽しむ」という面では、実店舗に足を運んで商品の品定めをしながら、あれやこれやと考えた買い物をするという方が圧倒的に有利なはずです。しかし、実店舗では収集できる情報に限界があるため、ECサイトのように顧客ごとに最適化されたショッピング環境を整えることができません。これが、EC市場が急成長した根本的な理由であり、それとは対比的に実店舗における利便性が下がったことから、ショールーミング化などの問題が起きています。
また、近年ではECビジネスがリアルビジネスに進展する破壊的イノベーションも起きつつあります。世界の最大手EC事業者、Amazon.comがスマートストア(自動化・無人化された実店舗)を出店し話題となったのはまだ記憶に新しいところです。
現代のリテール企業がこうした状況を覆し、再び実店舗に訪れてもらえるような施策を展開するには、ECサイトが実施したのと同じようにあらゆる情報分析を通じて、利用者ごとに最適化された商品・サービスを提供することがとても重要なのです。
店舗分析で得られる情報とは?
AIカメラやIoTセンサーを設置し、そこから得られたデータを基に店舗分析を実施することでリテール企業は今までない価値の高い情報を手にすることが可能です。従来まではPOSシステムによって、「どの商品がいくつ買われているか?」という情報しか取得できなかったのに対し、店舗分析を実施するとどのような情報が得られるのでしょうか?
1. 商品の購入者・未購入者の属性情報
従来はPOSシステムによって「どの商品がいくつ買われているか?」という情報しか得られなかったのに対し、AIカメラを搭載した店舗では商品を購入した人、購入しなかった人の性別・年齢などの情報が取得できます。
さらに、アパレル店舗などでは購入者・未購入者の服装などもチェックできることから、顧客の趣味趣向まで把握できるのは大きな強みです。
2. リピーターとその傾向
どういった客層が、いつリピーターに転換するのか?この情報を知っていれば、効果的にリピーター創出のための施策を展開できます。店舗分析を行えば難しいことではありません。
3. 来店者が興味を持っている商品
商品棚に設置されたAIカメラにより、来店者がどういった商品に興味を持っているのかを把握できるようになります。また、興味は持たれやすいが売れない商品なども抽出でき、店舗ごとに最適化された品揃えを実現できるでしょう。
4. 最適な導線設計に関するヒント
効率良く店内を回遊してもらい、購買意欲を高めるためには導線設計が重要です。AIカメラを搭載した店舗なら、来店者がどういった経路で店内を回遊しているかの情報を分析して、最適な導線設計に関するヒントが得られます。
5. 店舗前に表示すべきディスプレイ
デジタルサイネージなど店舗前に表示しているディスプレイの中で、通行者の興味を最も引くものは何か?これもAIカメラがあれば容易に把握できます。また、複数のデザインを用意してA/Bテストを実施することも可能です。
6. 施策効果の高いキャンペーン
キャンペーンごとの来店率やリピーター率などをチェックすれば、店舗にとって最も施策効果の高いキャンペーンを簡単に把握できます。また、どういった順番でキャンペーンを実施すれば効率よく集客できるかも知ることが可能です。
7. 人材リソースを集中すべき時間帯
来店客の滞在時間やリピーターの来店集中時間などの傾向が知れれば、人材リソースをどのタイミングで集中すべきかが分かります。これによりコスト効率を大幅に上げながら、労働生産性を向上できます。
いかがでしょうか?AIカメラを使った店舗分析では、以上の情報以外にもさまざまなデータを組み合わせることであらゆる情報を入手できます。これまで、情報分析に関する技術はECビジネスから引き離されるばかりでしたが、ようやく実店舗における高度な情報分析が可能になりました。他店ECに流れた顧客を引き戻し、実店舗の活性化を図る時は今かもしれません。