拡張現実(AR)技術を導入しようと考えている企業の方向けに、ARシステムが開発できるツールとその特徴、ARシステムを導入する際の注意点を紹介しています。「ARとは?」「ARにはどんな種類がある?」といった基本情報から順を追って説明していくので、まずはこちらの記事をご覧ください。
拡張現実(AR)とは
拡張現実とは、スマホのカメラ越しに見える現実の風景とデジタル情報を重ねた映像をディスプレイにリアルタイムで表示させる技術で、近年流行したスマホ用ゲーム「ポケモンGO」の大ヒットによって一躍注目を浴びるようになりました。一般的にAR(Augmented Reality)と表記され、ゲーム以外にも販促プロモーションや物流管理にも活用されている注目の技術です。
拡張現実(AR)の種類
拡張現実(AR)は、ARコンテンツの表示方法によって「画像認識型」「GPS型」「空間認識型」の3種類に分けられます。特徴の違いから活用に向くシーンが異なるので、それぞれ確認していきましょう。
画像認識型
画像認識型は、特定の画像・写真にデジタル情報を登録しておき、その画像をカメラで読み取ったときにARコンテンツを表示する仕組みです。リアルイベントや商品パッケージ、カタログ、店舗ポスターなど、プロモーションやマーケティングシーンで主に活用されています。認識用の画像によって、さらに「マーカー型」「マーカーレス型」に分けられるので、それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。
マーカー型は、QRコードのような四角いマーカーを認識用の画像にします。決められたルールにしたがって作成された画像しかマーカーとして機能しませんが、専用のマーカーを使うため「認識されやすい」「ARコンテンツを表示させたい場所に正確に表示させられる」などの強みがあります。
マーカーレス型は、任意の写真や物体を認識用の画像にします。カタログやポスターなどもそのままマーカーとして使えるため、デザイン性を損なうことなくARの導入が可能です。ただし、マーカー型と比べると認識速度や安定感の面で劣ります。また双方の弱点として、画像読み取りのため、撮影対象が遠かったり暗所だったりすると設置環境によってはうまく機能しません。
GPS型
GPS型は、位置情報と紐づけてデジタル情報を登録しておくことで、登録した地点周辺にカメラを向けたときにARコンテンツが表示される仕組みです。位置情報に加えて、スマホの加速度センサーなどと組み合わせることで、さらに詳細な設定も可能になります。
こうした点から、Googleマップなどのマップ系ツールによく取り入れられ、ナビゲーションサービスや観光案内に活用されます。前述の「ポケモンGO」も、GPS型AR技術の活用事例のひとつです。
GPS型には対象物の存在しない屋外でも、ARコンテンツを表示させられるというメリットがあります。一方で、ARコンテンツの表示精度は位置情報に依存するため、GPSの精度が低いケースや必要な情報を検知するのに必要なセンサーが搭載されていないデバイスでは正確に表示されないおそれがあります。
空間認識型
空間認識型は、カメラの映像やセンサーをもとに立体的な情報を読み込んで、3次元的にARコンテンツを表示させる仕組みです。ユーザー側がARコンテンツの表示位置を決められることから、家具・家電の配置シミュレーションなどに活用されています。AR搭載メガネやコンタクトレンズ型のウェアラブル端末も開発されるなど、現在もめざましい成長を続けている領域です。
拡張現実(AR)システムを構築ができるツール5選
ここまでARの特徴や活用シーンを紹介してきましたが、それではどのようにARシステムを構築すればよいのでしょうか。手軽に開発ができたり、広く使われていたりする主要なAR開発ツールを5つ紹介します。
1. Apple ARKit
「Apple ARKit」は、Appleが提供しているAR開発ツールです。最新版の「ARKit 4」では、高度なシーン認識を実現する「Depth API」が導入され、AR体験のリアリティがより向上しました。
iPhone・iPadなど主にiOS端末で動作するARアプリの作成ができ、iOS向けに最適化されたSwift言語での開発が可能です。レッスンも公開されているので、プラグラミングに慣れていない方でも扱いやすいツールといえるでしょう。
2. Spark AR Studio
Facebookの提供する「Spark AR Studio」は、画像認識を活用したAR開発ツールです。Facebookのカメラ・写真機能が拡張でき、作成したコンテンツはFacebookやInstagram上で公開できます。専門的な開発知識がなくても扱えるほど直感的な操作でARコンテンツを作成できる開発ハードルの低さが特徴のツールです。
3. Amazon Sumerian
「Amazon Sumerian」は、AWS(Amazon Web Services)上で公開されているAR・VR・3Dコンテンツ作成ツールです。最たる特徴は、特別なソフトウェアが不要な点でしょう。Google ChromeなどWebGL(Web Graphics Library)互換の最新ブラウザがあれば、ARコンテンツを開発できます。また、プログラミングも不要で、専門知識がない初心者の方でも扱いやすいツールです。AWSの各種サービスと連携することで、機能性を向上させられます。
4. ARToolKit
「ARToolKit」は、日本人が開発した画像認識型のAR開発ツールで、ARToolworks社が提供してます。2015年にオープンソース化したことで、世界中で使用されるようになりました。自社アプリに組み込む事も可能で、IDマーカーを採用すれば数十万パターンの読み込みができます。すでに50万件以上の開発導入実績があり、AndroidやiOS、Windows、Macなどさまざまなプラットフォームにも対応しています。
5. Google ARCore
Googleの提供するARフレームワーク「Google ARCore」は、Android端末向けに作られたツールです。特殊なデバイスを必要とせず、スマホ内蔵カメラとモーションセンサーだけでARコンテンツを構築できます。Java、Unity、Unrealなど、アプリ開発で広く使われている言語・環境に対応しているのも特徴です。
拡張現実(AR)システムを開発する際の注意点
比較的扱いやすいツールを紹介したので、ARシステムの開発が現実味を増したのではないでしょうか。そこで、最後にARシステムを開発する際の注意点を3つ確認しておきましょう。
開発に必要な費用を知っておこう
ARシステムを開発する際、その概算費用は「人件費×開発期間」から算出できます。人件費は、雇用するエンジニア・プログラマの技量によって異なりますが、1人あたり月額40万~100万円が相場です。高い技術や実績をもったエンジニアの場合、これ以上の月額単価がかかる場合もあります。
開発期間はどういったものを作るかにもよりますが、数ヶ月~半年が一般的です。ただし、ゲーム開発など複雑なシステムを構築する場合は、開発期間が1年を超えることもあります。
また、システム開発を自社で行うなら、AR開発ツール以外にも、UnityやAndroid Studioなどのソフトウェア開発ツールが必要です。ハードウェアの整備も求められる場合があるので、開発環境が整っていないのであれば、外注した方が割安になる可能性もあります。
個人情報の取り扱いに注意
拡張現実(AR)システムを開発する際は、法律に関するトラブルを引き起こさないように注意が必要です。特に、GPS型のアプリは位置情報を利用するので、個人情報はより適切に取り扱わなければなりません。
さらにアプリ開発では、類似アプリの存在にも気を配りましょう。アプリの仕様や機能が近いアプリをリリースすると、著作権法違反に該当するおそれがあります。
利用規約を詳細に明記
アプリを公開する場合、トラブルを未然に防ぐためにも、利用規約はしっかりと明記しなければなりません。特に個人情報の取り扱いや免責事項、問い合わせ先は重要です。これらの利用規約の設定は、アプリストアでの審査にも関わります。不足のないよう、適切な内容を記載しましょう。
まとめ
ARシステムは、プロモーションやマーケティング、画期的なサービスの開発に効果的な技術です。今回紹介したツールを参考に、ぜひARシステムの開発を検討してください。その際は、サービスに適した拡張現実の種類の選定や、開発・運用コストの試算だけではなく、個人情報を扱う場合の適切な取り扱い、利用規約の明記もしっかり行いましょう。