DX(デジタルトランスフォーメーション)推進においてもっとも重要なポイントの一つが、DX人材の確保です。しかし、2021年時点で日本企業の76% がDX人材が不足していると判明した調査があるほど、DX人材不足は大きな課題となっています。
DX人材の主たる確保方法は、自社での育成と新たな採用の2つです。 本記事では、DX人材育成方法や必要なスキル、ベストプラクティスなどを解説します。
そもそもDX人材とは?
DX人材を育成するためには、まずはDX人材の定義について理解しなければいけません。ここからは独立行政法人情報処理推進機構の資料を参考に、7種類のDX人材について解説します。各人材の特徴を見て、自社で人材育成する部分と外部を活用する部分を検討しましょう。
プロダクトマネージャー
プロダクトマネージャーとは、DXの実現を主導するリーダー的な役割を担う人材のことです。DXに関する知識や柔軟な対応力などのあらゆるスキルの習得が求められるほか、重要な資質となるのは 強力なリーダーシップです。
プロダクトマネージャーにリーダーシップがなければ、ステークホルダーや各部門の協力を得るのは難しくなります。部門単位でDXに成功したとしても、全社にDXが浸透しなければ、成功とは言えません。
また、プロダクトマネージャーは泥臭い仕事だからこそ、成功するまでやりぬくという強い意志や熱意が必要です。経営陣やステークホルダーの協力を得るためにも、プロダクトマネージャーには管理職もしくは事業のエースをアサインしましょう。
プロダクトマネージャーに求められる主な資質は以下の通りです。
- 強力なリーダーシップがある
- 管理職や事業のエース
- 変革意識がある
- 課題設定力がある
- ビジョンを描き、具体的な行動に移せる
ビジネスデザイナー
ビジネスデザイナーとは、DXやデジタルビジネスの企画から推進までを担う担当者のことです。プロダクトマネージャーが描いたアイデアを企画レベルに落とし込み、それを実現するプロセスやシステムを構築します。
ビジネスデザイナーは現場で働いている社員の視点となり、「現場で何が必要とされているのか」や「どうすればDXを浸透させられるのか」などを考えられる人材でなければいけません。そのためには、自社ビジネスモデルや業界全体を十分に理解したゼネラリストが求められます。
また、内外関係者やプロジェクトメンバーの合意を得るのもビジネスデザイナーの役割となるため、物事がスムーズに進むように調整するファシリテーションスキルは必須でしょう。
テックリード
テックリードとは、DXやデジタルビジネス、および関連事項において、システムの設計から 開発までを行える人材のことです。当然ながら、テックリードは高度なエンジニアリングやプログラミングスキルを保有します。自社でテックリードを育成するのが理想ですが、戦略となるテックリード育成には時間がかかるでしょう。自社に最適な人材がいない場合は、外部から中途採用するのがおすすめです。
データサイエンティスト
データサイエンティストとは、データに基づいて合理的な判断ができるように、データを分析し有益な知見を見出す人材です。
データサイエンティストは、社内で人材育成するようにしましょう。 機械学習やデータ分析などの高度な技術のほか、データを自社ビジネスにどのように活用するのかといった視点も必要であり、自社ビジネスの深い領域までの理解は欠かせないためです。
また、各部門がデータ分析を活用し業務を推進できるように、人材育成を行うのもデータサイエンティストの役割となります。
先端技術エンジニア
先端技術エンジニアとは、機械学習やブロックチェーン、IoTをはじめとした先端デジタル技術を担う人材のことです。先端デジタル技術は変化のスピードが早いため、外部企業とパートナーを組むのが現実的だと思われます。自社に最適な人材がいる場合は、その人材の育成を目指しましょう。
UI/UXデザイナー
UI/UXデザイナーとは、DXやデジタルビジネスに関するシステムのデザイン設計を担う人材のことです。UIは、「User Interface(ユーザーインターフェース)」の略であり、Webサービスや製品の操作性を示します。
UXは「User Experince(ユーザーエクスペリエンス)」の略で、Webサービスや製品を利用したユーザーの体験や感情などのことです。
一般的にUI/UXデザイナーは、Webサービスのデザインを担当しますが、DXにおいては「DXやデジタルビジネスに関するシステムデザイン」を担当します。ただし、活動領域が異なるだけで、必要なスキルやマインドセット等は変わりません。
アプリの開発企業はUI/UXデザイナーを抱えていますが、そうでない場合は自社での育成もしくは外注をしましょう。
エンジニア/プログラマー
DXにおけるエンジニア/プログラマーは、システムの実装やインフラの構築・運用などを担当します。DX推進においては、無茶に思われる要求や急な変更などが生じる場合があるため、高い技術力に加えて、柔軟な対応力や発想、いざという時の突破力も必要です。
DX人材育成分野の3本柱
DX人材には、ビジネスに関する高度な技術や知識は当然ながら、状況に合わせて適切な考え方やプロセスを用いて、課題解決を実行するスキルが求められます。
また、DXの成功には全社員がITリテラシー・データサイエンス力 ・デザイン思考を身に付け 、データドリブンで業務を推進できるようになる必要があります。
以下では、デジタル人材に求められるマネジメント手法とDX人材育成の3本柱を解説します。
デジタル人材に求められるマネジメント手法
DX人材は、PDCAサイクルとOODAループを身に付け なければいけません。PDCAサイクルとは、下記単語の頭文字を組み合わせたビジネス用語です。
- Plan:課題の分析と解決策の立案
- Do:解決策の実行
- Check:解決策の効果測定
- Action:解決策の改善
PDACサイクルでは、Plan(計画)からAction(改善)までを1サイクルとしたうえで、何度もサイクルを回すマネジメント手法です。PDCAサイクルが浸透すれば、社内に改善の文化が生まれます。DXにおいては、PDCAを回し、デジタル活用の改善を続けなければいけません。
しかし、計画どおりに進めるPDCAでは、急速に変化する市場やデジタルテクノロジーへの対応が難しくなる場合があります。そこで必要になるのがOODAループです。
OODAループとは、下記4単語の頭文字を組み合わせた手法となります。
- Observe:観察
- Orient:仮説構築
- Decide:意思決定
- Act:実行
OODAループを使えば、その場の状況に応じて、柔軟かつ迅速に意思決定できるようになります。デジタル人材は、業務やフェーズに応じて、PDCAサイクルとOODAループを使い分けなければいけません。
DX人材育成の3本柱
DX人材育成の3本柱をご紹介します。1つめがITリテラシーです。社員のITリテラシーが低ければ、業務に関連するデジタルツールを導入しても、現場で活用されません。ユーザー部門のITリテラシーを向上し、ビジネスとITに精通した人材が増えれば、効率よく業務を推進できるようになります。
2つめがデータサイエンス力です。デジタルツールを導入すると、業務に関する膨大なデータを蓄積できます。しかし、データを適切に活用できなければ、合理的な意思決定はできません、そこでデータサイエンス力を高めて、集約したデータから知見や価値を見つけられるようにしましょう。
3つめがデザイン思考です。デザイン思考とは、デザイナーの思考法をビジネスにも応用し、自社が解決できる課題を見つけ出す思考法を示します。テクノロジーや技術の発展により、あらゆる課題が解決できるようになった結果、ビジネスチャンスがなくなったのです。だからこそ、課題を見つけるスキルが重要になりました。
DX人材育成は、これら3つのスキルを軸に行いましょう。
DX人材育成方法5選
独立行政法人情報処理推進機構が2020年に行った調査によれば、デジタル人材の育成で成果を出している企業の共通点に、多様な育成施策を展開していると判明しています。ここからはデジタル人材の育成に有効な方法一覧を紹介しますので、自社に最適な育成方法を組み合わせてください。
1. 座学研修
座学研修のメリットは。一度に多くの社員を対象にDX人材育成ができることです。先ほど紹介した、ITリテラシー・データサイエンス力・デザイン思考やデジタルツールの活用法、企業文化の変革などに関するセミナーなどが座学研修に向いています。
一方、座学研修は複数名を対象にする性質上、基礎レベル以上のトピックを扱うのには有効ではありません。また、あくまでも知識のインプットが目的であり、別途アウトプットの場を提供する必要があります。
2. OJT
OJTでは、DX推進において実際に発生する課題を伴走形式で解決することで、DXに必要な知識や考え方を身に付ける ことを目的にしています。通常のOJTでは、上司や先輩などが経験やノウハウを教えますが、DXは比較的新しい分野のため、社内に最適なメンターがいないケースもあるでしょう。その場合は、外部の専門家や研修サービス提供会社に依頼するのが有効です。
OJTを実施すれば、座学では得られない課題発見スキルや巻き込み力、企画力などを効率よく身に付け られます。
OJTは、大勢を対象にしたDX人材育成向けではありません。OJTは、社内で選抜したDX推進の中心人物に実施するようにしましょう。
3. オンライン講習
従業員数が多い場合、オンライン講習は効果的な人材育成方法です。オンライン講習を活用すれば、DX推進に必要な基礎知識を、社員はいつでもどこでも受講できます。社内でオンライン講座を作成できない場合は、DXに関するオンライン講習を提供する外部企業に協力を依頼しましょう。
また、MOOCs(大規模公開オンライン講座:Massive Open Online Course)を使えば、無料で世界中の大学企業によるDX講義を受講できます。オンライン講習によるDX人材育成で成果を出すためには、従業員の学習状況の把握とサポート/相談体制が欠かせません。
4. 社外ネットワークの構築
DX推進の中心メンバーは、積極的な社外交流が求められます。他社のDX担当者と交流することで、最新情報や他社の成功事例などを得られるのです。社外交流で得た情報は、積極的に社内と共有することで、DXを普及できます。
5. ジョブローテーション
ジョブローテーションとは、さまざまな職種や職場を異動して、従業員の能力開発を目指す育成方法です。ジョブローテーションの対象者は、営業やマーケティング、カスタマーサクセスなどのあらゆる部門を経験するため、高度なゼネラリストになれる見込みがあります。
ジョブローテーションがおすすめなのは、将来のプロダクトマネージャーとビジネスデザイナー候補です。これら2つの役職は、各部門の業務内容を把握し、現場目線でDXの提案をすることが求められます。また、ジョブローテーション中に各部門とネットワークを築けるため、円滑にDXを推進できるようになるでしょう。
DX人材育成のベストプラクティス
ここからは、DX人材育成のベストプラクティスを解説します。
企業風土を改革する
Concurrencyの調査によると、97% の企業が「DX推進に企業風土が重要」と回答しています。またアクセンチュアの調査では、DXのベストプラクティス企業は、DXが自社にとって「非常に重要である」と回答している割合が高く、その他の 企業と比べて「失敗を恐れずチャレンジする」「部門間コミュニケーションが良好」といった風土を持つ企業が多いと判明しています。
これらの調査から言えることは、DX成功のためには社内全体にDXの重要性を根付かせること、積極的にトライ&エラーができる風土作りが重要だということです。そのためにも、経営層がトップダウンでDXの必要性を訴え、マネジメント層や上司がポジティブな失敗は評価するということを意識しなければいけません。
CoEを設立する
CoEとは、「Center of Excellence」の頭文字をとった略語であり、組織に散らばる優秀な人材を一か所に集約した組織や拠点を示します。全社を挙げて取り組むDXでは、部門や社内の垣根を超えた組織横断型チームが有効です。
DXの推進に当たっては、記事の冒頭で紹介したプロダクトマネージャーやビジネスデザイナー、データサイエンティストなどで構成するといいでしょう。
CoEの役割の一つに、ノウハウと情報の蓄積と社内への共有があります。従来の縦割り組織の場合、社内のノウハウを蓄積できません。CoEを構築すれば、組織を横断して情報とノウハウを集約し、全社規模の人材育成が可能です。
また、CoEはDXの実現に必要なスキルや知識を共有することを目的にしたセミナーや研修などの企画も行います。
既存のIT人材のリスキルを図る
DXに必要なIT人材は不足している一方、2021年時点における国内のIT人口は約120万人 となります。これらのIT人材に、スキルの拡大をする「リスキル」の機会を提供することで、DX人材の育成が可能です。自社のIT人材のリスキルを図れば、新たな採用や外部パートナーとの連携が不要になります。
また、国内の人材の流動性は比較的低いため、長期間にわたって活躍するDX人材の育成にも期待できるのです。一方、リスキルによるIT人材の育成には時間がかかります。即戦力のDX人材を確保しつつ、既存のIT人材のリスキルを図るのがおすすめです。
IT人材の待遇を見直す
DXの核を担うのがIT人材です。しかし、低賃金が原因でIT人材不足に悩む企業が増加しています。自社で優秀なIT人材を育成しても、転職されてはDX推進が進みません。この問題の解決策として、IT人材の待遇を見直すのが有効です。具体的には、給与の見直しや労働環境の改善、福利厚生の充実化などを実施しましょう。
外部支援サービスを活用する
DX人材育成における課題の一つが、育成に必要な知識を持った人材が社内にいないことです。AIやデータサイエンスなどはDXに欠かせないスキルですが、専門性が高いため、社内に育成できるスキルを持った人材がいない可能性があります。自社に最適な人材がいない場合は、外部のDX支援サービスを活用しましょう。
しかし、外部サービスの育成プログラムだけでは、社員がDXや人材変革の重要性を理解できない可能性が高いでしょう。 そこで外部サービスと自社のベテラン社員による教育などを組み合わせたハイブリッド人材育成が重要です。
DXの成功に欠かせない企業文化の改革は、外部サービスでは実施できません。DXは自社を中心に進め、外部サービスはサポートとして活用しましょう。
DX人材の育成におけるよくある課題と解決策
最後にDX人材育成におけるよくある課題と解決策をご紹介します。
何から手を付ければいいのか分からない
やみくもにDX人材育成に取り組んでも成果は出ません。DX人材育成前には、自社状況を分析しましょう。自社状況を把握したうえで、理想の姿とのギャップを埋めるために必要な研修やプログラムを特定します。
内部での人材育成が難しい
内部に適切なDX人材候補がいない場合は、中途採用の強化が最も早く成果の出る施策です。しかし、DX人材として活躍できる優秀な人材は、獲得競争が激しく、大きな採用コストがかかるでしょう。
十分な採用予算を確保できない場合は、企業風土の改革から取り組みましょう。試行錯誤や失敗が許容される風土を築ければ、DX人材育成も進みます。
短期間でDXに成功するケースは極めて少ないです。まずは企業風土を改革し、外部サービスを利用しながら、長期的視点でDX人材育成に取り組みましょう。
自社にDX人材を育成できる社員がいない、かつ外部による育成プログラムを利用する予算がない場合は、MOOCsの活用がおすすめです。MOOCsを使えば、無料もしくは低コストで、一流大学・企業によるデータサイエンスやAIなどの講義を受講できます。
優秀なDX人材を獲得できない
レバテック株式会社の調査によると、DX人材がユーザー企業に転職する理由の第1位が「事業内容の興味」と判明しています。DX人材を獲得するには、年収や福利厚生などの待遇を良くすることも重要ですが、それ以上に事業内容やビジョンが重要です。
また、同調査ではDX人材が働く環境(リモートワークへの対応やオフィス環境)や福利厚生などの待遇面を重視しているとわかっています。職場環境と待遇を見直したうえで、DX人材が興味を持ってくれるような、先端的で魅力的な事業内容をアピールしましょう。
社内にDX人材がいる場合は、リファラル (社員による人材の紹介)をしてもらうことで、効率よくDX人材にアプローチできます。
まとめ
DX成功のためには、DX人材育成が欠かせません。DX人材の育成では、座学やOJT、ジョブローテーションなど様々な育成方法を組み合わせることが重要です。基本的には、DX推進の中心メンバー候補にはOJTやジョブローテーションを与え、一般社員にはITリテラシー・データサイエンス力・デザイン思考に関する研修を実施するといいでしょう。
また、企業文化の変革も忘れてはいけません。失敗を恐れずに前向きに挑戦できる文化があることで、DX人材の育成はスムーズに行えます。まずは自社の現状分析をし、DXの成功に必要な研修やプログラムを特定しましょう。
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