現代はテクノロジーの発展に比例して市場の変化が加速しており、企業は組織体制の抜本的な変革が求められています。そこで本記事では、組織改革の概要や必要性について解説するとともに、変革を成功へと導く具体的なステップをご紹介します。新しい時代に即した組織体制の構築を推進する企業は、ぜひ参考にしてください。
組織改革とは?
組織改革とは、事業戦略や収益構造、組織文化、企業風土といった組織体制の変革を指す概念です。現代は市場の成熟化やグローバル化が進み、企業を取り巻く環境の変化が加速しています。M&Aによる組織再編や新規事業の立ち上げ、あるいは産業構造や社会情勢の急激な変化など、自社を取り巻く環境の変化に対して柔軟に対応し、企業価値の向上や市場の競争優位性を確立することが組織改革の目的です。
組織改革が必要な理由
20世紀後半から21世紀初頭にかけてIT革命が起こり、デジタル技術の加速度的な進歩によってさまざまな産業が発展しました。しかし、経済や産業の発展は苛烈な競争原理の上に成り立っており、現代における市場の競争性は激化の一途を辿っています。このような時代のなかで競合他社との差別化を図り、市場における競争優位性を確立するためには、時代の変遷に合わせて経営体制を変革していかなくてはなりません。
進化論を提唱したイギリスの自然科学者チャールズ・ダーウィンは「生き残る種は強いものではなく、変化に対応できる生物である」という考えを示したとされます。この理論には賛否があるものの、本質的には市場の競争原理にも当てはまり、環境の変化や顧客のニーズに対応できない企業は時代に取り残され、淘汰されていく運命にあるといっても過言ではありません。だからこそ旧来のビジネスモデルや既存の生産体制を変革し、イノベーティブな組織を構築する必要があるのです。
組織改革を行うメリット
組織改革への具体的な取り組みとしては、創造的な経営ビジョンや意義深い企業理念の立案、ITインフラの刷新やクラウドネイティブなシステム環境の構築、公正かつ公平な人事評価制度の確立、柔軟かつ多様な働き方への対応、ワークライフバランスの実現などが挙げられます。そして、長時間労働を美徳とする労働環境や年功序列などの旧態依然とした組織構造を脱却し、新しい時代に即した経営体制を構築することが組織改革の意義です。
たとえば、社会的に意義のあるビジョンや理念を打ち出し、企業の在るべき姿を共有することで組織全体が同じ方向に進む企業風土を構築できます。そして、掲げるミッションに深い共感を得られれば、従業員のエンゲージメントやロイヤルティの向上につながります。さらにレガシーシステムの刷新やクラウドマイグレーションといった施策を同時進行することで相乗効果が生まれ、組織全体における業務効率化と労働生産性の向上が期待できます。
組織改革で考慮すべき7つのS
「7つのS」とは、米国のコンサルティング企業マッキンゼー・アンド・カンパニーが開発した組織分析のフレームワークです。7つのSは組織を構成する7つの経営資源を指しており、さらに「ハードのS」と「ソフトのS」に分類されます。
ハードのS
- Strategy(戦略)
- Structure(組織構造)
- System(システム)
ソフトのS
- Staff(人材)
- Skill(スキル)
- Style(スタイル)
- Shared Value(価値観)
ハードのSは、事業活動の方向性を示す「Strategy(戦略)」、組織の形態や構造を意味する「Structure(組織構造)」、会計制度や人事評価制度、給与制度などの仕組みを指す「System(システム)」で構成されています。これら3つは組織の仕組みや形態に関わる要素であり、比較的短期間に変更できると同時に、経営者がコントロールしやすい経営資源を指します。
ソフトのSは、組織に属する従業員の「Staff(人材)」、技術力や営業力などを意味する「Skill(スキル)」、企業風土や組織文化を指す「Style(スタイル)」、経営ビジョンや企業理念、経営目標などの「Shared Value(価値観)」で構成されています。ソフトのSは人的資源を中心とした要素であり、容易には変更できずにコントロールしにくい経営資源を指します。
7つSはそれぞれの要素が独立しているのではなく、互いに影響し合う相互依存の関係で成り立っています。したがって、組織改革を推進する際は、これら7つの要素を俯瞰的な視点から分析・評価する包括的なマネジメントが必要です。
8ステップで実現する組織改革
組織改革を推進する代表的なフレームワークとして挙げられるのが「変革の8段階プロセス」です。変革の8段階プロセスはハーバードビジネススクール名誉教授のジョン・P・コッター氏が提唱する理論で、このロードマップを段階的に踏破することで組織改革を成功へと導きます。
1.危機意識の醸成
組織を改革へ方向づけるためには、既存の経営体制を変革する必要性と重要性を理解しなくてはなりません。市場の動向や社会情勢、自社の経営状況などを客観的かつ俯瞰的な視点から分析し、現状維持に甘んじることで起こり得るリスクを組織全体で共有する必要があります。
2.変革を推進するチームを編成
組織改革を実現するためには、変革の中心となるチームの存在が欠かせません。人を動かすリーダーシップや意思疎通を図るコミュニケーション能力、市場動向を見通す先見性やデジタル技術に関する深い知識などの多様なスキルが求められるため、各部門から幅広い人材を収集してチームを編成する必要があります。
3.戦略的なビジョンの策定
ビジョンや理念に基づく経営目標を明確化し、ゴールへ到達するためのロードマップを具体的な戦略に落とし込みます。自社の在るべき姿や存在意義を思い描き、進むべき方向を定めることで組織改革を迷いなく推進できます。
4.全社的なビジョンの共有
どれだけ崇高な経営ビジョンを掲げても、それが組織に属する人間に伝わらなければ組織改革を成功へ導くことはできません。変革の実現によって成し得るビジョンを周知徹底することで組織としての士気が高まり、従業員の労働意欲や貢献意識の向上につながります。
5.自発的な行動を促す
企業が変革を成し遂げるとともに中長期的に発展していくためには、組織に属する人材の自発的な行動が不可欠です。障害となる組織構造や非効率的な業務プロセスの排除、あるいは公正な人事評価制度の確立といった従業員の自発性を促す仕組みが求められます。
6.短期的な目標の達成
経営目標を立案・策定する際は長期的なビジョンを思い描くだけでなく、大きな目標を多数のKPIに細分化するプロセスが必要です。短期的な目標を連続的に達成することで小さな成功体験が積み重なり、従業員のモチベーションやエフィカシーの向上が期待できます。
7.さらなる変革の推進
短期的な成果から得られた知見を客観的に評価・分析し、計画の見直しやアクションの改善などに取り組みます。ここまでのプロセスに対して「計画(Plan)」→「実行(Do)」→「評価(Check)」→「改善(Action)」のPDCAを回し続けることで、組織のさらなる成長と変革につながります。
8.組織文化として定着
最後は組織改革への取り組みで実現した成果を一過性のものではなく、組織文化として定着させるステップです。具体的な戦略やアプローチ、成功モデルなどを体系化し、ナレッジを組織全体で共有することで変革が組織文化として浸透していきます。
まとめ
組織改革とは、組織体制そのものの抜本的な変革を指す概念です。現在、日本は人口の減少や高齢化率の上昇といった社会的背景も相まって、さまざまな分野で人材不足が深刻化しています。また、IT革命の潮流に乗ってデジタル化を推進したものの、メインフレームや基幹系システムの老朽化に頭を悩ませている企業も少なくありません。このような現状を打破し、市場における競争優位性を確立するためにも、組織改革への取り組みが求められているのです。